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【この芝居について】 1992年にウィーン初演。日本では宝塚歌劇団が1996年に初演の幕を開ける。但、宝塚はまず男役ありきなので、現在の公演とは異なる演出。初演のトートは、まだ在団中であった一路真輝が務めた。宝塚では「きわめて宝塚らしい演目」との評価を得て人気を博し、その後も断続的に上演。 ウィーン版のオリジナルに忠実な舞台は、日本では東宝が2000年に帝劇で開幕。宝塚を退団した一路真輝が今度はエリザベート役で登場。以降、彼女の持ち役。エリザベート、トートの両役を演じた、世界でも例を見ない女優である。 2004年3月に開幕した『エリザベート』は早くも新演出。物語の構成や舞台装置などが変えられ、また曲目も新曲が投入されるなど意欲的な変更がなされた。 |
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【物語】 1898年。レマン湖のほとりでオーストリア皇后エリザベートが暗殺された。犯人はアナーキストのルキーニ。舞台は彼の裁判劇として展開されていく。 1837年に生まれたエリザベートは、自由奔放、お転婆な娘として育つ。16歳でオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフに見初められ、翌年結婚。しかしそんな娘がしきたりの多い宮廷に馴染めるはずがない。結婚に反対であった皇太后ゾフィーとの折り合いが悪く、夫・フランツも自分を理解してくれることもなく、いつしか彼女の心は虚無を彷徨う。 一方、この世のすべての死を司るトート(←概念的な役です)は、生きている人間エリザベートを愛してしまう。幾度となくエリザベートの前に現われては黄泉の世界にいざなうが、拒絶される。しかしトートは彼女の子供を次々と死に追いやり、生きる希望すべてを失ったエリザベートの前に再び現われ…。 |
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【観劇記】 初演で見た時は「なんて少女趣味な!」というのが第一印象。一路真輝も役に合っているのかどうか疑問に思ったり。つまり「俺の趣味ではないのかなぁ」という感想で、少なくとも後にこれほど観劇回数を重ねるとは思いもしませんでした。しかし2001年の再演から、何かと人に誘われることで観劇の機会を得たのですが、いつの間にか舞台に引き込まれていました。ミュージカル『エリザベート』の、俺が感じる魅力は全景での旋律の美しさ。自分の中では『レ・ミゼラブル』の魅力と似ています。こういった作品に触れるたびに「ミュージカルはまず音楽ありき」だと感じます。 さて、2004年版の新演出『エリザベート』。それまでの演出と比べて良くなったところと悪くなったところが、それぞれ1点ずつあります。 良くなった…と言うより俺の好みになったという点は、物語の構成。まだ新演出版を一度しか見ていないので細かいところまで押さえきれていませんが、全体的には初演で感じられた“かったるいロマンティックな甘さ”が消えていました。極端な言い方をすれば、エリザベートの生涯を淡々とリアルに描いている感じ。例えば前演出で“死”を甘美な色合いで見せていた部分は、「棺に入ること」くらいの現実的な見せ方。舞台のフィナーレとしては物足らなさを感じなくもないが、それもアリ。とにかく所々の派手さや華やかさを薄めることで、物語性が強まってるように思えたのが新演出の最大の効果だと思いました。また全体を霊廟で行われるルキーニの裁判劇として見せることにより、物語が随分わかりやすいものにしたことも今回の特徴でしょう。 悪くなったところは美術装置における映像部分。物語とも合っていないし、他の装置とのバランスも悪い。映像としても実に中途半端。中には失笑を買う場面もあったりして、早急に取り払っていただきたい。これに関してだけは、新たに取り入れた意図さえさっぱりわかりません。 実際の皇后がどうであったかは知りませんが、少なくともミュージカル『エリザベート』で描かれるエリザベートは、決して悲劇のヒロインではありません。俺自身はこの作品のテーマを「自我に目覚めすぎた女の悲惨な末路」だと受け止めています。加えて「その女に振り回された周りの人々の悲惨な末路」であります。登場人物誰ひとり幸せになる人間がいない物語ですからね。役者たちはそのあたりを実に上手く演じていたと思います。タイトルロールの一路真輝は、もうすでに堂に入った芝居で客席を魅了します。特に二幕後半の皇太子を失う場以降は、我々に息つく間も与えません。エリザベートが息子を失い、魂の抜け殻となっても自分の主張をはっきりさせるくだり(「夜のボート」)は、一路真輝の芝居が冴え渡っていると感心しました。 トート役の山口祐一郎は歌の上手さ、姿の良さでで魅了。暗殺者ルキーニ役の高嶋政宏は、テレビでの露出も多いせいか何をやっても“高嶋政宏感”が出てしまう辛さがあるのですが、今回はそれを極力消してルキーニとして存在していたのがマル。皇太子ルドルフ役のパク・トンハは歌も上手く芝居もしっかりしているが、初々しさに欠けていると感じました。そのほか初風諄、春風ひとみ、村井国夫、伊東弘美などのベテラン勢はさすがの芸達者で言うことありません。 |