――5『真珠湾衝撃』
ハワイ諸島――オアフ島真珠湾
それは、ロサンゼルスを地獄と化した物体が太平洋に姿を消したのとほぼ同時刻のことだった。水平線は沈みつつある太陽により茜色に染まり、空の色は高くなるにつれて青から藍に変わって行き早くから輝き始めた星と月で鮮やかに彩られている。人々はまだロサンゼルスの悲劇を知る由も無く、海辺で夕涼みを楽しんでいた。
「ロスにUFOが現れたらしいね。」
「うん、私もTVで見たよ。凄かったわぁ……。」
「最初は僕もとても信じられなかったよ!」
一組の男女が話し込んでいる場所は、真珠湾上の「アリゾナ記念館」を一望できる港の突堤である。
「ん?何か聞こえないか?」
その時、男は不意に異変を感じた。何か重量物が蠢いているかのような気配が近づき、握っている手すりからビリビリと振動が伝わってくる。
「地震かしら?」
女もそれに気付いた。ハワイは火山島であるので地震は珍しくない。しかしその揺れは妙だった。数秒毎に断続的に揺れがやって来る。それは次第にはっきりと大きくなり、“何か”が近づいているようにも感じられたのだ。
「――行こう。何か嫌な予感がする。」
只ならぬ気配に顔を青くした男の言葉に女も黙って頷いた。男が女の手を取って歩き出した時、一番大きな揺れが彼等を襲った。手すりに掴まって揺れに耐えた二人は、アリゾナ記念館の建物に無数の亀裂が入り、海中に崩れ落ちて行く光景を目の当たりにした。そして轟音と共に海中から、1941年日本軍の奇襲によって撃沈された戦艦「アリゾナ」の艦体が数十年振りに浮上した。いったん垂直に水上に突き出した「アリゾナ」だったが、長年海水に腐蝕された為に錆び付いた艦体は自重に耐えきれず艦の中ほどでへし折れ、再び海中に姿を消す。
「うわっ…ぷ…!!!」
アリゾナの浮上と沈没によってその排水量と同質量の海水が押し出され、俄かに起こった高波は堤防をあっという間に乗り越えると二人の足元を掬い、バランスを失った体は波の勢いに贖うことも出来ずに海上へ投げ出された。肩から上だけを水上に出しながら体を支え合う二人の目の前を、巨大な鋭い背鰭が海面から突き出て湾内を横切って行ったのだ!!!
突然の轟音に人々の視線は湾内に集中した。ある者達は岸辺に殺到し、ある者達はホテルやマンションのベランダに駆け寄り、戦艦アリゾナが水面から垂直に立ち上がり、再び崩れ落ちていくのを見守った。そして、それに代わるようにして現れた巨大な鰭は人々の目の前でいったん姿を消した。
人々は消えた鰭を探そうと、真っ黒な水面に目を凝らした。そして、突然岸辺に近い水面が泡立ち始めたかと思うと、一気に数十mの高さまで隆起する。そして、水のヴェールがその“物”から滝のように流れ落ちるに従って、姿が露わになってくる。海水に濡れて黒光りする表皮は固まった溶岩のようにゴツゴツしており、後頭部から水上を跳ねまわる尻尾の先まで並んだ背鰭、特に背中に生えているものは一際巨大だ。凶悪に裂けた口元からは、息をするたびに鋭い牙が覗く。感情を推し量ることなど困難な程、暗い光を湛えた双眼。
アメリカ人は初めてその目で目撃した――過去に祖国が行った水爆実験によって生まれ、幾度となく同盟国日本を襲った怪獣――ゴジラ、その姿を。
ゴジラは上半身を揺すりながら天に向かって吼えた。大気を震わす低音と耳を劈く高音の入り混じった、地獄から響いてくるような咆哮、それはまるで悲鳴と雄叫びがハーモニーを奏でているようだった。驚愕の表情で凍り付いた人々の目の前で、ゴジラは背鰭を発光させ始めた。ジリジリと音を立てながら青白い輝きを増してゆく。上唇が僅かに捲れ上がると歯の間から光と共に高温で揺らめいた呼気が漏れる。スローモーションのようにして、裂けた口を大きく開くとゴジラは体を反らして反動をつけながら青白い放射熱線を迸らせた。熱線は湾岸に併走する道路上を舐め上げた。熱線に触れた部分が一斉に紅蓮の炎を巻き上げると、それに呑まれて街路樹の椰子の木が燃え上がり、膨張した熱波は林立した建物の窓ガラスを残らず打ち砕きながら、広がっていく。
「Oh、my god!」
「Heeeeeelp!!!」
人々の驚愕は一瞬にして恐怖へと変わり、我先にとその場から逃げ出した。ハリケーンや地震と違い、安全な逃げ場などどこにも無いことを知る由も無く――。ゴジラはそんな人々を嘲笑うかのように湾から上陸し、その全身を露わにした。
防衛庁――
「それは確かなのか!!?」
報告を聞くや否や、真田は叫んだ。
「はい!アメリカ太平洋艦隊司令部からの緊急通報です。現地時間の20時30分頃、ゴジラがハワイの真珠湾に現出。既に市内で相当な被害が出ている模様……」
相沢がプリントアウトされた書類を持つ手を震わせながら言う。
「どうして事前に発見出来なかったんだ!?」
ダンっ!!!
