電脳戦機 VIRTUAL−ON

Truth 〜Story of ORATORIO TANGRAM〜

 

≪前回のあらすじ≫

 スペシネフの攻撃を受けた基地の復旧もなかば、エルとワイズは、原因不明でVRや航空機が消息を絶つ「魔の空域」と呼ばれる地域の偵察を命じられる。そこで二人は今まで発見されてこなかった巨大な遺跡を目の当たりするも、RNAの部隊と遭遇してしまう。交戦を覚悟する二人だったが、RNAのVRは突如現れたクリスタルの“人形”に倒されてしまう。そして、桁違いの破壊力を持った未知の敵が今、二人に襲いかかる……!!!

 

第5話『使者』〜中編〜

 

 

 キュクルルルッ

耳障りな駆動音を発しながら“人形”はエルとワイズに向かい駆け出した。突き出された右腕の先には先程RNAのストライカーを蜂の巣にした水晶弾が形成されている。

『避けろ、エルっ!!!』

ワイズが叫ぶ。そう言われなくてもエルは愛機であるテムジン、コールサイン“ラプター”を反応させていた。2機が今まで居た場所を水晶弾が猛スピードで行き過ぎる。

「スピードこそ凄いが…、ホーミング性が皆無なのが救いですね。」

“人形”との距離を再び取りながら、エルはインカムに話しかけた。

「先輩、どう攻めます!?」

『……』

 その問いに一瞬沈黙を守りながらも、ワイズは口を開いた

『相手がどう攻めてくるか分からない以上、こちらから仕掛けるのは危険だ、が…奴も2機をいっぺんに相手には出来ないだろう、俺が奴を引き付ける!その間にお前はビームライフルを食らわせろ!』

「…了解!」

 ワイズは未知の敵といえどもそう簡単にやられるパイロットではない、そう確信しているエルは力強く応える。

 そう言うが速く、2機は散開する。ワイズの乗るサイファー、“ウィザード”は“人形”の側面をとるようにダッシュをかけつつ右腕のランチャーからバルカンを掃射した。無数のビーム弾はほとんど的を外すことなく命中するも、仁王立ちのままの“人形”はそれでダメージを受けた気配はない。

『まあ、バルカンで殺れるとは思っちゃあいないがな!!!』

 自嘲気味に叫びつつ、再びランチャーを向けるワイズ。それに対し“人形”は胸のコアの前で腕を組み、それを瞬時に解くとコアから禍禍しい輝きを持った光弾が残像の尾を引きながら撃ち出される。同時に“ウィザード”もハンドレーザーを放っていた。両者の中間点で攻撃同士がぶつかり合うが、ハンドレーザーのほうが一方的に打ち負かされる。

『くそっ!!!』

 毒づきながらワイズは即座に回避に移るが、“人形”の放った光弾の勢いは彼の想像以上だった。ハンドレーザーを相殺しながら迫る光弾の衝撃波は軽量なサイファーの機体を吹き飛ばす。

ズガアアアァッ

 光弾は“ウィザード”をかすめ、着弾したその場に直径20メートルほどのクレーターを作り出した。ワイズは崩れた体勢のまま叫ぶ。

『エル!今だっ!!』

 その声に呼応するかのように、エルは“人形”との距離をダッシュで詰めていた。そして“人形”の背中とすれ違いざまにライフルを最大出力で放つ。

「食らいやがれ!!!」

 2発の弾丸が“人形”の背中にほぼ零距離で撃ちこまれる。無防備だった“人形”はそのまま前のめりに倒れこむ。その正面には“ウィザード”がすでに構えをとっていた。胸部ランチャーからホーミングビームが山なりに放たれ、鋭く角度を変えながら、倒れたままの“人形”に着弾しドーム状の爆炎を上げる。

「『やったか!?』」

 二人は同時にこの台詞を発し、戦闘体勢を解かないまま爆発の中心部を凝視していた。そこへ一陣の風が吹き、砂埃を流し去る――、そこには無傷のままの“人形”がたたずんでいた。油のような光沢を持つ表面には曇すらない。

