初心者のための天体写真の基礎

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 ここでは、初心者が、天体写真を撮影するための、基礎を解説します。

写真の基礎

 天体写真も写真の一種ですから、写真撮影の基本がわからなければ、話になりません
 写真はの基本原理は、レンズで集めて、結象した光をフィルムなどの、感光素材に記憶するというものです。最近登場したデジタルカメラも、フィルムがCCDという半導体の感光素材に変わっただけで、原理は一緒です。
 フィルムに結蔵する像の大きさはレンズの焦点距離に比例します。つまり、拡大して撮影したい場合は焦点距離の長いレンズを使います。
 通常の35mm版のカメラレンズでは、50mm程度の焦点距離の者を標準レンズと言います。
 ところで、当然ながら光はレンズの口径(レンズ直径)が大きいほどたくさん集められ、明るくなります。これは、望遠鏡だろうが写真のレンズだろうが、話はいっしょです。
 しかし、望遠鏡の場合と違って、カメラレンズには焦点距離は書いてあるものの、口径は書いてありません。そのかわりF値というものが書いてあります。「1:1.4」とか「F1.4」とか書きますが、この意味は「焦点距離が口径の1.4倍である」ということです。
 焦点距離が長いと同じ被写体を撮影して大きく写ります。一方、口径が大きい、すなわち、F値が小さいと、明るく写ります。
 あと、面白い性質として、F値が大きいほどピントが合いやすいです。これは、ピントの合っている範囲(被写界深度)が、同じ焦点距離ならF値が大きい方が大きくなるためです。
 点光源は例外ですが、通常、焦点距離が違っても、F値が同じなら、同じ明るさで写ります。点光源の場合はF値に関係なく、口径が大きい方が明るく写ります。
 実はこの性質は天体写真を撮影するときに重要です。というのは、星は光学的に点光源であるのに、背景の空が面光源だからです。これについては、後で解説します。
 あと、写真撮影で重要なのがフィルムの感度です。フィルムを買ってくるとISO100とかISO800とか書いてあります。この値は大きくなるほど感度が高くなり、現在ISO1600までのものが容易に入手できます。
 こうした、機材の条件が決まったら、あとは、撮影するわけですが、これはシャッターを開いて一定時間フィルムに、レンズからの光をあてるわけです。通常の写真だとこれが1/60秒とかそれ以下と短いですが、天体写真は通常、対象が暗いので1秒以上、場合によっては何時間も露出するわけです。
 こういう長時間露出をするためには、カメラが、そういう使い方ができるものでないといけません。一眼レフカメラだと、たいていバルブ(B)という露出モードがあるのですが、これは、最低限必要です。
 それはさておき、カメラで写真撮影をするときに、何をしなければならないかというと、ピントを合わせて、口径(絞り)と露出時間を決めて適度な明るさで写るようにするということです。自動で撮影してくれるカメラは、実はこれをやってるだけにすぎません。
 つまり、フィルムの感度に対して適当な口径(絞り)と露出時間を決定するわけです。基本的に、フィルム感度の値と露出時間の積が同じなら同じ明るさで写ります。つまり、フィルム感度が2倍になったら露出時間は1/2にできます

天体写真に適したカメラ
 天体写真撮影のためには、やはり一眼レフカメラが必要です。星座を撮影したいとかだったら、バルブが使えれば何でもいいのですが、望遠鏡に装着して撮影したいとかいう場合には撮影イメージを直接確認できる一眼レフでないと不可能です。
 ただし、一眼レフでも高級機である必要はなく、どちらかというと、低価格機が適してます。というのは、とんでもない長時間露出をしますから、バルブが機械式でないと、電池が消耗しますし、ピントは無限大しか使用しないし、露出条件は通常の写真と比較して常識はずれで、自分で決定する必要があるので自動は意味を持ちません。
 というわけで、ニコンのFM-10等が適してるでしょう。ちょっと高級でニコンのFM-2なんかもいいです。これらは、機械式シャッターで手動フォーカス(ピント)で、手動露出時間です(いわゆるフルマニュアルフルメカニカル)。

カメラレンズでの天体写真
 天体写真も、普通のカメラレンズで撮影することができます。

固定撮影
 一番簡単な撮影法は固定撮影というものです。これは、ただ単純にカメラを空に向けて適当な時間だけ露出するというものです。これだと、カメラ以外に必要なのは三脚レリーズ(シャッターボタンのところに装着したケーブルの先のボタンを押すことでシャッターを切る部品)です。
 その方法は、三脚にカメラを固定し、露出をバルブにして、露出するだけです。  ただ、レンズの絞りは開放だと、明るく写るものの、収差で画面の周辺の星の像がレンズの収差で乱れますから、ひと絞りしぼった方がいいでしょう。例えば、50mmF1.4のレンズならF2くらいまで絞ります。
 これで写るわけですが、星は日周運動により動いていますから、長時間露出をすると線に写ります。  これを点に写すためには露出時間をある程度短くしなければなりません。例えば標準レンズ(焦点距離約50mm)で10秒以下だと、完全に点になり、20秒までなら鑑賞に耐えます。
 フィルムの感度が高いものほど、暗い星まで写ります。
 この固定撮影も馬鹿にしたものではなく、ISO100のフィルムで20秒露出をすると、空の暗いところなら、9等星までは写ります。肉眼で見えるもので一番暗いのは6等星ですから、肉眼で見える星は全て写ることになります。
 さらに、ISO1600などの高感度フィルムを使用すれば、明るい彗星はこの方法で撮影できます。現にヘール・ボップ彗星は固定撮影でも結構写りました。
 ただし、この方法では標準レンズと広角レンズくらいしか使えません。
 固定撮影の撮影対象となるのは、主に星座です。日をおいて、撮影して、明るい小惑星の移動を確認するといった使い方もできるでしょう。あと、あえて、露出時間を長くして日周運動を撮影することもあります。さらに、流星写真も固定撮影で撮影可能です。

