<2000年5月〜12月>のお話し

緊急通信 
中ちゃんが食い過ぎと便秘による腹痛でまた入院!!    May. 2000

 通常の手当てを施したが効果が無く、何と下剤を2種類飲み、座薬の下剤を入れ待つこと数十分、何の反応も無い・・・・・・。
挙句の果ては1.5リットルほどの石鹸水のような泡だった液体が用意された。
その容器は液体の温度のせいで温かく、ストローのような細い管が出ている。先端は体温計のように硬いが、緊張した肛門に突き刺しやすいように丸く優しい物が付いていた。
看護婦さんは花瓶に花をさすように、滑らかに中ちゃんに突き刺し、その瞬間、「上げろ!」と発した。
僕は思わず液体の入った容器をホースがぴんと張るぐらいまで高く上げてしまった。
なんと数秒で液体はなくなったが・・・・・・。
それでも、待てど暮らせど反応が無く、保護者担当の僕は先生と面談・・・・・・
結果、自宅待機となりました。

 入院中の中ちゃんは、時々襲う腹痛の時以外はすこぶる元気でした。
「何の病気なんだ?」という同室の患者さんの問いかけに、大きな声で説明しながら、患者さんや付き添いの人たちの笑いを取っていた中ちゃん。
そして1.5リットルの容器を持って現れた看護婦さんを目にして
「こんな美人な看護婦さんに・・・・・・・」と、今度は少し戸惑う中ちゃん。ベッドの周りのカーテンが閉まる瞬間まで、病室には楽しい会話と笑いが飛び交っていました。
病室に出来るたくさんの笑顔は、まるで花束があちこちにあるようでした。

このメールを書いている今、
中ちゃんは便通用の牛乳を10リットルほど買いに出かけていきました。

街の事務所にて−YAS

追伸:元気になった中ちゃん。夏に向けて、船のメンテナンスに励んでます



18歳、食いしん坊のバウアタ    Jul. 2000

「うちで働くの嬉しい?」
「嬉しいよ」
「お金がもらえるから?」
「お金は関係無い、毎日たくさん美味しい物が食べれるから幸せ!!」
スタッフは仕事の合間に、朝ご飯と昼ご飯をみんなで食べる。
少なくても4人、多いときには7〜8人が車座になる。
バウアタの食べる量と言ったら、レストランで使われてる大きめなお皿に、ご飯とおかずが山盛りだ。
とりとめの無い会話が楽しい。
みんなの笑顔、気持ち良くたくさん食べるみんな。
一緒に食べていれば、自然に大食いになる。
風が流れ、青い海が見える。                  −YAS


 

太陽
    Aug.2000 

トカゲインはいつも日が昇ると仕事に来る。
「明日の仕事は昼からだよ」と言ってあっても、
朝6時半には現れ、昼からの仕事の段取りを組んで一旦家に帰る。
トカゲインが、
「サトー、お願いがある。今日、カミサンが催しの相談をしに、親類の家に行くから、ストアの店番をしなくてはいけない。少し仕事に遅れてもいいか?」と聞いてきた。
「何の催しなの?」
「メイッコに初潮が来たんだ」
「どのくらい遅れるの?」
「少し」と言うと、手をまっすぐ上げ、空を指差し
「太陽が少しこっちに動いたら」と、上げた手を時計の針のように動かした。
「いいよ、遅れないでね」
ここは赤道直下。太陽が短針のように動く。
トカゲインはきっと2時ごろ来る。                       −YAS                                    



クリスマス島までは船で十日間
    Aug.2000

バウアタが「サトー、写真が欲しい」と言ってきた。
「何の写真だ!」
「ロシーナと、サトーと、ナカムラと、みんなで撮ったやつ」
「俺もそれは欲しい。お前がいなくなるから、お前の代わりだ」
「私も同じ、それを見ればみんないる。大事にするからお願い」
ずっと一緒に暮らしてきたバウアタは、
明日の朝の船で、お母さんのいるクリスマス島に行く。

俺は台所に飾ってある写真を取りに行ったが、見当たらない。
「お前、もう持っていったのか? ないじゃないか!」
「ナカムラが隠した。ナカムラも欲しいって言ってた」
写真は棚の上に隠してあった。
それを渡すと、バウアタは
額に入った写真の中にいる一人一人を指差しながら、
「ロシーナ、サトー、ナカムラ、私」とつぶやくと、満面の笑みを浮かべ胸に抱いた。
写真のバウアタは2年前、まだあどけない笑顔。
それからすっかり大人になった彼女が、写真を見つめている。
村には鏡などない。
バウアタは写真の自分と今の自分を同じだと思っている。