『化け物が……!』

 ワイズは壮絶な表情でつぶやいた。しかし、それは彼に今まで実戦で一度も使った事の無い“奥の手”の封印を解く決心をさせることとなった。

「(あのドルドレイを落下速度と自重で押しつぶしながらも無傷でいたボディだ…、生半可な攻撃じゃあ何をしても無駄ってことか。おそらく、近接攻撃を仕掛けても…)」

『エル、聞こえるか?』

「あ?、はい。何ですか?先輩。」

不意なワイズからの通信をエルは聞き逃しそうになった。

『ちょっと試したいことがある…。お前、しばらく奴を引き付けていてくれないか?これが駄目なら今の俺達に奴を倒す手段は無い…。賭けるか、エル?』

「当たり前ですよ!打つ手が無いよりマシです!」

『頼むぞ、エル!』

 そう言うとワイズはサイファーを戦闘機形態に変形させると急上昇していく。“人形”はそれを見上げ、追いかけようとするが、その前にビームソードを展開させた“ラプター”が立ちふさがった。

「今度の相手はこの俺だ!」

 “人形”にその言葉が理解できるかどうかは定かではなかったが、“人形”は目の前の敵を破壊するという本能にのみ従い、その右腕に弾丸ではなく諸刃のブレードを形成させ、エルに斬りかかる。

ガシイイイィィン!!!

 今までに無い程硬質な物を受け止めた衝撃を感じるエル。その威力はライフルの銃身から形成されたビームフィールドを突き破ってしまうのではないかと思われた。近接戦における腕力もバトラーのそれすら遥かに上回っていた。

「くっ……!!」

 エルはたまらずその場を退く。それを追う“人形”、右腕のクリスタルブレードが振り抜かれる…。その時、エルの意識が遠のきかけた、いや、エルは自ら別の“意識”を取り込んでいた。自分より遥かに上手であったはずのスペシネフを退けた“あの力”を得るために…。

 エルの瞳に常人とは全く別の光が宿る。目の前に迫る水晶剣、“ラプター”はそれを信じられないほどの反応速度で受け止めていた。しかし、“止めた”のはほんの一瞬だった。受け止めた体勢のままビームソードを引き、“人形”の側面に回り込む。完全に攻撃を受け流されバランスを崩す“人形”に、エルはに振りかぶったビームソードを叩きつける。

 ビームフィールドがクリスタルに食い込む鋭い音とともに“人形”は斬撃の外には弾き飛ばされた。しかし、“人形”も転倒してもおかしく無い程の攻撃を堪え、その場に踏みとどまる。それはまた“人形”を大きく硬直させる事にもなった。

『エルっ、今だっ!!!』

 上空からワイズが叫ぶ。彼はまさにこんな状況を待っていた、“人形”が立ったまま硬直する、その瞬間を…。戦闘機形態の“ウィザード”は急降下を開始した。スピードは一瞬にして最高速に到達する。

『ま…まだだ…!』

 強烈な加速Gを感じながらも急降下を続ける“ウィザード”、地面はすでに彼の目の前に迫っている。激突の瞬間、ワイズは自身の操縦技術の全てを以って機体を抑えこみ、地面スレスレで反転させる。その直線軌道上には硬直した“人形”を捉えていた。

『パワーリミッター解除、Vコンバータ出力最大っ!!!』

 ワイズが自分に言い聞かせる様に叫んだ直後、“ウィザード”の速度は限界を超えた。そんな機体の回りに逆流した莫大なエネルギーは、慣性に従って紡錘状のフィールドを形成し機体を包み込む。“ウィザード”は青白い火の玉と化していた。

『これが、S.L.C.DIVEだああぁっ!!!』

 S.L.C.DIVE――、O.M.G.において、一握りのパイロットだけが操れたバイパーUの切り札である。機体のポテンシャルを超えた機動性能を発揮することによってエネルギーを逆流させ、それを全身に纏い突撃する…、その威力食らって原形を留めていたVRは無かったと言われる幻の技。だが一歩コントロールを誤まれば限界速度を超えた機体は自らにも牙を剥く。正に諸刃の剣だ。それはワイズを以ってしても死と紙一重の領域だった。

