ミー&マイガール

演出=山田和也
作詞/脚本=L・アーサー・ローズ&
ダグラス・ファーバー
作曲=ノエル・ゲイ

ルビ吉観劇記録=1995年宝塚、2003年東京
2006年東京の観劇記はコチラ→★★★

【このミュージカルについて】
 初演は1937年ロンドン。意外にも古い作品で、途中で戦争のため休演などもしている。しかし千秋楽までに1646回というロングランを果たす大ヒット・ミュージカルであったようだ。再演は1985年のロンドン、続く86年のブロードウェイ。再演ではロンドンのオリヴィエ賞の作品賞や主演男優賞を、ブロードウェイではトニー賞の主演男優、主演女優、振付の各賞を獲得。
 日本では87年に宝塚で上演。主演のビルに剣幸、サリーにこだま愛。ジャッキーは、今回も同じ役を演じた涼風真世が努めている。また涼風真世は、役代わりでビルも演じた。95年には同じく宝塚公演として、ビルを天海祐希、サリーを麻乃佳世、ジャッキーを真琴つばさ、ジェラルドを姿月あさとがそれぞれ努めた。

【物語と感想】
※物語は「トピックス」を参照してください。

 7年半も上演を待ち望んだんです。客電が落ちて序曲が始まると、涙が出そうになりました。もう日本では見られない演目だと思っていたゆえ、何度もCDで聴いたメロディーの演奏が始まるとひとり感慨深い思いが込み上げてきて…嗚呼!(笑)。

 今回はミュージカルオフ会として2日間にわたり観劇。どちらの公演も舞台の出来栄えは同じくらい素晴らしいものでした。ただ客席は2日目のみオールスタンディングオべレーション。俺の経験上では千秋楽や初日以外でこういう状態を経験するのは初めて(『マンマ・ミーア!』は除く)。驚きました。終演後も鳴り止まぬ拍手で、カーテンコールも1日目より1回多い結果となりました。最後は指揮の塩田さんも超ノリノリで「もう1曲サービスしとくかー!」みたいな様子で、送りだしの演奏もワン・モア。いずれにしても2日間とも素晴らしい舞台に、観客もプレイヤーも幸せな気分を味わったのではないでしょうか。

 と、言うようにミュージカル『ミー&マイガール』は本当に良く出来たミュージカル。シンデレラ・ストーリー(←男版のね!)はわかりやすく、悪人が出てこず、そして明るく馴染みやすい音楽。そして緻密なコメディー。そう言えば笑いのシーンがあちこちに散りばめられてるので、オフ会のメンバーが「小ネタ集ですね」なんて言ってましたが、本当にその通り。その小ネタの数々は一見アドリブに見えたり、今回の東宝版だけでやってるのかと思えるのですが、驚くべきはオリジナルの本にきっちりと書かれている様子。家に帰ってから宝塚版のビデオを見直したところ、置物の甲冑に実は人間が入っていたというくだりも、ビルとマリアのやり取りで「アマリアちゃん」が登場するところも、執事がビルにコートを着せようとして二人でそのコートを羽織ってしまうところも、そのほか諸々すべてが宝塚版でもちゃんと演じられていたのでした。なんとよく出来た本なんでしょう!と俺などは今更ながら感心しました。

 オリジナルの素晴らしさは置いといて、今回の東宝版『ミー&マイガール』は唐沢寿明という適役を得て、より一層の魅力を持った舞台となりました。ビル役はコメディセンスが要求され、下町の荒くれぶりを演じながらも、伯爵の血を体に持った品位も漂わせなければならない。かなりの難役だと思います。今回のビル役は歌とダンスは評価できるものではなかったけれど、難しいであろう芝居部分はパーフェクトだと思いました。サリー役の木村佳乃もやはり歌とダンスはまるで駄目。しかしなんとも言えない新鮮味がありました。ふたりともミュージカル経験などあまりない役者であるものの、ミュージカルをなめることなく真面目に取り組んでる姿勢が伝わってきたのも好感が持てました。

 演出面では少しだけ物言いを…。まずマリア公爵夫人を含め貴族たちが、1930年代のイギリスの貴族とは言いがたいほど庶民的。特にマリア公爵夫人は、俺の近所にもいてそうな“ちょっとエエとこのオバハン”程度の気品しかない。衣装と立ち居振る舞いに、もっと優雅さが欲しかった気がします。ロンドン産でロンドンが舞台となっているミュージカルに『チャーリー・ガール』などがありますが、いずれも階級差が物語の骨子となっています。ドラマも笑いも正にその「階級差」という設定から生まれるのに、残念ながらその階級差は薄かったように思います。思うに下町っ子だからといって主役を汚く描けないのがミュージカルの宿命。ならば貴族をさらに貴族らしく描いておかないと、差が生まれない。みんな同一身分に見えてしまうのでは?と思ったりします。その点は宝塚版は完璧。貴族の優雅さも鼻持ちならなさも上手く描いていました。貴族と下町っ子では言葉も通じない様子をおかしく描いてたし、最終場で貴族の娘らしく現れるサリーなどは「さっきまでのサリーはなんやったん?」と言いたくなるくらいのギャップを以って高貴に描く徹底ぶりでした。
 ま、思うところはほかにもないわけではありませんが、トータルとしては十分満足。役者を考えれば、東京以外での再演は望めそうにもありませんが、今後も何度でも見たいミュージカルで、早くも2003年のナンバーワン作品となりそうな勢いなのでした。

