NEO  Epipode 〜Ultima〜「完全版」

――第14話 「決裂」

 

 

 

1984年――東京湾晴海埠頭――自衛隊陣地

 井浜原発を襲い、姿を晦ましていたゴジラが浦賀水道に潜伏していることが対潜哨戒ヘリコプターからの報告で明らかになった。それにより練馬の第1普通科連隊を中心に順次、駒門から第一戦車大隊・第一特化連隊が、板妻からは第34普通科連隊が、朝霞からは第31普通科連隊がそれぞれ東京湾岸に集結、防衛線を固めつつあった。

 そんな中、当時一尉であった神崎は第一普通科連隊にあって異例の若さで中隊長を務めていた。防衛大を優秀な成績で卒業し、指導力・判断力・統率力にも非凡な才能を発揮し将来の幹部候補と早くも噂されていた矢先のゴジラ襲撃であったのだ。しかし、神崎はそんな噂をよそに目の前の対ゴジラ作戦に万全を尽くすべく、最前線に立って動いていた。

 

 遂に、ゴジラが東京湾に出現したと言う報告が移動司令車にもたらされた。空自の入間基地に待機していた自衛隊の攻撃機隊が次々と飛びあがり東京湾上空を目指す。川崎沖を通過し晴海方面に進むゴジラを攻撃機隊は迎撃した。次々と放たれる対地・対艦ミサイルの爆発がゴジラを包み、辺りにも水柱が上がる。だが攻撃機隊はゴジラの放射能熱線による反撃の前に撃退され、ゴジラの上陸は必至の状況となった。

 

「そうか……空自はこれ以上の攻撃を諦めたか……」

 本部から攻撃機部隊が撃退されたことを知らされ、中隊の指揮官、若き日の神埼は沈黙した。しかし、その精悍な顔に敗北の色は無い。神崎はこの場で刺し違えてもゴジラを食い止める決意でいた。神崎はテントにそれぞれの班長を集め、防衛線シフトの最終確認を行っていた。

「我が隊は埠頭のこの位置からこの位置までクレーンを移動させてゴジラの上陸を阻止。その間に車両を――」

「失礼します!」

 神崎が言いかけた時、一人の隊員がテントに入ってきた。まだ入隊間も無い伝令の隊員だった。

「作戦会議中に何だ?」

 埠頭の見取り図から顔を上げながら神崎は言った。隊員はそれを待って敬礼を下ろした。

「はい。移動本部の長瀬一佐から神崎一尉に至急の連絡が入っております!」

「長瀬一佐から……?」

 神崎は怪訝そうな表情を浮かべたが、上司である長瀬からの連絡となると優先しなければならない。

「分かった、通信部へ案内してくれ。それと――鷹山曹長、ここは頼みます。」

 鷹山は防衛大卒の神崎と違い、高卒から現場で叩き上げてきたベテランの自衛官だ。幹部候補として扱われる尉官以上の階級を除けば陸曹長は隊員の最高位であり、彼は神崎の部隊の副官も勤めている。鷹山は若く経験浅い神崎の才能を認め、神崎も経験豊富な副官を誰よりも信頼していた。

 神崎は伝令の隊員に導かれ、陣地の中、テントの立ち並ぶ間を歩いて行った。そして、通信科に割り当てられたテントに入ると、通信機器の前に数人の隊員が座っている。その中の一人から差し出された無線を受け取り、耳に当てた。

「神崎です。」

『私だ、長瀬だ……』

 当時の長瀬は第一師団にて東部方面隊副統監を務める一佐だ。第一普通科連隊で中隊長を務める神崎にとっては直属の上司であり、その度量・統率力から尊敬の対象であり、目標ともなる存在だった。