ガイド撮影
 カメラを日周運動での星の動きを追尾するようにした撮影法をガイド撮影といいます。日周運動追尾のためには赤道儀という道具立てが必要です。キリキリは、もっとも簡単な構成の赤道儀の一種です。


 当然赤道儀に載った望遠鏡にカメラ雲台をつけて、そこにカメラをつけて、撮影することも可能です。  ガイド撮影では標準レンズや広角レンズ以外に望遠レンズを使用することも可能です。どのくらい焦点距離の長いレンズを使えるかは、赤道儀の性能で決まってきます。
 日周運動の追尾は、赤道儀のモータードライブで自動的に、あるいは、手動で行うことになります。手動で行う方法には望遠鏡に十字線付きの接眼レンズを装着して、写真の写野付近の星を目標に赤道儀の軸を動かします。
 カメラレンズのガイド撮影での被写体は星座は当然として、星雲星団その他いろいろあります。広角レンズで天の川というのもいいかもしれません。

望遠鏡での撮影

 望遠鏡にカメラのボディを装着することにより、天体をうんと拡大して撮影することができます。これは、カメラレンズの代わりに望遠鏡を付けたと考えると理解しやすいでしょう。
 この場合の焦点距離はカメラレンズに比較して極端に長くなるので、赤道儀の極軸にモータードライブを装着して自動追尾するようになってなければいけません。

直焦点撮影

 これは、望遠鏡の対物レンズ(あるいは対物鏡)の焦点にカメラボディを装着したものです。望遠鏡の直焦点にカメラを装着する部品(直焦点アダプタ)は、たいていの望遠鏡の別売り用品として売られています。これはメーカー間で互換性があるものとないものがありますから、望遠鏡販売店で確認して下さい。
 このときの焦点距離は望遠鏡の焦点距離そのものです。
 直焦点撮影で撮影対象となるのは、月の全景あるいは、星雲星団、彗星といった、比較的大きな被写体です。

拡大撮影

 望遠鏡の焦点位置に接眼レンズを置いて、そこからある程度離れた位置にカメラボディを装着すると、被写体をきわめて大きく拡大して撮影することができます。接眼レンズは拡大撮影用に専用設計したものが一番良いのでしょうが、入手困難なので、通常は眼視用の接眼レンズ(アイピース)を使用します。
 このときの焦点距離(合成焦点距離)は  合成焦点距離=接眼レンズからフルムまでの距離×対物レンズの焦点距離/接眼レンズの焦点距離 ようするに、接眼レンズからフィルムまでの距離に望遠鏡の倍率をかけたものになります。
 拡大撮影のためにカメラを望遠鏡に装着するための部品(拡大撮影アダプタ)も直焦点アダプタと同様、望遠鏡の別売り部品として市販されています。なお、直焦点アダプタ拡大撮影アダプタいずれも、カメラに装着する部分には、カメラメーカ毎に違うカメラマウント(Tマウント)を装着する必要がありますが、これは両方のアダプタで共用できます。それどころか、Tマウントは、望遠鏡メーカーが違っても共用できるようです。
 拡大撮影で、撮影対象となるのは、月の拡大写真や、惑星写真です。あと、ヘール・ボップ彗星程度の大彗星の中心部を拡大撮影で狙ってみるのも面白いでしょう。
 あと、拡大撮影の方法には、この方法以外に、望遠鏡の接眼レンズのところに、ピントを無限大に合わせたカメラを密着させて撮影するコリメータ法という方法もあります。これは、目でのぞくかわりに、カメラでのぞくもので、解りやすいでしょうが、あまり一般的に使われてはいませんし、このための用品もほとんど市販されてはいません。


おまけ
 基本的なところは、だいたいこんなところですが、その他気づいたことを書いておきます。
 まず、最初の方で述べた点光源と面光源の関係ですが、これは、背景が明るいときに点光源を撮影したいというようなときに重要な意味を持ちます。つまり、光害がひどいところで、星を撮影したいとか、白昼の青空の金星を撮影するとかといった場合です。
 つまり、こういった場合には被写体は点光源で、背景は面光源ですから、被写体の明るさは口径のみに依存し、背景はF値に依存すると言うことです。すなわち、口径をそのままに、F値を大きくする、すなわち焦点距離を長くすれば、背景だけが暗くなって、被写体は明るいままです。私が白昼の金星を撮影するのに使用したのは、180mm望遠レンズでした。
 あと、怪我をしないための当然の注意事項として、カメラのファインダーから、太陽をのぞいてはいけません。失明の恐れがあります。
 例えば、日食の撮影をするようなときには、カメラレンズの前に減光のためのフィルタをつけますが、これの減光が十分で、シャッター速度が1/60秒以上といった長い露出時間になるようならあまり問題は無いでしょうが。そうでなければ、危険です。
露出時間表(ISO100のフィルム)
F値5.8811162232456490128180
地球照8秒1632
三日月1/301/151/81/41/2249
半月1/1251/601/301/151/81/41/2259
満月1/5001/2501/1251/601/301/151/81/41/212
水星1/10001/5001/2501/1251/601/301/151/81/41/21
金星1/80001/40001/20001/10001/5001/2501/1251/601/301/151/8
火星1/5001/2501/1251/601/301/151/81/41/212
木星1/1251/601/301/151/81/41/21248
土星1/301/151/81/41/21248


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