電脳戦機 VIRTUAL−ON
Truth 〜Story of ORATORIO TANGRAM〜
第3話『衝突』
大空洞での戦闘から五日後、エルとマクレガーは隊長室に呼ばれた。それは事件の当事者としてその後の調査結果について聞かされるはずだった。しかし、ハルトマンの口から出た言葉は二人の想像と違っていた。
「今日本部より、我々が所属する第四師団による軍事行動に参加せよ、という指令を受けた。」
と、いうハルトマンの言葉に、エルは聞き返した。
「その軍事行動は先の大空洞における戦闘と何か関係があるのですか?」
「その通りだ。あの後、本部の調査チームが空洞内部の岩石を分析した結果、Vコンバータにも使われているクリスタルディスクの原料に極めて近い物質が検出された。あの地層がレーダー波を通しにくかったというのもこれで納得がいくな。さらに空洞が形成された年代はこれまでに発見された遺跡のものとほぼ一致する。古代人はここから岩石を採掘し、何らかのテクノロジーの材料にしていたのではないかというのが調査チームの結論だ。」
「しかし、それだけでは攻撃命令の説明にならないのでは…」
と、マクレガー。
「まあ待て、これからが本題だ。この報告を受けて最高幹部会は空洞を重要度ランクCの遺跡相当物に指定。よって空洞の安全管理のために付近のRNA勢力に対して制圧行動の必要性が出てきたのだ。我々第7方面隊には4機のVR出動要請がされている。これで納得がいったかね、マクレガー中尉?」
ハルトマンはマクレガーに不敵な笑いを向ける。釈然としない表情のマクレガーを制し、エルが返事をする。
「その件については了解しましたが、あとの二人は誰が出動するんですか?」
「一人はすでにワイズが了承している。エルストーム中尉はあと一人、誰がいいと思うかな?」
困惑する二人を尻目に、ハルトマンは自分を指差す。
「作戦部隊のひとつを指揮してくれと、私が名指しされているんだ。私はもう若くはないのだがな。」
O.M.G.を経験した軍人とはいえ、ハルトマンはまだ30歳半ばである。VRパイロットとしては脂が乗りきっている頃なのにこの人は…、エルは大佐の冗談を心の中で苦笑した。
「明後日の0300にここを出発し、0430に“セクター5”へ到着する予定だ。それまでに機体の調整と遠征の準備をしておくこと。以上だ。」
◇ ◇ ◇ ◇
「まあ、一度乗りかかった船だから今回の出動命令が俺達に回ってきても仕方は無いか。それにしてもワイズ先輩とハルトマン大佐が同行とは、俺達も遅れは取れないな。」
「そうだな…」
エルが答える。
(それにしても事件に関わったから俺達に出動命令を下したんだろうか?大佐も俺達の実力を認めてくれたのかもしれない…!)
尊敬する大佐と隊、いやDNAに中でも屈指の戦闘能力を持つワイズに続いて扱われている、そう考えるとエルの拳にも自然と力が入った。そして、出発当日がやって来た。
◇ ◇ ◇ ◇
“セクター5”それは南部地域を監視する第4師団の活動拠点のひとつである。常時30機以上のVRが駐留し、50機を超える航空機、戦略爆撃機も離着陸可能な滑走路を持つ。第7方面隊基地の10倍近い敷地に、ここを始めて訪れるエルとマクレガーは嘆息した。
「話には聞いていましたが、すごい広さですね、ここは。」
「セクター5はここから北東にあるRNAの勢力線“N-E-Sライン”の南下を牽制しているからな。俺達の第7方面と違ってここはまさに最前線ってわけだ。」
エルの言葉にこともなげに答えるワイズだったが、
「私語を慎めワイズ大尉。これから、セクター5参謀ピアーズ准将より我々に与えられる作戦について説明を聞くことになっている。」
そう言うとハルトマンは会議室のドアをノックする。
『入りたまえ。』
中から低い男の声で返事があった。
「失礼します。」
ハルトマンは中に入ると、正面にいる初老の軍人に向かって敬礼する。3人もその動作に続いた。
