主役交代

 演劇においてキャスト変更というのは、作品の色合いを少なからず変えるものであります。それが主役のキャスト変更となると、作品そのものの印象をガラリと変えてしまう場合もありますし、主役キャストが変わったのに作品のイメージは何も変わらないという稀な場合もあります。

『マンマ・ミーア!』
 劇団四季の『マンマ・ミーア!』は、長らく保坂知寿さんがハマリ役として主役のドナを務めてきました。20才の娘を持ち、その娘を女手ひとつで育ててきた40過ぎの母親であるドナ。保坂さんはスタイル抜群で溌剌としていて、そんな役柄の設定イメージとはかけ離れた感も否めなかったものですが、作品のポップなイメージには見事になじんでいました。ところがこの夏に見たドナ役・早水小夜子さんはナントも言えないものがありました。
 もうすでにあちこちで言われてるようですが、まず見た目に「ええっと…天童よしみさん?」と見間違うばかりのオバハン的ルックス。歌はと言えば、本来は声楽家としての技量を持ち合わせた方ですゆえ何の不安もないはずが、「ええっと…川中美幸さん?(川中美幸−よく知りませんが…)」。コブシが効いているんですよ、アバの曲なのに。歌が上手いからと言って、何でも歌えるかというものではないのですね。
 ドナ役には久野綾希子さんもキャスティングされていまして、俺はこの人で見たことがないのですが、不評の声はあまり聞きません。ただ俺は久野さんのドナがまったくイメージ出来ないので興味はありつつも、やはり次に『マンマ・ミーア』を見るならやはり保坂さんしか考えられないとも思うのでありました。


『アイーダ』
 『アイーダ』大阪公演のほとんどは濱田めぐみさんがアイーダ役を務めて来ました。濱田さんが演じるアイーダは、土臭い中にも王女としての気品と気高さがあり、歌や台詞は力強く、これもまたハマリ役だなぁと思っていました。もうこの人がずっとアイーダを持ち役として演じ続けるのだろうなぁと思っていた矢先、京都公演中盤からアイーダ役は井上智恵さんにバトンタッチ。
 井上さんのアイーダはまず顔が西川かの子。関西のロイヤル・ファミリーの長女に似ているのなら、王女としての気品もあろうかというものです(ホントか?!)。しかし実際には妙な土臭さが前面に出ていて、登場場では強い違和感を感じました。ところが台詞や歌に入ると、すなわち井上さんの声はほどよい気品が漂っている。姿と声がほどよく馴染むと、なるほど、アイーダという役どころには合っています。濱田さんのアイーダとも大きくイメージが変わりません。

 ちなみに主役ではありませんが、『アイーダ』ではアムネリス王女役も新キャスト。こちらは春先に高嶋政宏と結婚したシルビア・グラブさん。最近は『レ・ミゼラブル』のファンテーヌ役など著しい活躍ぶりの彼女ですが、今回も申し分のない出来栄え。もともと美人のシルビアさんですから、彼女の登場で舞台全体が華やかになっていました。少し鼻にかかった声は佐渡寧子さんのクリアな上品さとは異なり、貫禄のある王女というイメージ。こういうちょっとした変化はリピーターにはたまらなく楽しいものです。


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