電脳戦機 VIRTUAL−ON

Truth 〜Story of ORATORIO TANGRAM〜

 

 

第9話 『宿命』

 

 

 エルとマクレガーを載せた輸送機は宇宙空間にいた。VRは二人の“ラプター”と“ウォリアー”以外は積み込まれていない。それは、本来ならば突入部隊を指揮するはずであった“ミレニアムナイツ”中隊長カーウェンが言い出した事だった。

 

 

      ◇ ◇ ◇

 

 

 “遮光の翼”フォスター大佐の『サッチェル・マウス』襲撃から二人の出発までは、二日間を擁した。その間にはワイズを始めとする戦いの犠牲者の弔い、破壊された設備の復旧、そして激戦で傷付いた“ラプター”の修復が必要だったのだ。

 そんな中で、カーウェンは言った

「これから続く戦いは未だかつて無いほど熾烈を極める……。生き残れる能力を持たぬ者は出撃すべきではない!!!」

 “遮光の翼”の襲撃によって“ミレニアムナイツ”の突入部隊はほぼ壊滅、エルやマクレガーと同じく各地方の部隊から選抜された支援部隊の全員に二人と同等以上の強さを求める事も出来ず、エルの強い希望もあって、タングラムに突入するのはエルとマクレガーの二人に絞られた。

 

 “遮光の翼”と直接戦わなかったマクレガーの“ウォリアー”はエルの“ラプター”に比べ損傷がほとんど無く、エルが“ラプター”の修理で付きっきりになっている間、手を持て余していると、カーウェンが声をかけてきた。

「アファームド・ザ・バトラー、コードネーム“ウォリアー”……か、悪くない機体だ。だが、ここから先戦い抜くにはちと火力不足だと思わないか?」

「どういうことです?」

 不意にそう言われたマクレガーは戸惑った表情を浮かべる。

「――付いてこい。」

 カーウェンは格納庫の方を指差して言った。

「バトラーの最大の武器は言うまでもなく格闘戦におけるトンファーの存在だが、バトラーのコンセプトはそれに頼り過ぎていると俺は思っている。つまり、メリットを発揮できる距離まで持ち込むリスクが大きく、その点でパイロットに大きな負担をかけてしまう……」

「それは確かに……」

 カーウェンの言葉に、バトラーの特性を誰よりもよく知るマクレガーは頷いた。彼の今までの戦闘経験を思い出しても、格闘戦に持ち込んだ時は圧倒的に強いが、ある程度の距離を保つ相手にはそれまでに敵の攻撃を掻い潜るという至難の業を見せなければならない。

「しかし、カーウェン中佐。俺はバトラーのその部分に惹かれているんです!だからと言って遠くから狙い撃ちにするような戦い方はしたくありません!」

 マクレガーはそう言ってカーウェンを真っ直ぐ見詰めたが、カーウェンはそれを見透かしていたかのように笑みを浮かべた。

「はっはっは、俺もバトラーにライフルやロケットランチャーを持たせるつもりは無いさ。みんな忘れているんだ……。バトラーには最も相応しい武器があったことを……」

 二人は格納庫の中、ひとつのシャッターの前に立っていた。

「現状のマシンガンでは突入する際の弾幕、火力に欠けて相手の動きを封じる事が難しい。“ミレニアムナイツ”が研究の結果、バトラーに最適な火力を持つ武器と判断したものは……これだよ!」

 二人の目の前でシャッターが開いていく。すると、次第にその中に収められた黒光りする物体の姿が明らかになっていく――

「これは……!?」

 マクレガーはそれを見て驚きの声を上げた。そこにあったのは自分が少年の頃から憧れ続けてきた、トンファーと並んでアファームドの象徴とも言える武器……

「……ショットガンだ。ビーム弾を散弾にして撃つ事も、直線状に収束して撃つ事も出来る。連射こそ利かないが威力はテムジンのライフル以上、もちろんターボショットにも対応している。OMGの時のものより改良されているのでパワーの使い過ぎで弾切れを起こす事も無い。」

 カーウェンは胸を張って言う。マクレガーは感激のあまり身震いがした。トンファーにショットガン、父親の乗っていたOMGのアファームドを崇拝する彼にとって、それは願ってもない申し出だった。