真田が拳を机に叩きつける。それは、ゴジラの上陸を許したアメリカ太平洋艦隊へだけではなく、ゴジラ専任の情報士官としてこの事態を察知できなかった自身に対する怒りの発露だったのだが、鈍い音だけが空しく響いた。
「仕方あるまい。」
その言葉と共に氷川がオペレーションルームに入ってきた。氷川はモニターの前へ歩きながら続ける。
「アメリカ軍は太平洋艦隊の中で第3艦隊はロスに現れた飛行物体の関係で西海岸へ、第7艦隊はまだフィリピン沖を東へ回航中だった。対潜網の間隙を突かれた形になったな。」
「しかし、この数年ゴジラ探知に携わってきた者としてはハワイが管轄外とは言え、ゴジラの現出を予期出来なかったのは痛恨です。」
真田が苦渋の表情を浮かべる。その時、オペレーターの一人が声を上げた。
「ハワイからの映像が届きました!間違いありません…Gです!!!」
オペレーションルームのメインモニターに、炎の中に浮かぶゴジラの姿が映し出された――
ハワイ・オアフ島――真珠湾岸
ズズウゥン!!!
ゴジラの足音が地を響かせる。傍から見ればゆっくりと見えるゴジラの歩みも、間近で見れば圧倒的迫力で迫ってくる。まるで隕石が地面にぶつかったような衝撃、足元のアスファルトが粉々に吹き飛び、余波でビルの窓ガラスも砕け散る。揺れに足を捕られ転倒した人々が落下した瓦礫やゴジラの足の下敷きとなり、その命ある体をただの肉片へと変えていく。
ゴジラは自ら破壊した街並みを背景にして進んでいった。普段なら観光客で溢れているショッピング街が火に包まれ、海水浴場に面した高級ホテル群もゴジラの手がかかるとその爪によって壁面を抉られ、そのままその巨体が圧し掛かってくるとあっけなく崩れ落ちて路上に無数の破片と粉塵を撒き散らす。
叫びながら逃げ惑う人々の頭上を数機の機影が通過した。猛然と4枚のローターが回転する細長い機体の側面に2基のターボシャフトエンジンの排気口を備え、両側のスタブウィングには8発ずつ、計16発がのヘルファイア対戦車ミサイルを抱えている。米軍の戦闘ヘリコプターAH‐64アパッチの編隊がゴジラへ向かっていく。
「正面に目標を確認……!」
アパッチのパイロットはヘルメットに取り付けられた“片眼鏡”と呼ばれる特徴的な火器誘導用のサイトを右目の前に倒した。これは、アローヘッドと呼ばれる機体先端部のセンサー群の捉えた情報が片目の視野に表示する装置だ。視線とレーザー照準装置が同調し、ゴジラの姿が間違いなく視界に入っていることを確認するとグリップのスイッチに指をかけた。
「ロックオン。ヘルファイアの威力を見やがれモンスター!!!」
アパッチから次々とヘルファイア対戦車ミサイルが放たれてゆく。ミサイルは機体とゴジラの間に引かれたレーザーの見えない糸に沿って飛び、白い煙の尾を残しながらゴジラの体に吸い込まれる。次の瞬間、無数の爆発がゴジラの体を襲い、その巨体を僅かに揺るがす。
「上昇しろ!」
リーダーの命令に従い各機が旋回し上昇すると、ゴジラもそれを見上げて吼えた。ゴジラがヘリを追って体を反転させると振られた尾がビルにめり込んだ。支えを失ったビルはゆっくりと大通りに向かって倒れ、向かいのビルも巻き込んだ。背を向けたゴジラに背後から再びヘルファイアが撃ち込まれた。ビルの合間を縫ったミサイルがゴジラの背鰭で炸裂する。それでもゴジラは上空のアパッチを目で追っていた。背鰭をもう1度光らせると、ヘリの動きに合わせて熱線を放つ。一瞬、ヘリはビルの影に隠れたが熱線はビルを貫き、それによりタイミングが狂ったことで直撃こそ免れたものの、テイルローターを吹き飛ばされ地面に激突すると爆砕する。そして、ゴジラの背後に近づいていた1機のアパッチはゴジラに近づき過ぎていた。地面を這っていた尻尾が不意に跳ね上がり、ヘリを死角から叩き落とされた。
「化け物め……!応援はまだかッ!!!」
