アイーダ

作曲=エルトン・ジョン
作詞=ティム・ライス
装置・衣装デザイン=ボブ・クローリー
演出=ロバート・フォールズ
日本語版歌詞・台本=浅利慶太

ルビ吉観劇記録=2003年、2004年
2005年(大阪)(京都)、2006年(ソウル)
その後の観劇記 2004.11版はコチラ
その後の観劇記 2005.1版はコチラ
その後の観劇記 2005.8版はコチラ
ソウルでの観劇記
【このミュージカルについて】
ヴェルディのオペラの題材ともなった「アイーダ」の伝説。ディズニーはオペラでは描かれないストーリーを持つ絵本版の版権を、映画化を考慮して所有していた。1994年の夏にこの作品の舞台化が検討され始め、1998年にはアトランタでトライアウト(試演)が始まった。しかしその出来栄えは決して成功とは言えないものであったらしい。そこでディズニー・プロダクションは、作曲家、作詞家を除くスタッフを大幅に入れ替え、その結果、脚本や装置などもすべて変更し、2000年2月にようやくブロードウェイで『アイーダ』を開幕させた。ディズニーの舞台版ミュージカルとしては『美女と野獣』『ライオンキング』に続き、3作目にあたる。『アイーダ』にはアニメ映画版はなく、初めから舞台作品として作られているところが前2作とは異なっている。
日本では2003年12月、劇団四季により大阪で開幕。大作でありながら、東京で初演を迎えなかったのは異例中の異例。

【物語】
 現代の博物館。古代エジプトの芸術品、埋葬品などが飾られたショーケースを眺める人たち。行き交う人々。そこでひとりの男と女がすれ違う。ふたりは目と目が合い、お互いを気にしながらも話しかけたりはしない。と、その時、エジプト女王アムネリスのミイラが突然動き出し…。

 時は遡って、古代エジプト。ファラオの時代。強大な軍事力を持つエジプトは近隣諸国に侵攻し、領土拡大を繰り返していた。今日も若き将軍ラダメスが、敵国ヌビアから捕虜を連行して凱旋。その捕虜の中に、他の者とは明らかに様子の違う女がいた。女は毅然とした態度で、エジプト軍にすら恐れを見せない。女の名前はアイーダ。
捕虜たちは行けば確実に死ぬと言われる鉱山で働かされることになっていた。しかしアイーダの存在から目が離せないラダメスは、鉱山送りを取り止める。そしてアイーダを自分の婚約者でありエジプト王女であるアムネリスの侍女として献上するよう、部下のメレブに指示を出した。メレブはラダメスの従者であるが、ヌビア人。ひと目でその女が祖国の王女と見抜いてしまう。慌てたアイーダは決して自分の身分を口外しないよう、メレブに厳命し、自分はこの国で奴隷として生きていく覚悟であることを話す。

 その頃アムネリスは王宮で、多くの侍女を従えて自分のスタイル維持とファッションの研究に余念なく、贅沢な日々を送っていた。帰国した婚約者の来訪を待ち焦がれているのに、ラダメスは侍女だけを献上して一向に姿を現してくれない。新しい侍女は自分に恐れを見せない変わり者。しかしアムネリスは、「王女という身分がいかに窮屈で退屈であるかということがわかる」と言うこの女に、不思議な親近感を覚えるのであった。一方ラダメス将軍は、アムネリスとの結婚に気乗りがせず憂鬱な気分で日々を送っていた。そんなラダメスにアイーダは「気乗りがしないのなら運命は変えればいい。あなたは何者にも縛られてなどいない」と挑戦的な言葉を投げつける。ラダメスはそれまでの自分の考え方の間違いに気づかされ、またそれに気づかせたアイーダにますます惹かれていくのであった。またアイーダも、自分と自分の仲間である捕虜たちを鉱山に連行しなかった彼に、そして自分の間違いをすぐに正せる潔いこの男に、他の男にはない何かを感じ始める。
 やがてアムネリスは、婚約者の心がどこか自分から離れていることに気づき始めるが、その理由はわからない。

