電脳戦機 VIRTUAL−ON

Truth 〜Story of ORATORIO TANGRAM〜

 

第1話『消失』

 

 オペレーションムーンゲートの終結後、――ここでO.M.G.とは太陽砲発動阻止作戦だけでなく、それをめぐる大規模戦闘全体を示している――、人類は残された古代超技術文明の遺跡と、オーバーテクノロジーによって生み出された汎用兵器VRの製造プラントをめぐって勢力を二分する争いを続けていた。ムーンゲートの破壊に成功したDNA陣営と、それに対抗してきたRNA陣営である。そのため、軍内部の役割は二つに分かれていた。敵の基地や拠点を攻撃して相手を弱体化することと、自らが保有する遺跡やプラントの警備である。エルストームDNA中尉の所属する第7方面隊の任務は主に後者であった。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 エルストーム中尉はガレージの中で自分の愛機であるテムジン、コールサイン“RAPTOR(ラプター)”を見上げていた。機体の右肩には大鷲をデザインしたエンブレムとRAPTORのサインが描かれている。テムジンはO.M.G.において大きな成果をあげた機体のひとつである。身軽な騎士を思わせるフォルム、連射性能・威力のバランスが取れ近接戦闘時には銃身からビームソードを展開できるライフルを持ち、非常に高い汎用性を誇る。しかし、本当のポテンシャルを引き出すためにはパイロットの腕が必要であることを彼はよく知っていた。

「ようエル、こんなところで何やってんだ?」

エルはすでに聞き慣れてしまっている声の主のほうを向かずに答えた。

「マック、帰還してたのか。」

 マックと呼ばれた男は、エルの士官学校時代の相棒であり、小さな頃からの親友でもあるマクレガー中尉であった。

「ついさっきな。今回は第2プラントからロールアウトされたストライカーの輸送中の護衛さ。最近はRNAもなりを潜めていて、退屈な任務だったぜ。」

「それなんだよ。」

「何がだ?」エルのつぶやきにマクレガーは問い返した。

「物足りないと思うだろう。俺たちは士官学校を卒業した後も、どうでもいい護衛や遺跡調査ばかりやらされてきた。重要な任務は先輩たちや中央の部隊ばかりだ。俺たちはもっとやれる、そうだろう。」

 我慢していたものをはきだすようなエルの言葉にマクレガーは、

「なるほど、士官学校次席のエリートはこんなところでくすぶってるのが面白くないわけだ。」

と、からかうように答える。

「うるさいな!おまえこそ本気を出していれば次席どころか主席だって夢じゃなかっただろ。」

 エルはいらっだて言う。

 マクレガーの乗る機体はアファームド・ザ・バトラー。OMG時に活躍したアファームドを重火力を廃して機動力を強化し、ビームトンファーによる近接戦闘能力を更に特化したこの機体のパイロットであるマクレガーは以前からアファームド志望だった。それゆえ、士官学校での主にテムジンを使った模擬戦や技術演習にやる気を見せなかった結果、卒業時には平均そこそこの成績でしかなかったのだ。彼が本気を出せば一流の腕前であることをエルはよく知っていた。

「まあまあ落ち着け、お二人さん。」

いつのまにか言い合いになっていたエルとマクレガーに一人の男が声をかけてきた。

「ワイズ先輩。」二人は同時に声のほうに振り向いた。

「つまりエル、おまえは英雄になりたいわけか?」

「英雄…」

その言葉に息を呑むエルにかまわず、ワイズは続けた。

「英雄になるなんて簡単だ。おまえは今から待機命令を無視してテムジンを起動、RNAの一個師団が駐留する第4プラントあたりを壊滅してくればいい。あの、“遮光の翼”のようにな。それに、O.M.G.の英雄なんてムーンゲートの崩壊によって死、いや、行方不明になった人間がほとんどさ。つまり、英雄になるためには伝説を作るか人類のために犠牲になるしかないのさ。」

