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 リュディガーはトパーズ星系にいた。  通常なら占領後は占領軍本部を置き、 ガミラスに服従の意思を示した者で現地暫定政府を設置、 占領軍と暫定政府軍で統治を進める。 占領軍は制圧部隊の一部であり、 制圧部隊の大半はガミラスへ帰還する。 だが、リュディガーはいた。  トパーズ星系の制圧拠点で自らの艦隊の出撃準備を行うためだった。  ガミラスには艦隊を戻さず、トパーズ星系から補給線を引き、 冥王星を目指す予定だ。 トパーズ星系に補給拠点を置くのは治安上の問題をはらんでいたが、 冥王星に到達すればシュルツが確立したガミラス→冥王星、 今回のトパーズ→冥王星の2本の補給線が確立できるはず。  トパーズ星系からの進出に、なんら問題はない。 そう読んだのだった。
 艦隊の準備は着実に進み、進出ルートの策定も完了した。  2日後には出撃する予定だ。

「将軍、やはり一旦本星に戻り、本星から進出した方がよいのでは?」

 リュディガーの副官、ゲルトだ。 ゲルトはリュディガーが最も信頼する部下で、 リュディガーの思想を十分理解している。 この時期になってもこの様な進言をするのは、 ゲルトだからこそなのだ。

「トパーズはまだ制圧したばかりで、安定した拠点とは言えません。  確実を期すならば、やはり本星からの進出が望ましいかと」

「うむ。 しかし、艦隊を戻してからの進出では時間が掛かる。  総統のご意向に沿うには時間が掛かり過ぎるのだ。  一抹の不安がないわけではないが、太陽系に着けば本星との補給線もある。  万が一の場合にはバランの基地もあるし、大丈夫だろう」

 リュディガーとて本星からの進出が望ましいところだった。  それゆえに、こう言う進言をしてくれるゲルトが頼もしく思えるのだ。  リュディガー艦隊の出撃の時が、刻々と迫っていた。


   *    *    *    *    *


 土星。 土星は太陽系第6番惑星で、太陽系では2番目に大きい赤道直径120,536km、 両極直径108,728km、太陽からの距離14億2900万km(9.54天文単位)。  速い自転速度と、流動体の性質のため平たくつぶれて見える。 扁平率は約10%。  18個の大小さまざまな衛星を持つ。
 土星は地球や火星と違い、木星型惑星と言われるガスの惑星で、 核があるもののそのほとんどがガスで出来ている。 その成分は、 75%が水素で、25%がヘリウム、そして、わずかの水、メタン、 アンモニアと岩石でできていて、太陽系が形成されたといわれる原初の太陽星雲と似た組成をしている。  土星が最も特徴的なのは、その7本の環を持つ姿であろう。

 その衛星タイタンは土星に知られている15番目の衛星で、一番大きい直径5,150km、 土星からの距離122万1830km。 太陽系では木星のガニメデに次いで2番目に大きく、 水星、冥王星より大きい。 内部構造は岩石と氷で出来ている。
 また、太陽系の衛星のなかでただ一つ、タイタンには大気があり、 地表で1.5気圧(地球より50%高い)ある。  大気は主には窒素分子でできており、さらに15%程度のアルゴンや数パーセントのメタンが含まれる。  興味深いのは、それ以外にもごくわずかな、12種類以上の有機物質(エタン、 シアン化水素、二酸化炭素など)が微量に存在する。  これは原初の地球で、生命が最初に誕生したころとよく似ている。

「土星宙域に敵の反応はありません。 オールグリーンです」

 土方輸送艦隊は戦闘があったものの、想定の3日間でタイタンに到着した。  土星宙域は穏やかで、星間戦争の最中とはとても思えなかった。

「これより物資の採掘を行う。 まず三笠、葵がタイタンへ着陸、採掘作業に入る。  雷はタイタン北極上空へ、潮は南極上空、榎は採掘現場上空にて警戒待機。  積み込み作業が完了次第、順次配置の入れ替えを行う」

