電脳戦機 VIRTUAL−ON

Truth 〜Story of ORATORIO TANGRAM〜

 

第7話『逆襲』〜前編〜

 

エルとマクレガーが中立都市AVIONにやって来た日の未明、事態は静かに動き始めていた。

 

 AVION西口ゲートは閑散としていた。通行する車も無くなり、ゲートキーパーは退屈な時間を過ごしていた。

「中立都市に攻めてくる奴でもいる訳ではあるまいし…」

だがそんな考えはゆっくりと近づいて来たワゴン車によって遮られた。

「IDカードを出してください。」

彼はマニュアル通り仕事をこなそうとした。しかし、開いた窓から差し出されたのはIDカードではなく黒光りする銃口だった。

「なっーー!?」

反射的に非常通報ブザーに手を伸ばすが、それより速く車の中の男が引き金を引く。パルス弾が頭蓋骨にめり込むと同時に彼の脳は機能を停止した。倒れこむゲートキーパーを確認すると、車の中から数人の戦闘服に身を包んだ男達が現れた。その中の一人がヘッドフォンを付け何やら通信を始める。

「こちらαチーム、西口ゲートを確保……」

その頃、他のゲートでも同じような凶行が行われていた。地に伏すゲートキーパーの背中に撃ちこまれる数発のパルス弾がすでに絶命した肉体をまるで痙攣を起こしているかのように震わせる横で、ワゴン車の後部ハッチが開けられる。そこはマシンガンから対戦車ロケットまであらゆる武器が詰め込まれていた。男達は素早くそれぞれの手に武器を取るとある者達は秩序だった動きで都会の闇に消えて行き、またある者達はその場に獲物を待つハンターの如く身を潜めるのだった…

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

「了解、バルバドスをゲートに入れる。」

長髪の男はそう言うと無線を切った。昼間、ヨハンとワンBOXカーに乗っていた諜報員の一人だ。昼間と違い戦闘服に身を包んでいる。その横で眼鏡に白衣の男がヘッドホンに話し掛けている。

「ヨハン、以上が今回のミッションだ。分かったな。」

男は念を押した。パイロットは腕前こそ超一流だが所詮子供だ、そんな考えが彼にはまだ残っていた。

『何度も言わんといてや。今回のゲームのシナリオはちゃんと頭に入っとるわ。』

二人の耳にコクピットから緊張感の無い声が聞こえた。眼鏡の男が不安そうな視線を長髪の男に向けるが、男は肩を竦めてニヤリと笑うと、アクセルを踏み込む。彼らの乗る大型トレーラーはハイウェイを加速していく。

やがて目の前に迫った閉鎖中のゲートを強引に突破するとトレーラーの巨体は街中に雪崩込んで行った。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 ホテルの寝室でまどろんでいたエルは遠くから聞こえてきた衝突音を耳にして目を覚ました。軍人として勘が何か異常な事態が起こっている事を予感させる。それを証明するかのように断続的に聞こえてくるマシンガンの銃声。

「おい…、マック!」

「分かってるさ…!」

薄暗闇の中、隣のベッドに寝ていたマクレガーも身を起こしている。二人はスーツケースに手を伸ばすとパイロットスーツ兼用の戦闘服と護身用のハンドガンを取り出した。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 黒塗りの大型トレーラーは市街中心部の広場に到着すると激しいブレーキ音とタイヤスモークをその場に

残し急停車した。

「おい、荒っぽすぎるぜ!」

眼鏡の男は相棒に毒づいた。しかし、積荷に何も被害が無いのが分かるとそのまま仕事を続けた。彼が計器を操作するとトレーラーの荷台がゆっくりと開いていく。そこにあるのは台座に固定された1機のVR。ダークブルーに白いラインの入ったその機体はスリムでどことなく頼り無げに見える。しかし、その腕には本来あるべき「手」が無く、筒状のランチャーが直接装着されている。程なく機体の肩の部分を固定していたロックボルトが解除されるとバルバドスはゆっくりと立ち上がった。

「いいか、ヨハン。作戦終了と同時にバルバドスは上空に離脱、ポイント76高度5000で空中回収を行う。分かったな!?よし、ミッション開始!」

『ほな、早速行くでぇっ!』

バルバドスは両腕からランチャーを切り離すとそれを従えるように飛び出していった。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

