『オペラ座の怪人』東京公演(2006年2月

 京都公演の千秋楽以来、久しぶりに『オペラ座の怪人』を観賞しました。お気に入りのミュージカル作品は何回も繰り返し見るのが俺の通例ですが、『オペラ座の怪人』だけはその回数が群を抜いています。何度見てもせつなく、また観賞回数を重ねるごとにファントムにシンパシーを感じてしまいます。怪人にそんなものは感じたくないんですけどね…。

 さて、いつもながら今回イチバンの観劇目的は未見のキャスト。特に女優陣は前期の中都市公演やこの東京公演からキャスティングされた人も多く、興味は尽きません。そんなわけで今回の観劇記も初見のキャスト評と参りましょう。
 まず主役クリスティーヌは沼尾みゆきさん。舞台での第一声を聞いた時は、この作品の初演キャストである野村玲子さんそのものかと思いました。とても可憐で可愛らしい声の持ち主です。しかし最初のアリアに入ると、クラシックの発声に裏付けられた歌唱になり、野村さんとは根本的にそこが違うと気づかされます。また違うと言えば、見た目が全然違います。野村さんはあの美貌の持ち主。しかし沼尾さんのビジュアルは、遠目には松浦亜弥のモノマネをしている前田健がチラついて…。歌が抜群に上手いことはクリスティーヌ役の絶対条件だと思いますが、ファントムがその美しさゆえに憧れるクリスティーヌであるから美貌も重要。なのに劇団四季は時々『どっちが怪人なんだかわからないんですケドー?!』的な女優をこの役にキャスティングするから困りものです。

 続いてはマダム・ジリー。オペラ座に古くから従事するバレエ教師で、怪人の正体を唯一知っている人物。重要な役どころです。この役は1988年の初演以来、西島美子さんがおそらく何千回と演じて来られましたが、東京公演では一新。今回は戸田愛子さんという方でした。実際の年齢は知りませんが、見た目にまだ若いのがマダム・ジリーとしていかがなものか?と感じました。ちなみにオセロの松嶋を上品にした感じです。オペラ座のプリ・マドンナであるカルロッタ役は種子島美樹さん。京都公演でもこの役にキャスティングされていた方ですが、俺は一度も見ずじまいでした。そんなことで今回は期待して拝見しましたが、種子島さんは貫禄もあり、コミカル味もうまく出していて納得です。マダム・ジリーの娘で、クリスティーヌの友人メグ・ジリーには荒井香織さん。可もなく不可もなく、あまり印象には残っていません。ま、この役であまり突出した個性を出されても困りますが…。

 男性の主だった役どころで初見だったのは、クリスティーヌの恋人でありオペラ座のパトロンでもあるラウル子爵役・北澤裕輔さん。『ライオンキング』の主役・シンバを長く務めていた人で、俺もシーン写真などで度々目にしていた俳優です。シンバ役の写真では若々しくてカワイイなぁーと思っていたので、今回は楽しみにしていたのですが…実は結構オッサンくさい。そして立ち姿に品がない。ラウル役は若くてカッコよく、そして品があってエリートといった雰囲気が欲しいところですが、北澤さんは微妙です。やはりこの役はマルちゃんこと石丸幹二さんの独壇場ですね。この人こそもうええオッサンなんですが、あの風貌は永遠の子爵様かもしれません。

 こうして書き出すと今回のキャスト評はボロボロ(笑)。じゃあさぞかし楽しくない観劇だったのでしょうねぇ…と思われるかもしれませんが、実はそうでもない。キャストひとりひとりに難があっても飛びぬけてひどい人がいない限り、『オペラ座の怪人』は作品自体がミュージカルとして完成されているので、いつ見ても堪能できる舞台なのです。

 最後に今回は『オペラ座の怪人』を初めて電通四季劇場・海で見ましたが、1階後方席は劇団が発表している“見切れ席(舞台の一部が見えない席)”よりも数列前から“チョイ見きれ”になるようです。この劇場は構造的に二階席が低く、またかなり前にせり出しています。それゆえ二階席の下にあたる一階席は、後ろにいくにつれて舞台上部が見えなくなります。ただそれは特定のシーン以外でそれほど問題はありませんが、舞台全体、特に『オペラ座の怪人』の特筆すべき舞台美術を楽しみたい人にこの“見切れ”は難点となるでしょう。チケット購入時に注意が必要です。気になる人は劇団に問い合わせて、しつこく聞いてみて下さい。

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