※この舞台はほぼ完売になっています。作品を是非とも見たい人は、宝塚の天海祐希主演版ビデオでもそれなりに楽しめると思います。宝塚が演っているということを除けば、ほぼ同じ内容です。むしろこちらは70人以上の出演者ですから、群舞シーンなどは大迫力!二幕一場などは東宝版の2倍の人数でタップを踏んでるから驚き!宝塚のホームページから通販で買えるようです。商品番号=TCAV-6

【ルビ吉の気に入ったナンバー】
基本的に全曲とも気に入ってます。

ミー&マイガール…ビルとサリーによって一幕中ほどで歌われるタイトル・ナンバー。今回は二人のダンス力を考慮して、タップのバリエーションがかなり減らされてますが、それでも本当に楽しい場面です。
イングリッシュ・ジェントルマン…ヘアフォード家の召使たちが「新しい伯爵(ビル)は下品で粗野で、本当の貴族になどなりえない」と嘆きます。場面は召使たちの群舞ですが、キッチンでのシーンであるため、キッチン用品をパーカッションに取り入れた音的にも楽しいシーンです。また怒りと嘆きを群舞で表現するのも新鮮で楽しい。
ランベス・ウォーク…パーティーでビルは貴族たちに「俺がアンタたちと一緒に暮らすことなんて、最初から無理な話だったんだ」とランベスに帰ることを告げる。そして「俺がメイフェアの歩き方が出来ないように、アンタらにはランベスの歩き方が出来ないのさ」と言う。一幕の最終場であり、全編で最大の見せ場。主だった出演者がランベス・ウォークのダンスで客席を回る。今回はオケピが舞台の高さまでせり上がって来て、まるでコンサートのような盛り上がりでした。
熱いアイツがやってきた…最高に盛り上がった一幕最終場を受けて、二幕の一場はタップの群舞でスタートします。舞台花道にまで広がってのタップは圧巻。オリジナルでこの歌はジェラルド役だけがソロ・パートを持っているのですが、今回はジャッキー役の涼風真世にもソロ・パートを渡していて新鮮でした。ただ単に涼風真世という女優に気を遣っただけ?
ヘアフォードの歴史…マリア公爵夫人の見せ場。書斎でヘアフォードの歴史を勉強しているビルのもとに訪れたマリア。チンタラしているビルに毅然とした態度で、貴族の義務について語る。メロディーラインは荘厳なのに歴代のヘアフォードたちが霊として(?)肖像画から蘇って来て、なんとタップを踏み出したりパレードをするという楽しい場面。

【ルビ吉の俳優雑感】
唐沢寿明(ビル)…作品を知る者は誰もが適役と思うのではないでしょうか?素晴らしかったです。それ以上に語ることなし。
木村佳乃(サリー)…キャスト発表されてからは、ミュージカル・ファンの間では「なぜ彼女が…?」という疑問で話題でした。なんせサリー役はタップもあるし、何といってもソロ・ナンバーが多い。木村佳乃にそれらが出来るのか?…結果としては出来てませんでした(笑)。でも好感が持てたのは、彼女がサリーの役どころをよく理解して、二時間半の間、サリーを演じきれたからでしょう。タップもなんともキビのないフラフラしたものでしたが、一応は形になってました。一から始めたのなら、相当な努力をしたのでしょう。
涼風真世(ジャッキー)…日本公演初演、つまり宝塚初演でもジャッキーを演じているかなめちゃん。玉の輿志向の強い女としてイヤな部分と、それでいてチャーミングな部分を上手く出していましたね。ランベスウォークのシーンでは、俺の前方2メートルくらいの距離まで来てくれたのですが、なんて可愛い!!!!!!!!!!!!!!
あまりの可愛さに、俺も思わずノンケになりそうでした(笑)。
本間憲一(ジェラルド)
…ジェラルド役はいわゆる“バカなお坊ちゃま”。この人は合っていますね。合っているはずなんだけど、衣装がよくないのかしゃべり方がよくないのか、何かやぼったかった。タップの名手なので、二幕一場ではさすがでした。
初風諄(マリア公爵夫人)…初風さんは『エリザベート』『チャーリー・ガール』と続いて、貴族役としての出演。なのに上に書いたようにオバハン風情。これは絶対に衣装が野暮ったいのと、話し方の問題だと思います。演出家が悪い!
村井国夫(ジョン卿)…ま、いつもの村井さんって感じで(笑)。俺はこの人をアチコチで見すぎて、もう見飽きました。どうでもいい話だけど、オフ会メンバーの中に村井国夫がイケるという人がいてビックリ!(笑)
武岡淳一(パーチェスター弁護士)…このミュージカルにわざわざコメディー・リリーフなど必要なのか?!って気もしますが、パーチェスターはそういう役どころ。武岡さんを意識して観たのは初めてですが、なかなかいい持ち味の役者です。調子のいいパーチェスターを軽やかに演じてました。東京壱組の役者さんだそうです。

こうして見ると最後の武岡さんも含めて、全体にキャスティングの上手さが際立ってますね。



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