SITE  scene.16



SITE トップへ


 突然、視界を眩いばかりの光の覆われる。  ショックカノンに貫かれたガミラス艦が、一瞬にして光に変わったのだ。  ショックカノンはその威力を保ち、さらに2隻の駆逐艦を光に変えてゆく。

「すげぇ・・・」

 アステロイド・ベルトでの演習でその威力を目の当たりにしていたとはいえ、 ガミラス艦にこれほどまで威力を発揮するとは、予想だにしていなかった。  三笠に続き、雷、潮からも雷撃と同時に砲撃が行われた。  浮沈雷撃と同時に、艦上の一番砲塔、艦底の二番砲塔で両舷15度水平砲撃を行い、 ガミラス艦の構造物を破壊する威力を発揮、十分な攻撃力を証明したのだ。  もちろん、空間魚雷は従来通りその威力を発揮し、 行く手のガミラス艦に致命傷を与える。

「このまま前進し、敵艦隊を分断するぞ」

 艦内に広がる歓声と興奮をよそに、一人黙って戦況を伺っていた土方が命令を発した。  しかし、土方とて興奮していないわけではなかった。  先のガニメデ沖遭遇戦では、彼我距離10メートルでの射撃でさえ、 ガミラス艦の装甲を撃ち抜けなかった。 その悔しさを誰よりも感じていたのは、 土方本人であった。 それが8000メートルの距離から、 3隻ものガミラス艦を貫いたのだ。 沸々と、心の内からこみ上げる興奮と戦意は、 誰よりも高まっていたのだった。

「右舷に砲撃を集中しつつ、高速で突破せよ」

 ガミラス艦の爆炎を掻い潜りながら、 土星の輪に逃げ込むガミラス艦に一斉砲撃を浴びせる。  しかし、寸でのところで輪の中へ逃げ込まれた。 三笠が岩石と共に1隻、 雷と潮の砲撃で被弾しながら逃げ惑い、岩石に激突して1隻、 都合2隻の駆逐艦を沈めたに過ぎなかった。

 その間、アンスガー艦隊からの反撃は散発的で、超伝導反射板に遮られ、 また、爆炎に視界を遮られ、まともな反撃が出来なかったのである。  さらに迫りくる土方艦隊の恐怖に、艦隊行動が取れなくなっていた。
 そんな中、1隻の駆逐艦がヒペリオンの前に飛び出した。  ヒペリオンは土星の衛星で非球形をしている。 そしてもう1つ特徴を持っていた。

「衝突するぞ、左半球の突起の下を掻い潜って回避するんだ」

 急速回頭しヒペリオンを潜り抜けようとしたその時…

「! とっ、突起がっ!?」

 そう、ヒペリオンのもう1つの特徴、それは自転が不規則であること。  ヒペリオンは自転の向きも、その速度もまったく規則性がないのだ。  太陽系内では唯一カオス的な自転をする天体なのだった。

「ああっ」

 突然自転の向きを変え加速してきたヒペリオンに、 大鉈を振るわれたように駆逐艦は叩き壊された。  その様子を見た他の艦に動揺が走る。

「なんだ、この星は! 他の衛星の運動にも気をつけろ!」

 予想外の土方艦隊の戦闘力、衛星の不規則な運動で、 多くの艦で冷静な判断が出来なくなっていた。 ついには司令部の命令に反し、 土星の輪を飛び出して独自に行動を起こす艦も出てきた。  しかし、輪を飛び出した独航艦はブラックタイガー隊に追い立てられる。  既にミサイルは搭載していないが、両翼の付け根に3門、 計6門のパルスレーザー砲を装備している。  このパルスレーザーはガミラス艦の構造物を小破させる威力を持ち、 6門の収束点で一撃を加えれば、装甲にも被害を及ばせることが可能だった。
 混乱の中、ブラックタイガー隊に襲われた艦は独自の判断で回避を続ける。  しかし、それは吉村、原田両隊から仕掛けられた誘導であり、 その行き先は土方艦隊の目の前であった。