同時刻――、第7方面隊基地発令所

「AVION市保安部より入電、現在同市はRna側のものと思われる部隊の侵入を確認。かなりの大部隊と思われ、現在自衛部隊が応戦中…。…今、新しい情報が入りました。市内に未確認のVRを発見。形式不明、新型機か改造機と思われます。」

「中立都市を攻撃とは…、何を考えている?」

ハルトマンはオペレーターからの報告を聞きながらひとりごちた。すでにガレージに待機中の機体が出動準備に入っている。第7方面隊をはじめ、AVION市付近に展開するDNAの部隊には国際規約に基づいてRnaに対する制圧行動が命令されていた。そんな中、管制室からの緊急連絡が入った。

『方位0−1−4、距離6500にRna側VR部隊の展開を確認、繰り返す、方位0−1−4、距離6500にRNA側VR部隊の展開を確認…』

「なんだとっ!!!」

思わずハルトマンは声を上げた。しかし、間髪入れず別の報告がオペレーターによってもたらされる。

「第4師団本部より入電、現在、南部地域展開中DNA基地に対してRna側部隊の接近を確認。各部隊任意に迎撃体勢をとれという事です!」

「つまり、AVION市付近全ての基地にRnaの部隊が接近しているということか…。これで迂闊に支援部隊を派遣できなくなった…!全面戦争を臨むつもりか!奴らは!!!」

『大佐!』

待機中の“ウィザード”のコクピットの中からワイズが声をかけてきた。

『AVIONにはエルとマックがいます!なんとか“ラプター”と“ウォーリア”を輸送出来ませんか!?』

ハルトマンの頭にもその考えはあった。しかし、そのためには現在接近中のRna部隊の包囲網を突破しなくてはならない。失敗した時のリスクを考えると難しい選択であった。

「ワイズ、やれるか…?」

『命令とあらば!』

ワイズはわざと畏まってみせた。それは断言するよりも自分に自信があるように見せる言い回しだったのだが、長く彼の上司をやって来たハルトマンにとってはその心中は五分五分であるように思われた。

「(奴なら賭けるに値するな…)」

彼はワイズの考えを推し量り、決断を下した。

「至急“ラプター”と“ウォーリア”の輸送準備に取りかかれ!包囲を突破するまでの現場指揮はワイズ少佐に任せる。ワイズ、依存は無いな!」

『了解しました!』

基地内が慌ただしく動き出す中、ハルトマンはオペレーターの一人に告げた。

「エルストーム中尉の携帯電話に非常連絡…!」

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 エルとマクレガーが戦闘服に着替え終わった頃、携帯電話が鳴った。普通の着信音ではない、基地からの非常回線である。

「エルストームです。」

『そちらの状況はどうだ?』

ハルトマンからの電話だった。その口ぶりから事態についてある程度の情報が入っているのが伝わってくる。

「はい、先程から銃声が聞こえます。外の様子はこの部屋からはよく…―」

その瞬間、部屋の窓から青い光が見えると爆発とともに数ブロック先のビルが崩れ落ちた。その後も続けざまにあちこちで爆発音が響く。

『エルストーム!?どうした?』

ハルトマンにも受話器の向こうの轟音を耳にした。目の前の光景に気を取られ、エルはハルトマンへの返答が遅れてしまった。

「あ、はい!ビーム兵器の光跡が見えた後、ビルが爆破されました、それも1箇所では無いようです!これがRnaの攻撃だとするとかなり大規模なものだと思われます!」

『VRは?そこからVRは確認できないか!?』

「いえ、ビル群の影でそこまでは…」

『そうか…』

無線での情報収集は限界のように思われた。ハルトマンがオペレーターに目配せすると、すでに準備完了といった視線が帰ってくる。

『ではエルストーム、マクレガー両中尉に指示を与える。我々は国際規定に従いRnaに対し制裁行動を起こさねばならぬのだが、Rnaの部隊がAVION周辺のDNA拠点に接近しているのが確認されたために部隊派遣は困難になった。そこで今から2時間後、ポイントS−17に“ラプター”と“ウォーリア”を輸送する。お前達は合流後直ちに起動、AVIONに侵入したRnaに対し軍事行動に移れ!命令は正式なものだ!』