「これを……俺のバトラーにくれると言うんですか!?」

「イヤ、くれてやるつもりは無い――。このショットガンは一丁しか持ち込んでいないんだ。生きて……返しに戻ってきてくれなければ困るぞ……」

 そう答えてカーウェンは笑った。彼の言葉の意味に気付き、マクレガーは驚きの表情を浮かべる。だが次の瞬間、顔を見合わせた二人の笑い声が格納庫の中に響き渡った――

 

 

      ◇ ◇ ◇ 

 

 

「間もなく、タングラムの重力圏を目視で確認できます――」

 エルとマクレガーを載せた輸送船のパイロットはマイクに向けて言った。コックピットの前面に広がる宇宙空間とその視界の半分を占める月の間に、明らかに人工のものと思われる巨大な浮遊物がある。彼は隣の席に座る副パイロットと共に緊張の表情を浮かべていた。いくら今が平穏であってもここは既に戦場である。何が起きてもおかしくないからだ。その時――

ガクン……!!!

 突然、機体が大きく揺れた。慌ててパイロットがコントロールパネルに眼をやると、あらゆる計器が狂い始めていた。

「どうした――!!!」

 思わず彼は副パイロットに向かって叫んだ。

「分かりません!突然操縦不能になりました!!」

 宇宙船は普段ならコンピューターで航法などが自動制御されている為、めったに使わない操縦幹を握り締めている。

「これは……重力!?しかし月の重力圏まではまだまだ距離があるはずだが……」

 だが、そう思った次の瞬間、視界の中にポツンとエアポケットのように浮かび上がるタングラムの姿が見える――

「まさか――」

 パイロットは思わず口を開こうとした。しかしその言葉を全て言い終わる前に、タングラムの表面で何かが煌くと、青白い閃光がみるみる輸送船との距離を詰めてきた。一瞬にして視界が閃光に覆われた次の瞬間、コックピットは貫かれ、爆砕した――

 エルとマクレガーのいるVRの格納室にも揺れから暫く間を置いて爆発音が聞こえてきた。同時に、激しく機体がバランスを崩す。コックピットからの放送も途切れている事も知り、二人は只ならぬことが起こっている事を直感した。

「マック!!!」

「分かっているさ!!!」

 二人は近くに控えていたそれそれのVRに文字通り飛び乗ると、機体を起動させる。テムジンとバトラーのセンサーアイに光が点るが、2機を外へ解き放つべき格納室のエアロックが開かない。

「おそらく、今の爆発で操作系統がすべていかれてしまった――」

「エルっ!離れていろ!!!」

 マクレガーがそう言うと“ウォリアー”が新たな武器であるショットガンを構え、銃口の先に赤い光が点る。

「ターボショット、エネルギー充填完了……ファイア!!」

グンッ!!!

 マクレガーがトリガーを引くと同時に、少なくない衝撃と共に圧縮されたエネルギーが銃身内部を駆け抜けて行く。一発の光弾が銃口から吐き出され、一瞬にしてそれは閉ざされたままの扉に突き刺さった。次の瞬間、光弾はその威力の全てを外側に向けて吹き出す。指向性の爆発によって、エアロックの扉は粉々に砕け散って宇宙空間へと舞って行く。

「行くぞっ!」

 飛び出した“ウォリアー”に続いて、“ラプター”も輸送船から脱出すると、それを待っていたかのように船は爆発し、木っ端微塵に砕け散った。

 

「……危ないところだった……」

 エルはコックピットの中で汗を拭った。

「このショットガンをカーウェン中佐が渡してくれていたおかげで助かったよ……」

 マクレガーも同じく息を付いた。

「だが、安心してはいられないな。戦いはこれから始まるんだ……」

 エルはそう言ってモニターに映る前方を見詰めた。そこには不気味に浮かぶタングラムの影があった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 そこは、機械で出来た荒野だった。黒と灰色で塗り潰された無機質なパイプやアンテナ類がまるで植物のように生え、生き物のように蠢いているようにすら見える。入り口はすぐに見つかった。特殊合金製の扉が何か強大な力で吹き飛ばされていたのだ。そして、その中に一歩足を踏み入れたエルとマクレガーは驚愕した。

 

「これは……!?」

 狭い通路の中、破壊されたVRがDNA、Rna入り乱れて死屍累々と横たわっていたのだ。それらは全て通路から奥に向けて薙ぎ倒されている。そして壁面の所々に刻まれた、高エネルギーを受けたように沸騰した破壊痕。