「ありがとう。一月ね」
半年間のお別れだ。                              −YAS 







         中ちゃんの死


              
              中ちゃんが、腎不全のため亡くなりました。
              いつも中ちゃんが起きる6時過ぎ、
              透けるようなうすい雲がきれいな日の朝でした。
              中ちゃんが亡くなる前日、おふくろさんに宛てたメッセージの一部です。

               「自分の第二の故郷でもあり、最新の俺の経験がある、
               そこで生活してお客さんを迎えた。
               自分の生活と仕事がそこにあった。
               もし良かったらうちの土地のどこかに埋めてよ。
               キリバスを一番愛した男と書いてくれよ。
               だから日本には帰れないけど、でもここにいても、
               日本にいても会えないのは一緒だから、
               逆にいえばどこにでもいるのと一緒・・・・・・・・・・・・・・・」

               中ちゃんは、村のみんなに見送られ、潮風の気持ちいい所に眠りました。
               そこには花が植えられ、数年後にはきれいな花壇になります。


               スタッフ紹介の欄の中ちゃんは、しばらくの間存在させてください。 −YAS














中ちゃんの冥福を祈る、たくさんのご連絡ありがとうございました。


中ちゃんは、みなさんが喜んでもらうのに一生懸命でした。
キリバスでの中ちゃんの笑顔、思い出していただけるなら、これからも日々の暮らし
元気で楽しんで下さい。
みなさんの元気な様子、中ちゃんが一番喜ぶ事だと思います。

中ちゃんの元で働いていた、キリバスの女性スタッフ達、日頃から、中ちゃんが真剣に仕事に取り組む様子を見ていました。
今回、中ちゃんが倒れるまで頑張っているのを見ていたスタッフ達には、大きなもの
を残したようです。
真剣さががらりと変わりました。
中ちゃんがいないのにまるでいるかのように、仕事が進んでいきました。
ロシーナは中ちゃんの眠っている前で、じっとだまって座り込んでいました。
「どうしたんだ」と声をかけると「中村と話している」と一言返ってきました。
後で聞いてみると「料理の作り方を聞いていたんだ」と言っていました。
ロシーナは、「もし中村がいたらこうする」と中ちゃんを喜ばすかのように働いてい
ました。
「サトー、明日は何時からダイビングに行くんだ」と聞くと、
時間に間に合うように、夜のうちにお弁当のお米をといだり、翌朝はいつもより早く
来ていました。
「サトー、今日の干潮は何時だ? 食材を漁師さんに頼んでくる」と言ってどんどん
と食材が集まりました。

中ちゃんが残したものは、彼女達にとっても、とても大きかったようです。

色々とご心配いただき、ありがとうございます。
中村が生前、何人かの方に「キリバスタイムで少しずつ夢をかなえていきます」と
メールに書いていました。
7年前に中ちゃんと2人3脚ではじめたマウリパラダイスです。
この機会に初心をもう一度振り返り、よりいっそうキリバスの時を感じていただける
よう頑張っていきたいと思います。
中ちゃん亡き後も、中ちゃんはしっかり僕らの心の中に存在し続けています。

佐藤 恭弘




あさねぼう
    Oct.2000

キュッ、キュッ、っという音で目がさめた。
となりのおばさんが洗濯をしている。
蚊帳越しに声をかけた
「タボタ〜イ、おはよう!」
「おはよう。今起きたのか?」
「そうだよ」
「仕事はしないのか?怠け者!」
「僕は今日はお休みだよ。タボタ〜イ、洗濯上手だね」
「エ〜ヤン(そうよ)、たくさん汚れが飛んでいくでしょ」
「だけどたくさん洗濯物があって、かわいそうだね」
「かわいそうじゃないわ、たくさんきれいになるから、うれしいわ!」

ヤシの木陰にデンと腰をおろしたタボタイの前に大きなタライが2つ、ひとつは泡と洗濯物でいっぱい。泡の中の手は3回こすると、キュッという音をたて水を飛ばす。
水鉄砲から放たれた水のように一直線に水が飛ぶ。
この水が汚れを持ち去って、洗濯物がきれいになるそうだ。
だから村では洗濯をしながら水を飛ばせない人はいない。
ヤシの木から木に長く張られたヒモに、大家族のたくさんの洗濯物が風になびいている。

「・・・・もう一眠りしよう・・・・・・・」




夜ばい    Nov.2000

みんながすっかり眠りに落ちる頃、そっと蚊帳を抜け出すロシーナ。
外は月が明るく本が読めるほどです。
 ヤシの木の影が軒下に延びている所から、丸木橋を渡るように影をたどって外に出ました。ヤシの影からパンの木の影へ、はだしの足は音を立てることなく影をたどって進んでいきます。葉の間から差し込む細い月の光に、時折ロシーナの姿が光っています。

