眞情人・這個時候……

「全く、ヤンったら気が利かないんだから…」
 ホイメイの家の店で、奥の4人がけの席に座ってヤンフェイは携帯をオフにした。
「ホントねー。ユン位素直にちゃんと評価してあげないんだから」
 上環から此処迄の往復に、トラムなら20分以上は係る。待たせているなら巴士かMTRで来た方が早いだろう。ヤンフェイとホイメイがこの場にいない男に対しての愚痴をこぼすと、自分が鉾先でないのもあってユンが大いに頷いた。
「ユンファも気がつかなすぎだけどな」
 取り敢えず茉莉花茶をすすりながら会話をしていたのだが、そのうち周りの人が増えて店内が混み合ってきた。いつも店の手伝いは、最も忙しい夜と決まってはいるのだが、流石にホイメイもこの場で油を売っている訳にいかなくなった。奥の厨房から父親の声がして、「ごめん、落ち着いたら来るわね」と言ってそのまま手伝いに戻って行ったのだった。
 さて、今、この席にはユンとヤンフェイの二人しかいない。この場にいない男の話題が続いていたが、ホイメイの退場で会話が途切れてしまい、さて、何を話そうかとユンが考え込んだ。
「………?」
 ふと、横に目をやると、ヤンフェイの姿が有る。今、このテーブルには、店内の喧噪の中とはいえユンとヤンフェイの2人だけだ。
……そ、そうなんだよ、今、ヤンフェイと俺しかいないんだよなー……
 そう思った途端、何を切り出そうか判らなくなって、ユンは黙り込んでしまった。
「ユン、どうしたの?」
 前髪で隠されていない右目から、ヤンフェイが心配そうな瞳で覗き込んでくる。それだけでユンの顔の温度がどんどんと上昇しはじめた。額には汗が吹出してきて、いつも剛胆さを感じない緊張の様子を見せる。
 しかし
「ユン…何処か悪いの?」
 ヤンフェイには、ユンのその様子が体調不良にしか見えないようだ。更に顔を近付けて心配そうに見つめてくる。
「無理、しなくて良いのよ?」
「む、無理なんか、そ、……そそそんなことねぇって……」
 ユンの心拍数が上がる。ユンに触れば、その怒濤のスピードの心臓の鼓動が聞こえてきそうな勢いだ。
「でも……ユン、顔真っ赤よ?」
 ヤンフェイの細くて白い手が、ユンの額に伸びてきた。
……だ、駄目だ、俺のこの鼓動がバレる!!つ、つーか……
 我慢出来ないのだ。大好きな娘とふたりっきり、まるでデートの様ではないか。短いタイトスカートから覗く足、柔らかな微笑み、艶の有る唇。自覚がないだけに、この目の前の綺麗な娘は、ユンのゲージをこえる程の色気をかもし出しているのだ。「2人っきり」でない時は、此処迄緊張しないのだが……。慌てふためいたユンが、ヤンフェイの手を両手で取る。
「だ、大丈夫だって!!な、熱もねーし、俺、元気」
そして、無意識に手を握っていた事に気がついて、頬の蒸気を爆発させるのであった。本当にどうしようもなくて困り果てたまま、待たせて悪いと思ったホイメイから小さな蒸籠が届く迄、ユンはこの調子の会話を続けているのだった。

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白日記念。
本来は情人節(ばれんたいん)に併せて考えていたのですが、公私共に忙しくて、今回強引に書き上げたものです。
ユンファが、ヤンにちょっと女の子らしい処を見せたいと思う話のつもりで、かなり前に練っていたんですが、何か最近読んでるGWの3*2小説に似た感じになりそうになりまして、「真似じゃない、違う話にするんだ!」と今更慌てたものでした。しかし、このネタで考えてて楽しかったのは、張り切るヤンフェイちゃんだったり。
 最後のおまけは、何時迄経ってもピュアなユンと天然で自分に対する恋愛感情に疎すぎるヤンフェイの様子を書きたかっただけです。うちのユンは、本命娘には気の利いた台詞が言えない奴です……GWカセットブックのカトルのデュオに対する「デュオって、いざって言う時にちゃんと言えないような気がするんですよ」ってまんまなんですけど。

 タイトルは、COCO-Leeの歌から。教室の先生のお勧めで聞いてみて、最近C-POPカラオケのレパートリーに加わったりしてます。ラテン系のノリの良い歌。意味は「本当の恋人」っつーことで。