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「誰もいないか?」

 地表へ上がるエレベーターの扉が開いた。 防護服に身を包んだ人影は周りの様子を伺いながら、 地表への扉に手をかける。 重々しく開いた扉の隙間から強烈な光が差し込み、 数年ぶりの太陽の光を浴びた人影は、その視界を奪われた。 徐々に眼が太陽の光に慣れてくると、 赤茶けた大地が姿を現す。 火星と見紛うばかりの荒廃した赤い大地に、 人工物は存在しないはずだった。 人影は、さらに慎重に周りの様子を伺いながら、 小高い丘の頂付近に身を伏せ、その先を見渡した。

「やっぱり何かしてやがる」

 人影が見たのは、ブラックタイガーの完熟訓練のために作られた滑走路と即席の管制塔だった。  滑走路にはタキシング中のブラックタイガーも見える。 人影はその様子をつぶさに撮影した。  ブラックタイガーの飛行の様子も撮影すると、足早に来た道を戻っていった。

 場所は変わり、宇宙港に併設された宇宙船ドック。 ドック内では修復不可能だった艦艇を、 タイタンからの物資を使用して修復、改装を行っていた。 そのドックにも人影が現れた。  ドック内の艦艇、ならびに工事の様子をいたるところから撮影した。  ひとしきり撮影を終えると、慌てた様子で姿を消した。 その様は、あまりスマートではなかった。

 薄暗く狭い部屋に数人の男たちがいた。 張り詰めた緊張感漂うこの部屋に、 地表に現れた人影が入ってきた。 

「これを見ろ、防衛軍は地表で戦闘機の訓練をしている」

「見たことのない機体だな。 新たに生産したってことか…」

 写真を見ながら、部屋内がざわつき出す。 即席の管制塔はともかく、滑走路の造成、新型機の生産、 新型機への燃料供給。 どれを取っても、現在の地球の体力には分不相応な活動だった。

「こっちも見てくれ、ドックでは軍艦の工事をしている」

 ヤマトの出発以降、冥王星前線基地を撃破し、地球に遊星爆弾が降らなくなった事は報道されている。  また、太陽系内にガミラスの影響がほぼなくなったとの発表もあった。  しかし、ヤマトが戻るまで地球が生き延びるため、市民の生活は厳しく制限されたままである。  それなのに防衛軍では物資もエネルギーも使い、活動を活発化させている。  抑圧された市民の不満は、そのはけ口を求めていた。

「防衛軍はどこかから資源を補給しているんだ。 それを独占して使用してるんだ」

「なぜガミラスがいなくなった今、軍艦に戦闘機なんだ。 市民がこれほど抑圧されているのに。  まずは市民生活の向上が先ではないのか!」

 抑圧された不満は、堰を切った様に溢れ出し、大きな濁流となった。  その矛先は地球防衛軍に向けられた。

「この事実を全国に知らせるんだ。 そして時を合わせて、防衛軍の施設に詰め寄るんだ」

 各地の地下都市へ檄文が飛んだ。 防衛軍の不審な活動、それを糾弾すべし。  檄文を受け取った有志が、各地で市民にアジ演説を繰り返した。  日々繰り返される演説に聴衆の数も増え始め、喚声をあげる者も増えていった。  不穏な空気は全国に広がり始め、時として演説の中止を命令しても、 それをきっかけとして小規模な小競り合いが発生する事態となっていた。


   *    *    *    *    *


「長官、マズイ事になりました。 我々が資源を調達し、 艦隊を再建している事が市民に漏れてしまったようです。  全国各地で反対集会が連日開かれているとの事です」

 参謀長は長官室に入るなり、報告を始めた。 少し息が上がっているのは、走ってきたのだろうか。  事態が急速に悪化しているとの認識を裏付けている。

「うむ…」

 腕組みし、ため息をつく。 普段から市民感情のコントロールには腐心してきた。  ヤマト発進以後は、ヤマトの活躍を市民に流すことで、不安と不満を和らげてきた。  しかし、市民生活が抑圧されている事に変わりはなく、表面上は落ち着いていても、 不安は根深く残っていた。 

「一体、どこからこんな情報が流れ出たのでしょう?  地上での訓練の様子やドックの中の様子の写真もあるとの情報があります。  事によると、内部からの流出という事も考えられます。 早急に調査し、処罰せねば…」

「いや、やめておこう。 人の口に戸は立てられぬと言うことだろう」

 犯人探しをして軍内部の信頼関係を崩す方が怖い。 せめて軍内部だけでも一致団結していなければ…  藤堂はそう考えていた。 なんとか懐柔策はないものか。 今は市民に何もしてやれる事がない。  市民の期待を背負うヤマトも太陽系を離れ、既に交信は不能になっている。  ここで土方艦隊の存在を明らかにし、太陽系内に新たにガミラスが進出してきた事を発表すれば、 市民はヤマトが撃沈されたと思い込み急激に不安と不信が増大するだろう。  それだけは避けねばならなかった。

