『モーツァルト!』再演(名古屋公演) 3年ぶりの再演です。初演は3回観劇したものの、それ以降はCDを聞くくらいで舞台の詳細は結構忘れていました。CDは聞いていたので曲だとか台詞だとかは耳に馴染んでいたのですが、久しぶりに舞台を見ると「この曲って、こんな場面で歌っていたんだ…」と自分の記憶力の悪さを思い知らされる始末。と、そんな記憶の修正をしながらも再演の観劇というものは、結構余裕をもって落ち着いて見られるものでもあります。 しかし観劇に余裕も出てくると、このミュージカルのストーリーだとか構成、人物設定に何かと疑問も生まれて来ました。 たとえば主役のモーツァルト。舞台はもちろん彼の人生を描いていることに違いはないのでしょうが、モーツァルト自身がどんな人物であったのかは、見れば見るほどにわからなくなります。自分が綴った初演のレポートを読み返すと、「天才のことはわからない」としていますが実はそうではなくて、わかるように描かれていないのでは?と今回は疑問を感じました。ただひたすら自由でいたいわがままな男…と、そんな印象しか伝わってこないのですが、どうでしょうか? 物語の構成も実に入り組んでいて、初演で見づらい思いをしたのはそれが原因かもしれません。そして構成の複雑さは舞台美術が増長させている気もします。話はあっちに行ったりこっちに来たりする一方で、舞台美術は大きく何も変わらない。屋内であろうが屋外であろうが、ザルツブルグであろうがパリであろうがウィーンであろうが黒い箱のようなものが移動するだけ。シンプルすぎるセットは「すっきりしている」と言えなくもないが、今回は「なんて殺風景な」と感じてしまいました。 さて、再演では一部初演とは違ったキャストで観劇しましたので、そちらの印象を少し。まずヴォルフガング・モーツァルト役。今回初めて井上芳雄で見ました。初演で中川晃教の歌にブッ飛んでしまった自分には、全然物足りないモーツァルトでした。礼儀正しく良い子ちゃん風、金持ちのボンボン風のルックスが、まず役と合っていない印象。東京芸大声楽科卒の端正な歌唱も「お上手」という以外の印象はナシ。次にモーツァルトの妻・コンスタンツェ役の大塚ちひろ。初演は松たか子で見ましたが、芝居も歌も彼女に近いものを感じました。若いのにそこそこ実力を感じさせる女優ではあります。しかしながら松たか子に近いだけの立ち位置なら、松で見たかったというのが正直なところ。そしてヴァルトシュテッテン男爵夫人は一路真輝。初演は久世星佳で見たのですが、これは双方に違った良さがあって、キャスト違いの楽しさを堪能できました。最近の一路さんは『エリザベート』でも歌の辛さを感じさせましたが、今回もその印象は変わらず。しかしやはりこの人の持つ華やかさは何物にも代えがたく、特に今回のようにヨーロッパ貴族の役どころとなると、真打登場といってもいいでしょう。そう言えば18世紀ヨーロッパ独特の、あの白くて高さのあるカツラ。出演者一同を眺めてみても、一路さん以外はそうそう似合っていません。日本人の顔には似合わないシロモノですからね。にも関わらずそれを自分に馴染ませてしまうなんて、やはり七変化できる舞台女優だなぁと、俺はあらためて感心したのでした。 |