消えた部室の食料
Act.4 更に消えた食料

「ま、稀……落ち着いて……」
たぁ〜〜かぁ〜〜きぃ〜〜〜〜〜!!はぁー…はぁー…
 稀は完全に貴岐を犯人と決めつけ、手も付けられない位に精神が高揚していた。
「取り敢えず、貴岐くんの処に行って聞いてみようよ、ね?」
 紗羅は稀の方をぽんぽん、と叩きながら言った。何とか平常心を取り戻し
「で、貴岐のヤローは何処に居るんだい?汰愛良」
「うーんとねぇ、まだ物理の部屋じゃないかなぁ」
 それを聞くなり、稀はスタスタと物理講義室に向かった。背中におどろ線を背負っているのがよく分かる。紗羅と汰愛良はその後を、普段と変わらない足取りでついて行った。

 相変わらず、部室では手掛かりの捜索が続いていた。しかし、この事件に関わるようなものは何も出てこない。判明したのは、本当にこの部室が汚いという事だけだった。話す事もなく、無言の作業が続いている。
あーーーーーッ!!お…俺の…!!」
 沈黙は突如、剣の叫び声で破られた。
「…ど、どうしたの?いきなり大声出して」
 その蘭の声も、剣の耳には届いていない様だ。
「お…お…俺のポリンキーがない〜〜〜〜ッッッ!!
「は…?何時持ってきたの?」
 一瞬呆気に取られたが、蘭は気を取り直して剣に尋ねた。
「昨日ですよ。今日食おーとおもってたのに……ちっくしょー!」
 その時、ガラッっと突然ドアが開いて、紗羅・稀・汰愛良・ついでに稀に締め上げられている貴岐と保も入って来た。既に恐怖すらも通り越してしまったようで、貴岐も保もまるで死人の様な形相である。どうも有益な情報も白状も出ないらしく、稀は依然怒りに高揚したままであった。
「どうしたの?大声出して?」
 何だかよく分かってない紗羅が口を開いた。
「うん、剣くんのポリンキーがなくなったんだって」
 亜李沙が答えた。
「へ?……ねぇ、稀、ポリンキーってさぁ」
どうかした?
 肉まんの事にしか念頭にない稀、左手が貴岐の、右手が保の頚動脈を締めかけている。構わず紗羅は続けた。
「先刻、ガッチャマンteacherの処で食べたよね?」
なにィ?
 稀よりも先に剣が反応した。稀は我に返り、締め上げかけていた腕を外した為、その恐怖から解放された貴岐と保は無造作に廊下に崩れ落ちた。
「ああー、そう言えばキットカットと一緒に………"
 稀は紗羅に何かを思い出した。そして他の捜査員達もそれに気がついていた。
「あれ?キットカットって、昨日稀さん持って来たよねぇ」
と、汰愛良が言った。皆でお茶うけにする筈だったのだ。
「ちょっと!紗羅!国研行こ!」
「うん!」
 紗羅と稀は、急ぎ国語科研究室へ向かった。国語科研究室は、開けても目の前にパーテーションが有るので、中に誰が入るかは隅のソファーの方しか見えない。
「失礼しまーす!ガッチャ……もとい、漆原先生は…」
 パーテーションの奥に進むと、ガッチャマンteacherの姿は見当たらない。中では稀の天敵の三上先生が仕事をしていた。
「漆原先生なら先刻帰られたわよ。どうかした?」
「え…先刻頂いたお菓子どうしたのかと思って…」
 顔を合わせると『当番』と切り出す三上先生を避ける稀の代り、紗羅がおずおずと言った。
「ああ、あれは誰か生徒に貰ったって言ってたわよ」
えぇ〜〜〜〜〜〜っっ!!
 思わず二人で大合唱をしてしまった。
「あ…そうですか。失礼しましたぁ」
 お陰様で何だか状況が飲み込めないでいる三上先生を置いて、二人は国語科研究室を後にした。
 一体誰がガッチャマンteacherに剣のポリンキーと稀のキットカットを渡してしまったのか。
今日は厄日だぁ〜ッ!!ぜーはー…」
 稀の空しい叫びが廊下に響く。

Act.5へ   戻る