「先輩、そんな不謹慎なこと言っているとまた大佐に睨まれますよ。」

マックは言い返した。

「なに、ハルトマンは厳しいが頭の硬い男じゃあない。それでなきゃ俺達の上官はやってられないだろ。」

エルは『俺達』という言葉に違和感を覚えたが、確かにワイズ大尉は日ごろから天才肌な言動が目立つ男だった。そんな彼の上官たる者はそれなりの度量が必要なのだろうと感じていた。

「まあ、心配するな。こんな膠着状態は長く続かない、いずれ崩れる。どちらが先に動くかは俺にはわからんがな。」

そう言ったワイズの目が最後の言葉のときだけ笑っていなかったのに、エルとマクレガーは気付いていた。

 

 ワイズの予想通り、事態は動き始めていた。それは人類の範疇を超えたところで…

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 地球圏第9プラント”タングラム”。そこで解析されたオーバーテクノロジーはVR技術に大きな進歩をもたらしてきた。それゆえタングラムの詳細は秘匿され、ここを所有した陣営に状況が優位に傾くことは明らかであった。しかし、危機は突然やって来た。

「ファイナルリアクターがコントロールできません!!」

オペレーターは絶叫に近い声でチーフに告げた。

「制御レーザー照射!!!最大出力だ!!」

「だめです…、受け付けません…!」

「くっ…」

 チーフは思わず唇をかんだ。彼らは最悪の事態だけは避けなければならなかった。このタングラムの暴走を押さえなければ、O.M.G.以来の混乱が引き起こされてしまう。チーフは最後の決断を下した。

「リアクターの全システムをリセットするんだ!」

チーフの命令を聞き、オペレーターは驚きを隠せなかった。

「しかし、全システムのリセットはその後のプラントの再起動を困難にしてしまいますが…」

「やるんだ…!」

 チーフはオペレーターの言葉を遮る様に言い放った。確かに、事態はかなり不可逆的なものと思われた。もしかしたらこの決定が最善の結果をもたらすかもしれないというかすかな希望を抱きつつ、オペレーターはコントロールパネルを操作し、数行のコードを入力するとおもむろに“決定”を選択した。

「…!?」

 彼らには何が起こったのかわからなかった。それはその場にいた誰もが全システムのリセットという事態を経験していなかったからかもしれない。ただ言えた事は状況は何も変わっていないということだった。

「どういう事だ?」

チーフは声を漏らした。

オペレーターはデータが示されたモニターを見て目を疑った。

「リアクター側からメインシステムにハッキング!!すべての接続が解除されています!もうこちらからはどうすることもできません…」

「馬…馬鹿な…」

 チーフはメインモニターに映し出された不気味に鳴動するタングラム:ファイナルリアクターの映像を見上げた。その時突然、リアクターの表面に目玉の様な紋様が浮かび上がった。それはまるで何もできないでいる人間達を嘲笑するかのようにゆっくりと開き始めた。

「退避…」

 チーフの頭の中にその命令が浮かんだ時、紋様は大きく見開かれた。次の瞬間、第9プラント全体が跡形も無く消滅した。それにはまるでタングラム自体の意思が働いているかの様に…

 

その後の調査により、科学者達はそこで起こったことが規模こそ比べ物にならないほどの違いがあったが、O.M.G.以前にゼロプラントでのVコンバータ開発中に起こった事故と同様なものであるとであると知ることになる。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 タングラム消失―その情報は両陣営を大きく動揺させた。しかし、現在の膠着状態においてタングラムを保有することは計り知れないアドバンテージとなる。“タングラムを探せ”―指令を受けた全軍はO.M.G.以来の臨戦体制をとることとなった。それは第7方面隊も例外ではなかった。第7方面隊隊長ハルトマン大佐は会議室に士官全員が集まるのを待って口を開いた。その場には当然、エル、マクレガー、ワイズの三人も同席していた。