「分かりました。では合流できなかった場合は…」

『輸送が失敗だった場合はこちらから連絡を入れる。そのときは自分達の安全を最優先するのだ。お前達が遅れた場合、キャリアーは30分で撤退させる。以上だ!』

そう言うと、ハルトマンは無線を切った。マクレガーも自分の携帯を同調させ、耳を傾けている。

「聞いたか、マック…」

「ああ…」

二人はおもむろに携帯電話をポケットにしまい込むと、ハンドガンにパワーパックを装填し安全装置を解除する。マクレガーのものは大口径の威力重視、エルは標準タイプだが銃身の下にレーザーサイト着けて命中率を向上させている。

「「さあ、行くぞッ!!!」」

ドアに向かう二人の声は見事に重なった。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 キャリアーの出発よりも数分早く、ワイズ率いるVR部隊は、AVIONへのルートを塞ぐRnaの包囲網に対し攻撃を開始した。幸運にも、この攻撃はRnaにとって奇襲となった。先陣を切って“ウィザード”が敵陣に斬り込んだ。並みのパイロットでは捉えることが不可能な程のスピードでRnaのVRを1機、また1機とレーザーブレードの餌食にしてゆく。同時に後方に待機していたグリスボックがホーミングミサイルで援護射撃を行う、この間わずか10分余り。混乱したRna陣内にテムジンとアファームドシリーズの混成部隊が突入すると包囲網は完全に切り崩された。

「こちらワイズ。キャリアー、聞こえるか!」

ワイズは他部隊の動向を気にしながらも現場の制圧を確認すると通信を開始した。

「AVIONへのルートを確保した!」

『了解、ワイズ少佐。至急、ポイントS−17に向かう。』

その通信が終わって数分後、、全速力のVRキャリアーが彼らの横を通過していった。それを見届けるとワイズは仲間に再び指示を出す。

「本機はキャリアーをS−17まで護衛する。皆はこの場の確保と基地の防衛を頼む!」

同僚の復唱を聞きながらワイズは“ウィザード”を戦闘機形態に変形させると先行するキャリアーに追い着くべく飛び立った。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

「この辺りは静かなもんだな…」

マクレガーは声を潜めながらつぶやいた。

「ああ、奴らが本気でAVIONを占拠するつもりなら主力はおそらく都市機能の中枢、“サイバースクエア”を狙ってるはずだからな。」

この場所に来る前、二人はホテルの従業員を捕まえ、客をホテル内の地下室に非難させるように指示していた。そしてマクレガーの車に乗りこむべく駐車場に到着した時、数名の人影が闇の中を蠢いた。

とっさに、相手に気付かれないように銃を構えるエルとマクレガー。もし相手がRnaの正規部隊だとしたらその装備はハンドガンじゃあ済まないだろう。

相手の索敵は教科書通りの動きだった。暗さに目が慣れてくると人数や持ち物もはっきり分かってくる。手にはマシンガンタイプのパルス銃を携えた3人だ。エルとマクレガーはお互いに目配せすると車の影から飛び出した。

 タッ…!鋭い跳躍の音を聞き、Rna兵士はその方向に振りかえり、マシンガンを構える。しかしそれよりも速くエルは狙い定めてトリガーを引いていた。正確無比なパルス弾の3連バーストが額に合わせられたレーザーサイトの光点に突き刺さり、脳の一部を蒸発させる。続けて重々しい銃声が2発、地下駐車場に響いた。マクレガーの大口径銃はRna兵士のはらわたを食い破り、床と壁面にスプラッタなアートを描く。

 生き残ったRna兵士は鉄筋の柱を盾にしながらマシンガンを掃射してきた。途切れる事無く放たれる弾丸は周りの車の窓ガラスを砕き、フェンダーを蜂の巣にしていく。

「騒ぎが長引いたら奴らの仲間が集まってきちまう…!」

マクレガーは姿勢を低くしながら毒づいた。

「マック、援護してくれ!」

そう言ってエルがおもむろにトリガーに指をかけると、レーザーサイトに再び赤い光が灯る。それと同時に駆け出すマクレガー。マグナムパルスがコンクリートの表面を深深と穿つ。Rna兵士は仲間を肉塊に変えた大口径銃に脅威を感じながらも応戦する。その間にエルは密かに相手の死角に移動していた。銃身を横向きにする独特の射撃姿勢をとり、レーザーサイトの照準を合わせる。狙いは相手の持つマシンガンだ。Rna兵士が再び鉄筋の柱から身を乗り出した時、3連バーストのパルス弾がマシンガンを手から弾き飛ばす。その衝撃でトリガーにかけていた人差し指がへし折れたのだが、次の瞬間、マクレガーの撃った弾丸が頭を吹き飛ばし、全ての感覚を無に帰した。