その模様を見て上空に逃れていた一人のパイロットは毒づいた。
ハワイ沖――アメリカ海軍第7艦隊空母「キティーホーク」
飛行甲板上でスチームカタパルトが唸りを上げている。「キティーホーク」を主力とする第7艦隊の戦闘部隊は第3艦隊がロスの飛行物体の事件の為に西海岸に張り付くこととなったため、その展開位置をフィリピン沖からハワイ沖へ移動する途中にゴジラ出現の報を受けたのだ。既に艦載機のF/A−18スーパーホーネット戦闘攻撃機がその翼に対地ミサイルやレーザー誘導爆弾を搭載し、出撃命令を待っている。
「フライトオフィサーより報告。待機中の艦載機、発進準備完了しました。」
「うむ。」
キティーホーク艦長フレデリック少将は頷いた。
「現状までの距離は?」
彼が短く言葉を発すると、オペレーターがモニターを見ながら答える。
「ハッ、既に艦載機の航続距離範囲内です。」
それを聞いて、海軍の名門一家を出、40代の若くで空母の艦長になったフレデリックは口を開いた。
「艦載機は順次発艦!目標はマウイ市内に出現したゴジラだ!日本の自衛隊があれをどれほど恐れているかは知らないが、我々は何物も恐れない!攻撃機隊は目標を攻撃後、海上へと誘導!モービルベイ、ヴィンセンス、ジョン・S・マケインは艦隊より前進、沖合にて迎撃せよ!」
バシュウウウゥゥゥ…――ゴオッ!!!
姿勢を低くした発進士官がハンドライトを振り出す合図と共にホーネットの機体がカタパルトによって猛スピードで押し出され、飛行甲板から飛び出す。機は一瞬空中でふわりと浮いた後、アフターバーナーを点火して加速して行く。次々と戦闘機が空母から発進する傍らで、ミサイル巡洋艦「モービルベイ」「ヴィンセンス」ミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン」がスピードを上げながら、「キティホーク」に先行する形で艦隊から離れて行った。
ハワイ・オアフ島――真珠湾岸
ゴジラは海沿いに進み、破壊の痕を広げて行った。現地のアメリカ軍はアパッチに続いて装甲車や歩兵の部隊を繰り出して攻撃を続けたがゴジラに対してその火力は非力過ぎた。生半可な攻撃は破壊獣の怒りを煽るだけであり、市民の避難の時間稼ぎをするのがやっとの状況だった。
ギイイイィィィン――
その時、上空に爆音が轟いた。空母「キティホーク」から発進した戦闘機部隊である。パイロットは湾岸の幹線道路沿いの広範囲に火災が発生し、無数の黒煙が立ち上っている惨状を見て毒ついた。
「パールハーバーをこんなにしやがって…!!!」
「湾岸戦争<ガルフウォー>でも、ボスニアでもこんな酷いのは見たこと無い!」
攻撃機隊隊長クルーガー少佐ほどの数々の戦場を飛んできた歴戦のパイロットをしても怪獣に対する攻撃などは経験の無いことだ。
「だが……」
彼はヘルメットのバイザーを下げる、酸素マスクを装着すると内臓マイクに吹き込んだ。
「こんなデカイ図体のヤツは攻撃を外しようは無い!こちらクルーガー。ウィング隊は私に、ウルフ隊はフォレストに続いて突入開始!」
『ウィング2了解!』
『ウィング3了解!』
『ウルフリーダー了解!』
『ウルフ2、了解!』
『ウルフ3.了解!!』
突如聞こえた爆音に、ゴジラは上空に向かって吼えた。
「ロックオン!これ以上ヤツの好き勝手はさせるな!!!」
コックピットのキャノピー越しに見えるゴジラの姿がみるみる大きくなってくる。クルーガーのホーネットが本来なら対艦用に使われるミサイル“ハープーン”を放つのに続いて、彼が指揮するウィング隊が攻撃を開始した。224kgの高性能炸薬が装填されたハープーンは本来なら障害物の無い海上で使われるべき代物だが、この時、戦闘機を構成する部品と一体化していたクルーガー達の頭の中にはその威力が市街地にもたらす影響など微塵も考えなかった。命令どおりに発射されたミサイルが遠距離から次々とゴジラに突き刺さり、ヘルファイアの数倍の大きさの爆発となって大気を震わせる。瞬時に遠ざかって行く戦闘機に向かってゴジラも熱線を放つが、それはゴジラの頭上にそびえるビルの屋上付近を吹き飛ばしただけで空高く飛行する戦闘機には届かない。ゴジラは上空の戦闘機を憎々しげに睨み付けながら背鰭をビリビリと光らせる。