「土方くんが戻り次第、共に対応策を考えよう。  土方くんの戦況によってはガミラスの存在を発表してもよいかもしれん」


   *    *    *    *    *


「父さん、母さん、聞こえるかい? ボクだよ、義一だよ」

 岩手県下の地下都市、そこにヤマト通信士・相原義一の実家があった。 その実家にヤマトから入電したのだ。

「あれ? 義一かい? ヤマトは話が出来ないほど遠くへ行ったんじゃなかったのかい?」

「ヤマトは遠くにいるよ。 でも、なぜか通信できるみたいなんだ」

 この時ヤマトはイスカンダルへの中間地点としていたバラン星を目前にしていた。  地球やヤマトの出力では到底交信出来得る距離ではないのだが、それが不意に可能となった。  それはバラン星に赴任してきたガミラスの勇将ドメル将軍の罠だった。  ドメル将軍はヤマトと地球との交信を回復させ、乗組員たちに望郷の念を抱かせ厭戦ムードを作り出し、 士気の低下を狙ったのだ。  リレー通信衛星を配置した結果交信は回復し、通信班長の相原がそれに気がついた。

「地球の様子はどうだい? ご飯は食べれているかい?」

「生活は相変わらず苦しいけど、義一が帰ってくるまでの辛抱だから気にすんな。  それより義一こそ病気などしてないかい? みなさんに迷惑かけてないかい?」

 いつの世も、子を想う母の心は変わらない。 そのやさしい心が相原に伝われば伝わるほど、 ドメルの罠に陥っていく相原だった。

「ボクは大丈夫さ。 それより父さんは?」

「父さんは集会に出かけてるよ。 ここのところ、政府へ抗議しようと言う集会が多くてね。  政府には生活を向上させる資源があるんだとか。 もしかしたら、生活が少し楽になるかもね」

「そうか、少し安心した。 あまり長く話せないけど、また連絡するよ、じゃあね」

 この日から相原は、隙を見ては両親と交信するようになった。 ヤマトが旅してきた行程だったり、 ワープしたこと、波動砲のこと、ハチみたいな宇宙人がいたこと。  それを嬉しそうにうなずきながら聞く母の顔を見るのが、相原の最大の楽しみになっていた。  しかし、父はほとんど家におらず、集会が頻繁に行われている様子が伝わってくる。

「最近はなんだか怖くてねぇ。 みんな殺気立ってきていると言うか…」

 母との交信は楽しいが、交信のたびに1つ、また1つと相原は小さな不安を積み上げていった。  そして、それは父との交信で大きく膨れ上がる。

「おお、義一か。 さっきまで抗議集会に出ていてな。 防衛軍との小競り合いで死傷者が出てしまった。  これを機に、防衛軍施設へデモ行進を行うことになったんだ。 父さんたちも生活のためにがんばるから、 お前もがんばれよ」

「父さん、ボクは防衛軍の人間だよ。 そんな息子を持つ父さんが集会やデモに出かけて大丈夫なのかい?  父さんがみんなの槍玉に挙げられるんじゃ…」

「大丈夫じゃ。 父さんが市民の側に立って一生懸命がんばっている事は、みんな判ってくれている。  みんなの生活がかかったことだからの」

 不安だった。 自分の存在が両親を危険に晒しているのではないか。  父はどちらかと言えば、世情に疎いタイプの人間だった。 ただただ誠実に、 ともすれば愚直なまでに仕事をしている人だった。 自分が防衛軍の人間ゆえ、 父は集会やデモに熱心に出掛けているのではないか。 何もできない自分に不安と苛立ちを強めていった。

 そして、相原の不安は現実のものとなる。 デモ隊が防衛軍施設に到着した時、 施設前には放水車と警備隊が待機していた。  抗議集会に不安感を感じつつも、本部から対策案も提示されずにいた閉塞感から、 身の危険を感じた各施設の独自の判断だった。  しかし、それはデモ隊にとって敵対意思の表れに他ならなかった。  双方、無言の緊張感を持って対峙していたが、デモ隊がまず動いた。

「我々市民は、防衛軍に抗議する。 市民生活を蔑ろにし、物資を独占する防衛軍の…」

 デモ隊の代表が抗議文を読み上げだしたその時だった。

「放水開始!」

 警備隊が突如として放水を開始した。 その最初の一撃はデモ隊代表を襲い、 その水圧を不用意に受けてしまった代表は吹き飛ばされた。  その結果、激しく頭を打ち死んでしまったのだ。 これをきっかけにデモ隊からは投石が始まった。  その投石を受け、警備隊に突入命令が下り、両者入り乱れての乱闘になってしまった。  また、これに呼応して各地で暴動に発展し、多くの死傷者が出る結果となってしまった。

