NEO G Episode 2nd〜EDEN〜

 

 

――14『打つ手無し』

 

東京――防衛庁

「――1700時、霞ケ浦上空にて巨大な飛行物体を視認。東海村に現れたものと同一である事が確認されました。物体は東海村でゴジラと交戦後、現在南下しているものと思われます。」

「また、目撃情報から分析された物体の大きさは全長約80m、翼長約200mという巨大な物です。」

 防衛庁の地下3階、中央司令所の隣に位置する作戦会議室には政府から防衛庁長官、内閣官房長官、自衛隊からは統幕議長、陸・海・空の幕僚長を始め幹部があつまり、現在まで真田らが収集した情報の報告を受けていた。

「こんな巨大な物体がレーダーにも捕らえられていないのか?」

 村上空幕僚長が信じられないといった面持ちで言った。

「はい、鹿島灘に展開中の「きりしま」、相模湾に展開中の「みょうこう」、両イージス護衛艦のフェイズド・アレイ・レーダーにも、地上の固定レーダー網にも姿は捉えられていません。現在は百里より出撃したF−15イーグル2機が物体を追跡中です。」

 真田は手元の報告書を読み上げた。

「物体への対処法はどうなのですか?」

 聞いたのは武藤防衛庁長官である。

「物体はゴジラと戦えるほど強力な戦闘能力を持っています。まだ一般市民に犠牲者が出ていないとは言え非常に危険な存在である事に間違いありません。自衛隊としては物体が人口密集地に達する前に速やかに排除することが適切であると考えます。」

 統幕議長は静かだが確信を込めて言った。

「その攻撃方法ですが…真田二佐…」

 議長に促されると真田が再び立ち上がった。

「報告の通り、物体の位置はレーダーによって捉える事は出来ず、よってパトリオットなどレーダーの誘導による迎撃ミサイルは効果がありません。しかし鹿島灘上空で物体と交戦したF−15パイロットの報告によれば物体の胴体部分には熱源反応があったと言う事です。それを考慮に入れ――」

 真田の言葉と同時にスクリーンの画像が切り替わる。

「物体の進路、この位置。利根川を最終防衛線に設定し赤外線誘導短SAM(地対空ミサイル)と高射砲の弾幕で物体を攻撃します。その後は戦闘機部隊との連携のより、人口密集地外にて物体を排除する事が望ましいでしょう。」

 そこまで言って真田は言葉を切り、周りを見回した。官房長官は肯くと口を開いた

「――時間がありませんな。首相にはその旨で報告を行いたいと思います。周辺地域の住民の避難誘導は自衛隊と警察が協力して迅速に行っていただきたい。」

「東海村との連絡はまだ取れていないのか?」

 会議は解散し、会議室から司令室に戻りながら小川陸幕僚長が真田に聞いてきた。

「はっ…連絡途絶以降こちらからも呼び掛けているのですが、応答ありません。おそらく通信施設が破壊されたのだと思います。」

 真田は俯きながら言った。小川の顔にも憔悴の色が浮かんでいる。

「既に救援部隊が東海村に向かっている。間もなく状況は分かるだろう。しかし…第一師団長の篠原、技研の住友一佐、君の上官でもある氷川一佐…隊員は皆無事でいて欲しいものだな…」

 

 

茨城県〜千葉県県境付近――

 住宅地から離れた開けた地形を選んで自衛隊の高射連隊が布陣していた。レーダーに捉えられないエデンに対して、出動しているのは赤外線追尾短SAMを搭載した93式対空ミサイル車両、87式対空機関砲――いわゆる高射砲――である。隊員達は一様に息を潜め、これから自分達の敵となる物体――エデン――の出現を待った。

 その頃上空では百里より再び出撃した2機のF−15J戦闘機、WIBARNとWIZARDがエデンを視界に収めながらも刺激しない距離を保って追尾していた。

「WIBARNより司令部へ。目標は間もなく龍ヶ崎上空へ到達、攻撃ポイントへ接近中――」

 

 

防衛庁――中央司令所

「――了解、WIBARN。指示あるまで監視を続行せよ。」

 オペレーターが通信を切ると、スクリーンに物体と自衛隊部隊の位置関係が映し出された。

「目標はミサイルの射程まであと5分、距離5000まで接近しました。」

「よし、WIBARNとWIZARDを安全圏までワイプアウトさせろ。」

「了解。WIBARN、WIZARD安全圏まで退避せよ!」

 オペレーターと村上空自幕僚長のやりとりを真田は後ろの席から見ていた。

「真田さん…」

 そこに相沢が声をかけてきた。

「この作戦なんですが、本当に目標に効くんでしょうか?鹿島灘では空自のF−15がヤツにミサイルを当てています。私には効果がそう変わるとは思えません…」

 相沢は真田だけに聞こえるよう声を潜めて言った。

「有効な方法が無い、と始めから言ったらその時点で俺達の負けだ。たとえどんな相手でも出来る限りの事はするさ…」

 真田はモニターを見詰めたまま答えた――

 

 

