消えた部室の食料
Act.6 容疑者が絞られた

 高弘先輩のパンが盗まれたという話を確認にいくため、紗羅は稀をともなって地学準備室へ移動した。そこでは高弘先輩が一人で黙々と勉強をしていた。
「先輩、勉強中にすみません」
 稀が高弘に声をかけると、高弘は持っていたシャーペンをおいて稀達の方を向いた。
「肉マン、見つかった?」
「肉マン見つからなくても、取り敢えず犯人が見つかれば……」
 拳を握りしめて稀がいうと、紗羅がシャーペンを取り出して尋ねた。
「で、先輩もパンが誰かにとられたって事、詳しく教えてくれませんか?」
 高弘は紗羅達の方を向き直し、口を開いた。
「うん、今日はお昼をまだ食べてなかったから授業終わってからパンを買って、此処に置いておいたんだ。それで一度部屋を出て稀さん呼びにいって仕事して戻ってきたらもうパンがなかったんだ」
 高弘のいった事の要点を、サラサラとメモに書き取る。ふと、息をついて紗羅は尋ねた。
「成程。それでその間準備室に入った人は?」
「拓がその間ずっと地学室で黒板に連絡書いてたけど、地学室の方から入った人は誰もいなかったって」
「それじゃぁ、誰かが入ったとすれば廊下側のドアからって事になるね」
 地学室は理科系教室の端にあるので、他の部屋とは連結していない。
「あそこからは部員か年中遊びに来る人くらいしか入らないよ」
「よし。2つの事件を同一犯の犯行だとすればかなり犯人は絞れてくる!」
 今迄二人の会話を聞いていた稀が腕組をしながら言った……これではどっちが刑事役なのやら……(直感は稀の方が上かもしれないし)
「肉マンの犯人見つかったら俺にも知らせてよ」
 そう言って高弘は再びシャーペンをとる。
「分かりましたぁ。じゃ、先輩どーも」
 紗羅が明るく挨拶をして二人は地学準備室を後にした。

「では、今迄の事をちょっと整理してみようか」
 高弘の聞き込みを終えた二人が本部に戻って、捜査員全員が集まった。蘭は、黒板の前に立つと重要参考人数名の名前を書き上げた。
「まず、保と貴岐。この二人については玲亜さんによってアリバイが立証した…と」
 と、そのまま蘭は二人の名前の横に『アリバイ成立』と書き足す。
「その時間は物理講義室にいたと」
 聞き込みノートを見ながら亜李沙が言う。
「それから……太郎か……アリバイは成立してないよね」
 蘭が名前を囲うようにグルグルと円を描く。
「最近気前も良いみてぇだしなぁ〜……」
 太郎が絡むと異常に口が悪くなる稀は、太郎を完全に疑っている。
「図書室にいたというのも更に怪しいし」
 紗羅が紅茶のカップで手を暖めながら言った時、突然ドアがガラガラと音を立てて開いた。
「あのさぁ、さっき漆原先生来てたよね」
……噂をすれば何とやら、太郎が現われた。
「ああ、来てたよ」
 稀はぶっきらぼうに答えた。まだ落ち着いている方だから良い。
「でさぁ、さっきちょうどここの前であってさぁ…」
「それで?」
 稀に顔には『早く言え』とでも書いてあるようだったことは、捜査員全ての目に明らかだった。徐々に落ち着きから怒気へと変りつつある。
「つい、成り行きでそこにおいてあったお菓子全部あげちゃった…ごめん!」
「ごめんで済むかぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 図書室が閉まった時間で良かった、と後後に安堵する位の大声で、捜査員全員、声を揃えて叫んで立ちあがった。稀と剣が机を叩きながら立った勢いでガチャン!というもの凄い音と共にカップが跳ね、水飛沫が上がった位だ。一瞬にして捜査本部に殺気が漲った。
「い、いや、悪気はないんだって。つい成り行きで…」
 懸命に弁護するが、どの様な成り行きであろうが勝手に自分に権限のないお菓子をあげたという行動自体は緩し難い事で、更にこの太郎には全く人望がない。
「先輩最近気前が良いそうですね?」
 稀がにじるように太郎を見た。
「いやぁ…そんな…」
「この分は今度絶対何倍かにして奢ってくださいね。逃げても無駄ですよ、みーんな覚えてますから。いやぁ、先輩なら何も言わなくても奢ってくれますよね?
 稀の声が通常より1オクターブ程上がっている……にこやかに脅迫をする状態。ごく普通に脅迫されているより恐い。そして全捜査員に囲まれつつある太郎。
「はは……そうだな……」
 ゆっくり後ずさりをしながら逃げ出そうとした太郎の首根っこを、次の瞬間に剣と稀で掴んでいた。
「俺のポリンキー!!」
 剣の目つきに睨まれた太郎は、もうこの罪から逃れられず、それ相応の報いを受けねばならないと観念し、逃げるのをやめた。落ち着いて蘭が尋ねる。
「で、先輩が持ってったのは、ポリンキーとキットカットだけなんですね?」
「勿論!!肉マンは俺じゃない!」
 この状況下、嘘などつけば先程の保や貴岐と同じ運命が待ち受けていること受け合いだ……勿論太郎はそれを見ていないが、それ位の予想は付く。
「神に誓って言える?」
「うんッ!」
 その表情、様子から嘘ではないことは明白、と判断され、今週末に豪華なお詫び品を出すという誓約書を書かされ、ようやく太郎は帰され、中断された捜査会議を再開した。太郎の自首により、ポリンキーとキットカット盗難事件の方のヤマは片付き、黒板にあった太郎の名前を消す。
「肉マンとポリンキー&キットカットの犯人は別だったんだね。そう考えて手掛かりで有力なのは…」
 蘭が此処迄言うと、剣が証拠物を保管庫から出す。
「この天文部のガイドと、龍樹先輩の証言」
「どっちにしろ、此処にも天文部にも出入り慣れしている人じゃないかなぁ…」
 亜李沙がぼそっと言った。

-3 second after…-

 全員が同じ人物の名を叫んだ。
「部外者A先輩!」

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