「皆に集まってもらったのは他でもない、昨日未明、時空間因果律制御機構第9プラント通称“タングラム”が消えた。」

彼は端的に事実だけを述べた。

「爆発…したんですか?」

エルは思わず聞き返した。

「正確には消失だ。跡形も無く、そこに何かがあった痕跡すら残さずに消えているらしい。原因は不明。詳しいことはわからないが、専門家は電脳虚数空間への次元的消失と分析している。ただ、次元的消失を起こした物体は再びどこかに出現する可能性があるらしい。その場合出現する時間や場所を特定することは不可能だというがな。『タングラムを捜索せよ、そのためにはどんな軍事行動も厭わない』というのが最高幹部会の決定だ。もちろん、RNAにも同様の指令が出されているだろう。」

 この叩き上げの、冷静な軍人が表情一つ変えずに指令についての説明を終えると、エルは横目で周りの様子をうかがった。マクレガーは険しい表情を変えていない。ワイズは自分の予感がこのような形で的中してしまったことに驚きを隠せない様だった。

「何か質問のある者は?」

ハルトマン大佐は前に並ぶ部下達の顔を見回したが、口を開くものはいなかった。

「これは上層部にとってもゆゆしき問題かもしれない。これから我々に与えられる任務は危険で過酷なものとなるだろう。しかし、君達には手柄を立てる絶好のチャンスだと思ってもらいたい。」

「了解!」

士官達は声をそろえて復唱した。ハルトマンは人心掌握のうまい男であり、彼らもそのことをよく知っていたからだ。

「以上だ、解散。」

そう言ったハルトマンの表情は満足そうだった。

 

整然と会議室を出て行く士官達の中で、エルは拳に力を込めていた。

「やってやるぜ…!」

それは先の見えぬ戦いに不安を抱きながらの決意だった。

 

To be continued

Written by GTS

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≪あとがき…のようなもの≫

「どうも、この小説を読んでくれた皆さん、作者です。この小説は某チャットでお世話になっているCRASH Rさん&4BITさん姉弟のHPに連載させていただいたものを加筆修正して掲載しています。一度読んだ方も初めて目にする方も、これからのご愛読と応援、罵声その他もろもろをよろしくお願いしま……、ところで、さっきから私の横で難しい顔をしている、あなたはだれ?」

『第7方面隊隊長、ハルトマン大佐だが……』

「ををっ!!ハルトマン大佐、そう言えばそんな顔をしてたね。」

『…お前は仮にも作者だろうが。』

「挿絵の無い小説では顔なんてわからんからね。そうそう大佐、大佐には実を言うとモデルにしたキャラがいたりするんですね。それを見てもらえば皆さんにも顔がわかると思います。」

『ほう…、それなら当然そいつも軍人だろうな。』

「ブブー、不正解。答えはなんと魔術士です。」

『ぶっ!!!(コーヒーを噴き出すハルトマン)ま、魔術師だと?』

「そう。私のお気に入りでもある『魔術士オーフェン』に出てくる、チャイルドマン パウダーフィールド教師。知らん人はまったく知らんだろうな。」

『コホン…、他の本の宣伝はそれ位にして、本文の説明でもしたらどうだ?』

「それでは閑話休題。オラタン本編の第1話です。この第1話を書くので一番悩んだのはどれくらい実際の裏設定につっこもうか?と、いうこと。特にタングラムの存在に関しては抽象的で難しいんです。そこでGTSは裏設定よりもゲームから伝わってくる世界観と、『実際の戦場はこんなんだろうな…』という想像力の融合を大切にしようと思います。今回VRは動きませんが、次回以降ゲームのVRが実際のフィールドで戦っている姿をお届けできると思います。それでは大佐、最後に読者の方に一言を……」

『(すたすた…)』すでに歩いて去っていくハルトマン。

「と、いうわけであとがきでは毎回小説のキャラをゲストとして進めていきます。『このキャラ(VRも可)をゲストに出してくれ!』というリクエストもOKです。本編がシリアスな分だけあとがきはくだけていこうと思います。それでは次回をお楽しみに!!!

明日もこのページへVIRTUALON!!!

コレが言いたかったのよ。」

『(ボソリ)…くだらんな。』

<完>