赤毛のアン

演出=浅利慶太
作曲=ノーマン・キャンベル
作詞=ドナルド・ハーロン/ノーマン・キャンベル
原作=ルーシー・M・モンゴメリー
ルビ吉観劇記録=2002年(大阪)
2008年(京都)→観劇記はコチラ
【このミュージカルについて】
 原作は言うまでもなく、モンゴメリーの小説『赤毛のアン』です。世界中の少女たちに愛され続け、今では15ヶ国語に翻訳されているそうです。日本ではちょうど50年前に初めて紹介されました。日本だけでも700万部を超える出版数。今もその数は伸び続けているという、まさしく名作中の名作。
 ミュージカルの初演は1965年。アンの故郷でもあるカナダのプリンスエドワード島で、初めて上演されました。日本にはその15年後、1980年に劇団四季によって幕を開けました。初演のアンは久野綾希子。再演から今日までは、四季の看板女優・野村玲子の持ち役となっているようです。
【物語と感想】
 年老いたマシューとその妹マリラは、グリーンゲイブルズという田舎で暮らしている。畑仕事にそろそろ支障をきたす兄マシューのために、孤児院から男の子をもらうことになった。しかし何かの手違いで、やってきたのは女の子。名前はアン。赤毛でそばかすだらけの、決して美人とは言えない女の子であった。おしゃべりで大袈裟、空想好き、おまけに癇癪持ち。最初からアンの魅力に引かれた兄マシューとは違い、敬虔なクリスチャンで規律と質素を美徳とするマリラには、アンがなかなか理解出来ない。グリーンゲイブルズの他の大人たちも、こんな変わった女の子を見たことがない。しかし、生まれた時から孤児で誰からの愛情も受けたことがないというのに、豊かな想像力で毎日楽しく元気に暮らすアンの姿に、やがて大人たちも心ほどかされていく。

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 正直なところ、この小説自体に何の魅力も感じていませんでした。読んだことすらないし。しかし舞台を見終わって、この物語が多くの人に愛される理由がわかったように思います。キャラクターを魅力的に描くことは、よくあることです。しかしこれだけ巧妙で、それでいてさりげなく魅力を感じさせるキャラクター設定は、そうそうあるものじゃありませんね。孤児の女の子が健気に明るいという、単純な設定ではないのですね。ただの天真爛漫でもない。自分を守るための計算高さも覗かせるし、癇癪持ちだし言葉が多くて鬱陶しいところもある。ただとにかく自然。不自然さのない自然さ、とでも言いますか…。それが痛快に回りの者たちに影響を与えていくのです。
 そしてその周りの者たちも魅力的な人たちでいっぱい。噂好きなグリーンゲイブルスの大人たち。アンと腹心の友となるダイアナ。孤児であるアンと接するとき何が大切かをちゃんと娘に教える、ダイアナの母親バリー夫人。自然の素晴らしさをアンたちに教えるステイシー先生。いち早くアンの魅力に気づくマシュー、頑固で素直に気持ちを伝えられないけどアンが大好きになるマリラ。
 
 舞台の方は、この魅力的な役柄を実にわかりやすく楽しく伝える役者が揃っています。今回は熟練した役者のおかげで、音楽やダンス、舞台美術などにさておいて、まずはしっかりとした芝居が楽しめたという印象です。音楽もほとんどが初めて聞く曲ばかりでしたが、馴染みやすいメロディーが多く、場面場面に華を添えます。それらを歌う役者たちは一部を除き、決して上手いとは言えません。しかしそれがまったく気にならないのです。それはきっと観賞が音楽にたよっていないからなのでしょう。
 ダンスはこれといって見せ場がないのですが、全体的にかわいい感じのダンスを見せてくれます。

 いずれにしても、俺の評価はかなり高いです。大型ミュージカルのように華やかさはないけれど、暖かい温度で気持ちを包んでくれます。テレビや映画などの映像では、決して感じることのできない温度です。
日々のストレスで心がすさんだ時、ひとり静かに観に行くのもいいかも知れません。
【ルビ吉の俳優雑感】
野村玲子(アン・シャーリー)…確かお年の方もかなりイッちゃってると思いますが、何なんでしょう、この自然なハマり方は。アンそのものに見えてしまうのは、やはりこの人の芝居心でしょうか。もともとあまり好きではない女優なんですが、この作品では絶品です。因みに歌は、かつて歌姫として劇団で名をはせた面影は今はありません。高音部の辛さは、ファンならずとも「酷使しすぎ?」と心配になりました。
日下武史(マシュー・カスバート)…さすがに動きに緊張感はないし、声にもハリがない。だってもう60代も後半の役者だもん。それでも存在感はさすがだし、役になりきる様は観る者に感動を与えます。マシューは最後に亡くなるのですが、本当に死んだのかと思うほど(不謹慎?)の演技で涙を誘いました。
末次美沙緒(マリラ・カスバート)…お母さん役の多い、末次さん。今回も素晴らしかった。無表情で言葉少なく、ぶっきらぼう。そういう設定は変わらないのに、アンに対して「鬱陶しい存在」から「愛しい存在」へと気持ちが変化する様を観客に見せるのは難しいはず。でも末次さんは見事にそれを伝えました。ホント、うまいなぁ…。
五東由衣(ステイシー先生)
…この人の声は美しいだけでなく、豊かな暖かさがあります。そういう意味ではアンたち生徒に惜しみない愛情を注ぐ、ステイシー先生の役はピッタリでした。『オペラ座の怪人』のクリスティーヌでは気になった、目の下の隈も、ステイシー先生なら問題ナシ(笑)。