1月のある日……
       隆が駅前の新しく出来たペットショップを通った時、見たこともない生き物を見た。丸っこくて白い身体、ちまりとした短い足、独特の黒い頭の模様… 
      隆「な、何だこいつ……犬福?」 
       隆はその生き物のところに付いている札を見た。この「犬福」が気になったのでペットショップの中に入ってみることにした。 
      早雷「いらっしゃいませー!」 
       中に入ると、10代半ば位の、そばかす顔の女性が隆に声をかけた。 
      隆「表のショーウィンドのやつなんだが…」 
      早雷「あ、犬福ですね。犬福は何でも食べるし、そんなに手間もかからないし、1年で大人になるから凄く育て易いんですよ。どうです?飼ってみませんか?」 
      隆「………うーん……」 
       何か愛敬もあるし、どうせ自分はアパートで一人暮らしだから問題もないだろう、ということで隆は頷いた。 
      早雷「じゃ、早速この子達の中から好きなのを選んでくださいね」 
       早雷がもって来た箱の中には小さい犬福が8匹いた。元気に飛び跳ねているもの、甘えた顔をしているもの、寝ているものetc…。隆はその中から元気に飛び跳ねている耳の青い犬福と、大人しく普通にしている耳の赤い犬福と、2匹を選んだ。 
      隆「あれ?この子、足がないよ」 
      早雷「あんなのおまけ……じゃなくて、そのうちに生えてくるんですよ」 
      隆「そうなのか…(カエルみたいだな)」 
      早雷「今、新春記念セールで犬福フードのプレゼントをやってるんです、お一つお持ちください」 
       そう言って早雷は隆に「INUSUKEY」とかかれた袋をくれた。 
      早雷「あ、そうそう。犬福は何でも食べるけど、辛いものだけは大嫌いなんで、食べさせないようにしてくださいね」 
       早雷にそう言われ、隆は2匹の犬福と犬福フードを持ってペットショップを出た。 
       ペットショップを出ると、駅前で一人の老人が声をかけて来た。片腕がなく、少ない髪の毛が数本、立っている。 
      オロ「すまないが、駅までの道を教えてくれんかのう…」 
       変わった人という気もしたが、隆は駅までの道を説明した。 
      オロ「ほう、お主は犬福を飼うのか。フォッフォッフォッ…関心関心」 
       と言ったかと思うと、いきなりオロは両腕を出して空中に消えた。 
      隆「何だ、今の……」 
       だったら何のために道を聞いたんだろう、と自問自答しつつ、隆は家路につくことにした。 
      隆「さて、どうやって帰ろうか…」 
       歩いてもいいし、荷物が多いからバスでも良い。中華街のお祭に寄ってみてもいい。隆は考えた挙句、素直に歩いて帰ることにした。その途中、 
      アレックス「ちょっとそこのあんた」 
       いきなり背後から大柄な金髪の警官にに声をかけられた。 
      アレックス「最近この辺でひったくり事件があって捜査中なんだ。一応その荷物を確認させてくれ。」 
       ……職務質問。隆はさっと早雷が用意してくれた箱を取りだし、中を警官(アレックス)に見せた。 
      アレックス「うぉ〜〜〜!なんて可愛いんだ?!何処で売ってるんだ?」 
      隆「駅前のペットショップで売っていたが…」 
      アレックス「早速買いにいかねば!」 
       そう言って警官(アレックス)は走っていってしまった。 
      隆「ひったくりの捜査はいいのか………?」 
      隆「さぁ、家に着いたぞー」 
