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       「そうか、亨先輩か…………フフフフフ……………」 
       口の端をニヤつかせて殺気立ち、将に『一触即発』の状態に有る……もはや、稀は止らない。 
      「おっしゃぁ!探しに行くで!」 
       何故かイントネーションの狂った関西弁で叫ぶと同時に、スーパーマリオのキラーの如き勢いで捜査本部を飛び出した……良いのか捜査員助手! 
      「稀〜〜〜………」 
       呆れつつも、稀の暴走を食い止められる数少ない人物で立場では沙羅の方が捜査官なのだから、付いていくのだが、逆じゃないか……?取り敢えず創研寄りも亨が出入りする事が多い地学準備室へと向かった。 
       ガラガラガラ! 
      「あ、稀さん」 
       そこには、先程から勉強中だった高弘と、当番だった為放送室から戻ってきたと思われる拓がいた。その声を聞いて居たのか居なかったのか、辺りを見回すと、稀はいきなり切り出した。 
      「先輩!拓くん!亨先輩見なかった?!」 
       稀のその剣幕に後ずさってしまう高弘だが、沙羅や拓は慣れてしまったのか平然としていた。 
      「え?き、今日は見てないよ……」 
       勢いに押されておずおずと答える高弘に、何があったのか知らなかった拓が首をかしげた。 
      「…?沙羅さん、何かあったの?」 
       先程の資料集計の後、放送当番だったので放送室に行った拓は事件の事は知らない。沙羅と稀とがまず、創研の部室にあった稀の肉まんがなくなったこと、剣のポリンキーと稀のキットカッとを太郎が勝手に持ち出したこと、そして高弘が買っておいたパンがなくなったことを説明した。 
      「……へぇ〜…先輩も被害に遭ったんだ。良かった、俺、早いうちに自分の分とっておいて」 
       安堵のため息を付きながら言った拓の言葉に、皆が止った。 
      「え"?!」 
       ほぼ3人同時に声を揃えて拓の方を見てしまう。 
      「……拓。それ、どういう意味?」 
       高弘が半分顔を引きつらせながら拓に尋ねた。当の拓は、何が理由か判らず少々驚きを隠せないでいる。 
      「どういう……って、此処に来る前、先輩と廊下で会いましたよね?その時『俺も分も買っといて下さいねー』って頼んだじゃないですか」 
      「頼んだっけ?」 
       記憶が欠落しているのか、覚えがない、といった表情の高弘。 
      「で、先輩が稀さん呼びに行ってる時準備室に行ったらパンが置いてあるから……」 
      「あるからあるから?」 
       稀が聞いてしまう。 
      「俺の分だと思って持ってったんだ」 
      「で、拓くんそのパンは?」 
       今度は沙羅が尋ねた。 
      「ちょっと前に食べちゃったよ」 
      「食べちゃったって……ひでぇ!」 
      「でも俺、きちんと言ったし、先輩だって頷きましたって!」 
       お互いの記憶の食い違いだったということで、『高弘パン盗難事件』のヤマは片付いてしまった。どうやらお詫びに拓がパンを買いに行くという事で御破算にもなりそうな様子である。 
      「そういうことだったのか……じゃ、稀。亨先輩探しに行こう」 
      「うぉっしゃぁ!」 
       声に気迫が入っている……亨の態度次第で血が流れかねないと思う沙羅だった。取り敢えずそのまま地学室の方へ行くと、汰愛良と玲亜と龍樹が卓球をやっているところだった。2人の姿を見た時、おりよく汰愛良が失敗してピンポン玉をスカった処だった。亨の姿を探し辺りを見回す稀を他所に、沙羅が玲亜に向かってまず切り出した。 
      「あ。玲亜ちゃん。玲亜ちゃんのアリバイ、立証したよ」 
      「おっけー。じゃ、私もそっち(捜査本部)行っていい?」 
      「あ、蘭ちゃんに聞いてね。でね、亨先輩探してるんだけど、こっち来なかった?」 
       と言う質問に、玲亜は稀が殺気立って何かを探している理由を悟った。 
      「うーん、ちょっと前に来たけど。うちらしかいなかったから、出てっちゃったよね」 
       玲亜が龍樹に視線を流すと、龍樹はピンポン玉で鞠つきをするように遊ばせながら頷く。 
      「物理の方にでも行ったっぽかったよ」 
       向こうに行ってしまったピンポン玉を拾いに行っていた汰愛良が戻ってきて頷く。 
      「にゃ。鞄持ってたから、帰っちゃったかもよ」 
       その言葉を耳にした稀の動きが、ぴた、と止る。容疑者に逃げられたら困るのだ! 
      「逃がさん!」 
       F1GRAND PLIXの車か皐月賞の競馬馬かの如き勢いで、稀が地学室を飛び出し、まっすぐな特別棟2階奥にある物理講義室へと一目散に走り出した。 
      「お〜〜〜〜い、稀〜〜〜〜〜〜〜………」 
       その後を慌てて追いかける沙羅だった。 
       ガラガラガラ! 
      勢い良く物理講義室の扉を開け、中に居た一同がこぞって扉の方……稀に注目する。しかし扉の音で既にビビっていたのか、焦り顔で大輔がいきなり叫んだ。 
      「違う!俺じゃない!!」
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