『現場が慌ただしいところ、すまないな……』

「いえ、最終確認も終わり今は鷹山曹長に任せて来ました。」

 長瀬は決して傲慢に物を言う男では無い。上層部に居ながらも現場の意見をよく聞く姿勢は変わらない。神崎は言葉の中の心遣いが有り難かった。

「急ぎの連絡と聞きましたが……?」

 しかし、今は緊急時である。感傷もそこそこに神崎は用件を切り出した。

『その事だが各連隊の中から、部隊の中から直接指示したい隊の指揮官に集まってもらうことになった。今から移動本部まで来て欲しい。』

「……しかし、ゴジラが接近しつつある今、現場を離れることはどうかと……」

 鷹山曹長に任せてきたとはいえ、神崎は持ち前の責任感から不安を隠せなかった。

『これは命令だ、神崎一尉。移動本部まで来たまえ!。』

 長瀬の一言にはえもいわれぬ迫力があった。その語気に何か釈然としないものを感じつつも、命令と言われれば神崎はそれに従う他無かった。

「……分かりました。只今より向かいます。」

 そう言うと長瀬の方から無線は切られた。神崎はテントを出ると外に停めてあったジープを借り受けると走らせた。

 無線機の前に立ち尽くす長瀬。彼は心の中で一人語ちていた

「(私はこれから隊員達を、そして神崎を裏切らなければならない……自衛隊の将来の為に……)」

 神崎が移動指揮所に到着してから、しばらくの時間が経っていた。作戦会議用大型テントには長瀬と神崎の他に数人の中隊長が集まっている。誰も若手の中でもニューリーダーと目されるような幹部候補ばかりだ。その中には神崎も見知った顔があったが、配置は前線の中でもまちまちでが必ずしも再編成が必要な部隊とは思えない所からも招聘されていた。

「集まっているのは我々だけですか?」

 時間も気になり、神崎は沈黙を破るように口を開いた。それに対して長瀬は静かに言い放った。

「その通り、集まってもらったのは諸君だけだ。」

「!?」

 それを聞いて神崎はだけでなくその場にいた他の中隊長も表情を曇らせた。

「それならば何故会議を始めないのですか!?」

 長瀬の説明に納得がいかず、神崎は思わず声を荒げた。

「会議をする必要は無い。すでに前線部隊には配置も作戦命令も指示してある。君達に集まってもらった理由は――」

「失礼しますっ!」

 長瀬が言いかけた時、伝令がテントに入って来た。

「報告!航空隊と交戦後一旦海中に姿を消していたゴジラが再び浮上!湾岸の地上部隊が迎撃を開始しました!!」

「長瀬一佐!!!」

 報告を聞いて神崎は立ち上がった。

「私は持ち場にに戻ります!指揮官が現場にいないわけにはいきません!!!」

 険しい表情の神崎を長瀬は同じく厳しい――どこか絶望感と決意が同居した――表情で睨み返した。

「――君達を現場に返すつもりは無い。状況終了までこの場で待機せよ!これは命令だ!!!」

 意外なまでの長瀬の言葉にその場の全員が驚きを隠せなかった。

「な……!?一佐が何を言っているのか私には分かりません!!!」

 一瞬言葉を失った神崎であったが顔を怒りで真っ赤に紅潮させ、長瀬に詰め寄った。直属の上司であり尊敬する先輩である彼に反抗したのはそれが初めてだった。

「――いいだろう。神崎一尉。来たまえ……」

 長瀬は神崎を連れ立って作戦会議用テントを出た。外にはそれを待っていたかのように一人の将校が立っていた。神崎はその姿を見て目を見張った。その男は第一師団長木ノ下陸将補だったのだ。

「彼等は頼みます……」

 木ノ下に一言会釈する長瀬。木ノ下もそれに黙って頷くと二人と入れ違ってテントに入った。二人は長瀬に宛がわれた仮設テントに入った。

「理由を説明して下さい!」

「この戦いでお前達を失うわけにはいかないからだ……」

 神崎の問いかけに長瀬はそう静かに答えた。

「いかに自衛隊の総力を結集したとしてもあの怪物は倒せない。逆に自衛隊には甚大な被害が出るだろう……」

「戦ってもみないで何故そんな事が言えるんですか!?陸自の最精鋭部隊が集結しているんです!自分は我々の力を信じています!!」

「それはお前がゴジラを知らないからだ!」

 拳を握って力説する神崎を長瀬は突き放した。

「我々は30年前、ゴジラが上陸した時の資料を持っている。生半可な兵器ではヤツを倒すことはできん!いくらこの30年で兵器が進歩したと言ってもな。次元が違いすぎるんだ……!!」