       一人住まいのアパートに付き、荷物を置いて箱から小さな犬福を出す。まだ生まれて間もなく、この状態の犬福は「ちび福」と言われる。 
      隆「そうだな…名前を付けてやろう。この青い耳の元気なお前は『ユン』、そっち赤い耳のは『ヤン』。いいか?」 
      ユン「にょ!」 
      ヤン「にょ!」 
       …どうやら2匹共この名前が気に入った様だ。 
      
       2月のある日
      隆「ユン、ヤン、ごはんだぞ〜」 
       そう言って犬福フードを与える。ユンもヤンももぐもぐ食べている。 
      隆「さて、今日はどうしようかな…」 
       近所の銭湯に行っても良し、散歩も良し、中華街に行くもよし。 
      隆「よし!」 
       隆は紙袋にユンとヤンをいれると、中華街のお祭に行った。 
       中華街は旧正月のお祭ということもあってとても賑わって混んでいる。招興酒やビールなども振る舞われ、街のあちこち空は爆竹の音も絶えない。そこら中から火薬の臭いがする。 
      隆「中華街といったら食べ歩きだな」 
       隆は手近な露店の前に行って肉包を買おうとした……が。 
      息吹「あーッ!その最後の肉まんはこの息吹ちゃんが目を付けてたんだよッ!」 
       長く細い髪を後ろでまとめ、肩にたぬきの様な犬福を乗せた少女が大声を上げた。 
      隆「おいおい、君のやってる事は『割り込み』だぞ」 
       隆は苦笑するが、息吹は引き下がらない。 
      息吹「よーし、それなら、私のこの犬福の『どんちゃん』と犬福勝負よッ!」 
       そういう事で早大食い競争『犬福飯店』が始まった!…勝負は仲々のもので、でも食い意地の上ではどんちゃんよりもヤンよりも、ユンが一番勝っていた。合計18目食べたユンがこの勝負に勝ったのだった。 
      息吹「くやしぃ〜〜〜!もう!この事はずっと忘れないからねッ!」 
       そう捨て台詞(?)を残して、息吹は大股で去って行った。 
      隆「……逆恨みだよなぁ」 
       そんなある日の昼下がり。隆は、買い出しに商店街の中を歩いていた。 
      隆「バレンタイン…もうそんな時期か……あッ!ユン?!」 
       買い物の袋からいきなりユンが飛びだし、街頭で売られているチョコ……かと思ったら、中華点心屋の月餅目がけてジャンプ!しかももの凄い勢いで食べ出した! 
      ナル「きゃ〜〜〜〜!誰か止めて〜〜〜〜!」 
       慌てて走っていこうとしたが、袋の中にはもう1匹、ヤンもいるのでうかつに近寄れない。と、その時… 
       バシン! 
      ユン「に"ょッッ?!」 
       ユンに一発手刀を浴びせた背の高い青年がユンを摘んで隆に差し出した。 
      レミー「これ、あんたの犬福だろう?犬福はチョコが大好物なんだ…まぁ、こいつは月餅の方が好きみたいだが。この時期に連れ出すのは気を付けた方がいい」 
      隆「あ、ああ……有難う…」 
      レミー「それから、店の人にちゃんと弁償もするんだな」 
      隆「うッ……(金が…)」 
       しぶしぶ、隆はユンが食いついてしまった分の月餅を弁償することになったのだった。 
      
       3月のある日
      隆「ユン、ヤン。ごはんだぞー」 
       もう買い置きしてあった犬福フードがなくなったので、取り敢えず猫まんまを作って与えたが、2匹共文句なしにもぐもぐ食べている。 
      隆「お?!」 
       その様子をずっと見ていたが、よく見ると2匹に足が生えている…ついにこのちび福だった2匹に足が生えた! 
