『アイーダ』その後の観劇記 2004.11

開幕からおよそ10ヶ月経った『アイーダ』を久しぶりに観劇しました。俺自身は4回目の『アイーダ』だったのですが、なんら飽きさせることなく、むしろますます練りこまれた舞台に魅了されっぱなし。今回はプリンシパルの一部が別キャストで見られたので、彼らの感想などを書いてみたいと思います。

まず、ラダメス役の福井晶一。福井さんと言えば『キャッツ』のマンカストラップのイメージが強く、人間の役で見るのは初めてかも。ラダメスはエジプト軍の将軍であり、次の王を約束されたエリート。福井さんは、粗野な感じで将軍というイメージには合ってました。しかしエリートという感じはしません。阿久津さんはスマートに見える分、エリート感があります。しかし将軍という役職はあまり感じません。こういう見え方はWキャストの醍醐味です。どちらのラダメスで観るかによって、作品も随分違って見えますから。
歌と芝居は、微妙に阿久津さんの勝ち。福井さんの芝居って自然体すぎるのか、目張りの入ったような目がいつも同じ表情にしか見えないからなのか、表情の緩急がイマイチ小さいように思えました。俺としてはそこが少し物足りませんでした。

アムネリスは森川美穂。予想に反して素晴らしかった(笑)。この人のアムネリスも、佐渡寧子さんのアムネリスと一味も二味も違ってます。佐渡さんはクラシック畑の人だからなのか、歌唱法を変えてもやはりその味わいはどこか消えない。でもエジプト王女の品格はそこに上手く表れていて、声にまず王家の血筋を感じました。一方、森川さんはポップス歌手らしく声の押し出しが強く、王女の強さがイメージとして残りました。
森川さんは台詞の明瞭さも好印象。芝居も間の取り方とかが抜群に上手く、世間ズレしていない王女のボケ味まで表現する始末。アムネリスが客席から笑いを取ることなど、俺が過去三回見た佐渡さんにはありませんでした。

そのほかゾーザー役の大塚俊は歌も上手いし動きも俊敏で、ミュージカル俳優としての技量は感じるものの、いかんせん声が若すぎる。ラダメスの父親にはとても聞こえない声の若さはNGでしょう。メレブ役の有賀光一は、もっと役を練りこんで欲しい。“悲劇のお調子者”といった美味しい役どころなのに、なんてもったいない。歌も『アイーダ』のナンバーを歌うには実力不足では?と感じました。ネヘブカ役の今井美範は、『マンマ・ミーア』でもアンサンブルの中で独特の存在感を見せたが、今回も何かと目に留まる存在感。ネヘブカ役はソロ・パートがありますが、程よい声量で心地よかったです。

最後にタイトル・ロールの濱田めぐみ。俺は結局4回ともアイーダ役は濱田さんで見ているので、Wキャストの樋口麻美さんのアイーダを知らないのですが、もうこの作品は濱田さんのシングル・キャストで行くべきだと思いました。開幕して間もない頃は、あんなに声量を使って長い公演期間に声を潰すのでは?と勝手に心配してましたが、なんのその。上演10ヶ月目に入って、ますます声が出ているという不思議。この人が演じるアイーダの魅力だけは、サウンドトラックなどのCDなんかじゃ再現出来ませんね。もしも彼女が『レ・ミゼラブル』のエポニーヌや『ミス・サイゴン』のキムといった、本田美奈子ラインを演じたらどんなに素晴らしいことでしょう。濱田さんは見た目にはイマイチ地味な女優ですが、こういう並外れた才能を持った女優をちゃんと抱えているところに劇団四季の底力を感じてしまうのでした。

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