「ブラックタイガー散開と同時に主砲斉射。 タイミングを誤るな」

 目前に迫るガミラス艦を追い立てるブラックタイガー。  主砲の軸線がガミラス艦を捕らえたところで、艦隊上方へ散開する。 

「てぇーっ!」

 ガミラス艦へ5隻から一斉に光の槍が伸び、艦体を一気に貫く。  そして瞬く間に光の玉へと姿を変えてゆく。  飛び出してきた計3隻のガミラス艦は、すべて光の玉になった。

 その頃、輪の中に留まったアンスガー艦隊は戦艦2、巡洋艦1、駆逐艦4となっていた。

「隊列を整えろ。 敵艦隊に突進して現空域を脱出する」

 カッシーニの間隙で隊列を整え、巡、駆、戦、戦、駆、駆、 駆の単縦陣で土方艦隊に向かってきた。 

「司令、敵が単縦陣でこちらに向かってきます」

 土星の輪から出てきたアンスガー艦隊は、三笠の艦橋からも目視できた。  その艦隊行動から冷静さを取り戻している事を読み取った土方は、 ブラックタイガー隊に退避を命じ、再度艦隊戦に望む。

「ブラックタイガーは退避。 全艦、反航戦に備えよ」

 土方艦隊も超伝導反射板の出力を最大にしてアンスガー艦隊に向かう。  と同時に、アンスガー艦隊からの砲撃が始まった。 しかし、 主砲はことごとく超伝導反射板によって遮られる。 その間にも、 浮沈砲雷撃によりガミラス巡洋艦は火達磨になってゆく。  その爆炎でお互いが視界から相手を見失った時、次の行動が勝敗を決定付けた。

「下げ舵30、右横転35。 左舷へ砲撃準備」

「面舵20。 左舷へ砲撃を準備しつつ、ワープ速度へ加速せよ」

 戦闘平面から下降し、敵の砲撃をかわしつつ攻撃を加える土方と、 平面上を一気に加速して戦線離脱を図るアンスガー。  先に敵の位置を捕捉したのは地球艦隊だった。

「全艦一斉砲撃。 敵に反撃の余地を与えるな」

 次々とガミラス艦隊の各艦が被弾して行くが、アンスガーも黙ってはいなかった。

「全艦、加速を維持しつつ左横転35。 地球艦隊が7時半の位置に付くまで砲撃を続けろ。  その後は順次、小ワープにて空域を離脱する」

 土方艦隊にとって、初めての舷側からの砲撃戦であった。  側面を晒せば従来の脆さのままの地球艦隊にも、恐怖は少なからずあった。  しかし、先手を取ったこと、ガミラス艦隊が高速で離脱中であった事が幸いした。  高速移動中のために砲撃に正確性を欠いたが、至近弾などを撃ち込み、 ガミラス艦の動揺を誘った。 離脱が優先だったガミラスは反撃には消極的で、 有効な砲撃は殆どなかった。 しかし、ただ一隻、正確な砲撃を行う艦がいた。  アンスガーの旗艦、グラーフ・シュペーだった。  グラーフ・シュペーには、アンスガー同様に有能な乗組員が多く、ベテラン揃いだった。  高速移動中にも関わらず、至近弾を多く放ち地球艦隊をヒヤリとさせた。 

「左反転180度。 ガミラス艦隊を追撃する」

 互いの射角ギリギリのところで土方の命が飛ぶ。 まさにその時だった。  グラーフ・シュペーが後続の駆逐艦をかすめるほどの砲撃を放ち、 葵の下部ショックカノンを捉えた。 艦体が右舷へぶれるほどの衝撃が葵に走り、 ショックカノンが吹き飛ばされた。 しかし、 グラーフ・シュペーの主砲の威力が強すぎたためか、 ショックカノンを奪われたものの、それはまるで削り取られた様であり、 葵の本体への誘爆を免れ、航行に支障をきたさなかった。  だが、地球艦隊の乗組員に与えた衝撃は大きかった。  土方輸送艦隊編成後はガミラス冥王星艦隊が壊滅していたこともあり、 また、ブラックタイガーの装備、波動エンジン、ならびにショックカノンを装備し、 勝ち戦続きであった。 さらに、超伝導反射板の効果で被弾が殆どなく、 乗組員の中には既にガミラスは脅威でなくなっていた部分が大きかった。  その安易な気持ちが、グラーフ・シュペーの一撃によって霧散したのだ。  それは死への恐怖。 消えかかっていた、忘れかけていた死への恐怖が甦ったのだ。  現に土方艦隊初の戦死者が出た。 その事実が以前より強烈に死への恐怖を増幅した。  多くの乗組員が萎縮し、手足の硬直、思考の停止に追い込まれた。  その為、艦の回頭は遅れ、砲撃も散発的になった。