翌朝、6時半の仕事の始まりよりも1時間も早く来ているロシーナ。薄明るくなって帰るに帰れず、仕事に来て家の人をごまかそうとしているのです。

 ばれそうになった2人がそれでも一緒にいたければ「逃げる事」。
親達から3日間逃げ切れば、結婚成立です。
「逃げる時は言うね、仕事困るでしょう」とロシーナは言ってますが、逃げるのは計
画的に行われず、2人の感情が高まった時がその時です。
さてこの恋路どうなる事でしょう。




ブアリキ村からメリークリスマス
    Dec.2000

12月24日 18:30 TBS「未来の瞳」を見てください。
皆さんが過ごした村、それもとなりの家族が主人公です。

もちろんマウリパラダイスは影も形も映っていません。
でもキリバスは、ブアリキ村はとても良く映し出されていると思います。
そしてこの番組、マウリパラダイスがなぜこの村の中にあるのかを伝えてくれるような気がします。
既に来られた方は映像の中に想い出を、これから来られる方は夢をふくらませて頂ければ嬉しいです。

遠い南の島の小さな村からメリークリスマス!




「未来の瞳」    Dec.2000

たくさんの人が見てくれたようでありがとうございます。(僕はまだ見てません)
まだ来たことのない人は、「サバイバル過ぎてそんな所、怖くて行けない」となってしまったのではないでしょうか?

舞台になった家族の家は、うちの隣りの家で少し大きな声を出せば話しが出来ます。
映像をご覧になって“最高の世界”じゃなかったですか?
村の空間は村の人が時間の速さを作っています。道を歩いていく人が、米を研ぐ手が、時の進む早さです。
それはゆっくりでおだやかなものです。

よく、そこが“時の空間”のように感じる事があります。
時があるはずなのに、村だけがぽっかりと時がぬけたようになります。
時間は進んでいるのに、そこに時間が無いようなんです。
わかりやすく時計で言えば、動きがわかる秒針の動きがなくなったような空間です。
そしてもっと言えば、動きがわからないぐらいゆっくりな長針も短針も無いんです。
必ず規則正しく進む時計に支配されているような空間じゃなくて、
人が風が光が作る、優しいけどしっかりと生命力のある、あったかな空間なのです。

村にいると生きてる喜びを感じます。最高の場所です。




ビリナコ    Dec.2000

ロシーナがとうとうビリナコ(かけおち)。

「サトー、今度のお客さんはいつくる?」
「来週の火曜日」
「5日間休みがあるでしょう、その時私が何処にいるかさがしてみて」
「とうとうビリナコするのか?」
「えへへー」と笑顔のロシーナ。
「家の人には言わないのか?子供じゃないんだからちゃんと言え!」
「いいの、ビリナコで」
「結婚したら仕事どうするの?」
「同じように働くよ」
「だんなさん、怒らないの?」
「働いてもいいって言ったから結婚するの。赤ちゃんの為にお金ためなきゃ」

ビリナコは成功。今は両家に認められ旦那(テアキン)の家で新婚ホヤホヤ。
・・・・・・・・・「結婚すると色々することがあって疲れる」だって!




マンタ
    Dec.2000

海は何に会えるかわからないから、旅であり冒険なのだ。
流れがあれば、それに乗って流れる、なければほとんど動き回ったりしない。
珊瑚のようになってじっとしてれば、魚の方から「なんだこれ?ブクブクでてるぞ」ってな具合に寄ってくる。
時には大きなものまでやってくる。透明度がいい時ばかりじゃないから、いきなり大きな影がすぐ近くに現れることがある。それがマンタとわかるまでのほんの一瞬、ドキッとする。

こんな時は潜る前に「ここではマンタが見れます」と言われていればビックリなどしないのに、とブリーフィングのありがたみを感じることがある。
でも潜る場所はその時、気ままにお客さんが決めるので、潜る前に水中の様子の説明はない。
でもマンタの影にドキッとするのは僕だけかもしれない。

船のすぐ後ろに鳥の黒山ができている。その下には小魚がいて、カツオやマグロ、そしてサメの食物連鎖がある。
マグロを釣り上げたら、残ってたのは大きな頭だけだった。
船から水中をのぞいたら、命からがら逃げてきたイルカが1頭、傷だらけになって泳ぐこともできずに流れていった。
船の横にまるでジョーズの映画のように水面を盛り上げるように、大きな背びれだけが水面から現れ消えていった。
大きな影はいつもマンタなのだ。でも僕の脳裏にはその一瞬たくさんのシーンが甦る。
もしかしたらジョーズのようなサメかもしれないのだ。

海は出会いそして冒険。
ドキッとする驚きと感動は隣り合わせだ。だからやすらぎもくれるのかもしれない。
・・・・・と自分に言い聞かせておこう!



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MAURI PARADISE