対酒

<解釈>

 かたつむりの角の上のような小さな世界で、どうしてつまらない争いをするのか。火打ち石の火花が光るくらいの短い間だけ、この体をあずけているにすぎないのに。

<出典>

 唐、白居易(ハクキョイ)(字(アザナ)は楽天(ラクテン) 772―846)の「酒に対す」(對酒)と題する七言絶句の第一・二句。五首の連作の第二首。『白氏文集(ハクシモンジュウ)』巻五十六。

白氏文集

はくしもんじゅう

 唐の白居易(ハクキョイ)(772―846)の詩文集。七十一巻。『白氏長慶集(前集)』五十巻、『後集』二十巻、『続集』一巻を総称して呼ぶ。白居易の最初の作品集は、長慶四年(824)、友人の元_(ゲンシン)が編集した『白氏長慶集』五十巻だが、以後、白居易は自らの手で作品の編集を重ね、会昌五年(845)に、『長慶集』五十巻、『後集』二十巻、『続後集』五巻で構成された『白氏文集』七十五巻を完成させた。日本の元和四年(1618)、明の万暦四十六年、那波活所(ナワカッショ)(字(アザナ)は道円(ドウエン))が朝鮮活字本に基づいて刊行したテキスト(七十一巻。四部叢刊に収められる)が、オリジナルな『白氏文集』の編集形式を伝えるものと言われる。一方、詩と文を分けて編集した『白氏文集』七十一巻が、南宋の紹興(1131―1162)年間に刊行され、明の万暦三十四年(1606)には、馬元調(バゲンチョウ)が紹興本に基づき『白氏長慶集』七十一巻を刊行した。その他、詩だけを収めたテキスト、清の康煕四十一年(1702)、汪立名(オウリツメイ)の編集した『白香山詩集』四十巻(四部備要に収められる)がある。(松本 肇) 

<解説>

 人生無常の感慨と飲酒の楽しみを詠じた詩。

 「蝸牛角」は、かたつむりの角。小さな場所を言う。かたつむりの左の角の上にある触氏の国と、右の角の上にある蛮氏の国とが領地をめぐって戦争し、数万の戦死者が出たという話が『荘子』の「則陽」篇に見える。「蝸牛角上争」とは、つまらない争いのたとえ。「石火光」は、石を打ち合わせるときに出る火花で、極めて短い時間のたとえ。

 人間は永遠の大宇宙から見れば、限られた小さな空間の中で、短い一瞬の時間しか生きることができない。こうした無常感が、飲酒の快楽を合理化する根拠となっているのだ。『和漢朗詠集(ワカンロウエイシュウ)』巻下(無常)に引かれる。(松本 肇)

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