「第7方面隊ハルトマン大佐他3名、要請によりセクター5に到着しました。」
「ご苦労であった。セクター5参謀ピアーズ准将だ。」
4人の厳粛な態度にうなずきながら、彼は敬礼を返した。
「早速だが、君達の任務について説明したい。先の事情はわかっていると思うが、我々は“N-E-Sライン”を形成している中でも大空洞にほど近い場所にあるRNAの拠点、“ブロックV”を攻撃する。君達にはその中の第1班に参加してもらうことになる。最近特に活躍著しい第7方面隊の諸君には大きな期待を持っている。RNA側のデータや周辺の地形図、こちら側の構成は宿舎のコンピューターに送っておく。参考にしてくれたまえ。」
「了解しました。」
ハルトマンが復唱し、3人は再び敬礼すると会議室を出た。
「私はまだ他の隊長たちとミーティングがある、お前達は先に宿舎に行ってデータ分析でも進めていてくれ。」
彼はそう言うと別方向に去っていった。
エルたちは宿舎の割り当てられた部屋に入り、コンピューターを立ち上げた。モニターにはRNA側の配備状況、味方の部隊編成、ブロックV周辺の地形図が次々と示されていく。
「敵味方の数なんて実戦じゃあ意味ないぜ。味方はやられて減るだろうし、敵は密かに援軍を呼んでいるかもしれない。戦力っていうのはVR同士の組み合わせ、パイロットの腕・連携がものを言うんだ。ただ、あちらには地の利があるからな。地形だけは熟知しておく必要がある。」
ワイズの顔は笑いながらも目は真剣にモニターを見つめている。こういう時の彼は本気なのだと、エルとマクレガーは知っていた。
「ブロックV周辺は台地で起伏が激しい、機動力不足の支援型VRで進入するのは無理だな。…なるほど、後方支援は航空機中心の編成になっているな。局地戦になりやすい地形ではテムジンとアファームドの独壇場だ。俺はお前達の活躍を上から見物させてもらうよ。」
「そんな…、頼りにしてますよ、先輩。」
エルはわざとうろたえて見せた。こうして出撃前夜は過ぎていった。
◇ ◇ ◇ ◇
早朝と呼ぶにはまだ早い日も昇らない時間、エル達“N-E-Sライン”突破作戦第1班はセクター5を出発していた。そしてRNAのレーダー圏に入る前にキャリアーを降り、VRを起動させてブロックV付近まで進軍していた。
『この辺りから見通しが悪くなる、各機レーダーと識別信号に留意しろ。』
「了解。」
この第1班にはエル達と、第4師団の他部隊から派遣されたVRを含めた合計7機が参加しており、VR戦闘の基本に則ってエルはハルトマンと、マクレガーはワイズとそれぞれコンビを組んでいた。そして部隊が細い谷底にさしかかった時、
「高速移動物体接近!!反応数12!距離400!!」
全機がほぼ同時にそれを捉えた。しかし、同時というタイミングは部隊をかえって混乱させた。
「ホーミングミサイルの誘導電波を確認!!近すぎるっ!」
「どこからだ!!まだ見えないぞっ!」
この狭い谷間では7機のVRすべてが回避行動を取ることは不可能だった。ホーミングミサイルが部隊のほぼ真上から降り注いでくる。考えている時間は無い。
「全機回避せよ!!!」
ハルトマンが叫ぶ。ミサイルは谷の峰、谷底見境い無く着弾し、爆炎と砂埃を巻き上げる。そのショックで崖が崩れ落ち、部隊は前後に分断されてしまった。もはや味方に被害があったかどうかさえ分からない状況だった。ハルトマンの乗るストライカー“ガーディアン”と共に部隊の先頭にいたエルはミサイルからも、落石からも直撃を免れていた。
「大佐、、どうやら待ち伏せされたようですね。」
『その様だな…』
ハルトマンの声からは警戒の色が消えていない、
『このまま留まるのは危険だ。とりあえず我々4機は前進する。』
◇ ◇ ◇ ◇
ワイズのサイファーはミサイルの雨の中、その機動力を生かして上空に逃れていた。それが功を奏したのか、モニターに現場から離脱する2機のグリスボックを捉えることができた。
「攻撃したのはあいつらか?レーダーに反応しなかったのは不気味だが、逃がすわけには行かないな…!」