「相原さん、旦那さんがやられた!」

「何があったの、一体なにが」

「警備隊との乱闘で倒された仲間を救い出そうとした時に放水に飛ばされた。 頭を打って意識不明だ」

 そして、相原の父は母と相原に看取られた。 相原は半狂乱となるのであった。


   *    *    *    *    *


 戦闘終結後、タイタン空域には航行不能になったガミラスの三段空母と巡洋艦が漂流していた。  共に航行不能となって放棄されたが、その乗組員は救助される余裕もなく艦に取り残されていた。  依然として火勢が強く、消火も遅遅として進まない中、ブラックタイガーの収容を終えた土方艦隊が接近してきた。

「空母と巡洋艦を拿捕する。 乗組員の救助と消火作業を急げ」

 救助されたガミラス兵は各艦に分散して収容された。 消火作業を終えた空母と巡洋艦は、 それぞれ2隻の駆逐艦に曳航され、帰途、小惑星イトカワに繋留された。

「司令、太陽系外から通信を傍受しました」

 タイタンからの帰途についている三笠の艦橋で土方は報告を受けた。  それは、ちょうど父を看取る相原の通信だった。

「地球と交信しているようです。 おそらくヤマトではないかと推測されます」

「事態は急を要しているようだな」

 ヤマトとの交信が何故回復したのか、土方には通信内容からおおよその見当がついていた。  そのこと自体より、民需より軍需を優先させてきた事の弊害が大きく出始めた事を危惧していた。  市民はいつまで耐えられるのだろうか、耐えてもらわねば地球に明日はない。 そういった危惧だった。
 地球へ戻ってきた土方艦隊は葵の修理のため、宇宙港へ帰還した。  帰還と同時に司令本部に出頭した土方は、藤堂の意向に沿って防衛会議に出席した。  その議題は、ここ数日続いた暴動についてとその予防策であった。

「土方くん、物資の調達ほか、艦隊の増強などが市民に知れ渡ってしまった。  このままでは市民の不満を押さえ込む事が出来ず、事実を公表したいと思う。  だが、ガミラスの存在は市民の不安を煽り、暴動が増加するかも知れない。  そこで戦況はどうなのだろう? それ如何で決めたいと思うのだが…」

「今回、土星空域でガミラスの艦隊に遭遇しました。 艦数23。  ガミラスの新たな侵攻部隊が太陽系に進出してきた事は明白です。  おそらく冥王星基地に本隊が駐留しているでしょう。 冥王星基地が復旧される前に再度叩く必要があります」

「なんと…」

 地球が恐れていた事が、ついに現実となって目の前に現れた。 防衛会議のメンバーも、 ガミラスの恐怖は嫌と言うほど知っている。  内も外も抜き差しならぬ状況になってしまった事は、誰の眼にも明らかだった。

「しかし、申し訳ありません。 先ほどの艦隊の一部を取り逃がしました。  我々の戦力はすべて知られたと思ってよいでしょう。 今までのように勝てるかどうかはお約束できません」

「こっ、困るじゃないか、そんな事ではっ!!」

 首相が腰を浮かし気味に怒鳴る。 どうにもならない現状に、 他人を叱責する事で自身の精神の安定を図る事しか出来なかった。 それも致し方のない事だった。  もはや政府は政府として機能しておらず、防衛問題、治安問題、エネルギー問題、 すべてが防衛軍の管轄で行われなければ、どうにもならないのだ。  しかし、それでも首相と言う立場は市民に対して責任を負う。  そのもどかしから、怒鳴らずにはいられなかったのだ。

「だからこそ、艦隊の増強は必要不可欠です。 他に資源をまわす余裕などありません。  この事実を含めてすべてを公表し、改めて市民に我慢を強いねばなりません」

 静かに話を聞いていた藤堂が口を開く。 その瞳に新たな決意をこめて。

「判った。 艦隊の増強は急がせよう。 市民への説得は私がしよう」

 土方艦隊の記録映像と共に、藤堂の説得が始まった。 市民の多くは懐疑的であったが、 艦容が変わった三笠や外部波動エンジンを搭載した艦隊の交戦の様子を見るにつけ、 次第に現状を把握し始めた。 情報を伏せていた事に批判はあったが、もう一度ガミラスと戦う決意が湧き起こった。  宇宙戦士訓練学校には、まだ入校年齢に満たない生徒までが入校を希望し始めていた。  それは土方艦隊の戦果に拠るものでもあったが、今後はそれほど甘くはない事までは把握されなかった…

 一方、宇宙ドックでは葵の修復が終わり、出港準備が行われていた。  さらに、修復、改装を行っていた艦のうち2隻が、土方艦隊に編入された。  ガミラスの戦力回復が早いか、地球の戦力増強が早いか。 この結果が地球の命運を大きく左右するのであった。


人類滅亡のその日まで、あと254日!


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初出:2011/01/29




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