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 波動エンジンの恩恵を受け、土方艦隊の巡航速度は飛躍的に高まった。  ヤマトの波動エンジンの巡航速度、光速の99.9999%には遠く及ばないが、 巡航速度、光速の10%、最高速度で光速の15%を実現している。  最速で土星まで3日掛かっていた航程も、巡航で13時間14分、 最高で8時間50分となった。 この速度は、以前の6.5倍にも及ぶ速度だ。  輸送艦隊としての工程も、往路1日、積込み1日、復路1日と、 1工程3日となり、大幅な輸送力強化にも繋がるだろう。  思いもよらぬ高速体験で、乗組員たちは浮き足立っていた。  土方艦隊は浮ついた感じで、土星圏へ到達しようとしていた。

「んっ?」

 レーダー手が反応に気づき、レーダーを操作する。  その顔にはかなりの緊張が走っていた。  感があった方向を手早く確認し終えたとき、彼の表情は凍り付いていた。

「司令っ! 天王星方面に艦隊の反応があります。  大型艦4、中型艦3、小型艦多数!!」

 にわかに色めき立つ三笠艦橋内。 その反応は葵の艦橋でも同じだった。

「慌てるな。 距離、方向、艦種を明らかにせよ」

「はっ」

「全艦、戦闘配備。 第一戦闘序列へ変換。 ブラックタイガー隊、出撃準備」

 土方は冷静に指令を出す。 艦隊の緊張の度合いは一気に高まって行く。 

「敵艦種判明! 戦艦2、三段空母2、巡洋艦3、駆逐艦16。  11時の方向、距離3000!」

<空母を連れてきているのか・・・>

 250年前、戦力の中心を戦艦から航空機へ遷移させてから今日まで、 戦闘の舞台は地球から宇宙へ変わったが、その構図は変わっていなかった。  ガミラス大戦勃発時には地球防衛艦隊にも空母や防空駆逐艦は多数存在したが、 出撃のたびに戦没し、残ったのは皮肉にも、 防空能力が乏しいゆえに出撃の機会がなかった艦のみとなっていった。  それが現在の土方艦隊なのである。 三笠を初め、 土方艦隊の各艦の砲門は平射砲のみで、防空能力は皆無に等しい。  それゆえに敵空母の存在は、波動エンジンを搭載した現在においても脅威なのだ。

「敵艦隊の動きはどうか?」

「現在、18宇宙ノットにてタイタンへ向け航行中。  陣形は輪形陣のまま変化なしです」

<まだこちらに気づいていないのか・・・、それとも余裕なのか・・・。  何れにしても、空母だけは先に沈めておきたい>

「第一攻撃隊は対艦装備、第二攻撃隊は対空装備にて出撃、 フェーベ沖A−0−0にて指示あるまで待機。  艦隊は第一戦闘序列のままタイタン沖C−0−80へ向かう」

 土方艦隊は攻撃隊を出撃させ、それぞれ衛星に身を潜め、 ガミラス艦隊の出方を伺った。 しかし、 ガミラス艦隊は依然輪形陣のまま航行を続けている。  コスモレーダーにより、 ガミラス艦隊に先んじて敵を発見することが出来ていたのだった。 だが、 その差はわずかで、判断と行動が少しでも遅れていれば、 アンスガーの知るところとなっていただろう。
 アンスガー艦隊は、土方艦隊の航路に比べ、 土星から離れた航路を地球へ向かって航行していた。 その距離は、 ちょうどタイタンの地上部隊からは発見されないものだった。  いかにアンスガーが情報を正確に捉えているかを物語っているが、 イスカンダルからのオーバーテクノロジーがもたらした急速な技術革新が 地球で起こっていることまでは、推し量ることは出来なかった。 
 三段空母2隻を囲むように輪形陣を取るアンスガー艦隊は、 フェーベを通過しタイタンとの間を航行する。  この機会を土方は見逃さなかった。

「目標、敵空母2。 攻撃隊、かかれ!」

 土方の号令の下、フェーベの陰に隠れていたブラックタイガーが襲い掛かる。  吉村隊がアンスガー艦隊の下方へ展開し、三段空母へ攻撃をかける。  一方、原田隊は上方へ展開し、敵艦載機の発進に備える。

「地球型と思われる通信を傍受しました。 10時の方向、距離2500」

「タイタンからだな。 発見されたか?」

 発見を恐れるアンスガーに対して、 元残存部隊指揮官で新司令部員エッカルトが答える。

「タイタン地上部隊が正規のレーダーを使用していても、 この距離では我々を発見できません。 現在は簡易的なレーダーなので、 まったく問題はないと思われます」

「うむ、内容次第では敵のレーダーの性能もより正確に掴めるか・・・  万一発見され、地球本星に通報されていても厄介だ。 通信内容を解析しておけ」

 間の良すぎる通信に、一抹の不安を覚えるアンスガー。  エッカルトからしてみれば、過敏な反応に見える。  内心では臆病なだけなのでは・・・、 とある種、侮蔑にも似た感情を抱くのだ。  だが、間が良すぎるのは当然。  まさに自らに対する攻撃を指示する通信であるのだから。 