「ふぅっ…」

エルは久々の銃撃戦の緊張感からか、息を吐いた。その横にマクレガーは自分のエアカーを横付けした。

「安心するのはまだ早いぜ。あと1時間ちょいでポイントS−17まだ行かなきゃならないんだ。」

「分かってるさ。」

エルはそう言うと倒した兵士からマシンガンとナップサックを取り上げた。ナップサックの中には予備のパワーパックと手榴弾が入っていた。マシンガンの一挺を肩に掛け、後部座席に乗り込むともう一挺とバッグを助手席に放り込む。それを見てマクレガーはアクセルをふかす。

「じゃあ行くか!!!」

エアカーは地下駐車場から文字通り飛び出していった。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

「おおっとぉっ!!!」

 

 マクレガーは悲鳴とも歓声ともつかない声を上げながら急ハンドルを切った。目の前に直径2mほどあるフローティングマインが迫ってきたのだ。数個のマインがビル群の間を飛びまわり、気まぐれにあちこちを破壊していく。運転するマクレガーは道路に落ちた瓦礫を避けねばならなかった。

「フローティングマイン?バル−バス−バウの装備だぞ!?」

エルはRna部隊の追跡を振り切る時に使いきったパワーパックを投げ捨て、新しい物をマシンガンに装着した。マクレガーはポイントS−17に1番近い南ゲートを目指し、車を走らせていたところ、ビルとビルの間を飛びまわるVRの姿を見た。

「エルッ、左だVRがいる!」

自分は運転に集中するために確認をエルに任せた。VRとの距離は約2ブロックほど。ダークブルーの機体に白いラインが入り、腕には本来あるべき「手」が無く、筒状のランチャーが直接装着されている。スペシネフ程華奢ではないが、体は頼り無げに見える。バル−バス−バウに足が生えた――といえば一番しっくり来るだろう。その事にエルも気付いていた。

「もしかしたらあれはバル−バス−バウの発展型機体…!?」

 

 そうしている間に市街の数カ所から自衛部隊の戦闘ヘリが飛び上がり、VRに向けて攻撃を開始した。放たれた無数の対空ミサイルが小魚の群れの様にバルバドスに迫る。バルバドスはミサイルの飛んでくる方向に向き直りながら腕のランチャーからリングレーザーをばら撒いた。ミサイルのほとんどはリングレーザーによって撃墜され、残った物もバルバドスにかわされると迷走し、ビルの壁を吹き飛ばした。

「中距離からの誘導兵器は目標に対して効果無し。各機散開、近距離から直接攻撃を行え!」

『了解!』

攻撃ヘリ部隊の小隊長が作戦の変更を告げると、それぞれの機体はバルカン砲でバルバドスを追い立て始める。しかし、バルバドスは雨霰と飛んでくる20mmパルス弾をまるで宙を泳ぐかのように避けている。外れた弾はオフィスビルの窓ガラスを蜂の巣にしていく。

「ちいっ、素早いVRだっ!」

ヘリのパイロットはバルバドスを追跡しながら毒づく。その時、自機の後方に何かが近づくのをレーダーが捉えた。とっさに振り向くとコクピットのガラス越しに宙に浮いたランチャーがこちらを狙っているのが見える。

次の瞬間、ランチャーから撃ち出されたビームバルカンが機体ごと彼の体を粉砕した。やがてヘリ部隊が追われる立場になった。ビルの影から音も無く近寄るバルバドスのハンドビットに戦闘ヘリは1機1機確実に追い詰められ、その数を減らしていった。

「全機、現在位置を報告せよ!」

散り散りになった部隊を立て直すべく小隊長が召集を掛けるが、応答は発進した機数の半分にも満たなかった。今も市街のあちこちで爆発音が響いている。退却命令が出ない限り部隊の壊滅は時間の問題だった。

 

 南ゲートを目指すエルとマクレガーの乗ったエアカー。ゲートに近づいた時エルは静かに言った。

「マック、車を止めてくれ…」

「どうした?エル?」

その神妙な態度に訝しげなマクレガー。

「ゲート付近がおかしい…」

エルは道路の先を見据えながら言った。確かにゲートに明かりは無くその場は暗闇が支配している。

「ただで通してはくれないってことか…」

マクレガーもエルの言葉の意味を理解した。一方のエルはRna兵士から奪ったバッグから手榴弾を取り出し、マシンガンのコックを引く。それを見てマクレガーはニヤリと笑う。