 亜光速の火の玉を目の前にして、今まで攻撃を避ける事の無かった“人形”も自らの危険を感じたようだった。しかし、反応で避けられる間合いとスピードではない。とっさに両腕をクロスさせ防御体勢をとる。“人形”の視界が青白い光に埋め尽くされ、両者は激突した。

 その一瞬を目の当たりに出来たのは傍らで見ていたエルだけだった。自分が斬り飛ばした“人形”はその反動をこらえるためにかなりの距離を後ずさりしていた。その場でふん張り、体を硬直させた隙にワイズは高速で“人形”を正面に捉え、激突の直前、“ウィザード”は火の玉と化した。その瞬間“人形”がガード体勢をとるのが分かった。しかし、“ウィザード”はそれに構うことなく弾き飛ばしていた。音にならぬ衝撃音を残し、吹き飛ぶ“人形”。先程エルに斬りつけられた片腕が耐えきれずにちぎれ、、体のあちこちから砕けたクリスタルの破片が宙を舞う。“人形”は受身すら取れず派手に地面に叩きつけられた。

 激突のショックで“ウィザード”もバランスを崩していた。周囲を覆っていたエネルギーは掻き消え、機体が自律的にVR形態に戻ろうとする。

『くっ……!!!』

 ワイズは必死に機体の上体を起こし着陸体勢を取ろうとするが、高速度の機体は前のめりのまま胸部を地面に擦りつけながら滑り続ける。鈍い音とともに背中のウイングがへし折れ、地面に押し付けられた腕の関節が悲鳴を上げた。想像以上の衝撃に気が遠くなる――。

「……ぱい…、先輩!大丈夫ですか!先輩!!!」

 突然インカムに入ってきたエルの声、ワイズはかぶりを振った。

『(俺…気絶してたか…?)』

 口の中に広がる血の味が彼に冷静さを取り戻させる。

『エルっ、奴は、奴はどうした!』

「“人形”なら吹っ飛びました。あれを食らっちゃあ、いくらあいつが頑丈でも身動きできないでしょう。それより先輩に怪我は…?ずいぶん危ない墜ち方を……」

 その時、エルの視点は倒れている“ウィザード”のはるか後方、すでに立ちあがった“人形”の姿を捉えていた。左腕こそ失われているが、体のあちこちの傷は内側から光を発しながら再生し始めている。

『バ…馬鹿な!!!S.L.C.DIVEをまともに食らって…!』

 ワイズの声にはかすかにながら絶望が含まれているように思われた。自分の持つ最強の攻撃を受けながらも再び立ちあがった“人形”の姿に、彼は今までに感じたことの無い戦慄を覚えていた。

『さて、どうすればいい事やら…』

 声を震わせながらもワイズは“ウィザード”を目標に向き直らせる。その前にはいつのまにか“ラプター”が回りこんでいた。

『エル?』

「悪いですが先輩、そんな状態ではあいつとはもう互角にやりあえませんよ…。無駄死にするだけです!」

 エルは入隊以来初めてワイズの行動を非難した。確かに今の“ウィザード”は墜落のダメージがあちこちに残っている。しかし、その言葉とは裏腹に口調は決意が満ちていた。

「俺が戦っている間に何とかこの場から離脱してください。『魔の空域』から出れば本部と通信が出来るはずですから…」

『お前…、死ぬ気か…!?』

 ワイズはすぐさまエルの覚悟を察した。常識で言えばここは一旦退却すべきである。しかし、彼には入隊以来弟の様にかわいがってきた後輩を見捨てる事など出来るはずは無かった。