「7時の方向にレーダー反応! 距離300。 航空機と思われます!」

「航空機!? 一体どこから来たのだ? 全艦対空戦準備、迎撃機をあげろっ!  付近に母艦がいる筈だ、発見に全力を挙げろ」

 迎撃準備に掛かるアンスガー艦隊だが、時すでに遅し。  吉村隊は攻撃軸線上にいた。

「目標は敵空母2、両サイドの巡洋艦も取るぞっ。  攻撃後はビビらずに敵の間を突き抜けて、ひねってフェーベに向かえ。  遅れるな!」

 吉村の号令に従い、次々に射出される対艦ミサイル。  薄い対空砲火をかいくぐり、一直線に空母に向かう。

「敵機直下。 ミサイル急接近、空母2隻に命中します!」

 報告が早いか否か、空母に襲い掛かるミサイル。  うち1隻撃沈。 残りの1隻は2、3段目飛行甲板使用不能、 航行不能の大破。 直衛の巡洋艦も1隻撃沈、1隻大破炎上。  共に戦闘力を失った。 後続の戦艦も艦首に被弾し、1、2番主砲大破。  以上が吉村隊18機の戦果であった。
 残った三段空母が、唯一使用可能な1段目の飛行甲板から迎撃機をあげる。  しかし、すでに発艦能力も乏しく、 わずか7機を発艦させたところで内部の弾薬庫に火が入り、誘爆。  発艦能力を失った。 7機の迎撃機も発艦と同時に原田隊に襲われ、 なす術もなく撃墜されていった。

「うろたえるなっ。 土星の輪に退避して態勢を立て直す。  航行不能な空母、巡洋艦は放棄。 急げ!」

 大破した空母、巡洋艦を残して、アンスガー艦隊は土星の輪に進路を向けた。  その背に向かって原田隊が襲い掛かる。

「武士の情けだ、戦闘力を失った艦は見逃せ。  対空ミサイルでも駆逐艦にならダメージを与えられるだろう。  残弾をすべてぶち込むぞ!」

 対空装備の原田隊だが、新開発の対空ミサイルは強力で、 本来の敵である航空機がいない今、その威力を駆逐艦で推し量ろうと言うのだ。  ガミラス駆逐艦も後方の兵装は少ない。  原田隊は後上方から対空ミサイルを放つ。 ガミラス駆逐艦は、 左右に転舵しながら回避行動を取るが、対艦ミサイルに比べ、 威力は劣るが機動性に勝る対空ミサイルからは逃れる術がなかった。  次々に群がるミサイルを浴び、瞬く間に3隻の駆逐艦が火ダルマになっていく。  原田隊も吉村隊同様、ミサイル発射後は敵艦の間をすり抜けて、 フェーベへ向かった。
 ブラックタイガー隊は撃沈、空母1、巡洋艦1、駆逐艦3、 大破、空母1、戦艦1、巡洋艦1、被撃墜0、被弾3と言う輝かしい大戦果を挙げ、 その初陣を見事に飾った。
 一方アンスガーは、リュディガーの下で頭角を現し、 艦隊を預かる司令官となってからは無敗を誇っていた。  ここまで艦を失ったことは、今までにはなかったことなのである。  しかし、初めての大損害を被り司令部内に動揺が広がっても、 冷静さは失わなかった。 このときまでは・・・

「敵艦隊、針路を土星へ変更。 我が艦隊の前方に出ます」

 タイタンの陰で静かに戦況を見守っていた土方艦隊の前を、 アンスガー艦隊が横切ろうとしていた。  戦闘が始まる前に傍受した通信の解析は、 敵襲の騒動の中で、アンスガーまで届かなかった。  届いていたなら、タイタンへ接近することはなかっただろう。

「全艦、砲雷撃戦用意。 単縦陣のまま、敵艦隊へ突入。  敵を分断する。 超伝導反射板、作動」

 アンスガー艦隊は、今まさに土星の輪の中に突入する寸前だった。  フェーベを窺いながら態勢を整え、 フェーベに向け徐々に左舷へ回頭しつつあるまさにそのとき、 逆のタイタンからの反応に気づくのだった。

「4時の方向に敵艦隊発見! 艦数5、距離600」

「なにっ、タイタンからだと」

 アンスガーの眼には、タイタンの陰から突進してくる銀色の光が飛び込んできた。  その速度は、報告を受けていた戦闘速度より数段速かった。  すぐさま回頭をやめ、輪に飛び込もうとするアンスガー艦隊に、 土方艦隊が襲い掛かる。

「浮沈砲雷撃開始」

 号令一下、行動を始める各艦の先陣を切って、三笠の主砲が光を放つ。  3基9門の主砲から放たれたショックカノンは、 光の槍となりガミラス駆逐艦を目がけて一直線に伸びてゆく。  彼我距離8000メートル。 この砲撃に地球の命運がかかっていた。



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初出:2008/02/13




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