九月十三夜

<原文語釈>

*1三更 午前零時頃。夜半に当たる。 

*2越山 越後(エチゴ)・越中(エッチュウ)(今の新潟県・富山県地方)の地。 

*3能州 能登(ノト)の国。 

*4遮莫 そのままにまかせよう。ままよ。

<解釈>

 霜は白々と陣営に満ち満ちて、秋の気は清く澄みわたっている。この夜空を幾列かの雁(カリ)が渡り、夜半の月が皓々(コウコウ)と照りさえている。

<出典>

 戦国、上杉謙信(ウエスギケンシン)(1530―1578)の「九月十三夜」と題する七言絶句。『日本外史』巻十一。

日本外史

にほんがいし

 江戸、頼山陽(ライサンヨウ)(名は襄(ノボル) 1780―1832)の著した歴史書。二十二巻。平氏、源氏の争いから徳川氏までの武家の歴史を人物中心に記したもの。『史記』の体裁にならって、紀伝体に準ずる形式で筆を進め、各巻の初めと終わりに、論賛の文を付している。内容は『源平盛衰記』や『太平記』などの軍記物語を踏まえて記述されている。文章はわりあいに平明で、時に詩的でさえある。かつて、幕末から明治の時代に、この史書がおびただしい読者をもったということも、うなずけるものである。(野地安伯)

<解説>

 天正二年(1574あるいは天正五年)、上杉謙信は能登七尾城(ノトナナオジョウ)を攻略した。おりしも九月十三夜の月色明らかな中に、陣中で酒宴を催し、その席上この詩を作ったという。七尾城落城は九月十五日のことで、これは勝ちいくさを目前にした謙信の得意の胸中を詠じた作品である。歯切れよく引き締まったこの句は、軍営のふんいきを表してみごとである。 この詩の語句の一部が諸本少しずつ異なるが、ここでは、『日本外史』のものに従った。(野地安伯)

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