 水面下では王の暗殺計画が進行するなか、婚礼の日が刻一刻と迫ってきた。それは次世代のエジプト女王アムネリス、そして王ラダメスの誕生をも意味していた。同じ頃、ヌビア人奴隷たちの間では、祖国の王女アイーダがこのエジプトにいる事実が広まっていた。絶望の淵に光を見た奴隷たちは、王女に祖国の誇りとすべての希望を託そうとするのであった。ラダメスやアムネリスにはもちろんのこと、誰にも自分がヌビア王女であることを明かせないアイーダは大いに戸惑うが…。

 こうしてアイーダ、アムネリス、ラダメスの三人は、愛する者と背負った国の狭間で、その運命を大きく揺り動かされていく…。
【観劇記】
大げさに聞こえるかも知れませんが、俺はこれほどまでに美しい舞台を見たことがありません。これが見終わった後の率直な感想です。舞台美術も音楽も物語も、すべて美しい。とりわけ俺が感心したのが舞台美術です。素晴らしいことは事前の情報で知っていたのですが、この美しさは想像できませんでした。人間の創造力やアイデアを集結させればここまで表現できるのかと、その極限を見せつけられた思いです。この感動を言葉で伝えるのは難しいのですが、もう少しだけ書かせてもらうと、まず舞台装置に役者が立っているというイメージが感じられないのです。役者の動きと舞台装置、斬新な照明デザインすべてが融合して、ひとつひとつのシーンを表現している感じなのです。役者もスタッフも相当なタイミング合わせが要求されたのではないでしょうか。ここに美しい音楽と物語が入ってくるわけですから、ひたすら見とれるばかり。
一幕のフライングを使って表現するプール、布1枚がナイル川になり陣営のテントに早替わりするシーン、二幕冒頭のピラミッドを背景に主役三人が歌う幻想的なシーン、ヌビア王の牢獄シーン…これらは特に注目です。水も使わなければ、三角錐(ピラミッド)も出てこなければ、鉄格子も出てきません。これ以上はネタバレなので控えておきましょう…。

物語もよく出来ています。大きくはアイーダとラダメスの壮大なラブ・ストーリーなんですが、決してそれだけの話ではありません。エジプト王女のアムネリスにも心動かされます。この人の役柄設定がオペラ版と決定的に違うところです。婚礼の日に夫を奪われる…国民の前で恥をかかされた王女が、最後に何をするのか。彼女が最後に見せる態度が、このミュージカルの後味を良くも悪くもする決定的なものだと思いました。

音楽は特にゴスペル調のナンバーが、その場面場面を盛り上げます。エルトン・ジョンらしい音楽といえば、らしい音楽。難しいナンバーも何曲かありますが、全体的には心に染み入るメロディー、心を強く揺さぶるメロディーが多く、俺はいたく気に入ってます。

実を言うと俺は正直なところ、『アイーダ』に多くの期待を寄せていなかったのです。
事前に触れる宣伝であったり読み物からは、もっと違うイメージのものを想像していたということです。まぁ、こういう感動は実際に見ないとわからないわけですが、もう少し他に宣伝の仕方があるだろう…と思ってもみたり。少なくとも宣伝コピーの「すべては愛だ」というダジャレは、作品にそぐわないどころか安っぽくてイメージブチ壊しじゃないかと、最後にひとつくらいは辛口コメントも添えておきましょう(笑)。

【ルビ吉の好きな音楽、場面】
愛の物語 Every story is a love story
美しいバラードで、舞台のプロローグとエピローグにアムネリスによって歌われます。ただメロディーは同じですが、歌詞は違います。幕開きではタイトル通り「世の中にあるすべての物語はいずれも愛の物語」だと言い、これから始まる物語は「ナイルの激動の中で芽生えた恋の話」だと説明します。そしてエピローグでは、その愛の物語が人々に何を教えてくれたのかを歌います。

お洒落は私の切り札 My strongest suit
舞台中でもっとも華やかな場面。「内面だけでは人に印象なんて残せない、見た目が大事」とアムネリスが歌います。アイーダとアムネリスが初めて出会う場面でもあります。舞台ではプールが出てきたり、ファッションショーが行われたりで見た目にも相当楽しい。見どころシーンのひとつでしょう。
少し後の場面で、同じ歌のリプライズがあります。ここでは着飾って生きているアムネリスの心の内が歌われ、ストーリー上、見逃せません。

