イーストウィックの魔女たち


原作=ジョン・アップダイク(小説)
    ワーナー・ブラザース(映画)
演出=山田和也
脚本・作詞=ジョン・デンプセイ
作曲=ダナ・P・ロウ

ルビ吉観劇記録=2003年(東京)
2005年(福岡) ※福岡公演の観劇記→★★★

【このミュージカルについて】
 『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『オペラ座の怪人』をはじめとする多くのミュージカルを生み出してきた、キャメロン・マッキントッシュ。彼が2000年にロンドンで発表したミュージカル。今回は日本オリジナルの演出で上演。日本では1987年に公開された、ジャック・ニコルソン主演の映画がお馴染み。

【物語】
 小さな田舎町、イーストウィック・タウン。住人たちは保守的で不必要にモラルが大好き。そこに住む“アバズレ”と呼ばれる三人の女。バツイチの彫刻家アレクサンドラ(一路真輝)、夫がゲイであることが発覚し別居中の音楽教師ジェーン(涼風真世)、町の新聞社に勤める不倫中のスーキー(森公美子)。30代も終盤に差しかかる彼女たちは、体の欲求不満が募る日々を送っていた。しかしこんな田舎町にイイ男などいない。そして体の衰えは待ってはくれない。
「私たち、このままでいいの?!」
 そこに突如現われたのは正体不明の男ダリル(陣内孝則)。巧みな話術、セックスアピール、オマケに魔術まで使って彼女たちに近づいてゆく。三人が彼の虜になるのに、時間はかからなかった。セックスの悩みも解消、生活にも仕事にも張りが出て、自分がどんどん自由へと解き放たれていくことを実感する。
 しかし町はそんな彼女たちの噂でもちきり。この町の“モラルの権化”であり新聞社のオーナーでもあるフェリシア・ガブリエル(大浦みずき)はもう我慢できない。自分の夫はスーキーと不倫中だわ、娘がアレクサンドラの息子に思いを寄せているわで、そもそもが気に入らないことだらけ。“清く正しい”町の住人たちと、ダリルたちを糾弾しようと画策するが、なんと!夫ともどもダリルに殺されてしまう。

 さすがのアレクサンドラたちも恐ろしくなり、殺人には激しく抗議する。しかし耳を貸さないダリルは、次にフェリシアの娘ジェニファーに近づく。すっかり現実に目が覚めた三人は、ダリルと闘うことを決意するのであった。
【観劇記】
なかなか楽しかったです。よく出来た作品だと思いました。今回は「ミュージカル・オフ会」を開いて皆さんで鑑賞したのですが、参加者の評判も上々。話を聞いているとそれぞれに楽しめるポイントがあったようです。

作品の魅力はまずストーリーに感じます。ミュージカルにしては妙に現実くさく人間くさいところが新鮮。受け取り方は人それぞれだと思いますが、結末に(作者の?)メッセージらしきものも感じさせられます。そんなところも◎でした。
音楽はオープニングの「EASTWICK KNOWS」、、フライングシーンの「I WISH I MAY」などがとてもミュージカルらしいナンバーで印象に残りました。他のナンバーも鑑賞に値するものばかり。しかし全体的な印象としては難しい曲が多く、初見ではあまり頭に入らなかったのが残念でした。
装置は今回の売りのひとつでしたが、これは本当に素晴らしかった。松井るみさんの装置はいつも話題性がありますが、今回は特に秀でているのではないでしょうか?
女体をモチーフにしたセットが場面場面で姿を変えていきます。時には部屋になったり、時にはテニスコートになったり、イーストウィックの町そのものになったり。抽象的すぎず具体的すぎず、客には適度なイマジネーションを要求する程度にとどまった遊びが上手いなぁーと、俺などは感心してしまいました。
さて、今回の話題ナンバー1のフライング・シーン。これもとても良かったです。決してフライング方法が目新しいということはありません。記者会見では「これまでのフライングとは違う」と演出家は言っておりましたが、一般人の俺たちにはその違いはよくわからないでしょう。しかしフライングを予感させる場面に突入して、実際にアレクサンドラたちが宙に舞うまでの筋書きがよく出来ていると思いました。魔術によって飛ばせてもらうんだけれど、彼女たちの気持ちの象徴としてフライングがあるわけですね。音楽がいいということもあって、俺はひとりでジーンと来るほど良かったです。

