『アイーダ』『壁抜け男』inソウル

 ミュージカル好きもついにここまで来たか!と自分でも複雑な思いですが、ミュージカルを見にソウルに行って来ました。結論から言うと、めっちゃくちゃ楽しかったです。行ってよかった。ソウル、バンザイ!レベルの高い演者さんたち、立派な劇場、細かいことを言えばチケットの窓口まで立派で、すべてが驚くことばかりでした。客層が日本と違って男性の割合が高いことも驚きのひとつ。男性が多いのはニューヨークやロンドンだけかと思っていましたが違うようですね。圧倒的に女性客で占めているのは、日本くらいなのかもしれません。いずれにしても韓国で上演されるミュージカルを少しナメてかかってた俺は、かなりのカルチャー・ショック。ソウルでの観劇は、俺にとって日本のミュージカルシーンについてあらためて考える機会にもなったのであります。

 さて、韓国に限らず海外でミュージカルを見る時は、どうしても言葉の問題が立ちはだかります。ニューヨークでもロンドンでも、俺は日本で既に見ている作品を中心に見るようにしています。ミュージカルと言えども芝居でありドラマであります。歌詞や台詞がわからなければ、見たとは言えません。今回ソウルで見た作品は、日本で何度も観てサントラも何度も聞いていたため歌詞や台詞までも暗記状態。特に『アイーダ』は演出も変わらないため、韓国語上演とは思えないほど舞台に入り込めたのでした。



【アイーダ】
 日本のアイーダ・キャスト濱田めぐみの歌唱力にも圧倒されましたが、韓国キャストはそれを上回る迫力です。また他のプリンシパルも一人残らず歌が上手い!これはかなりの驚きでした。体格とか骨格の違いなんでしょうか、声量がみんな豊か。演技については見る人の好みに分かれるところだと思いますが、実にメリハリがあります。アメリカ的な感じと言えば良いでしょうか。悪く言えばオーバー・アクションなんですが、『アイーダ』自体が外国劇。少々オーバーな方が、登場人物の感情が伝わりやすいのかもしれません。
 演出面は台詞などの言葉部分はわかりませなが、他はほとんど日本と同じです。アムネリスのファッションショーのシーンはセットが微妙に違っていたので、帰国後調べたところ、韓国版はオリジナル版と同じであり日本版がオリジナル版と違っていることがわかりました。マニアックな話ですみません(笑)。


 さて『アイーダ』を上演していた劇場、LGアートセンター。近代的なビルの中にある劇場です。このビル自体はオフィスビルのようで、どういう部分が“アートセンター”なのかはわかりません。しかし劇場はホワイエといいロビーといい、新しくて立派なものでした。終演後はロビーで記念撮影する人がひきもきらないといった感じで、これは日本では見かけない光景ですね。
 『アイーダ』の席種は5段階になっていて、VIP、R、S、A、Bという表記です。12万ウォン(15,000円くらい)〜4万ウォン(5000円くらい)まで2万ウォン刻みの料金設定。俺たちは当日券だったのですが、R席が買えました。上手寄りの前から6列目。VIP席は売り切れていましたしR席もほとんど売れてる様子でしたが、S席以下には多少の空席があるようでした。


【壁抜け男】
 このナンとも不思議なタイトルは原題を『Le Passe-Muraille』と言いまして、ミュージカルでは珍しいフランスの作品です。音楽は全編ミシェル・ルグラン。彼の音楽は日本では「枯葉」なんてシャンソンが有名ですし、映画音楽なら『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人達』だとか『愛と哀しみのボレロ』なども知られてるところでしょうか。
 ミュージカル『壁抜け男』は1997年にパリで初演。日本初演は劇団四季が1999年に福岡で幕を開けています。40代の地味でうだつの上がらない公務員がある日突然、壁を抜ける力を持ってしまうという設定で物語は展開されていきます。荒唐無稽な印象を受けるストーリーですが、俺などは何度も見ている内に物語の持つメッセージに気づかされてハマってしまった作品です。と、実は小難しい作品なんですが、表面をなぞるだけの観劇をしていてもコメディ・タッチゆえに楽しく見ることが出来る作品でもあります。
 今回見た韓国人キャストは、『アイーダ』同様に歌の上手さと芝居の上手さが際立っていました。劇団四季キャストより数段レベルが高いと感じたほどです。特にコメディ・パートは平素から四季のウィークポイントだと俺は思ってますから、この部分は比較にもなりません。言葉が通じないのに笑わせてくれる韓国人キャスト、恐るべしです。M嬢役の女優なんて、原口まさあきがさんまのモノマネをする時につけてるような“付け歯”までしてるという、徹底した三枚目ぶり。それでも歌はしっかり歌えてるから、最初は激しく出っ歯な女性かと思いました(笑)。もうひとり笑わせてくれたのは謎の医者役、刑務所の看守役などで大活躍の役者。特に看守役は絶品。2人出てくる看守ですが、四季版では体育会系とインテリという対比でしたが、韓国版はなんと体育会系と、この役者が演じるオカマなのです。しかもこのオカマキャラ、かなりエキセントリックで大笑いです。四季ではありえない演出だなぁ…と思いました。
 演出面ではコメデイ色が濃く出ているのが韓国版の特徴かと言えますが、舞台装置や衣装も韓国オリジナルのもの。四季版とかなり似てはいるけど、特に装置は韓国の方が大掛かりなイメージ。全体的にいい雰囲気のセットでした。でも四季版はこじんまりとしながらも工夫されていた印象で、特に最初の壁抜けシーンは四季の方が緻密でよく出来ていたと思います。



 劇場は“芸術の殿堂”という芸術の複合施設のようなところ。この中にオペラハウスがあって、更にその中にトゥオル劇場という劇場があってそこで上演されました。ちなみに上の写真はオペラハウスのエントランス、ロビーの床、天井で、本当に美しいでしょう?こういう立派な劇場は、足を踏み入れるだけで胸が高揚するというものです。
 『壁抜け男』の席種は3種類で、R席7万ウォン(8700円くらい)、S席5万5千ウォン(6800円くらい)、A席4万ウォン(5000円くらい)。作品がマイナーなせいか宣伝が行き届いていないのか、客席の入りは7割くらい。でもそのおかげで俺たちは当日券にも関わらず、センターブロックの前から2列目が手に入ったのでした。



 終演後のロビーで人だかりがあるので覗いてみると、なんと、サイン会をやっているではありませんか。海外に来たら恥ずかしいことなどあるもんかいの勢いで、俺たちも列に並んでみたのでした。主演のパク・サンウォンさんは韓国のベテラン俳優で、舞台、テレビ、映画と多数の作品に出演されているとのこと。「いい人」系キャラが特徴で、国内の知名度や人気は相当高いらしい。実際に俺のわけわからん英語に笑顔(だけ)で応えてくれたうえ、写真も一緒に撮ってくれました。またヒロイン・イザベル役の女優さん(名前がわからん)も笑顔でこの通り。気さくったらありゃしない。観劇だけでも楽しくって感動して気分が高揚しているのに、こんな嬉しい体験まで出来て、王子とふたりスキップ気分でホテルまで帰ったのでありました。



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