「こちらクルーガー。目標に対してミサイルは効果無し!だが誘導には成功、こちらを追ってくる!」
「ウルフリーダー了解。ウルフ隊、突入する!!!」
旋回して一時離脱するウィング隊に代わって、フォレスト大尉の指揮するウルフ隊が降下してきた。翼にはレーザー誘導ユニットを装着したMk80、500ポンド爆弾を積んでいる。
「目標確認……投下!!!」
誘導用レーザーをゴジラに向けて照射しながら、爆弾投下の進入角度を保った機体がゴジラの上空に差しかかったところで、翼から爆弾が切り離される。。
ヒュルルルル……
弾体は、安定翼から風切り音を鳴らしながらゴジラに向かって落ちて行く。新たな敵に対してゴジラが首を上に向けたと同時にゴジラの表皮を凄まじい爆発が襲い、ゴジラの体が大きく揺らぐ。だが、その攻撃でもゴジラが傷ついた気配は無い。前にも増して狂暴に暴れ回り、市街を炎に包んで行く。
「ヤツの体はどうなってるんだ!?500ポンド爆弾が直撃したんだぞ!」
「待て!ここで叩く必要は無い!ウィング隊が戻ってくる前までにもう一度、海岸線に旋回しながら再度攻撃!!!」
「ウルフ2了解!」
「ウルフ3了解!」
ウルフ隊のホーネット3機はゴジラを海上に誘導すべく移動した。戦いの舞台はゴジラが身動きの取れにくいビル街から開けた海岸線に移っていったが、それが彼等にとって災いとなった。
「ウルフ2、ウルフ3高度が低すぎる!上昇しろ!!」
フォレストがそう叫んだ時、ゴジラの口から一条の閃光がウルフ2、3に向けて迸った。先程までは高層ビルに阻まれて戦闘機隊の誘導弾に翻弄されていたが、戦場がいざ開けた場所に移るとゴジラの脅威的動体視力に導かれ、熱線は次々とホーネットを捕えて行く。火の玉と化した攻撃機は黒い煙の尾を引きながら燃え盛る街の炎に飲みこまれて爆発、また海に落ちた機体は海上に高々と水柱を打ち立てた。勝ち誇ったように咆哮を上げるゴジラに向かい、残された機が果敢に攻撃を仕掛ける。ミサイルや爆弾の攻撃では傷付いた様子も無いゴジラだったが、素早い戦闘機の動きに次第に苛立たしげになり、遂には戦闘機隊の機影を追って再び湾に入った。
ミサイル巡洋艦「モービルベイ」
ウィング隊3機、生き残りのウルフ隊1機の機影が上空を爆音と共に駆け抜けていく音が、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦「モービルベイ」にも聞こえてきた。
「ウィング隊より報告、ゴジラを海上に誘導に成功。間も無く攻撃予定地点です!」
「了解。トマホーク巡航ミサイル発射用意!」
艦長の命令とともに火器管制官が手元のパネルを操作すると。甲板上のVLS<垂直発射装置>ハッチが開く。
「距離5000まではレーダーで誘導、以降は自律誘導装置に切り換える。」
「了解、距離5000までCICより誘導します。」
この最新鋭イージス艦は戦闘時におけるあらゆる処理をコンピューターでほぼ自動制御で行うことが出来る。トマホークへはあらかじめ座標や地形図が艦のコンピューターによって入力され、自動的に目標へ接近する。そして、ミサイルに取り付けられた小型カメラが目標を捕えて自らを誘導し、突入するのだ。同じような作業が僚艦「ヴィンセンス」「ジョン・S・マケイン」でも行われていた。
「目標、攻撃地点に到達!」
「よし、攻撃開始だ!」
「トマホーク、発射します!」
艦長の命令を受けて、オペレーターが発射ボタンを押す。
バシュウウウゥ!!!