 その言葉を聞いて、神崎は身体を震わせる。

「ではこの大部隊の展開はなんの為ですッ!!!」

「我々も手をこまねいている訳では無い。お前も話くらいは聞いているだろう、スーパーXだ。あれを投入するまでの時間を稼ぐとしか私からは言えない。そして、お前を含めて今回呼び出した人間は将来の自衛隊を背負って立てるだけの人材だ。負けると分かっている戦いでみすみす死なす事は出来ない。」

 それを聞いて神崎の頭の中で何かが切れた。

「それならばッ、他の隊員は死んでも良いという事ですか!!?私は命令を拒否します!いかに負けると分かっている戦いでも指揮官が部下を見捨てるわけにはいきません!!!長瀬さん――」

 そこまで捲くし立て、肩で息をしながら神崎は最後に呟いた。

「私は彼方を見損ないました……」

 それだけ言うと先程までとはまるで逆に神崎の瞳から光が消えた。感情に表情が着いて来れなくなったのだ。

「聞けッ!神崎!!!」

 長瀬は神崎の襟元を掴み上げた。

「確かに我々はゴジラの上陸を阻止し国家の安全を守らねばならない!その為にはあらゆる手を打つ!だがこの事件の後、疲弊しきった自衛隊を再編出来る人間が残らなければこの冷戦下で日本を守れるという保障は無い!それこそがお前のやるべき事だ!!」

「私は自分の運命を人に委ねるつもりはありません!私は一佐が何と言おうと仲間と共に戦います……!」

「譲るつもりは無いんだな?」

 神崎の瞳をキッと睨み付けながら長瀬は尋ねた。神崎は言葉には出さず、ただその表情を変えない。

「そうか……」

 長瀬の呟きと共に彼の胸座を掴む力を表情が緩んだ、その時――

ドスッ!

 長瀬の鋼のような拳が鳩尾に突き刺さり、神崎の身体は二つに折れた。神崎は痛むよりも早く意識が遠退いていくのを感じた。

「な……長瀬…・・さん。どうして――」

 それだけ擦れるような声で呟くと床に崩れ落ちた。

「お前なら、分かってくれる日が来ると信じている……」

 ゆっくりとした口調で半分気を失った神崎に言い聞かせながら、長瀬は彼の身体を椅子の上に横たえさせた。

「(私は間違い無く地獄に堕ちるな。)」

 心の中で一人語ちるとテントを出る。そこで一人の隊員を捕まえるといつも通り威厳を持った口調で告げた。

「テントの中で神崎一尉を休ませてある。彼が何と言おうと外には出すな!!!」

 背後で隊員が敬礼するのを聞きながら、長瀬は司令部に歩を向けた。湾岸の部隊がゴジラの放射能熱線によって壊滅した報が彼に届いたのはその僅か数分後だった――

 

 

再び1999年――防衛庁幕僚長執務室

「そんな事が……」

「統幕本部は湾岸の防衛線が突破されることを見越して、密かに開発されていた首都防衛用戦闘機“スーパーX”を投入することを決定していたのだ。」

 長瀬が話し終え、言葉を切ると雨宮の口からはその言葉だけが漏れた。

「しかし、今の話を聞いた限りは神崎さんの心の中にあるのはゴジラへの怒りというよりむしろ……」

 そこまで言いかけて雨宮はハッとなった。次の言葉は目の前の上官を、そして自分の所属する組織を非難することに繋がるからだ。しかし――、

「君の考えている通りだ。」

 彼の心の中を見透かしたように長瀬が再び口を開いた。

「神崎は優秀な男だ。自衛官の使命と言うものはわきまえている。たとえ他国の侵略であろうとゴジラの襲撃であろうと命を懸けてこの日本を守ることは同義であるとな。よって、ゴジラに仲間を殺されたこと自体をあいつは恨んでいるのではないのだ。恨んでいるとすればあのような決定を下した自衛隊上層部か、命令した私をだ。しかし、あいつは私達を告発しようともしなかった。15年前のゴジラ事件の後、私や木ノ下議長が中心となって大打撃を受けた陸自を再編する必要があった為、隊内を混乱させるわけにはいかなかった。結局のところは神崎も自衛隊を愛して、見捨てる事が出来なかったのだろう……」

