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冥王星に接近する艦影があった。 タイタンから帰投中のアンスガー艦隊だった。
出撃時は23隻に及ぶ大艦隊だったが、今や7隻となってしまった。
うち2隻は満身創痍の状態だった。
アンスガーは既にリュディガーに対し報告を行っていたが、
リュディガーは出頭を命じていた。 「リュディガー将軍、アンスガー司令が出頭して参りました」 ゲルトの報告で視線を上げると、そこにアンスガーが敬礼をして立っていた。 しかし、顔は歯を食いしばって歪み、体は小刻みに震えていた。 だが、決して糾弾される事や処刑される事を恐れてではない。 リュディガーの信頼を裏切ってしまった事、 大切な艦隊と部下を失った事への自責の念で自決したいところではあったが、 恥を忍んでリュディガーの前に姿を現しているためだった。 リュディガーは敬礼に対して右手を軽く上げて応え、静かに表情を変えずに声をかける。 「アンスガー、報告を聞こうか」 「はっ」 今まさに恥を報告する。 己の不甲斐なさが苦痛となってその表情に現れる。 「土星空域を進行中、突如敵艦載機の襲撃を受け空母1、巡洋艦1、駆逐艦3を失い、 退避中に敵艦隊に側面を突かれ、反撃の暇なく駆逐艦9を失いました。 さらに戦闘中、空母1、巡洋艦1が航行不能、戦艦1、巡洋艦1が大破いたしました」 「ふむ。 君がここまで追い込まれた原因はなんだ」 びくっと、一瞬アンスガーの体が震えた。 「は…、事前情報を鵜呑みにし、敵戦力を過小評価した結果、そ そこに油断がありました。 敵の索敵能力は我々と同等かそれ以上、 戦艦の主砲は強力で、我が艦を轟沈しうる威力を有します。 駆逐艦にあっても艦の構造物を破壊し得るに足る威力でした。 空間魚雷は報告どおりの威力ではありましたが、 艦自体の速力が遥かに高速で優位な攻撃位置を取られてしまいました。 また、敵艦載機は有効な対艦ミサイルと対空ミサイルを有し、速力、 機動性とも我が方の戦闘機を上回ります。 固定武装のパルスレーザーも駆逐艦の構造物破壊に威力を発揮するほどです。 防御力においては、戦艦の艦首部の防御板にて弾道が逸らされてしまいます。 他の艦体については確証を得るだけの有効弾を得られず…、確認できませんでしたっ」 最後に一筋、涙が頬を伝う。 有効弾を得られなかった悔し涙が思わず流れてしまったのだ。 その様子を見てとったリュディガーが静かに立ち上がり、アンスガーに歩み寄る。 「アンスガー。 君は不注意から艦隊を失い、多くの部下を失った。 これは君の責任であり、失態だ」 アンスガーの背筋が伸びる。 いよいよ命運尽きる時がきた。 「だが、君は同時に2つの功績を挙げている。」 「!」 アンスガーの顔には、明らかな驚きの表情が浮かんでいた。 「1つは敵戦力を正しく分析出来たこと。 もう1つは負けたこと、負けて生きて帰ってきたことだ」 ガミラスの双璧、リュディガー艦隊は向かう所敵なし。 その中で自分も連戦連勝だった。 次世代の将軍と有望視されていた自分が、負けた事が功績だとは… 自分は処刑される。 よくても左遷され、一線級の司令としての道は閉ざされたものと考えていた。 「勝つ事は大事だ。 それが我々ガミラス軍人の命題だ。 だが、勝ち戦からは何も得るものがない。 負け戦こそ軍人として得るものが多く、 それを乗り越える事でより信頼しうる司令になれる、と私は信じている」 アンスガーから驚きの表情は消え、静かに教えに耳を傾けた。 そしていつしか、悔しさも薄れつつあった。 「死ぬ事は容易い。 いつでも死ねる。 だが、失ったすべてが無駄になってしまう。 負けを知り、今後敵の脅威となる君も失う。 利敵行為こそ、最大の失態だぞ」 優しい笑みでアンスガーの肩に手をかける。 アンスガーも静かに頷く。 すでにアンスガーに恥や悔しさといった「死神」は去っていた。 敗北を学ぶと言う新たな武器を手にした若虎が、再び土方艦隊の前に障壁となって現れる。 * * * * * 7隻の艦隊となった土方艦隊、新たに編入された2隻は、軽巡洋艦五十鈴、 駆逐艦照月。 共に防空艦として近代化改装されている。 五十鈴には九九式12.7センチ連装高角砲7基14門、 九九式30ミリ連装パルスレーザー砲10基20門、 九二式4連装魚雷発射管1基4門。 照月には九九式10センチ連装高角砲4基8門、 九九式30ミリ連装パルスレーザー砲4基8門、九二式4連装魚雷発射管1基4門。 また、五十鈴は艦橋とは別に防空指揮所を備え、対空レーダーも別途備えた。 そして2隻とも、主機関として波動エンジンを1基内臓した。 これにより外部ユニットとして波動エンジンを備えた5隻に対し、 より大型の波動エンジンが装備可能となり、その出力も増大した。 残念ながら、波動砲の装備とワープ航法を備えることは適わなかったが。 九九式連装高角砲はヤマト設計時に立案された兵器だが、 工期短縮を図るためにパルスレーザー砲を増やすことで機能を賄われ、 試作段階で放棄されてしまった。 これを土方が改良を加え、採用した。 