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       「ま、稀……落ち着いて……」 
      「たぁ〜〜かぁ〜〜きぃ〜〜〜〜〜!!はぁー…はぁー…」 
       稀は完全に貴岐を犯人と決めつけ、手も付けられない位に精神が高揚していた。 
      「取り敢えず、貴岐くんの処に行って聞いてみようよ、ね?」 
       紗羅は稀の方をぽんぽん、と叩きながら言った。何とか平常心を取り戻し 
      「で、貴岐のヤローは何処に居るんだい?汰愛良」 
      「うーんとねぇ、まだ物理の部屋じゃないかなぁ」 
       それを聞くなり、稀はスタスタと物理講義室に向かった。背中におどろ線を背負っているのがよく分かる。紗羅と汰愛良はその後を、普段と変わらない足取りでついて行った。 
       相変わらず、部室では手掛かりの捜索が続いていた。しかし、この事件に関わるようなものは何も出てこない。判明したのは、本当にこの部室が汚いという事だけだった。話す事もなく、無言の作業が続いている。 
      「あーーーーーッ!!お…俺の…!!」 
       沈黙は突如、剣の叫び声で破られた。 
      「…ど、どうしたの?いきなり大声出して」 
       その蘭の声も、剣の耳には届いていない様だ。 
      「お…お…俺のポリンキーがない〜〜〜〜ッッッ!!」 
      「は…?何時持ってきたの?」 
       一瞬呆気に取られたが、蘭は気を取り直して剣に尋ねた。 
      「昨日ですよ。今日食おーとおもってたのに……ちっくしょー!」 
       その時、ガラッっと突然ドアが開いて、紗羅・稀・汰愛良・ついでに稀に締め上げられている貴岐と保も入って来た。既に恐怖すらも通り越してしまったようで、貴岐も保もまるで死人の様な形相である。どうも有益な情報も白状も出ないらしく、稀は依然怒りに高揚したままであった。 
      「どうしたの?大声出して?」 
       何だかよく分かってない紗羅が口を開いた。 
      「うん、剣くんのポリンキーがなくなったんだって」 
       亜李沙が答えた。 
      「へ?……ねぇ、稀、ポリンキーってさぁ」 
      「どうかした?」 
       肉まんの事にしか念頭にない稀、左手が貴岐の、右手が保の頚動脈を締めかけている。構わず紗羅は続けた。 
      「先刻、ガッチャマンteacherの処で食べたよね?」 
      「なにィ?」 
       稀よりも先に剣が反応した。稀は我に返り、締め上げかけていた腕を外した為、その恐怖から解放された貴岐と保は無造作に廊下に崩れ落ちた。 
      「ああー、そう言えばキットカットと一緒に………え"?」 
       稀は紗羅に何かを思い出した。そして他の捜査員達もそれに気がついていた。 
      「あれ?キットカットって、昨日稀さん持って来たよねぇ」 
      と、汰愛良が言った。皆でお茶うけにする筈だったのだ。 
      「ちょっと!紗羅!国研行こ!」 
      「うん!」 
       紗羅と稀は、急ぎ国語科研究室へ向かった。国語科研究室は、開けても目の前にパーテーションが有るので、中に誰が入るかは隅のソファーの方しか見えない。 
      「失礼しまーす!ガッチャ……もとい、漆原先生は…」 
       パーテーションの奥に進むと、ガッチャマンteacherの姿は見当たらない。中では稀の天敵の三上先生が仕事をしていた。 
      「漆原先生なら先刻帰られたわよ。どうかした?」 
      「え…先刻頂いたお菓子どうしたのかと思って…」 
       顔を合わせると『当番』と切り出す三上先生を避ける稀の代り、紗羅がおずおずと言った。 
      「ああ、あれは誰か生徒に貰ったって言ってたわよ」 
      「えぇ〜〜〜〜〜〜っっ!!」 
       思わず二人で大合唱をしてしまった。 
      「あ…そうですか。失礼しましたぁ」 
       お陰様で何だか状況が飲み込めないでいる三上先生を置いて、二人は国語科研究室を後にした。 
       一体誰がガッチャマンteacherに剣のポリンキーと稀のキットカットを渡してしまったのか。 
      「今日は厄日だぁ〜ッ!!ぜーはー…」 
       稀の空しい叫びが廊下に響く。
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