と、いいことづくめのミュージカルですが、俺の不満があるとすれば二幕の展開。一幕は三人の女たちが悩みから解き放たれるまでを、最後はフライングをもって効果的に見せるのですが、話が急展開しだす二幕はかなりドタバタ。一幕であれだけダリルに強く惹きつけられた女たちが、最終的にはダリルと闘う立場を取る心境の変化が、理屈で理解できても、展開が速すぎて気持ちがついて行けません。まぁ、こういうことは三時間前後で収めるミュージカルには、よくあるケース。しかし見ていて必要ないと思うシーンもありました。省くところと膨らませるところをバランスよくメリハリつけてくれたら…と思うのですが。

最後に役者陣ですが、アンサンブルも含めてほとんどがベスト・キャストでしょう。ただひとりだけ、猛烈に×です。ダリルの召使フィデル役。ひとことも言葉を発さずに芝居をする、難しい役でもあり美味しい役どころだと思うのですが、今回の及川健はまるでダメ。中性的で美しい顔立ちで線の細い彼に対しては、キャスト発表された時から俺は「違う!」と思っていました。実際に舞台を見たら、目障り以外の何者でもない。予感的中。←及川さん自身が役者としてダメだと言ってるわけではありませんので、ファンの方はどうかご理解のほどを…。

【役者の感想】
陣内孝則=ダリル
陣内さんってテレビ俳優のイメージで「舞台ではどうなの?」と思ってましたが、帝劇という大きな劇場をちゃんと使い切れる人でした。それにしても陣内さんって、こういうクセのある役が上手いですね。もう少し不気味さが増しててもよかったかも…です。

一路真輝=アレクサンドラ
下半身が乾いてるとはとても思えないほど、美しく華やかなアレクサンドラでした(笑)。映画のアレクサンドラとは大違いです。それにしても一路さんって母親役が多い。宝塚を退団してから5本目のミュージカルだと思いますが、『王様と私』『エリザベート』『イーストウィック』は完全に母親であり、しかも息子がひとりという役どころ。『南太平洋』でも最終的には母親になります。そんなこともあってか、今回も自然に母親の顔を見せているなぁーと感心してしまいました。

涼風真世=ジェーン
かなめちゃん(=涼風さん)は今回も可愛かった!と、それは置いといて…。
この人は台詞の時と歌の時では声が変わる人なんですが、今回はそれを感じませんでした。直されたのでしょうか?歌は相変わらず上手いです。

森公美子=スーキー
人前で上手くしゃべれないスーキー。テレビで見る森さんとは正反対のキャラクターなのに、上手く演じきってました。スーキーの歌う『WORDS,WORDS,WORDS』という歌はかなり難しそうな曲でしたが、やはり森さんは上手いですねー。安心して聞けるし、楽しめます。

大浦みずき=フェリシア・ガブリエル
もう、サイコーでした!頭の固いイケズなおばはんの役なんですが、大浦さんは成りきり度100%で、俺は個人的にツボにはまってしまった。フェリシアは最初から最後までずーっと怒っているんですが、途中の群舞のシーンでも怒った表情を崩さずに踊ってるなんて本当に笑えます。それと大浦さんはダンスの名手としても有名ですが、ちょこっと動く程度のダンスでも他の人とは大違い。手や足の動きが滑らかであったりキビキビしていたり、全身のラインの作り方も美しい。ブレヒトの『三文オペラ』の大浦さんも好きでしたが、俺は今回でまたまたファンになってしまいました。

新納(にいろ)慎也=マイケル
アレクサンドラの息子で、フェリシアの娘の彼氏であるマイケル。もともとNiroという名前で『エリザベート』のトート・ダンサーをやっていた人なので、ずっとダンサーかと思ってました。芝居も出来るんですね。今回は美しい上半身も露に、腰を前後にくねらせて悩ましいダンスを披露してくれました。オトコマエでもないのですが、めっちゃセクシー。「アリかナシか」と聞かれれば、俺は断然「アリ」です。←って、何が?(笑)別に聞かれないし。


モドル