「強行突破だな!」

「こうするしかないさ…!」

マシンガンを構えたエルも笑い返す。それは何度も死線を乗り越えてきた二人故のものだった。マクレガーがアクセルを吹かし、エアカーを加速させるとゲートの影から数人が飛び出し、二人にマシンガンを浴びせてきた。弾丸を、車体を左右に振る事でなんとかかわしていくマクレガー。ぶれる照準に苦心しながらエルも反撃する。兵士数人が被弾し、倒れこんだ。ゲートを抜けるとエルは手榴弾の安全ボタンを解除し投げつける。数秒後に起こった爆発が相手の追撃を遮ったと思われたのもつかの間、一台の軍用車両が煙の中から現れた。マシンガンのトリガーを引き続けるエルだったが、弾丸はRna車両のボディに、フロントガラスに弾かれる。

「ちっ、防弾か!!!」

スペアのマガジンを使い切り、エルはマシンガンごと投げ捨てた。

「もっとスピードは出ないのか!」

「無茶言うな!相手は軍用の追跡車だぞ!パワーが違う!」

マクレガーはスロットルを床まで踏み込んでおり、スピードメーターは150Km近いにも関わらず、Rnaの軍用車はじわじわと距離を詰めている。そして、サンルーフを開くとそこから兵士が身を乗り出させるとロケットランチャーを構えた。

「やばい、奴等バズーカまで持ってやがる!」

エルが叫ぶ。マクレガーも顔をしかめながらバックミラーを一瞥する。

「何とかならないのか…!」

マクレガーが言うと、エルは自分のハンドガンをホルスターから抜き出し、安全装置を解除する。

「(やっぱこいつに頼ることになるのか…!)」

エルはそうつぶやくとハンドガンを構えた。トリガーに指を掛けるとレーザーサイトに赤い光が灯る。しかし、ハンドガンの威力では防弾加工を施した軍用車に打撃を与えることなど不可能である。だが、エルは慎重に狙いを定めた。狙うはただ一点、自分達に向けられたバズーカの発射口。エアカーなので揺れはそれほどではないが、時速150Kmで疾走する車の風が狙いをぶれさせる。しかし一瞬、赤い光点がバズーカの発射口に吸い込まれたのをエルは見逃さなかった。常人では捉え切れないほどの刹那であった。引かれる引き金、火を吹く銃口。高エネルギーパルスの弾丸は空気の抵抗を受ける事無く直進し、バズーカの砲身の中に消える。次の瞬間、バズーカは兵士を巻き添えにして粉々に吹き飛び、車は転倒すると爆発、炎上した。

「よっしゃあ!!!」

後方に遠ざかる炎をバックミラーで確認し、マクレガーは歓声を上げた。しかし、エルは緊張が緩んだのか、不意に痛み出した肩を押さえた。

「エル、大丈夫か!?」

心配そうなマクレガーだったが、エルは肩を回し、以上が無い事を確認すると言った。

「ああ、かすり傷だ…」

パイロットの戦闘服はかなりの対衝撃性と防弾性能を持っている。でなければエルの肩甲骨はパルス弾で粉砕されていただろう。

「(どうやら体は人間のままのようだな…)」

エルはシートに腰を下ろすと心の中でつぶやいた。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 そして車を走らせる事20分、二人はポイントS−17に到着した。そこにはすでに第7方面隊のVRキャリアーが到着しており、数人のメカニックがすでに起動準備に入っていた。

「二人とも早かったな!」

顔見知りの伍長が声を掛けてきた。

「起動準備は?」

挨拶もそこそこにエルが切り出すと伍長も表情を変え、二人にそれぞれオペレーションシステムのディスクを渡した。

「俺達の仕事はここまでさ、後は任せたぜ!」

「了解、でもよくここまで無事に到着できたな…?」

マクレガーは自分達が遭った危険の事を忘れ、伍長に聞いた。

「用心棒が強力だからな!」

伍長はそう言って空に向けて親指を立てる。そこには1機のサイファー、ワイズの“ウィザード”が旋回していた。“ウィザード”は二人の到着を確認すると第7方面隊基地の方角に飛び去った。

「さあ!行こうか!」

エルの掛け声とともに、二人はそれぞれの愛機に乗りこんでいった。

――続く――

Written by GTS

 

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