「エル……この跡はまさか……」

「ああ、俺達の想像通りだろう……」

 マクレガーの懸念の意味を理解し、エルも頷いた。

「おそらく、Rnaのライデン部隊。少なくとも一個小隊は投入されている……」

 エルの言葉にマクレガーは息を呑んだ。最強のVRと言われているライデン――その余りの高額さゆえに前線に投入されている機数は極僅かと言われている。その代名詞である照射レーザーは元々、巡洋艦艦載用に開発されていたものを転用したもの。VR如きがまともに食らえば、大抵の機体は一撃で息の根を止められる。生き残っても、それ以上戦いを続けられるだけの余力は残らないだろう。エルとマクレガーは実際にその戦いを目の当たりにしたことは無いが、口コミやVTRに記録された映像から話は聞いていた。

「行こう。どんな事が起ころうと、覚悟は出来ているんだ……」

「ああ。」

 マクレガーはエルの言葉に頷いた。今のエルには妙な説得力がある。エルは以前からどちらかというと慎重な男で、飛び込んで行こうとする自分を諌めるようなことが多かったとマクレガーは記憶していた。しかし、今のエルは違う。慎重さが無いわけではないが、どこか全ての行動に確信を持っているように見えるのだ。そんなエルの行動に影響を与えていることこそ、“遮光の翼”フォスター大佐の言っていた“バーチャロン現象”によるものだろうと、マクレガーにも感じられた。

 ゆっくりと、テムジンの青と白の機体と、バトラーのウッドランド迷彩の機体が奥に続く通路の闇へと消えて行く――

 

通路は異様なほど静かだった。時折地響きのような機械音が聞こえてくるだけで、物が動く気配は全くしない。さらには奥に行くにつれて通路を埋め尽くしていたVRの残骸の数も減っていく。二人が通路の最奥にある扉の前に達した時には残骸は一機も無くなっていた。

「タングラムの設計図によると、この扉の奥がファイナル・リアクターに通じるエレベーターとなっている。目的地まであと一歩……というところだな。」

「ああ……」

 マクレガーの言葉にエルは曖昧に頷いた。

「(ここまで来るのが順調すぎた……。それに、通路にあったVRの残骸は何だ!?何者かが俺達より先にタングラム内部に侵入していることは間違いない……)」

 エルは表情を引き締めると、レバーを握り直す。

「よし、行くぞ!!!」

 テムジンの左手がドアの開閉ボタンを操作すると、鋼鉄の扉がゆっくりと左右に開いていく。全てが開き切ったその時、静寂を破って一人の男の声がタングラム内部に響き渡った――

『輸送船の爆発から逃れる事が出来たか……。大した悪運の持ち主だな……』

「何者だっ!!!」

 エルは素早く扉の中に“ラプター”を滑り込ませると、声のした方向にライフルを構える。マクレガーの“ウォリアー”も同様だった。しかし、そこに佇んでいたVRを見て、声を上げたのはマクレガーの方が早かった。

「――漆黒の……魔神!?」

 そう、今二人の前に立ち塞がっているVRは……ライデン。それも世界でただ一機、艶が無く闇に溶け込む様な漆黒と鮮やかな赤いラインで縁取りされたカラーリングを持つライデン、Rna戦闘部隊の実質的な指揮官と言われるOMGの英雄の一人、その強さから“漆黒の魔神”の二つ名で呼ばれたツルギ少将だった。

『……私も部下を引き連れてタングラムまでやってきたのだがな……。この中は暴走したVRだらけて、生き残ったのは私だけだった……』

「ならば、ここまでにあったVRの残骸は!?」

 エルはツルギが言わんとする意味を察して叫んだ。

『そう、ほとんどは私が倒したものだ。もっとも、数が多いだけで攻撃は単調。殺られた部下達は未熟と言わざるを得ない。』

 ツルギはさも当然、と言う口調で言い放った。しかし、破壊されていたVRの数は尋常ではない。逆にツルギのライデンは全くと言っていいほど傷ついていないのだ。エルはこの男に、フォスターとは全く違った恐ろしさを感じた。

『ここからの戦いは誰にも邪魔されたくは無い……。テムジン、バトラー、お前達にはここで、通路のVR達の仲間入りをしてもらおう!!!』

そう張り上げたツルギの声は二人に、フォスターの、氷の刃で突き刺されるような殺気とは違った、押し潰されるような威圧感を感じさせた。エルがライフルを構え直したその時――