      隆「よし、記念に散歩に行こう」 
      ユン「にょ!」 
      ヤン「にょ!」 
       隆は2匹を連れ、近所の公園まで散歩に出掛けた。公園でユンとヤンを走らせていると、向こうから一人の少女が歩いて来る。 
      慧梅「あら、可愛い犬福。足が生えたのね?」 
       チャイナ服にジーンズ。仲々に活発そうな少女だ。 
      隆「君は犬福を知っているのか?」 
      慧梅「私、慧梅。私も犬福を飼っているの。今度お逢いした時には是非、お見せするわ」 
       そう言って慧梅は去っていった。ものはついで、と隆は駅前のペットショップに行く。 
      早雷「あ、いらっしゃいませ…あら、足が生えたんですね?これからはもっと大変ですよ」 
      隆「所で、犬福フードを見に来たんだ…」 
      早雷「普及品と高級品、それと特売品がありますけど、どれにします?」 
      隆「うーん、そうだなぁ…普及品といきたいけど、うちには2匹いるし……特売品を貰おうか」 
      早雷「分かりました!特売品ですね?」 
       そう言うと早雷は店の奥から大きな袋を抱えてもって来た…『FUKMAC』10kg入りである。 
      早雷「そうそう、来月までには予防接種をしたほうがいいですよ。のーてんき病とか恐いですし」 
      隆「のーてんき病……?」 
       頭を抱えつつ、予防接種の日付を確認するとついでに隆は『犬福のしつけ』という本を買って店を出た。……その帰りがけに、バスを待っている時である。 
      「待ちな!あなた、犬福を連れてるわね?!」 
       鋭い女の声がした。その声の方を振り向くと青いチャイナにとげの付いた腕輪を付けた女が立っていた。 
      春麗「逃げないでちょうだい、この春麗様が苛めてあげるからね」 
       いうなり隆から強引にユンとヤンを奪う。 
      隆「何をするんだ!ユンとヤンを返せ!」 
      春麗「まぁまぁ、固い事言わないでよ」 
       ユンとヤンを取り返そうとする隆に一目も暮れず、持っていた鎖ふんどうを振り回してユンとヤンを虐待する!春麗はにょ〜にょ〜泣きながら逃げ回るユンとヤンの姿を見て高笑いをしていた。もう気力もなくなってへたる迄苛めると、春麗はポイ、と2匹を放り投げる。 
      春麗「あー、面白かった。また苛めてあげるわね」 
       そう言って満足げに去っていった。 
      隆「ユン、ヤン。大丈夫か?」 
       疲れはててぐったりしている二匹を連れ、家路についた。 
       ある昼下がり… 
      隆「今日はどこへ行こうかな…」 
       別に天気も悪くない。近くの「板良研究所」の見学でもいいし、銭湯に行くもいい。が。 
      隆「ゲーセンにいくか…」 
       隆はユンとヤンを連れ、駅前のゲーセンへと向かった。中に入り、新作ゲームを探していると、新しく「FUKREET FIGHTER
      3 3rd Strike」が入っていた。早速コイン投入、Com戦をやっていると… 
      ユリアン「乱入させてもらう」 
      …いきなり会社帰りだろうスーツ姿の大柄な男が隆に一言告げると、2P側の椅子に座ってコイン投入、対戦を挑んできた。「にょ〜じすりふれくた〜」のアソ福使いである。隆は「しんく〜はにょ〜けん」の隆福だ。結果はストレートで隆の圧勝である。 
      ユリアン「仲々やるな…」 
       ユリアンはスーツの上着を脱ぎ(何でいちいち脱ぐんだろう、と隆は内心考えていたが)最乱入。今度は「にょぴてるさんだ〜」のアソ福だ。隆は隆福の技を「でんじんはにょ〜けん」に替えての対戦。再び試合は2:0ストレートで隆の勝ちである。 
      ユリアン「しょうがないな!」 
      ……言ったが早いが、ユリアンはいきなり服を破いて脱いでパン1になる。直後、ユリアンと同じ位の背格好でスーツ姿の…長い金髪で肌の色が半分違っていたが…男がすかざずユリアンを止めに入った。 
      ギル「何をやっている!この様な場所でその格好になるなといっただろう!……すまないな、こいつが馬鹿なことをしでかして…」 
      …どうやら彼はユリアンの兄弟か友人らしい。 
      ユリアン「この男のロマンが兄者には解るものか!」 
      ギル「いいから、此処でその格好になるな!……本当に失礼したな…」 
      …言い争いながら、この訳の解らない兄弟は去っていった。 
      隆「は、はぁ………(何なんだ、こいつら)」
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