 長瀬は当時を思い出すような遠い目をしていた。

「それでは、神崎さんがゴジラに拘りつづける本当の意味は!?」

 当時の事情は理解した、しかし神崎の心の中はまだ見えてこない。雨宮は自分では分からなかったが明らかに苛立ち始めていた。

「償い――だな。」

「つぐない?」

 長瀬の呟きが雨宮を立ち戻らせた。

「あいつはゴジラにも、私にも、自衛隊にも怨みをぶつける事が出来なかった。それゆえ心に残ったのは仲間と共に戦うことが出来なかった後悔と、助けることが出来なかった自責の念だ。神崎はそれ以来、私の用意した役職を蹴り、幹部候補生としての道を自ら閉ざしてまでゴジラ対策の為に新設された『巨大生物監視対策室』に篭りきりになった。まるでゴジラへの防人となることが仲間達への償いであるかのようにな……」

「神崎さんは自らを責めていたのか……」

 雨宮は過去の神崎の言動を思い出していた。必要な事以外は口数が少なかった神崎、自分自身に一際厳しかった神崎。全ては心の内を韜晦し、己を犠牲にするためだったのか――?

「ひとつだけ私にも分からない事がある。それは神崎がこの事件を契機にして自分の内なる業にどのような決着を付けようと考えているかだ。対ゴジラ作戦の専門家としてゴジラを倒すことなのか、あるいは違うのか……。私に言えることはここまでだよ。」

「そう……ですか……」

 雨宮は俯いたまま言う。今の彼には考える事が多すぎた。

「さて、話が長くなってしまったな。司令室に戻ろう。」

「はっ……」

 二人は扉を開けると廊下に歩を進めた。二つの足音の響きはその場を次第に遠ざかり消えて行った。

 

 

多摩川付近――最終防衛線

 空自の戦闘機隊と陸自の対戦車ヘリ部隊は、戦車隊に支援された“M2作戦”によりゴジラをじわじわと後退させていった。しかし、弾薬はもはや尽きかけていた。

『GRORY LeaderよりABELE Leader、各機残弾を報告せよ!』

『こちらABELE Leader。全機残弾無し!』

『EPOCH、LAURELこちらもだ!』

『ここまで奴を追い詰めておきながら……!』

 戦闘機隊のパイロット達はそれぞれの状況を報告しながらも舌打ちした。もはや攻撃手段は自衛用の20mmバルカン砲しか残っていない。

『こうなったらありったけのバルカン砲を撃ち込んででも…!!!』

 このゴジラとの戦いで初めてと言っていい優位な状況に立ったことでパイロット達は血中のアドレナリン濃度も上がり、精神が張り詰め、好戦的になっていた。

「全機冷静になれ!!!」

 しかし、無線を通して柳川空自司令の檄が全員のインカムに飛んだ。

「M2作戦は一時中断する!航空隊はそれぞれ入間・百里基地に一時帰還、ヘリ部隊は多摩川河川敷臨時ヘリポートにて弾薬の再補給を行え!それまでは戦車大隊、特化連隊による砲撃に切り換える!」

『了解――。全機聞こえたな!?第8航空隊、帰還する――。』

『ヘリ部隊、このまま散開!ゴジラの攻撃に注意しつつ安全圏まで上昇せよ!』

 今まで自分の周りに纏わり付いて来たヘリ部隊や、上空を旋回していた航空隊が遠ざかっていくとゴジラは咆哮を上げ、再び前進を始めた。

「いかにゴジラが誘導兵器を無効化しようとも我々に対して意味は無い!!」

 特科連隊隊長、北沢一佐は自信ありげに声を張り上げた。第一次防衛線の戦闘で戦車大隊の戦力の半数はゴジラの熱線によって壊滅させられたが特科連隊はその装備の性格上後方支援攻撃が主任務だった為、戦力のほとんどが無傷のまま最終防衛線まで移された。それに武装がホーミング技術に頼らない砲撃系統のものが揃っている為、この状況下において防衛線死守の要とされていたのだ。

