エンキドゥの死


エンキドゥはギルガメシュに夢の話を始めた。それは神々の会議の場であった。

そこにはアヌ、エンリル、エア、そして太陽神シャマシュが座っていた。
まずアヌがエンリル向け口を開いた。
「天牛を殺したあの者たちは、山々に香柏を茂らせていたフンババをも殺している。
この者たちのうち、一人は死なねばならぬ」
エンリルは言った。
「エンキドゥが死なねばならぬ。ギルガメシュは死んではならぬ」
シャマシュがエンリルに言った。
「罪のないエンキドゥが死なねばならないのか」
エンリルは腹を立てて言った。
「おまえは彼らの仲間のように、毎日彼らと共に行動する・・・」

エンキドゥは涙を流した。
「わが兄弟よ、神々はわたしを再び起き上がらせないだろう。わたしは死霊のもとに座り、
死霊の敷居を越えてしまうだろう。そして、わがかけがえのない兄弟をこの目でもう見ることはないだろう・・・」
エンキドゥは二ップールの神殿へと向かった。そこにはフンババの香柏の森から伐り出した木で造った門があった。
エンキドゥは門に向かって言った。
「わたしが、あの森の中で最も高かったおまえを見つけ、森から伐り出し、かくまで美しくしつらえ、この二ップールに据えたのだ。
しかし、わたしの後に来る王は、わが名に替えて彼の名を扉に冠するかも知れぬ」
そして衣服を引き裂き、投げ棄てた。
ギルガメシュはエンキドゥの言葉を聞いて驚き、言った。
「あなたには広い心と確かな口があるはずだ、どうしてそんなことを口走るのだ。
わたしが神々に祈ってみよう、エンリル神に嘆願してみよう」
しかし、エンリル神は聞き入れなかった。

朝が来た。
エンキドゥは太陽すなわちシャマシュ神に向かい、涙を流して言った。
「わが運命は、ならず者の狩人によって変えられてしまいました・・・」
そして、彼をギルガメシュのもとに連れて行った神殿娼婦シャムハトをも呪った。
彼らのせいで、自分はこのような運命に導かれてしまったのだから。
しかし太陽神はそれをたしなめた。
「エンキドゥよ、なぜシャムハトを呪うのか。
彼女はパンをお前に食べさせ、ビールを飲ませ、立派な衣服を身に着けさせ、立派な男ギルガメシュをお前の友としたではないか。
いまや、ギルガメシュはおまえの最愛の兄弟なる友。
彼は立派な寝台にお前を横たえ、ウルクの人々にお前のため涙を流させ、また彼はお前の死後にはその身に汚れた髪を掲げ、獅子の毛皮をまとって荒野をさまようだろう・・・」
シャマシュ神の言葉を聞いたエンキドゥは、ようやくその心を鎮めた。
そして、シャムハトへの呪いを取り消し、祝福の言葉を送った。

エンキドゥは再び夢を見た。彼はそれをギルガメシュに語った。

天が叫び、地はそれに応えていた。エンキドゥはその中に立っていた。
一人の男がいて、その顔を暗くしたが、その顔はアンズー鳥(獅子頭の鷲)に瓜二つだった。
その手は獅子の手、その爪は鷲の爪。男はエンキドゥの束ねた髪をつかんだ。驚いたエンキドゥがそれを撃つと、男はぱっと飛びのき、エンキドゥを撃った。
エンキドゥは押し倒され、男に踏みつけられ、締め付けられた。エンキドゥはギルガメシュに助けを求めたが、彼はやってこなかった。
男はエンキドゥを鳩に変え、冥界へと引いて行った。
そこは入ったものが出ることのない家、踏み込んだら戻れない道、住むものが光を奪われる家。
彼らの糧食は塵、そして粘土・・・エンキドゥは数々の王侯・祭司たちが座っているのを見た。
冥界の女王エレシュキガル、その書記ベーレト・ツェーリの姿が見えた。
ベーレト・ツェーリは女王の前にひざまづき、書板を読み上げていた。
エレシュキガルは頭をもたげ、エンキドゥを見て言った。
「誰がこの者を捕らえたのか」・・・・・

アンズーの顔をもつ男とは、冥界の舟師フムト・タバル。ついに彼の死が目前に迫ったのだ。
エンキドゥは、ギルガメシュに言った。
「わたしはあらゆる困難の道を歩んだ。わたしが死んだ後も、わたしを思い起こし、忘れないでくれ、わたしがあなたとともに歩み続けたことを・・・」
ギルガメシュは言った。
「わたしを援けた友が、なぜ死なねばならないのか!・・・・この日、彼の力は終わりを告げたのだ・・・」
エンキドゥは病の床に着いた。
一日、二日、三日・・・十二日が経つと、彼の病は篤くなり、肉体は衰弱した。
エンキドゥは病床からギルガメシュを呼び、かつての思い出を語り合った。
退出した後、ギルガメシュは言った。
「彼が死に捕らえられてはならない。彼こそ勇士の中の第一であったではないか。その友のために力を尽くしたではないか・・・。
・・・・・・わたしは、彼のためにウルクの人々、力ある人々を泣かせよう。
わたしは彼のために、荒野で嘆こう・・・・」

そして、エンキドゥは死んだ。


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