こちらに背を向けて離れていくグリスボック2機の一方に“ウィザード“は右腕のマルチランチャーを向ける。そこから放たれたハンドレーザーが目標を直撃し転倒させると“ウィザード”は高速飛行で敵の前方に回りこんだ。2機のグリスボックはスタンダードカラーのミリタリーグリーンやダークブラウンではなく艶が無く紫がかった黒色に塗られていた。
「ステルス塗装機とは…、こんなのがパトロールしているところを見ると、敵さんもこちらの攻撃をある程度予測していた様だな。残念だが、お前達の仕事はここまでだ。」
◇ ◇ ◇ ◇
同じ頃、エルとハルトマンの部隊は谷底を抜け出していた。今までは歩行中の足音を消すためにサスペンションを一番柔らかいモードにしていたので移動速度が押さえられていたが、今は通常モードで走って移動していた。
『待てっ!』
ハルトマンは隊を制すると機体を岩陰に隠した。上空を1機のサイファーが飛行している。カラーリングが違う、“ウィザード”ではない。サイファーは何回か旋回すると急に引き返していった。
『こちらの動きが知られてしまったかもしれないな。ぐずぐずしていたら向こうも臨戦体勢を取るだろう、急ぐぞ!』
◇ ◇ ◇ ◇
「先輩、状況は?」
敵の攻撃が終わってから十数分が過ぎていた。帰隊したワイズにマクレガーは尋ねた。“ウィザード”には直撃弾こそ無かったが、埃や破損した敵機のものと思われるオイルが付着している。
『完全にこちらの動きを読まれてしまったわけではないと思う。定時のパトロールか何かの途中で俺達を発見し、攻撃してきた…そんなところだろう。だが、遅かれ早かれ情報はあちらに知られてしまっただろう。』
「俺達はどうします?大佐達とは別れてしまいましたが…」
『ハルトマンは事態の変化よりも素早く行動する男だ。すでに目的地に向けて動き始めているはず。後始末は第2班に任せて俺達3機も追い着くぞ。』
「了解。」
第7方面隊員ではない一人もワイズの判断に従った。マクレガーはワイズの、ハルトマンとは一味違ったレーダーシップに頼もしさを覚えつつ、進軍を再開した。
◇ ◇ ◇ ◇
エルとハルトマンの部隊はすでに台地を抜け出し、小高い岩場の影に潜んでいた。眼下には台地を切り開いて造られた基地が見える。そこがブロックVに他ならなかった。ブロックVはセクター5ほどの規模は無いが、台地に囲まれ防衛機構に優れていると言う情報だった。彼らに大きな被害が無くここまで到達できたのは幸運である様に思われた。
“ラプター”と他のストライカーはライフルやランチャーを低い姿勢で構えている。その中でハルトマンの“ガーディアン”だけは片膝を立て、左肩のグレネ―ドの照準をあわせていた。そうしているうちにブロックVに警報が鳴り響いた。それと同時に“ガーディアン”が3発のグレネードキャノンを放つのを無言の合図として、“ラプター”他2機が丘を駆け下りる。
グレネードはそれぞれが別の目標に向かって軌道を描き、一発は閉ざされたゲートを破壊し、一発は格納庫とおぼしき建物を炎上させ、一発は駐機していたテムジンを直撃し擱座させた。
エルはパワーボムを半壊したゲートに投げつけた。着弾したショックでボム内部の不活性エネルギーが瞬時に信管に反応、球状の爆風と同時に衝撃波を発生させ、瓦礫を吹き飛ばす。僚機のストライカーは煙の中にロケットランチャーを打ちながら突っ込んでいく。
“ガーディアン”はまだ後方から建物を狙って砲撃を続けている。この距離からの攻撃では格納庫の中のVRを破壊することはできないが、こうしてしまえば建物内部に閉じ込めてしまうことができる。ハルトマンが砲撃を止め、こちらに走り出すのを確認すると、エルもゲートに飛び込んでいった。
RNA側は基地内ですでに稼動していた3機が応戦してきた。テムジン2機、バトラー1機。“ラプター”は煙の中から出るとモニターで捉えた敵機にライフルを撃ちこんだ。光弾が次々と装甲に炸裂すると敵の注意はこちらに向いた。エルは即座に敵テムジンと交差するように高速移動をかけると、先程よりも出力を上げた光弾を2発放った。