艦内にトマホークの発射音が響いた。外ではVLSから溢れ出した白煙が艦の前部甲板を覆い、それを切り裂くようにトマホークミサイルがブースターの閃光と共に夜空に向けて登っていく。それを皮切りにして「ヴィンセンス」「ジョン・S・マケイン」からもミサイルが放たれた。
「目標まで距離50000、命中まで350秒!」
トマホークは主翼とターボファンエンジンの吸気口を展開し、軌道に乗ると亜音速で飛び続けた。そして次第に高度を低くし、距離5000で高精度カメラが海上を進むゴジラの姿を捕える。
「目標ロックオン、誘導装置を自動に切り換えます!」
CICのメインスクリーン上では真っ直ぐにゴジラへ向かう3基のミサイルの輝点が映し出されている。そして、ゴジラとミサイルの輝点が重なった。
「命中します!!!」
初弾がゴジラを直撃すると、爆発でその巨体が大きく揺れた。そして2発3発目のミサイルもゴジラに命中するがゴジラは倒れない。ゴジラは怒りの咆哮を上げ、その憤怒を現すように熱線を海面に叩き付けた。膨大な熱量を吸い込んだ海水は一瞬にして爆発的に沸騰し、海上に水柱を起立させた。舞い上がった水煙の中、ゴジラはその姿を海中に消す。
「目標が水中に移動!」
「何?水没したんじゃあないのか!?」
「違います、進路を東に向けました。速力を上げて艦隊から離れていきます!」
「魚雷の脚では追い付かない。ASROC(アスロック)発射用意!」
「了解、ASROC発射します!」
ASROCとは魚雷をミサイルの弾頭として運搬するロケットのことで、これによって遠く離れた目標にまで魚雷を到達させることが可能となるのだ。
「ASROC発射準備完了!」
「よし、ヤツの真上に撃ち込んでやれ!!!」
艦長が命令を発すると同時にASROCが装填されたVLSのカバーが開き、爆音とともにASROCが飛び出した。垂直に打ち出された弾頭は水平に軌道を変えて水中のゴジラを空から追った。そして、空中でブースターが切り離されると魚雷本体が水中に没する。
「魚雷着水!目標まで距離500、命中まで20秒!」
左右に振った尾を推進力にしながら海中を進んでいくゴジラの後を探信音を放ちながら機械の鮫が猛追する。ゴジラよりも魚雷の方が明らかに速度は上回っている。遂にゴジラは追いつかれ、背鰭の付近で魚雷が次々と炸裂した。次の瞬間、静かな太平洋上に巨大な水柱が立ち上がる。
「魚雷命中!!!」
ソナー員が叫ぶと、艦内に歓声が湧いた。そこに艦長の冷静な叫びが飛ぶ。
「喜ぶのはまだ早い!ソナー、爆発地点で目標に新たな動きはあるか!?」
「ハッ!爆発の影響で現在ソナースウィープ効率30%…。気泡が収まるまで2分待って下さい!」
「ヤツを魚雷だけで倒せるとは思わない!アクティブソナーを打ちまくってでもヤツを捉えるんだ!『キティーホーク』にも連絡。至急、対潜哨戒機の発進を要請しろ!」
第7艦隊はその後本格的にゴジラの捜索活動を行ったが、ゴジラは魚雷爆発の騒音と気泡に紛れたまま、深海にその姿を消した――
4 ロサンゼルス崩壊
6 残された謎