『ふっ、死ぬ気になったところで良くて相討ち。こう言う場合は絶対勝つ気でやるんだ!』

 そう言いながら“ウィザード”は再び戦闘体勢をとる。

「……分かりました、先輩。足を引っ張らないでくださいよ!」

 エルはワイズに心から感謝していた。そう言う間に修復作業を終えた“人形”は二人に向けて駆け出してくる。それを見てエルも戦闘体勢をとった。その時――、

≪そこまでよ!!!AJIM!≫

 甲高い少女のような声が当たりに響き渡った。その声を聞いて、3体はピタリと動きを止める。エル達にはその声の出所が分からなかった。しかし、AJIM(アジム)と呼ばれて“人形”は素早く空を見上げた。二人もその方向を見る。そこにはゆっくりと舞い降るVRらしき姿があった。ポニーテールの髪形をした頭、装甲と言うよりは法衣かドレスといったものを纏った白いボディ、手には自分の背丈程の長さで、先端に小さなクリスタルをつけた杖を持っている。

 

そのVRはエル達に前にふわりと、どこか優雅さを感じさせる仕草で降り立った。見た事も無いVRを目の前にして驚きを隠せないワイズに対し、エルはなぜか落ち着いていた。

「(この娘、あのフェイ=イェンに感じが似ている…?)」

たまらずワイズは声をかけた。

『君は一体?あいつを知っているのか?』

 その問いに“彼女”は静かで、丁寧な口調で答えた。先程はAJIMを制するためにわざと語気を強めたのだろう。

≪質問は一つずつにして欲しいですね。私はエンジェラン、あのクリスタルの化身AJIMを止めるために使わされた者。AJIMはクリスタルに残った古代人の悪しき意思を実行するために動く兵隊。あなた達の力では止めることは出来ません。≫

「悪しき…意思?」

そんなエルのつぶやきが聞こえたのか、エンジェランは付け加える。

≪あなた方も“太陽砲”は知っているでしょう。ムーンゲートが消えても太陽砲は残っています。古代人の悪しき意思とは太陽砲を再び発動させること。それの邪魔になるものをAJIMは排除するのです。太陽砲を発動させるためにはムーンゲートが必要でした。しかし、今は存在しません、その代わりとして……≫

 エンジェランが言葉を続けようとしたとき、AJIMは“彼女”に向けて水晶弾を放った。しかし、“彼女”はそれを避けようとしない。

「危ないっ!!」

 エルが叫ぶ。水晶弾が目の前に迫るが――、

≪氷の加護よ!!!≫

 透き通るような声でエンジェランは呪文のようなものを発する。“彼女”の周囲に発生した氷の結晶は瞬時にして菱形の障壁となり、AJIMの水晶弾を弾き返す。

「『んなあっ…!』」

 先端技術の粋を集めて作られているVRの装甲すら蜂の巣にできる、あの水晶弾が弾き返されるのを見て二人は同時に驚嘆の声を上げる。AJIMとエンジェラン、2機の戦いはそれほど人間の常識を超えたものだった。

 氷の障壁の横に回りこみながらAJIMは再び水晶弾を放つ。エンジェランもそれをかわしながら杖をクルリと回転させると先端のクリスタルから氷の弾丸を放つ。同じ威力を持った水晶弾と氷弾は互いにぶつかり合い、砕け、その破片はフィールドを幻想的なものへと変えた。

 お互い一歩も退かずに対峙するAJIMとエンジェラン。AJIMは右腕を掲げるとなにやらエネルギーを集中し始める。エネルギーは青紫色の光球を形成し、その表面に大理石のような模様を不気味に蠢めかせながら、瞬く間にVRの身長と同じ程の大きさに膨張した。AJIMはそれをエンジェランに向けて投げつける、光球はスペシネフの暗黒空間に似ているが、スピードは比べ物になら無い程速く、直線的だ。

≪氷の加護よ!≫

 エンジェランは再び氷の障壁を作り出すが――、AJIMのエネルギーボールはそれと衝突しても弾かれること無く何度もぶつかっていく。さしもの障壁も圧力に耐えきれずに亀裂が走る。

≪(もう限界ね…!)≫

 障壁を支えるのを諦め、エンジェランは上空に逃れる。次の瞬間、炸裂するエネルギーボールと砕け散る氷壁。爆発の余波は“人形”の視界を奪ったのか、何者もいない空間に水晶弾を撃ちこむAJIM、それを頭上から見つめるエンジェラン。