距離を詰められながら強烈な攻撃をくらい、敵機は転倒した。仰向けになった敵テムジンにビームソードを突き立てようとした時、エルはコクピットの中で小さな衝撃を感じた。その方向をモニターで確認すると、空中でランチャーを構えているサイファーの姿が映る。
「さっき、上空で偵察していた奴か!?」
サイファーは“ラプター”に向けてバルカンを掃射してきた。しかし、大半はVアーマーによって弾かれたが、エルの注意は一瞬そちらに集中した。その隙に敵テムジンは起き上がりながらライフルで“ラプター”を殴りつけた。
「ぐっ…はっ!!」
それをまともに食らい、バランスを崩してよろめく。それを追うようにビームソードを展開させながら敵テムジンが踏み込んでくる。エルもそれを防御しようと瞬時に反応するが、敵がわずかに速い。
「殺られる!!!」
エルの脳裏に後悔の念がよぎったとき、敵テムジンの頭部が目の前で爆砕する。
「!?」
何が起こったのかわからず、エルがモニターに目を凝らすと敵機の後ろにランチャーを構えた“ガーディアン”の姿が見える。
『エルストーム!注意をそらすな!!!』
エルに怒声を浴びせながら、頭部を失ったテムジンの背中にナイフを突き刺す。鈍い音と共にテムジンは力を失い、前のめりに倒れていく。
「助かりました…、大佐。」
『言い訳は後で聞く。今は任務遂行を第一に考えろ。』
「はっ…」
エルは短い返事をすると、モニターに目を戻した。ブロックVの敷地内は煙と瓦礫で埋め尽くされ、耐えず銃声が響いている。レーダーにある敵反応は二つ。先制して格納庫を爆破したのが功を奏し、敵の数は増えていない。
『だれか、こっち…来て―れ。一体、手強いのが…―』
ノイズの混じった味方パイロットの声がインカムに聞こえてきた。位置的には左前方距離250で反応赤と反応青が接近している。エルが煙を抜けて接近すると、視界に何かが飛び込んできた。エルはそれを反射的にかわす。一瞬ではあったが、それが何であったかはわかった。テムジンの左腕である。目の前には左腕を失って後退するテムジンと、トンファーを構えたRNAのバトラーがいる。
「こいつは俺がっ!」
エルは先程の名誉挽回とばかりにビームソードを展開しながらバトラーに斬りかかった。バトラーもその一撃をトンファーで受け止める。ビームとビームの粒子がぶつかり合い弾けて音を立てる。そんな攻めぎあいは長く続かず、バトラーは一歩退くともう1基のトンファーを振りかぶりながら“ラプター”の側面に回りこむ。
だがエルはその動きを見切るとトンファーを間合いギリギリですり抜け、逆にバトラーの背後を取る。バトラーの動きも只者ではなかった。背後を取られながらもジャンプでかわすのが無理と見ると、その場で旋回して右腕を盾にする。しかし、ビームトンファーの展開が一瞬遅れたため、テムジンのビームソードは上腕部から下を切り落とし、胸の装甲を一文字に切り裂いた。バトラーはバランスを崩し、膝まづいた。
RNAの残り1機も追い詰められていた。“ガーディアン”との的確な射撃で足を破壊され、もはや動くことはできない。すでに降伏の意を示しているのか、抵抗する様子は無い。
――その時、影が落ちた。
投降しようとしたテムジンの頭上に一条の光が突き刺さり、爆砕させた。エルたちは同時に空を見上げた。いつのまにか昼近くなった太陽を背にしたVRの影があった。背中の4枚のウイング、そのシャープなフォルムから、それがサイファーであることを全員が理解した。しかし、降下してくる機体のカラーを見て、ハルトマンだけが息を呑んだ。
『遮光の…翼!?』
機体こそサイファーだが、全身に返り血を浴びたような真紅はO.M.G.でDNA陣営に最も恐れられ、その悪魔の如き戦い振りから希望の光すら失わせる意味で“遮光の翼”と呼ばれたバイパーUパイロット、フォスター少佐のものと同じだった。
