消えた部室の食料
Act.2 捜査開始!

「やっぱり探偵の基本は聞き込みだよね」
 蘭のこの一言に、紗羅と稀は聞き込み捜査を始めることにした。
「じゃぁ、行ってきまーす!」
 明るく部屋を出た紗羅と稀は、まず近くからということで、図書室に入った。やはり受験を控えた秋口の図書室だけあって、3年生がうにろろ勉強している。物音を立てないように机の間を進んでいると、天文部の、稀より使えない癖に散々稀達に威張りちらしていた先輩の太郎がいるではないか。
あー、太郎先ぱーい
声にならない声で稀が声をかけた。突然声をかけられたので一瞬のけ反ったが起き上がり、
何、稀さん達、突然こんなところで何か用?
先輩、俺の肉まん食いませんでした?謝るなら今のうちですよ
稀、決めつけちゃ駄目だよ、いくら恨みがあっても。先輩、30分位前あなたは何処に居ました?
 太郎を前にして、これでもかなり平静を保っている稀を宥め、紗羅が尋ねる。
俺はずっと此処で勉強していたけど…
ずばり、それを証明できる人は?
みんな一生懸命勉強してるから気にしてないかもしれないけど、一応、この周りに居る人達かなぁ
紗羅、聞いてみる?
だけど今皆さん勉強中だからまずいでしょ。取り敢えずこの位で一時退散にしようよ
うん。じゃぁ、自首するなら今のうちですからね、先輩
「自首するもなにも、俺食ってないって」
2人は図書室を出た。

「うーん、太郎があやしい」
「稀、捜査に私情を入れないように」
「だけど、私情抜きにしてもあやしいよー、あいつは。はっきりしたアリバイもないし…」
二人は部室を通り過ぎて、次は天文部部室である地学準備室へ行こうとした時…
「あ〜〜、ガッチャマンteacherだー」
 その通り道にある国語科研究室に見覚えのある影を見つけたとき、二人はこう叫んでしまった。そう、創研とは仲良しで、何時も生徒にいいちこや豆腐、お菓子等を買いに行かせたり、よく研究室のおすそ分けを創研にくれた、今年教員からセンターに転任になった通称「ガッチャマン先生」こと漆原先生が久し振りに遊びに来ていたのであった。彼は国研のソファに座っていて、いいちこではなくお茶を飲んでいた。しばし話したあと、お菓子をもらって2人は国研を出た。
「いやー、今日はいい日だなー。久し振りにガッチャマンteacherに逢えたし…」
「おいら、肉まん食われたからいい日じゃない!」
 そして気を取り直して地学室へ。
「だけど此処の3人はずっと俺達と一緒にいたからシロと…あれ、龍樹が来た」
 ぶつぶつ言う稀の横で紗羅がポケットからメモ帳を取り出して"アリバイ成立"と書き込んだ時、本当に"あれ?"って感じでひょこっと龍樹が現われた。
「あれ、なんかあったの?」
 紗羅と稀が今迄の事を簡単に説明する。
「それ、見たかも知れない」
「えっ、どういうこと?」
 目がマジになる稀。
「教室からそこの廊下を歩いて来て、角を曲がったときに、創研の部室から肉まん持って出ていく人が見えたんだけど…」
「それでそれで?」
「それだけ」
「あ?」
 あっさりしている龍樹に稀はふぬけた表情になる。
「その犯人の人相とかは?」
 そこで改めて紗羅が問いだした。
「かなり遠くて、よく見えなかったから…」
「じゃぁ、肉まん持ってるのは何でわかったの?」
「光に反射して肉まんだけ白く光って見えたから…それに丁度その時肉まん食べたいなぁーって思っていたから…」
 頭をポリポリとかきながら答える龍樹。
「まぁいいか。これでとにかく外部から誰かが侵入したんだということはわかったし」
 紗羅は龍樹の証言をメモしながらつぶやいた。その時、稀が犬の様に鼻をくんくんさせながら叫んだ。
「その手に持ってる包み!もしかして〜〜!!!」
「その肉まん持った人見たら食べたくなって今買ってきたんだけど」
 龍樹が包みから出したのは、ほかほかの肉まんであった。
「ばげやろ〜〜〜〜!俺の肉まん…誰が食ったんだぁ〜!」
 稀は多いに悔しがった。

 その頃、部室では3人で手分けして犯人の手がかりにつながるものを探していた。
「ついでに部室の掃除もしちゃおうよ」
 蘭は本当にしっかり者である。亜李沙は問題の肉まんの入っていた袋をじっと見て何か考えている。剣は机の上の荷物をひとつひとつ調べている。
「このカラーインク誰のでしょうか?」
「多分、凛乃さんでしょう」
 こんな処でリッチにMyカラーインクを数十色も持ち込んでカラーイラストを描くのは、剣と同輩の凛乃しかいないのである。(みんな安上がりに水性サインペン水溶きカラーや、水彩絵の具、色鉛筆などでカラーを描いている…高校生お小遣いがないのだよ)
「で、これは部室ので…これは稀先輩ので……あ、天文部のガイドがなんでこんな処にあるんだ?昨日までは此処になかったのに…ねぇ本部長!」
 更紙印刷で、文化祭時に天文部員で作ってる「天文ガイド」が何故か此処にあるのだ。勿論、創研との掛け部である稀、汰愛良、拓のものである可能性もあるが、作った本人達故、彼等はとうに持ち帰っているのだ。
「それ、あやしい。何か手掛かりになるかも」
「じゃぁ、犯人は天文部関係者かなぁ」
 亜李沙はそう言いながらノートに天文部の人を思いつくだけあげてみた。
「拓くん、汰愛良さん、恵真さん、雄恵さん、高弘先輩、太郎先輩、それから保と…」
「一緒にいた3人は除外として…」
「恵真ちゃんと雄恵ちゃんはだいぶ前に帰ったよ」
 蘭が二人の名前を棒線で消した。残った名前を見ながら剣が言った。
「なんか保ってすごくあやしくない?何となくだけど」
「私もそんな気がする…」
 亜李沙も頷いた。


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