茨城県〜千葉県県境付近――

「WIBARNよりWIZARD、我々は攻撃終了まで高度一万フィートに退避する。」

「WIZARD、了解。」

 爆音を響かせながら、2機のF−15は左右に分かれて上昇しながらエデンから離れていく。エデンの姿は彼等の目からみるみる小さくなっていた。

 

F−15、上空より離れます。」

「目標を肉眼で確認、距離15000!」

「よし。ミサイルに目標データを与えろ。距離12000でミサイル発射!」

「了解!」

 その頃、地上の対空陣地では自衛隊の高射連隊がエデンを待ち構えていた。トレーラー型車体の上に取り付けられた発射機がモーターの唸りを上げて上空を向く。一つの発射機には赤外線追尾対空ミサイルが4基、その車両が十台、さらに十数台の高射砲。

「目標、攻撃ポイント到達!」

「ミサイル発射、攻撃開始…!」

「了解。第一、第二小隊ミサイル発射!!!」

 第一高射大隊隊長、岩垣一佐の命令とともに93式車両から次々とミサイルが上空に放たれていく。ミサイルは白い煙の尾を引きながら小さく見え始めたエデンに向かう。

「ミサイル、赤外線レーダーを目標の熱源をロック!自動追尾に入ります!」

「命中まで…20秒!」

 エデンも不意に現れた小さな物体に気付いたのか、体を傾けながら左に進路を変える。だがミサイルはその動きを追ってエデンに迫った。小さなミサイルは白煙だけを残してエデンの体に吸い込まれていく。そして爆発――

「ミサイル命中!」

 だが、エデンはスピードを上げてミサイルの爆煙を振り払うと、その姿を雲の中から現した。

『目標は…健在です…!!!』

 指揮所の喜びも束の間、先遣から入った報告により再び緊張が走った。

「第2波、急げっ!!!」

 岩垣は唇を噛み締めながら言った。

 発射機は再びエデンに照準を合わせてミサイルを放った。10基のミサイルは獲物に狙いを定め、空を切り裂いて飛んでいく。今度も命中は確実と思われた。しかし、エデンはミサイルをギリギリまで引き付けるとその巨体からは想像のつかないスピードでフェイントをかけ、ミサイルの軌道を避けた。

「目標、加速しながら右方向へ旋回!第2波を回避しました!」

「逃すな!第3波を発射!」

 石垣連隊長が命令を叫ぶ。

「第2波、再び目標を捕捉…。第2波、第3波が目標を追尾中!!!」

 一旦エデンに避けられた第2波のミサイルだったが、反転すると再びエデンを追った。エデンの周りをミサイルが取り囲む。

「これは避けられまい…!」

 岩垣は拳を握り締めながら呟く。

「命中まで…10秒!!!」

「7、6、5……」

 オペレーターのカウントダウンが始まる。指揮所の中にいる全員が固唾を飲んでその瞬間を待った。その時――

カカカッ…!!!

 エデンの周囲を無数の稲妻が取り囲んだ。稲妻によってミサイルは次々と貫かれ、虚空を焦がす――

「命中3秒前にミサイルの反応をロスト…!」

 オペレーターはその光景に呆然自失とした表情でいた。

「目標、進路を南下。対空陣地に接近中!!!」

「人口密集地に近づけるな…!高射砲で弾幕を張れ!」

「了解。高射砲部隊、攻撃開始!」

 大口径の対空機関砲がずらりと上空を向き、その砲口から火を噴く。だがエデンは絶え間無く浴びせられる砲弾に怯む素振りも見せず、逆に陣地に近づき始めた。

「撃て!撃ちまくれ!」

 対空陣地の連隊長は、次第に姿を大きくするエデンに戦慄を覚えながらも檄を飛ばした。エデンはそんな必死の攻撃を嘲笑うかのように優雅に地面すれすれに降下すると、紅く輝かせた翼から衝撃波を対空砲火に向かって叩き付ける。爆発の中心から波紋のように広がる破壊の渦。炎の嵐により宙に巻き上げられる車両、そして隊員達。駆け抜けた炎には一瞬にして辺りを地獄に変えた――

 

 

防衛庁――中央司令所

『高射大隊、壊滅――』

『目標は健在。なおも幕張方面に進行中!』

 真田はそれを聞いて黙ってかぶりを振った。彼にとっては予想できた事態ではあった。しかしそれが何の役にも立たなかったのが腹立たしくもあり、虚しくもあった。

「――自衛隊の今後の作戦は…」

 そう口を開く武藤防衛庁長官の声も力無かった。

「はっ…。現在の我々の装備では目標を掃討することがかなり難しい事が明らかになりました…。以後目標が人口密集地に接近すれば大規模な作戦が行いにくくなります。これからは住民の避難安全を最優先にする他ありません…」

 高坂統幕議長はそう言って苦渋の表情を浮かべた

「では、以後自衛隊には警察と協力して住民の避難誘導、安全確保に当たってもらう。もちろん、物体に対する監視は続けながらだが…な。」

「はっ…」

 総理が腕を組みながら言うと、高坂統幕議長は唇を噛み締めて頷く。真田もその表情から感じていた。もうどうしようもないのだ、と。

 


13 エデンの猛威

15 真の覚醒

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