士官学校に入学する前から、エルは“遮光の翼”の名前に憧れを持っていた。それは一般市民にはO.M.G.の実情が知らされておらず、“限定戦争”と言われた巨大人型兵器同士の戦闘のスマートなイメージから“遮光の翼”が英雄視され、戦争が一種のエンターテイメントになってしまったからかもしれない。そんなエルは実際に“遮光の翼”を目の前にして違和感、いや嫌悪感すら覚えた。
「こいつ…、何かが違う…!」
“遮光の翼”はバトラーの近くに降り立った。バトラーはそれを恐れる様にひざまずいたままあとずさる。その瞬間、レーザーブレードがバトラーの傷口を薙ぎ払った。肩口が大きく裂け、鮮血ならぬオイルが噴き出す。
『役立たずはたとえ仲間でも…ってことか。』
エル達のうちの一人が吐き捨てた。
“遮光の翼”はこちらに向き直った。その存在感はVR自体が意思を持っているかのようであり、VRが完全にパイロットの支配下に置かれているかのようだった。
『みんな…、気をつけるんだ。』
ハルトマンも何かを感じているかのようだった。その言葉には焦燥が色濃く出ている。
刹那の沈黙が空間を支配した後、先に動いたのは“遮光の翼”であった。サイファーの機体がふわりと地面から離れると、瞬時に超高速で突撃してきたのだ。エルに見えたのは側面を横切った紅い影だけ。不意を突かれ、エル達は陣形の懐に入られた形になった。
次の瞬間、サイファーの繰り出したブレードは左腕を失ったテムジンのコクピットを正確に貫いていた。パイロットの即死は誰の目にも疑いの無いところだった。サイファーが突き刺していたブレードを無造作に振りきると、テムジンは機体の上下が真っ二つに斬り捨てられた。
「貴様―っ!!!」
同じ部隊の仲間の死、経験したことのない恐怖のあまりそのパイロットはサイファーに斬りかかった。“遮光の翼”はそのまま微動だにしない、それどころかレーザーブレードすら消している。ビームソードがサイファーに迫った瞬間、テムジンの視界からサイファーが消える。
「クイックステップ!?」
パイロットはそう判断し振り返るが、回り込んでいない。サイファーはビームソードをしゃがんでかいくぐると、踏み込んだテムジンの軸足を払い、転倒させる。無防備になったテムジンに、“遮光の翼”はまるで嘲笑するかのような仕種でゆっくりとランチャーを向ける。
『助け…―』
そんな言葉が漏れたのもつかの間、ハンドレーザーがテムジンの上半身の装甲をあらかた吹き飛ばした。至近距離での一撃にパイロットは意識を失った。
紅い影は次に“ラプター”に襲いかかった。僚機のコクピットを串刺しにしたあのスピードでだ。とっさにビームソードを展開し、エルは防御体制を取る。幸運だったのか、偶然だったのか、サイファーのブレードはエルのガードに食い止められた。それでもなお、“遮光の翼”は圧力をかけてくる、エルもそれに負けまいと押し返そうとする。
そんな攻めぎあいの中、エルのインカムに今まで聞いたことのない声で通信が入ってきた。
『お前だけは殺さずにおいてやる…、今はまだ…な。』
「なっ!?」
言葉の意味が解からないエルに呼応するように“ラプター”から力が抜ける。その時、
『エルストーム!下がれッ!!』
ハルトマンがそう叫ぶと同時に“ガーディアン”の放ったナパーム弾が爆炎を上げ、その衝撃で組み合っていた“ラプター”と“遮光の翼”が離れ、爆炎の中“ガーディアン”はサイファーに向けてロケットランチャーを打ちながら突撃してくる。“遮光の翼”はそれに対しその場を動こうとせず、分裂ホーミングビームを放つ。
ホーミングは“ガーディアン”ではなくロケット弾をロックオンしており、次々と空中で撃墜する。VR本体よりはるかに小さい高速移動物体へのロックオン、それはもはや人間業ではなかった。それは逆に、突撃をかけたハルトマンにとっては大きな誤算となった。