≪私が飛び上がったことに気付いていないようね…、今ならあれを呼び出せるわ!≫

そう言うと“彼女”は杖を胸の前に構え、呪文を詠唱し始める。

≪クリスタルに宿りし猛き力よ…、今こそ我が手の中に…。共に悪しき者を討ち滅ぼさん――≫

 頭上のただならぬ気配を察したAJIMが頭を上げると、エンジェランの周りを取り囲む様に無数の氷の結晶が渦巻いている。

≪双龍よ!!!≫

 その力強き言葉と共に掲げた杖から白い光がほとばしる。光と氷は次第と実体を成し、二頭の氷のドラゴンに姿を変えた。2頭はエンジェランに寄り添い、宙を舞う。

<――!!>

 無言の気合を発し、飛び上がるAJIM.それを待っていたかのように龍の1頭がAJIMに襲いかかる。

ウオオオォォォン!!!

 ドラゴンは地の底から響くような声で一吼えするとAJIMの行く手を氷のブレスで遮る。AJIMはそれを空中で鋭く向きを変えてかわすが、強烈な冷気はAJIMの体に纏わりつき、ピシピシと音を立てて凍りつかせる。なおもAJIMはエンジェランに向かい上昇を続ける、もう一頭の龍も口から鋭い氷の牙を覗かせながら急降下する。そのまま噛みつかんとするドラゴンをなんとか避けようとしたAJIMだったが、ブレスで凍りついた体は思うように言う事を利かない。一旦、攻撃をかわされたドラゴンは長い体を捻るとクリスタル“人形”の半身を口の中に咥えこむ。

<―――――!!!>

 まるでガラスを爪で引っ掻いたような不快な音、それがAJIMの悲鳴だった。牙が深く食い込み、顎の力で体に致命的な軋みが走る。AJIMを咥えたままドラゴンは再び急降下を始める。その間にもAJIMはドラゴンの鼻先にブレードで斬りつけるが、無駄な抵抗だった。ドラゴンの頭の下敷きになるようにAJIMは地面に叩きつけられた。もうもうと起ちこめる砂煙の中から無傷のドラゴンが姿を現す。2頭は役目を終えたのか、天高く昇り、消えていく…。

「『………』」

 エルとワイズは言葉を失った。それは余りに彼らの常識の範疇を超えた攻防だった。

『S.L.C.DIVEが可愛く見えるぜ…。』

 ワイズはそう言うのが精一杯だった。

「今のドラゴンは…ビームフィールドではないですよね…。」

 エルの言葉を証明するかのように、地面のあちこちには季節外れの霜が降りている。今の攻撃で強烈な冷気が放出されたのは明らかだった。そんな二人の前にエンジェランが降り立つ。

「倒したのか?」

 エルの問いかけにエンジェランは一つ息をつくと答えた。

≪分かりません。ただ、かなりのダメージを受けているのは間違い無いでしょう。今度起き上がったら、必ず仕留めなければ…。≫

 そうしているうちに埃が晴れていく。そこには地面に作られた大きなクレーターの中心で横たわるAJIMの姿があった。

『そう言えばどうして俺達の攻撃はあいつに通じなくて、君の攻撃はダメージを与えられるんだ?』

 と、ワイズ。それはエルも不思議に思っていた事だった。

≪それはAJIMが完全なるクリスタルの力を持っているからです。あなた方のその、バーチャロイドと呼んでいる兵器はクリスタルの力を不完全な形で引き出しているに過ぎません。完全な力と不完全な力がぶつかり合えばどちらが勝つか…、明らかでしょう?≫

「と、言うことは君も完全なクリスタルの力を持っているということ…。それなら――」

 エルの話をエンジェランは手を挙げて制した。その視線の先には立ちあがろうとするAJIMの姿がある。

『奴は不死身か…!?』

 だが、ワイズのつぶやきとは裏腹にAJIMの体にはドラゴンの牙による噛傷が無数に刻み付けられ、そこから全身に亀裂が走っている。誰の目にももう戦う事は不可能に思われた。ただ不思議なのは体のコアを成すクリスタルは無傷であるということ。

