クレイジー・フォー・ユー

演出=マイク・オクレント/浅利慶太
振付=スーザン・ストローマン
作詞/作曲=ジョージ・ガーシュイン、
アイラ・ガーシュイン

ルビ吉観劇記録=1993年4月〜2003年2月まで
大阪、東京、福岡、奈良、ニューヨークなど
2006年(京都)※京都公演の観劇記はコチラ→★★★
【このミュージカルについて】
 初演は1992年ブロードウェイ。当時のブロードウェイは『キャッツ』『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』といったロンドン・ミュージカルが席巻していた。そんななか突如として現れた超ステキなアメリカン・ミュージカル。ニューヨークのショービズ界もこれにより活気づいたという。
 このミュージカルには元ネタがあって、1930年代に発表された『ガール・クレイジー』がそれ。今となってはかろうじて見つけた映画のVTRとCDでしか知る由もありませんが、音楽はさておいても、ダンスも何も『クレイジー・フォー・ユー』と肩を並べられるシロモノではありませんでした。

【物語と感想】
 銀行の跡取息子であるボビーは、親の反対もそっのけでダンスに夢中。今夜も劇場に入り浸って、自分のダンスを売り込んでいる。そんなふがいない息子に業を煮やした母親は、ボビーをショービジネスから遠ざけるべく、田舎町のデッドロックに物件の差し押さえに行くよう命じる。その田舎町で待っていたのは、のどかな風景と潰れかけの劇場、そして気の強い娘ポリーであった。
 ポリーにひと目ぼれしてしまったボビーは何とか彼女の気を引こうとするが、都会のヤワな坊ちゃんとして軽くあしらわれる。しかし彼女の父が経営する潰れかけの劇場を建て直すことを請け負い、ついには口から出任せでニューヨークの大興行主ベラ・ザングラーをここに連れてくると約束することで、ポリーの気持ちを掴む。
「ありがとう。そう言えば私たち自己紹介もしていなかったわね。私はポリー」
「僕はボビー。ボビー・チャイルド」
「ボビー…。じゃあアナタがこの劇場を差し押さえに来た銀行家なの?すぐに私の前から消えて!」
親しくなれたのも束の間、ボビーは一気に憎まれるべき存在に。とにかく今は約束したことを実行するしかない。それで再び彼女の信頼を取り戻そうとするが、ボビーごときにベラ・ザングラーを動かせるワケもない。
 やがてデッド・ロックに現れたのは、ボビーの友人たちのニューヨークのショーガールたちと、ベラになりすましたボビー。今度はポリーがベラにひと目ぼれしてしまう。そしてついにはショーガールのテスを追いかけて、本物のベラ・ザングラーもデッド・ロックに来てしまう。ついでにボビーの婚約者アイリーンまでもがこの町に来てしまい…。
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 物語は単純な“ボーイ・ミーツ・ガール”もの。でもとにかく楽しいです。次が読める展開であったとしても、台詞回しから音楽まで、その緩急が絶妙なバランスで観る者を本当にハッピーにしてくれる作品。俺はもう20回は観ているんだけど、やはり観るたびに気持ちがウキウキさせられます。
 ストーリーのこうした展開も楽しいんだけど、素晴らしいのはまずガーシュインの音楽。俺が最も好きなソングライターです。彼の作る、垢抜けていてそれでいて気取りのないこのメロディーラインに俺はもうメロメロ。ジャズのCDでも、コレクションと言えるほど買い集めてます。『クレイジー・フォー・ユー』ではそんな彼の音楽が、ジャズとはまた違う形で味わえます。
 『クレイジー』のもうひとつの魅力は、スーザン・ストローマンの振付。特に小道具を使った振付には驚かされます。電話、車、ロープ、トンカチ、ノコギリ、盆、トタン…ありとあらゆるものがダンスに組み込まれていく様は、この作品でしかお目にかかったことがありません。
 しかしこのミュージカルの魅力を色々と列挙したところで、何がどう楽しいかを言葉で表すことが、この作品は本当に難しいのが本音です。このレビューを読んでる時に上演中なら、是非とも劇場に出かけて下さい。客席に身を置いてショーを見てもらったら、何がどう楽しいかが体感できると思います。

【ルビ吉の気に入ったナンバー】
基本的に全曲とも気に入ってます。
まぁ、シーンと併せてお気に入りと言えば…
Girls Enter Nevada…ボビーに頼まれたショーガールたちがデッド・ロックに登場するシーン。都会に疲れた女達が「この風景もここの男たちも気に入った」「もう東部に用はない」と歌います。
Slap that bass…劇場を建て直すためにショーを作ることになったポリーたち。偽ベラ・ザングラーの指揮のもと、その練習に余念がない。この曲はそのショーのナンバー。ロープと女性ダンサーでベースに見立て、男達がそれを弾くというフリがナイス・アイデア!
I got rhythm…『クレイジー・フォー・ユー』の最大のダンス・ナンバーであり最高の見せ場。一幕最終場で登場します。詳細はネタバレになるので控えましょう。この曲自体は、タイトルを知らなくても聞いたことのある人が多数では?最近では渡部篤郎と村上里佳子の車のCMで使われていました。
But not for me…ジャズのスタンダードナンバーとしては、かなり有名ですね。韻を踏んだ歌詞はガーシュインのナンバーでは当たり前のように登場するんですが、この曲は特に多いような気がします。日本語詞もやや無理があるものの上手く訳してるのでは…?
Nice work if you can get it…これもジャズナンバーとしてよく聞きます。このミュージカルは一幕の最初とニ幕の最後近くで、ボビーの頭の中の(?)イメージ世界が描かれます。こちらは後半の方で、ポリーに本心を伝えられずニューヨークに帰ってきたボビーに、想像上の女の子たちが「お金や名声が必ずしも人を幸せにする保証はないわ」「男がひとりの女を愛することも本当の喜びでしょう?」と問いかける。そしてボビーは「nice work if you can get it(それが出来たら素晴らしいね)」と答える。そんな掛け合いの歌で、メロディーともども俺は大好きです。

【ルビ吉の俳優雑感】
荒川 務(ボビー)…初演以来、ボビーは加藤敬二かこの人。今はほとんど荒川務が演じていると思います。以前はややデブってた体型も今はスッキリして、好演。でももうそろそろ飽きてきたキャストかな…。俺は三代目ボビーの田邊真也くんに期待を寄せてます。
濱田めぐみ(ポリー)…ポリー役は保坂知寿がダントツ出演回数が多いはず。さすがに上手いのは上手いんですが、彼女ばかりでも飽きが来るというもの。そんな中、俺は今回はじめて濱田ポリーを見られました。出来映えは…微妙(笑)。歌は上手だけれど、やや力がありすぎ。演技も全体に勢いが強くて、もう少しメリハリが欲しいように思いました。でも彼女のおかげで、『クレイジー』も新鮮に観られたのでした。
八重沢真美(アイリーン)…今回の掘り出し物はアイリーン。四季は出戻りの八重沢さん。初めて観たのですが、緩急ついた芝居がいいなぁと思った。
坂本里咲(テス)
…ショーガールのリーダー的存在のテス。坂本さんには合ってる気もするが、妙に優等生的キャラが立ってて、「リーダーと言ってもアンタもショーガールやねんからもう少し色気とかハスッパな匂いがあってもええやん!」と。