“遮光の翼”はホーミングを放つと同時に動き始め、“ガーディアン”に向けて10発近いダガーを投げつける。ハルトマンは硬直しかけた機体で何とか回避行動を取るが、数本のダガーが直撃し、装甲を侵食する。ダガーによる侵食は直撃数が少なければ装甲のみで済むが、多ければ操作系にまで至る。“ガーディアン”のダメージは後者に近かった。
「まてっ!相手はまだ俺だろう!!」
エルはとどめを刺そうとしたサイファーの前に立ちふさがる、しかし“遮光の翼”の反応は意外なものだった。
『今日のところはお前に免じて退いておこう、これ以上雑魚を相手にするのはつまらんしな…』
「なんだとっ!?」
エルがその言葉に食ってかかろうとした時、
『おいっ、エル!大丈夫か!?』
インカムにマクレガーの声が入ってきた。“遮光の翼”に気を取られていたせいで味方のVRが追い着いてきたのがわからなかった。マクレガー達が第2班と合流してきたのだ。
マクレガー達がブロックVに入ってくると、“遮光の翼”は高々と飛び上がり、戦闘機形態に変形し去っていった。
『あれが“遮光の翼”…?』
ワイズもそれを見上げながら一人つぶやいていた。
◇ ◇ ◇ ◇
その後支援部隊の到着を待って、現場の処理が行われていた。瓦礫の撤去、負傷者の収容、大破・擱座したVRの拘束。DNA陣営にもかなりの被害があったが、作戦はおおむね成功を収めた。唯一の誤算、“遮光の翼”の出現を除いて。
マクレガーもワイズもハルトマンの指示の元、現場処理に動いていたが、エルだけは上の空だった。
『お前だけはまだ殺さない』
「なぜ、俺だけ…」
“遮光の翼”のその言葉はエルの心の中で何度も繰り返されていた。
To be continued
Written by GTS
≪あとがきとはなにか!?≫
「作者……、それは作品における創造主、神にも等しき存在。一文字間違えば“さくしゅ”、搾取……、それは強者と弱者の不条理なる……」
『あの〜、すいません。GTSさんですか?』
「うるさいっ、今取り込み中だっ!!!」
『一応、今回のゲストとして呼ばれたんですが…』
「なにっ、げすとぉ!?そーだった、そーだった。今回のゲストはこの小説におけるやられ役VR No.1、面積が広くても影は薄い、グリ坊ことグリスボックでっす。」
『うれしいっす…(涙)やられてばっかりなのにこんな所に出させてもらえるなんて…』
「確かに、破壊された機体の数ではストライカーの方が上回っているわけだが、ストライカーはハルトマン大佐が乗ってそれなりに活躍してるからな。それに比べグリスは……」
『やっぱり僕はいらないVRなんだ――――っ!!!(しくしくしく)』
「己は碇シ○ジか?ではシ○ジ君が泣きやむまで解説です。」
「第3話ですが、今回にはプロローグから通り名だけはずっと出てきたあの男が登場します。本来ならこんなに早く出す予定ではなく、エルが戦いの中で自分の未熟さと実戦の厳しさを知る…のがテーマだったんですが、ストーリー全体にメリハリをつけるために、“遮光の翼”の登場となった訳です。最初は○ャアとアム○の関係を意識していたのですが、裏設定を詰めていくうちにそこからはだんだん離れていきました。クリエイターとしては既製品からの脱皮に思わず二ヤリです。後半のストーリーは二人の関係を軸に展開していきます、乞うご期待!!!。ではもう一度シ○ジ君にマイクを向けたいと思います。」
『(ぐすっ)じゃあこれを読んでください…』
「台本?どれどれ、『GTSのお悩み相談室 〜ゲスト・グリスボック〜』?それじゃあ一応、最近悩んでいることは何ですか?」
『肩こり。』
「………」
『………』
すちゃっ…
『なんですか…、そのスペシネフが持つような大鎌は…。ちょっと目が怖いですよ、一体何を…』
「いやー、君の肩こりを永遠に楽にしてあげようと思って(ニヤリ)」
『いやだあああぁぁぁっ!!!』
「だったらグリスボックやめろおおぉぉっ!!!」
作者は愛用のデスサイズを振り上げ、グリスに迫る。二人の悲鳴と怒声は次第に遠ざかっていく…
<完>