 立ちあがったAJIMは体を地面からふわりと浮かせると何やら回転を始める。その回転は次第に速くなり、あっという間にその姿を見る事は出来なくなった。あまりに速い回転は空気との摩擦を生み、辺りに雷のような電撃を撒き散らす。

「これが奴の最後の攻撃!?」

 エルはその光景を見てつぶやく。だが、この程度の電撃ではVRにダメージを与える事はできない。

≪これは“ビッグ・コア”を使うつもりだわ!!≫

『“ビッグ・コア”!?』

≪まさにAJIMの最終兵器です。あれを使われてはあなた方はひとたまりもありません…。早く!私の後ろに隠れてください!≫

 エルとワイズは女性の背中に隠れる事に抵抗を感じたものの、エンジェランの言葉の確かさを信じ、言われた通り“彼女”の後ろに回る。

≪氷の加護よ!!!≫

 先程よりも語気を強めた呪文により、さらに大きくなった障壁が3人の前に現れる。次の瞬間、AJIMの放出したエネルギーが辺りの空気に引火したのではないかと思われるほどの大爆発が彼らを襲った。爆発は酸素を無尽蔵に吸い込み火球を膨張させ、周囲に擬似的真空を作り出すほどだった。あらゆる物が火球に吸い込まれ焼き尽くされる中、氷の障壁の後ろだけが例外だった。そして真空を維持できなくなった火球は炸裂、遺跡の構造物を吹き飛ばし、一面を荒野に変えた。

 余波が収まるのを待って、エンジェランは障壁を消すと二人に向き直った。

≪大丈夫でしたか?≫

『ああ…』

「君のおかげさ。」

 エルは辺りを見渡しながら言った。障壁の後ろだけが焦土と化すことから免れていた。だが、エンジェランは辺りを一通り見回すとある一点に目を留めた。

≪あれを見てください…≫

 そう言って指差した先はさっきまで巨大な舞台があった所であり、爆発でを吹き飛ばされ、その本来の姿を見せていた。艶やかな材質でできた表面にはまるで電子回路のような模様がはしり、窪んだその中心には何やら地下へと伸びるシャフトのようなものがある。

≪AJIMはあそこへ逃げたのでしょう。≫

『ま、まさか、あいつは自爆したんじゃあないのか!?』

≪いえ、ビッグコアを使ったのは私達の目をくらますためと、自分の足元にあった遺跡への本当の入口を剥き出しにするためです。となると、AJIMにはまだ秘策があるということ…。どちらにしろ私はAJIMを止めなくてはなりません!≫

 エンジェランはそう言うとシャフトに向かって歩き出す。

「待って、俺も一緒に行くよ!」

 エルはエンジェランを呼び止めた。

≪……厚意はありがたいのですが…、あなた達の力ではAJIMには敵わないと申し上げたはずです。だから――≫

 エンジェランの言葉が終わらないうちにエルは続けた。

「奴にダメージを与えられなくても俺が注意を引き付ける事はできる。その間に君がとどめを指してくれればいい。それくらいは協力させて欲しい!」

“彼女”はエルの心を見透かすかのようにじっと“ラプター”を見つめていた。そして、思いを決めたかのように一息ついた。

≪わかりました、あなたの決意は固いようですね。着いて来てください。≫

『待った、俺は奴に借りがある。そう言う事なら……』

 二人のやり取りを聞いていてたまらず切り出したワイズだったが、今の自分の機体の事を考えると、とてもあのAJIMと決戦できる状態ではなかった。

『と、言いたいところだが、今の“ウィザード”じゃ、あいつとはやりあえない。何とか応援を呼んでみるよ。』

 ワイズはコクピットの中で無理やり笑顔を作った。しかし、心の中では久々に味わった敗北に怒り心頭だった。彼の微妙な口調の変化で、エルにはその本心が知れていた。

「先輩の仇は俺達が必ず取ります!生きて帰るのを祈ってて下さい!」

『ふん…、俺はまだ死んじゃあいねえよ。』

 ワイズのその言葉を聞くとエルとエンジェランはシャフトへと降りていった。何が待ち構えているかわからない、遺跡の最深部へと――

 

  ――続く――

written by GTS

 

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