東林の総長老に贈る

<原文語釈>

廣長舌   仏の面相の一。釈尊の舌は広く長く、髪のはえぎわまでとどくと言われている。

その舌で語る説法の功徳が広く及ぶためである。

清淨身    仏教の用語で、すべての悪業から遠ざかり煩悩の汚れから離れた身体を言う。

八萬四千偈    無数の偈(ゲ)。「八万四千」はきわめて数の多いこと。

「偈」は、仏法を述べたり仏の徳を讃えたりする韻文。

如何擧似人    どのようにして他の人々にさし示したらよいだろう。

<解釈>

谷川の水音は、とりもなおさず法を説かれる釈尊(シャクソン)の声であり、廬山(ロザン)の姿は、仏の清浄な御身に他ならない。

 <出典>

 北宋、蘇軾(ソショク)(字(アザナ)は子瞻(シセン)、号は東坡(トウバ) 1036―1101)の「東林の総長老に贈る」(贈東林總長老)詩。七言絶句の一・二句目。『蘇文忠公詩合註』巻二十三による。山陽詩鈔

<解説>

元豊七年(1084)四月、廬山(江西省北部にある名山。仏教の霊場でもある。)の東林禅寺に常総長老(ジョウソウチョウロウ)をたずねて作った詩。谷間の水の音、山々の姿、それらすべてが仏そのものであり、真理そのものである。それらの他に、この自然に遍満する真理を説明する言葉――日常的な概念に縛られた言語――が、はたして存在するだろうか。(安藤信広)

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