消えた部室の食料
Act.3 容疑者!

 天文部員にして創研部員。剣と同輩…確かに保はあやしい…と、3人が考えこんだ時、取り敢えず一通りの聞き込みを住ませた2人が捜査本部に戻って来た。
「はろー、何か判った?」
 紗羅は尋ねながら亜李沙のノートを覗き込んだ。何故天文部員の名前が書かれていたのがわからず、首をかしげていると、剣が天文ガイドを示した。
「部室にこんなのがあったんですよ。稀先輩じゃないですよね?」
「俺だったら表紙に埴輪が描いてあるだろ?」
……稀は自分の所有物に埴輪の落書きをしているのだ。
 と、そこでノートの『保』という文字が目に入った。
「あーっ!あいつかッ!許せん!とっちめてやるッ!」
 いきなり暴走しだしそうになる稀、だが。
「ちょっと待って!」
「……何だよ、紗羅」
「あやしいのはまだいると思うんだけど……」
 紗羅がそう言うと、蘭はぽん、と拳で掌を叩いて言った。
「あ、そうだ。天文部員、他にもまだいたんだし……」
 と、その時。稀の頭の中で、もっとも有力な容疑者の顔がぼん!と浮かんだ。
貴岐!こいつもあやしい!」
 言うが早いが急ぎ地学準備室へと向かった。天文部で保達の同輩の貴岐は大食漢で、天文部員でなくとも食い意地に関する噂はあまりに有名だ。稀と、追ってきた紗羅が準備室に入ると、そこには高弘先輩がいるだけで、貴岐はいないようだった。そのまま地学室へ移動すると、やはり誰も居ない。
「ふ〜……やっぱりあいつ等は物理の方か……」
 最近、新しくハム愛好会が設立され、そのメンバーに保、貴岐等が名を連ねている…つまり、さらなる掛け部。地学室にたむろしていない場合は、物理実験室の方でたむろしているので所在はすぐにわかるのだ。因みに、物理実験室は地学室のずっと奥にある…と言うより、北側の校舎2階は理科関係の実験室・講義室・研究室が並んでいるのだ。
 と、そこへ汰愛良現わる。
「あれ?稀さんに紗羅ちゃん」
 まったりと、何時ものマイペースで挨拶をする汰愛良に、紗羅が尋ねた。
「…汰良ちゃん、どこいってたの?」
「物理の部屋だよ」
「で、誰がいた?」
「んー…いつものメンバー」
 つまり……
「保や貴岐は居た?まさか肉まんなんか食ってなかったろーな?!」
 少々殺気だっているのだが、稀のこの状態は汰愛良と稀が共同作業をする時に、テンポの遅さ等で稀にかみつかれる時と一緒な為か、汰愛良は慣れてしまっているようである。
「えっ…んーと………ああ、保ねぇ。パン食べてジュース飲んでた」
「チっ…肉まんじゃないのか…」
 稀は指を鳴らした。
「でね、その隣で貴岐が『だー、腹減った!保!何かよこせーっ!!』って喚いてた」
「貴岐……あの鮪め……」
 貴岐は稀に『鮪』や『log(対数関数)』等、訳の判らないあだ名を付けられているのだ。そして貴岐は逆らえないのである。
「それでそれで、稀さん達と此処で4人で作業し終って出てってからすぐに貴岐が来て、拓少年達と何か話してすぐに帰ってったよ」
「ふーん……」
 毎度、汰愛良の話は最後まで聞ききらないと重要事項が変な処で現われてくる。短気な稀にはそれが苦手であった。
「あッ!」
 いきなり紗羅が声を上げた。
「…どったの、紗羅?」
「此処見てみ」
…と、紗羅が指差したるは地学室入口の『ごみ箱』。溜まりに溜まったごみの上には肉まんの紙が!!
「最近この部屋で肉まん食べてた人なんていなかったなぁ……」
 思い出す様に汰愛良が言う。既に稀の感情メーターが激怒方向に上昇した!
「たーかーきぃ〜〜〜〜〜ッッ!許さ〜〜〜〜〜んッッッ!!!」


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