高出力の波動エンジンを利用することで、高出力モードと速射モードの2モードを備え、 85度と言う大仰角も手伝って対艦対空戦闘が可能な両用砲として日の目を見ることになった。 しかし、五十鈴、照月ともに資源輸送用の格納庫を持たなかった。 そして、ブラックタイガーも装備しない。 先の5隻が輸送を目的としている艦に対し、 この2隻は純然に戦闘を目的とした艦であった。 艦隊は輸送艦2隻を従えて、イトカワに向かっていた。 輸送艦には工作機器などを積み込み、鹵獲した三段空母、 巡洋艦の機関の応急処置を行い、地球へ回航させるのが目的だった。 「応急処置は空母から行う。 処置完了次第、五十鈴、照月の護衛の下、地球へ回航する。」 鹵獲艦の補修を始めて気がつく点があった。 装置の仕組みやデザインは異なるものの、大筋で波動エンジンとよく似ている。 地球はイスカンダルから技術供与されたので、イスカンダル型と言っても良いだろう。 ガミラスの機関は、言うなればイスカンダル亜種と言ったところか。 この近似は何を意味するのか… 進んだ文明を持つ星では仕組みが似るのか、技術供与されているのか。 鹵獲艦には、波動エンジンの外部ユニットを1基ずつ設置する。 その機関は仕組みが地球型と大筋では似ているものの、 建艦技術や工具の違いから、 外部ユニットと操艦システムの接続が思う様に捗らず、作業は遅々として進まなかった。 <恐らく敵は増援待ちで動けないだろう。 この隙にこちらも戦力の増強をはかるつもりだったが…> 地球の現有全戦力を投入しての回収作業。 このままでは貴重な時間が無駄になってしまう。 「全艦隊に告ぐ。 先の命令を撤回。 作業状況を鑑み、輸送艦、五十鈴、 照月はこの場に残り、鹵獲艦2隻の回航を急げ。 その後、地球にて待機。 残りの艦はタイタンへの輸送作戦に向かう。 以上だ」 土方は艦隊を二分し、従前の5隻でタイタンへ向かった。 それは冥王星基地壊滅から敵艦隊の再来が早かった事から、 新たな侵攻部隊は安定した拠点を築いていないであろう事。 またその為、先日撃破した艦隊が、侵攻部隊の大部分を占めているであろう事から、 敵が現時点で侵攻してくる事はないと読んだのだ。 そしてそこには、もうひとつその予想を裏付ける根拠があった。 それは先の戦闘で、敵を殲滅出来なかった事。 こちらの戦闘力が白日の下に晒され、 敵も十分な戦力を確保して侵攻してくるだろうと予測できるからだ。 恐らく、この期を逃して物資の安定的な輸送は継続できないだろう。 だから今、より多くの物資を輸送するために艦隊を二分したのだった。 * * * * * 「隊長! 俺ら土建屋じゃないっすよ」 タイタンの駐留基地に増設された食堂で斉藤がグチをこぼす。 タイタンに派遣されてこの方、監視と採掘作業の繰り返し、 たまの積込作業があるだけの単純作業ばかり続いている。 空間騎兵隊は荒くれ者どもの集団、斉藤でなくても不満が蔓延しつつある。 また、先の土星空域会戦の情報も伝わり、 地味な作業ばかりの自分たちに対して華々しい戦果を挙げる艦隊への羨望の想いもあった。 「腐るな、斉藤。 艦隊が戦果を挙げられるのも、市民が生活できるのも、 俺らの資源あっての事だ。 今の地球の全てを下支えしている事に誇りを持て」 空間騎兵隊隊長、近藤が斉藤を諭す。 しかしその実、 近藤自体も不満や不安があった。 不満とは、先の会戦でガミラス艦隊を地上の監視部隊が発見出来なかった事。 索敵能力が及ばない空域であった事は十分に認識しているが、 裏を返せば自分たちはガミラスに見向きもされなかったと言う事。 地球の下支えである自分たちは、 ガミラスの戦略にとって無価値であると認識されている事だった。 不安とは、自分自身でさえ不満を抱いている。 血気にはやる荒くれ者どもがいつまで不満を押し殺していられるのか。 タイタンへの配置当初は、食事も戦闘糧食で娯楽などもなく、不満が激しかった。 駐留設備の拡充により食事も少しは豊かになり、わずかながら娯楽も増え、 不満は解消されつつあった。 しかし、本来は戦闘部隊である空間騎兵隊の彼らが、 食事や娯楽の充実で採掘作業に満足するはずもなく、 ここに来て再び不満が溜まってきているのだ。 「ふざけんな! てめぇのカレーの方が盛りが良いじゃねぇか」 「そんな訳あるか、量は決まってんだ。 ガキみてぇな事言ってんじゃねぇよ」 食堂で突然、取っ組み合いの喧嘩が始まった。 本当に子供じみた理由から、 大の大人たちが喧嘩を始めてしまう。 些細な事で不満が噴出し始めているのだ。 周りの隊員たちは取り囲んで囃し立てる。 日常茶飯事となってしまった喧嘩を、 ひとつの娯楽として楽しむ風潮が出来つつある。 少しはガス抜きになっているかもしれない。 「いい加減にせんか、馬鹿野郎ども!」 近藤の一喝で騒ぎが収まる。 空間騎兵隊の隊員にとって、近藤は絶対の存在だ。 近藤の人望あっての事だが、隊員たちの不満の許容量を超えたとき、 コントロールしきれるかどうか。 最大の不安要素だった。 <少しは波風が起こった方がいいかもしれんが…> 人類滅亡のその日まで、あと250日! |
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| 初出:2011/07/05 |