「あんたの相手をするのはこの俺一人だ!!!」

「マック!?」

 エルが見ると、マクレガーは“ラプター”の前に“ウォリアー”を進み出させていた。

「マック、正気か!?相手はあのツルギ……“漆黒の魔神”だぞ!!!二人で戦った方が確実だ!」

「俺は落ち着いているさ……エル……」

 興奮気味のエルに比べて、マクレガーの声は冷静だった。いや、昂ぶる気持ちをなんとか抑えつけている、と言った方が正しい。

「――フォスターとの戦い以来、俺は何をすべきか……ということをずっと考えていた。そして俺の出した答えはエル、お前を無傷でタングラムまで送り届けるということだった!」

「マック……」

「だってそうだろう?いざと言う時のお前は俺なんて足元にも及ばないくらい強い!あのフォスターを上回るくらいな……。だから悟ったのさ。人智を超えたこの“タングラム”の暴走を止められるのはお前しかいない……ってな。」

『美しい友情だな……。しかし、そう簡単に私が通すと思うのか!!!』

 ツルギがライデンの肩のレーザー照射機を展開させる一瞬前、“ウォリアー”の両肩から放たれたグレネードが炸裂し、爆炎がライデンを包む。

「今だ!行けぇ、エル!!!」

 爆炎の中に向けてマシンガンを乱射しながらマクレガーが叫ぶ。

「――分かった!!!」

 エルは応えると、“ラプター”を駆け出させ、爆炎の脇をすり抜けると広間の奥にあるエレベーターに滑り込んだ。エレベーターがゆっくりと降下し、“ラプター”の姿が見えなくなる頃には爆炎は収まりつつあった。すると――

『はっはっは……』

 煙の中からツルギの笑い声が聞こえる。煙の中からはほとんど無傷なライデンの機体が現れた。

「何が可笑しい!?」

 マクレガーは叫んだ。

『済まんな。あまりにも8年前と状況が似ていたので思わず笑ってしまったのだよ。』

「8年前?」

 ツルギの言葉にマクレガーは怪訝そうな表情になった。

『そう、8年前……まさにOMGが最終段階を迎えていた時だ。私は今と同じように、ムーンゲートの最深部でDNAの突入部隊を待ち構えていた……。私の前に現れた部隊はテムジン、ライデン、バイパーU、アファームドの4機、その中でアファームドの1機だけが私を引き付け、仲間を中心部“ニルヴァーナ”へと送り込んだのだ。そう……今のお前と同じようにな!』

「――何だと!?」

 その話にマクレガーは驚きを隠せなかった。それは正に、人づてに彼が聞いていた、父・マクラーレンの取った行動そのものだったからだ。

「……ツルギ……あんたはその……アファームドパイロットの名前を知っているか!?」

 マクレガーが言うと、ツルギはやや間を置くようにして答える。

『……もちろんだ。忘れるはずがない……私が知る限りで彼は最も勇敢で尊敬すべき戦いをしたパイロットの一人だった。……DNA軍VR特殊遊撃隊副隊長、マクラーレン中佐……』

「そうだったのか……!!!」

『どういうことだ?』

 マクレガーの意外とも言える答えにツルギは眉をひそめた。

「あんたの戦った相手は……マクラーレン中佐は……俺の親父だ!!!」

『そうか……』

 ツルギはコックピットの中で目を閉じ、再び口を開く。

『……私が憎いか?』

「……」

 ――憎いか?ツルギのこの言葉に、マクレガーは自分の心の中に違和感を覚えた。自分の父親を殺した相手を目の前にしたというのに、自分は平静を保っている。それどころか、噴き出すような怒りと言うよりも高揚した喜びと言った方が正しいものが湧き上がっている。

「いや……」

 マクレガーはゆっくりと自分の心の内を言葉にしていく。

「憎いんじゃない……。親父の命を直接奪ったのは確かにあんたかも知れない。しかし、親父を殺したのは戦争だ!親父は昔から俺によく言っていたよ……。『俺は軍人だ。戦いの中でならいつでも死ぬ覚悟が出来ている。もし俺が帰らなくても、お前は怒るな、泣くな、運命と思って全てを受け止めろ。』、とな。俺は親父が死んで以来、親父のような軍人に、パイロットになろうとしてきた。だから、今俺は嬉しいのかも知れない……」

『嬉しい……だと?』

「そう。今俺は8年前の親父と同じく、異常を起こした遺跡の奥深くまで潜入する任務を与えられ、同じくあんたと対峙している。俺は生まれて初めて親父と肩を並べられた……だから嬉しいんだ……!」

