偶感
<原文語釈>
*1丈夫 男児。
*2玉碎 玉となって砕けること。その死のみごとさを言う。
*3甎全 なすこともなく生き長らえること。「瓦全」と同じ。
*4一家遺事 わが家の遺訓。「我家遺法」となっている本もある。
<解釈>

 わが一家の遺訓を、世間の人々は知っているかどうか。児孫のためにりっぱな田畑を買い求めておくようなことはしないということだ。

<出典>

 明治、西郷隆盛(サイゴウタカモリ)(号は南洲(ナンシュウ) 1827―1877)の「偶成(グウセイ)」と題する七言絶句。『大西郷全集』。

大西郷全集
だいさいごうぜんしゅう

明治、西郷隆盛(サイゴウタカモリ)(号は南洲(ナンシュウ) 1827―1877)の書簡、建言、遺訓、伝記、詩歌などを収めた全集。全三巻。大正十五年から昭和二年にかけて同全集刊行会から発行された。漢詩は百三十六首が収録されている。隆盛は漢詩の指導を児玉天雨、海江田彦之丞などから受けたといわれる。(野地安伯)

 

<解説>

 西郷隆盛がぜいたくを好まなかったことは、多くの書物が伝えているところである。

 『大西郷全集』の編者は、「隆盛は実にこの言を実行された。朝廷より賜った賞典禄の如(ゴト)きも一般子弟教育のために寄付してすこしも一家のために費はれなかった。」と記している。

西郷は名君の誉れ高い島津斉彬(シマヅナリアキラ)に心服して仕えていたが、斉彬の死後、次の藩主島津久光とは折り合い悪く、ある時期には沖永良部島に流されたこともある。この詩の初二句は、そうした苦難をくぐりぬけてきた者のみが発しうる言葉である。(野地安伯)

西郷南州先生 ここに眠る
西郷隆盛の墓
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