「全艦砲撃中止、ワープへ突入せよ!」

 その様子を見て取ったアンスガーは、一気に全艦ワープへ移行させ、 戦線の離脱に成功した。 それが一体どう言う事なのか。  それは土方艦隊が大いなる危機に追い込まれたという事である。
 まず第一に、土方艦隊の戦闘能力を全て知られてしまった。  速力、砲力、防御力、射程範囲、艦載機の有無、などなど。  旧来の性能しかガミラスが知らないからこそ、 その威力は実際の数倍の効果を発揮してきた。 現性能を知られてしまえば、 ガミラスに油断はなくなり優位性が失われる。
 次に、乗組員に恐怖が植え付けられた。  敵が油断しなくなれば、戦闘が激化するのは必至。  超伝導反射板以外の防御力増強のない地球艦隊では、 死がより間近に忍び寄っていることは、誰にも明白であった。  何より宇宙戦士訓練学校を繰り上げ卒業したばかりの新兵には、 その恐怖はより大きく、心に、手足にのしかかってくるのだ。

「何が…、何が射程が半分以下だっ。 何が威力乏しくだっ」

 アンスガー艦隊は天王星まで3000宇宙キロのところにワープアウトしていた。  ワープアウト後、大きなため息と共に天を仰ぎ見たが、 土星での戦闘が脳裏を駆け巡り、怒りが込み上げてきた。 
 警戒はしていた。 全ての情報を鵜呑みにせず、自分の目で確認していたはずだった。  だが、どこかで油断していた。 本星で原始的で野蛮な星への侵攻だと聞いていたから。  あまりにも個艦の性能差がありすぎる報告を受けていたから。  敗戦は司令たる自分の責任。 それは判っているが、 うっすら笑みを浮かべながら得意気に語っていたエッカルトの顔を思い出すと、 込み上げる怒りを抑えることが出来なかった。

「ア、アンスガー司令。 わ、私は正しく報告したのです。  太陽系にはいないとは言え、地球が強力な新型戦艦を持っている事も報告しています」

 エッカルトは自身に危機が迫っている事を察していた。  しかし、自分の報告は正しかったのであって、 この敗戦の直接原因ではないと思っていた。  それは間違いなかった。 だが、彼の間違いは彼自身の心の中にあった。

「あんな通信1つにビクつくくらいなら、艦隊を止めて索敵していればよかったんだ。  艦隊の敗戦は司令の判断ミスだ。 司令の責任だ。 私は何も悪くないっ!」

 正しかった、原因も責任の所在も正しかった。  しかし、上官であるアンスガーに対する彼の心の持ちようが顔に出てしまった。  侮蔑の笑みが興奮と同時に、ついでてしまった。  それが、彼自身の運命を決定付けてしまった。

「ビクつく? 貴様、あの時まったく問題ないと進言したではないか?  貴様は敵を侮り、またこの私も同時に侮っていたのではないのかっ」

 すばやく腰に手を伸ばし、銃を抜くとエッカルトの額に銃口を押し付ける。  人差し指に力が篭る。 あと数ミリ、 引き金が惹かれればエッカルトの人生は終わる。  だが、ここまで来ても最後の理性が引き金を引く事を留めさせた。

「わ、私を殺してもあなたの罪は変わらないんだ。 あなたも死ぬんだっ、 リュディガー将軍に処刑されるんだっ、わはははははーっ」

ガーンッ!

 突然、エッカルトは物に変わった。 動かない、しゃべらない、 ただの肉の塊にその姿を変えたが、侮蔑の笑みだけは変わらなかった。

「貴様に言われるまでもない。 だが将軍への報告がある。  先に逝っていろっ」

 アンスガー艦隊は冥王星に進路を取った。



scene17

感想はこちらへ

初出:2010/09/30




【このページのトップへ】