『……アファームドの息子よ……』

 そう言ったツルギの言葉から雰囲気がガラリと変わる。余裕に満ち、数々の修羅場をくぐり抜けて来た超一流の軍人としての貫禄が消え、そこにはまるで抜き身の刃の如き闘気が現れている。

『父親と並んだだけで満足か!?今ここで私に敗れては、お前は所詮父親に並ぶだけでやっと、そこまでの器だったと言う事になる。お前の父を殺した男として言う!!!お前が本当に父を誇りに思っているのなら、私を倒して父を越えてみよ!!!』

「言われなくてもそのつもりだ!!!」

 ツルギの乗るライデンがバズーカを構えると同時に、マクレガーはアファームドのビームトンファーを展開させた――

 

 

      ◇ ◇ ◇

 

 

 マクレガーとツルギの戦いが始ろうとしていた時、エルは第9プラントの最深部に到達していた。目の前には開かずの間を思わせる分厚い金属製の扉が待ち構えている。エルは静かにライフルを構えると、ロックボルトのスイッチに照準を合わせる。

ドンドンッ!!!

 続けざまに放たれたビーム弾がスイッチのカバーを吹き飛ばし、露出した電子回路がショートすると、扉は重々しい音を立てながら左右に開いていく。しかし、外からは扉の内部を伺うことが出来ない。光のカーテンのようなものが入り口を覆っているのだ。

「……行くぞっ!!!」

 エルは覚悟を決めてその中へと飛び込んだ。テムジンの機体は、まるで水面に沈むかのように光の中へ消えていく――

 

「これは……!?」

 その光景を見て、エルは言葉を失った。ここは屋内であるはずなのに明らかに第9プラント全体よりも広大な空間が広がっていたのだ。天井や床は無く、巨大な球体の空間。振り返ると、今入ってきたはずの入り口すら消えている。闇によって満たされた器、それが第9プラントの中心部の姿だった。そして、その闇の中に浮かび上がる、巨大な球体。完全な球体ではなく、無数の三角形<ポリゴン>によって構成された多面体――タングラム=ファイナルリアクターだ。

「これが……タングラム……」

 エルはそう言うと、“ラプター”を前に進ませそうとした。その時――

『警告――警告――』

 無機質な機械音声が響く。

『侵入者に告ぐ。貴方にはこのファイナルリアクター内部へ入場する権限を持っていません。直ちに退去を命じます』

「……そんなこと大人しく聞くわけ無いだろう……」

 エルはレバーを握りなおし、タングラムとの距離を詰めるべくブースターを吹かそうとする。

『――強制排除モードに移ります』

 エルに撤退の意思が無しと見るや否や、タングラムは多面体の内側から光の触手を伸ばすと、それを“ラプター”に向けて伸ばしてきた。

「――遅いっ!!!」

 エルは鞭のようにうなる触手と、その先端から放たれるリングレーザーをかわし、無重力空間を翔けると、続けざまにライフルの光弾を打ち込んだ。だが――

「なにぃ!!?」

 驚きの声を上げるエル。エルのはなったビームはタングラムの表面を直撃するが、まるで磨かれた鏡が光を反射するように弾かれたのだ。

『侵入者カラノ攻撃ヲ確認。殲滅もーどに移行シマス……』

 それを引き金としてタングラムの機械音声に壊れたようなノイズが混じり始める。

『――攻撃――こうげき――コウゲキ……』

 タングラムが振動を始める。すると、多面体の表面の一部が内部吹き飛ぶ。銀色のポリゴンのかけらが舞い、その内部は――無。だが、その無が実体を成し、何かの紋様を形作るのがエルの目にも分かった。

「あれは!?」

 その紋様に、エルは確かな見覚えがあった。初めて見たのは聖域<サンクチュアリ>にでクリスタルのバーチャロイド=AJIMを追って入り込んだ遺跡内部で、2度目は中立都市AVIONでハンス中佐の駆るスペシネフ・プロトタイプとの戦いの最中、スペシネフの機体に浮かび上がった時だ。

「やばい!!!」

 本能的に危険を察知し、エルは“ラプター”のブースターを全開にして、横に飛ぶ。その次の瞬間、タングラムの表面に浮かんだ目玉紋様から放たれた無数の光の矢が“ラプター”のいた場所を貫いていた。その攻撃は続けざまにエルを襲う。