神が愛するヌビア The Gods love Nubia
気持ちとは裏腹に、ヌビア人奴隷たちからリーダーとして祭り上げられたアイーダ。そこにヌビア王もエジプト軍によって捕らえられたというニュースが入ります。絶望に追いやられるヌビア人たち。しかしアイーダは立ち上がり、「ヌビアは死なない。神々が愛してくれる。こんな悲しみは一瞬のことに過ぎない」とヌビアの民に勇気を与えます。
一幕最終場の、アイーダ役の心の限りの熱唱に鳥肌が立ちました。

どうしたらいい A step too far
アイーダ、アムネリス、ラダメスの三重唱。アムネリスは婚約者の心が自分から離れていく不安を歌い、ラダメスは望んでいた王宮での暮らしが今や絶望に感じると歌い、アイーダは祖国民のリーダーでありながら敵国の将軍にどんどん惹かれていくとまどいを歌う。二幕最初はこの歌で始まります。光の線だけで表現するピラミッドと星空、そこに浮かび上がる主役三人の顔。とても幻想的です。

星のさだめ Written in the stars
アイーダというヌビア人奴隷のために、王となるはずの息子の運命が狂い始めたことを焦るラダメス将軍の父ゾーザー。そこでアイーダ暗殺の命が下る。そして愛国心溢れる、ひとりのヌビア人女性の命がこの世から消えた。もうこれ以上の犠牲を国民に払わせるわけにいかない。そう決意したアイーダは、決別の意を伝えにラダメスに会いに行く。ふたりは「私たちが手に出来る時間は、こんなにわずかなものだったのか。それは星に記されていたことなのか」と歌います。


【役者の感想】
濱田めぐみ=アイーダ
適役でした。彼女のソウルフルな歌声は、アイーダのナンバーと実に合っています。
それにしても世界中を見ても、ディズニーミュージカル三作品すべてのヒロインを務めた女優は濱田めぐみだけですよね??しかも『ライオンキング』と『アイーダ』は初演を飾る日本版のオリジナル・キャストとなったわけだし、大したものです。
アイーダ役はWキャストで樋口麻美も努めます。彼女が歌うアイーダのナンバーは恐らく、また全然違った印象になるでしょうね。

佐渡寧子=アムネリス
クラシック畑出身で美しいソプラノが魅力の佐渡さん。エルトン・ジョンの音楽と佐渡さんが結びつかなかくて、俺は「?」でした。しかし歌唱方法を変えてのチャレンジでした。歌だけ聞くと必ずしも適役とは言えないけれど、上品な声質と台詞回しは佐渡さんならでは。エジプト王女の高貴さが表れていたと思います。Wキャストは森川美穂。彼女は『三文オペラ』で見たことがありますが、アムネリス役はどうでしょう…?未知数としておきましょう。
今思ったんだけど、四季ってこういう“正統派お姫さま”を地で演じられる女優が少ないなぁ…。やはりこういう役は宝塚出身女優の独壇場ですね。

阿久津陽一郎=ラダメス
俺は顔が嫌いな俳優のひとりなんですが、エキゾチックな顔立ちはエジプト感(?)も高まり、今回は適役。声もラダメスのナンバーによく合ってたし。Wキャストは福井晶一。元甲子園児の福井くんは、セクシー系のオトコマエ。華がないんだけど。でもラダメス役は俺の中で大したこだわりもないし、同じ金を払うならオトコマエがいいかなぁ…と(笑)。

山添 功=メレブ
これまでノー・ケアの男優でした(笑)。メレブという大役に抜擢されて、今回はじめて注目しましたが、なかなか可愛い男。四季ってたまにこういうイイ男が埋もれているから、ホントに油断大敵!! さて、メレブとしての山添くんですが、これがまたいい具合に奴隷感が出ていて◎。俺もこんな可愛い従者が欲しい。←全然観劇記になっていない!


モドル