生命の探求1〜マーシュ山の蠍人間との対話


ギルガメシュは友エンキドゥのため激しく泣きながら荒野をさまよった。そのうち、彼の心に恐怖が襲い掛かった。
「私も死ぬのか。エンキドゥのようではない、とでもいうのか。
悲嘆がわが胸に押し寄せ、私は死を恐れ荒野をさまよう・・・」
死の恐怖に捕らわれたギルガメシュは、ウバラ・トゥトゥの子ウトナピシュティムのもとに行こうと決心する。
彼は、永遠の生命を持っているのだ。彼なら、死の恐怖から逃れる術を知っている。
ギルガメシュは月神シンに旅の無事を祈り、出立した。

ギルガメシュはマーシュと呼ばれる山に着いた。
マーシュとは「双子」と言う意味であり、同じ高さの二つの峰をもっており、毎朝この間から太陽が上ることになっていた。
太陽神シャマシュは毎朝鋸を持って山を切り開き、光輝を身にまとって天へ上るのだ。
山の頂は天の基底に触れており、下では冥府(アラル)に達していた。
山には蠍人間がいて、麓の門を守っていた。その姿は、上半身は人間、下半身は蠍で、鷲の足を持っている。
その形相は「死」と形容されるほど恐ろしい。その体からは畏怖の輝き(メランム)が発せられ、それが山を取り巻いていた。
彼らの仕事は日の出と日の入りの太陽を見張ることだった。
ギルガメシュは、街道の境界石などにしるされた彼らの姿を見たことはあったが、実際に目の前にして非常に怖れた。
しかし意を決して近づくと彼らに向かって会釈した。
一人の蠍人間が彼の妻に向かって叫んだ。
「こちらにやってくる者、その身体は神々の肉体だ」
彼の妻は応えた。
「その三分の二は神、三分の一は人間です」
蠍人間はギルガメシュに向かって叫んだ。
「神の肉体を持つものよ、遠い道をなぜやってきたのか。このわしの前まで。この山は通り抜けることが困難だ。
おまえがどうしてここまでやってきたのか、その理由を知りたいものだ」
ギルガメシュはここまでの経緯を話して聞かせた。
「・・・・だから、私はウトナピシュティムのもとに行きたい。彼は神々の集会に立ち不死の生命を見出した方、
死と生の秘密を彼から聞きたいのだ」
蠍人間はギルガメシュに言った。
「ギルガメシュよ、彼のもとに行く道はない。この山を行こうとしても誰も通り抜けることはできない。
この中は十二ベール(120km)も闇が続き、暗黒が立ちこめ光はない。
お前は道に迷い、右往左往してここから永遠に出られないだろう」
蠍人間の妻もギルガメシュを引きとめた。しかしギルガメシュの決意は固かった。
ついに蠍人間も折れ、山の門を開いた。
「お行きなさい、ギルガメシュ、マーシュの山に。
暗闇の中で迷わないように、正しいシャマシュの道を進みなさい」

ギルガメシュは一ベール進むごとに叫び声を上げて位置を確認しながらどんどん進んでいった。
暗黒は深く、前も後ろも見えなかった。二ベール、三ベール、四ベール・・・
九ベールに達した時、激しい北風が起った。
そして十二ベールを過ぎると、彼はシャマシュの前に出た、つまり陽光のもとに出てきた。
目が慣れてくると、素晴らしい光景が広がっているのに気付いた。
イラクサや茨は紅玉髄の実をつけ、葡萄の房をたわわにし、見るも美しかった。それらはラピス・ラズリの葉をつけ、実をつけ、見るも楽しかった。
太陽神シャマシュはギルガメシュに訊ねた。
「ギルガメシュ、お前はどこにさまよい行くのか。お前が求める生命を、お前は見出せないだろう」
ギルガメシュは答えた。
「荒野を行き来し歩き回ってからというもの、大地の中にこそ安らぎが多い。わが命の残りすべてを、私はそこで眠って過ごすのでしょうか。
わが目が太陽を見るように。私が光に満たされますように。
暗黒、冥府がはるか遠いとすれば、光はいかばかりでしょう。死者は太陽の輝きを見うるでしょうか」
ギルガメシュは先へ進んだ。
この地には、ほかにもさまざまな宝石が当たりに満ちていた。
ギルガメシュがそれを見ながら歩いていると、やがて海辺に達した。
海辺には酌婦シドゥリが住んでいたが、彼女が浜辺に座っているとき、海岸を歩くギルガメシュを見つけた。


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