「――反撃だ!」

 エルは宙を駆けながら、ビームライフルを連射する。弾丸はタングラムの放った光の矢の間をすり抜けて、目玉に吸い込まれていく……

「やはり駄目か!?」

 エルがコックピットの中で舌打ちしたその時――

ギュオオオオォォォン

 目玉の更に奥、タングラムの内部で小さな爆発が起こると、タングラムは機械音の唸りを上げた。

「そうか……奴は強力な攻撃を行う為には装甲を開放して実体を曝さなければならないのか!」

 咄嗟に、エルはタングラムへの攻撃方法を思いついた。

「ライフルの弾ではまだ威力不足……。ならばもっと強力な一撃ならば致命傷を与えられるはず!」

 その時、エルのとった行動は一つだった。攻撃の止んだ隙にライフルをリバースコンバートさせ、バスターライフルへと変形させる。

「こいつを喰らえ!!!」

 “ラプター”がバスターライフルを両腕で構え、照準を固定するとエルはトリガーを引き絞る。強烈なアフターバーストで機体が後ろに吹き飛ばされそうになるのをブースターの出力でこらえ、放たれた極太の閃光が真っ直ぐタングラムに向かう。だが――

カッ!!!

 平静を保っていた目玉が突如息を吹き返したように輝くと、そこからはテムジンのバスターライフルを超える、いやライデンのレーザーすら上回るほどの光線が撃ち出されたのだ。

「何ぃ!!?」

 エルは思わず叫んだ。しかし、バスターライフルの閃光はタングラムの放った光の激流に抵抗するまでも無く飲み込まれ、虚空に消滅する。そして――

「うわああぁぁ!!!」

 身動きの取れないままの“ラプター”は成す術の無いまま、光の中に飲み込まれた。絶叫を振り絞るエル。自分の上げる声もどこか遠くから聞こえるような錯覚に陥りつつ、エルの意識は白い光の中に埋没していった……

 

To be Continued

Written by GTS

 

 

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第10話『決着』へ

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<これって、後書きでいいんだよな?>

「GTSです。気がついてみれば、オラタン小説は前回の更新からはや8ヶ月が過ぎてしまっていました(爆)。巷では『GTSのオラタン小説連載中止か!?』『GTS死亡説』、まで東京○ポーツの一面やネット上で飛び交う始末(ウソです)。しかし、お待たせしました!無事第9話、公開です!恒例のゲストですが、今回はこの第9話にして主人公と初遭遇、バーチャロンでもファンの多い機体、ライデンの登場です!」

『うむ、よろしく頼む。』

「さすが、重量級バーチャロイドだけあって貫禄ありますねぇ……。どっかの泣き虫とは大違いだ。」

『……グリスのことか?』

「この小説を最初から読んでくれていれば分かる事ですがね(笑)」

『ところでこの私、ライデンの登場は何故ここまで遅れたんだね?』

「そのことですか。実はこれには様々な事情がありまして、まず第一には公式設定でライデンの生産数が極端に少ない、というのがあること。存在自体に重みを出す為に、エル達の様な小部隊にはライデンは配備されていないということにしたのです。しかし、一番の理由はこの物語の展開によるところが大きいですね。」

「と……言うと?』

「この物語は多少なりともゲームの展開をなぞっているのです。OMGでもオラタンでもライデンは準ボスキャラとして、ラストステージの前に登場しますね。それを生かして、プロローグで(実はマクレガーの父親であった)アファームドと戦ったライデンと今回マクレガーが出会ったライデンに乗るのは同一人物だったという展開を執筆当初から構想していたわけです。」

『なるほど、それが”漆黒の魔神”。話の中での私のパイロット、ツルギというわけか。』

「そうです!今までの敵であるフォスターやハンスが明らかにこういうヒーロー物の悪役の典型で描きすぎたような感があったので、ツルギはそういうイメージから脱却した敵役として考えました。敵であるのに正々堂々としていて、怨む前に戦って実力を試してみたくなるような相手、一言で言えば武士道のイメージですね。名前もツルギという和風な響きに設定しました。ツル・ギの前の二文字にアクセントが来るのが彼のオフィシャルな呼び方です(←分かるかな〜このネタ(^^:)」

『いよいよ物語りも大詰め……だな。この私も血が騒ぐ。あのアファームドとの戦い……はな……』

「そうでしょうそうでしょう!次回ではマクレガーvsツルギ、エルvsタングラムの戦いがタイトル通り『決着』。エピローグとともに、オラタン小説ファイナルカウントダウンに入ります!!!」

『先が見えてきたのはいいが、お客さんをあまり待たせんようにな……」

「……善処します(汗)」

<完>