消えた部室の食料
Act.8 捜査一時中断

「まだ何も言ってねぇだろーが!」
 異常な迄に狼狽する大輔を見て、ますます怪しがる稀。舞も呆気に取られる程の物凄い迫力だった。
「で、何が違う訳?」
 冷静…と言うよりは、冷めた声で沙羅が聞いた。
「え、だ、だから!肉まんとポリンキーとキットカットの事でしょ!保と貴岐から『次に疑われるのはお前だ』って散々言われたから………!!」
……どうやらあの二人は、稀に疑われ、締め上げられた恐怖の腹いせに、大輔に脅しをかけて苛めていたらしい。同じく稀に疑われる筈の大輔が、まだ恐怖体験をしていないのだ。二人の性格からして、尾鰭を付けて言われていたらしいのは良く判る。稀と目が合わない様、舞の後ろに隠れようとする有様だ……勿論、舞は大輔を弁護する気はないので、さっと避けるのだが。
「ポリンキーとキットカットはもう良いの!……良くねぇけど……今度太郎に奢らせることになったから……」
「で、稀。肉まんの事はどうなったの?」
 話を聞いていた舞が尋ねると、稀は舞の後ろに隠れようとして失敗して更に逃げようとする大輔を素早く睨み付けた。大輔は派手にビク付いて、慌てた様子で稀に言い返す。
「だから、俺じゃないってば!」
「それじゃわかんないんだけどなぁ…」
 その一部始終を見て、沙羅は困った表情をして言った。
「お前さ、最近良くお菓子食べてるんだって?」
 稀が大輔を睨みつつ、きつめに尋ねた。
「そうなんですよぉ。何か知らないけど、太郎先輩によく奢ってもらってんですよ、こいつ」
 ビビる大輔を更に怪しい立場にしてやろうという魂胆か、それとも単なる真実からか、横から保が口を出してきた。
「そう言えば、最近太郎先輩がやけに気前が良いんだってね?」
 冷静な声で沙羅が尋ねる。
「は、はい。俺だけじゃなくって、保や貴岐や舞先輩とかにもお菓子奢ったりジュース奢ったり……」
「でもやっぱ、大輔程は奢ってもらってないよな、俺等」
 おどおど答える大輔に、貴岐も口を挟んだ。
「うんうん、で、お前何かしたのか?」
 もっと立場を悪くしてやろうという魂胆か……自他共に認める『悪魔』の保が机に腰をかけながら聞いた。
「え〜、別に…何で俺、太郎先輩や亨先輩に気に入られてるんだろ?」
 本当に不思議そうに大輔が答えた。
「え、な、何?!亨先輩も?!」
 稀が、突然出て来た亨の名前に驚き、本来の目的を思い出して大声を上げる。大輔はその様子に少々たじろいだが何とか言葉を続けて答えた。
「は、はい…亨先輩は何か奢ってくれる訳じゃないけど、俺が居ると『大輔〜〜〜』って頭撫でて去って行くんですよ」
「はぁ?」
 …何それ……?、と内心呆れる沙羅であった。やっぱり亨って掴めない。
「あ、そうだ!亨先輩は?!」
 亨の素行が気になる稀。怪しい、絶対に怪しい…犯人はお前だ!じっちゃんの名にかけて!…と将にそのノリである。
「もう帰ったんじゃないですか?鞄持って出て行ったし…」
 大輔が答えたとき、丁度、校内アラームセットの放送が入ってしまった。
「仕様がない、明日亨先輩つかまえて聞いてみよ?」
 沙羅が稀に言った。取り敢えず、帰ってしまった人を締めあげる訳には行かない。稀は頷いて、沙羅と一緒に物理講義室を後にした。
「ち……畜生〜〜〜〜〜……」
「落ち着けよ、稀」
 とは言え、一番嫌な奴にキットカットを取られ、好物の肉マンを取られている処、稀がちっとも落ち着いていられないのは沙羅にもよく判っている。でももう荒い先生……もとい、アラームが入ってしまうのだ。捜査本部に戻ると、皆が鞄をまとめて帰り支度を済ませていた。沙羅も稀も手早く鞄をまとめ、皆で部屋を出て、稀が鍵をかける。捜査は一時中断、自宅に帰るのだった。
「明日は亨先輩に当るぜ!」
「おげ、じゃーね!」
 昇降口を出て、沙羅、稀、剣は註輪場、亜李沙と蘭はその儘歩いて駅へ向かっていった。


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