「それと…統幕議長から直々の指示をもらった…。」

 部隊長の言葉の続きに是認の注意が注がれた。

「精密誘導兵器が使えない以上、ゴジラの進攻を食い止められるのはできるのは我々だけだ!!何としてでもヤツの都心部侵入を阻止せよ…!!!」

 北沢の言葉の意味はそれは事実上、精密射撃が可能な戦車と違い、広範囲への攻撃を得意とする自走砲やMLRSを使うことで市街地への被害も止む無しという判断が下ったことを意味していた。

 戦車隊と混成しながら155mm自走榴弾砲、203mm自走榴弾砲が、その約1km後方に多連装ロケットシステム、MLRSがそれぞれ射撃地点に移動を完了していた。自走砲はゴジラとの距離2km弱を考慮して低い弾道で発射するように構えた。

『砲撃開始!!!』

 現場指揮官の攻撃命令でまず、後方ラインからMLRSのロケットが次々と放たれた。アーチ状に白い煙の軌跡を残しながら低空に吸いこまれるように消えていく。そして、あらかじめ入力されていた座標通りにゴジラの進路へとクラスター弾頭がばら撒かれ、無数の子爆弾がゴジラの周囲に降り注ぐ。破壊力を持った集中豪雨はそのキルゾーンにあるあらゆるものを蜂の巣にする。ビルの窓を粉々に砕いて飛び込んできた子爆弾は爆発によってその内部を引き裂き、建物を内部から崩壊させる。鋼鉄の雹を遮ることなど出来るはずのない家の屋根瓦程度は易々と貫かれ、爆発が家の内部が吹き飛ばすと、家は跡形も無く崩れ落ちた。風切り音と共に、放置された乗用車のボンネットに握りこぶし程の穴が開いたかと思うと、カバーはエンジンと一緒に空高く舞い上がる。辺りには瓦礫と炎、黒煙と灰塵が飛沫のように立ち昇った。

 そして、その煙の中からゆっくりと姿を現すゴジラに向かって自走砲群が火を吹いた。射撃のたびに地面を揺るがす衝撃、轟音。そのせいで榴弾がゴジラに届くまでは一瞬の沈黙が訪れたように感じられたが、静寂はすぐに破られた。ゴジラの巨体に次々と爆発が起こり、MLRSのクラスター弾頭が“整地”した街並みを更に深く抉った。

 

「ゴジラの進行速度が減速!しかし、前進は依然止まりません!!」

「やはり……自走砲とMLRSでは単体の目標に対して火力を集中出来ません!」

 多摩川最終防衛線の臨時指揮所では攻撃の効果が判断されていた。

「我々の火力が足止め程度にしかならんのかッ!!!」

 指揮官の北沢一佐は机に拳を叩き付けた。

「報告!前線より第1普通科連隊が誘導弾による攻撃を開始!戦車隊、強化マグネシウム弾により援護します!」

 

 今やゴジラと防衛線を死守する地上部隊との距離は1000mを切っていた。この距離では後方支援兵器である自走砲やMLRSは役に立たない。多摩川の河川敷に遂に姿を現したゴジラへ自衛隊最後の総攻撃が行われる。遮蔽物の無い地形を利用して火力をゴジラへ集中させるが、非力な兵員携行の誘導弾や数少ない戦車隊の砲撃ではゴジラを止めることは出来ない。

「退避!退避――っ!!!」

 各小隊・中隊では次々と後退命令が出されるが、既にゴジラは熱線の射程に陣地を捉えていた。怒りに震えた咆哮。天を突く鋭い背鰭が雷光を連想させる激しい光と轟音を放ち、ゴジラの体内温度が上がったのを証明するように口から陽炎のように揺らめく吐息が漏れる。次の瞬間、ゴジラの口から迸った熱線と炎が地面を舐め部隊を焼き払った。

 ゴジラの進路からやや離れていた地点の部隊では、夜空を焦がす炎と星の光を遮る黒煙を見て絶句し、自分達の敗北を噛み締めるしかなかった――

 


13 『深淵』へ

15 『復活』へ

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