 各艦が配置場所へ移動し、三笠、葵がタイタンへ着陸する。  高度を下げていくにつれ、タイタン地表に金属反応を認める。

「司令、地表に金属反応があります。 地球型駆逐艦クラスと思われますが、 エネルギー反応はありません」

「うむ。 全艦、地表への警戒を厳にせよ」

 さらに高度が下がり、地表を目視で確認できるようになる。  一面に広がるのは、氷と雪ばかりの世界。 人為的な構造物や軍艦などは見当たらない。  ただただ、真っ白な世界が延々と続くばかりだった。
 三笠と葵が着陸する。 生命の気配のない、白く美しい世界。  その中に、赤と黄を配色した三笠と葵はよく目立つ。  おおよそ場違いな2隻は、風景から拒絶されている。

「探索車を出せ。 先の金属反応と共に、周囲の調査を実施する」

 三笠から探索車が発進する。 調査の結果が逐一三笠の艦橋へ報告される。

「先の金属反応は、地球防衛軍所属、駆逐艦雪風と思われます。  付近にガミラスの戦車2台の残骸とガミラス兵の遺体を発見」

 にわかに色めき立つ。 ガミラスの地上軍がタイタンに存在する可能性があるのだ。  タイタンに駐留場所もなく、輸送量確保のため、土方艦隊は地上部隊を搭載していない。  地上戦になれば多大な被害は免れない。

「戦闘班から偵察要員として数名だせ。 周囲の高みで哨戒に当たらせる。  また百式探を2機だして周囲の哨戒に当たらせろ」

「戦闘班員も百式探も採掘作業に従事する予定です。  作業工程に遅れが出ますが、いかがしましょう?」

「いたし方あるまい。 被害を受けて地球に帰還できねば元も子もない」

 戦闘班から6組12名が周囲の哨戒任務に出動し、吉村、 川井の百式探索艇が飛び立った。 各哨戒隊からの報告で安全を確認し、 作業が開始された。

「ガミラス兵の遺体、ならびに戦車の残骸を回収せよ。  地球で調査する。 採掘資源にコスモナイトを追加せよ」

 コスモナイトは、波動エンジンのエネルギー伝導管の材料として必要な物質だ。  従来の地球艦には必要ないし、また地球でも必要としていない。  当初の予定にもないことから副官らは反対したが、 土方は頑として聞き入れなかった。 そこには今後1年間の土方の戦略があった。  それを皆が知ることになるのは、輸送艦隊が地球へ帰還してからのことになる。


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 赤茶けた地球。 その地表にある発着扉が開く。 そこから1隻の艦が出てきた。  慣熟航行の為に出航した輸送艦だ。 艦内には165名の乗組員がいるが、 そのうち120名は退役宇宙戦士だ。 残りの45名は、 宇宙戦士訓練学校を繰り上げ卒業した新兵で、 この慣熟航行は、この新兵の為に行われているようなものだった。  輸送艦は55名で運用する予定だが、この慣熟航行では全乗組員が乗り合わせ、 交互に作業を確認しながら訓練をこなして行く。 そこには、 エネルギー不足の影響がまざまざと現れていた。
 船倉には、ブラックタイガー2機と14名の教官、要員が同乗していた。  地上での慣熟訓練を終え、大気圏外での慣熟訓練に向かうためだった。

 輸送艦は順調に高度を上げ、大気圏を脱し、静止軌道上に達した。  ここに至るまで、何ら問題なく訓練をこなせているのは、 特務戦士(=退役宇宙戦士)のお陰であることは言うまでもない。  しかし、特務戦士の中で動き回る新兵も、特務戦士に引けを取らない働きを見せていた。

「作業員は舷側扉から新型戦闘機を搬出しろ。  おい、学校の先生に連絡して準備してもらえ」

 無重力での飛行訓練は、2機のブラックタイガーがお互いを牽引索で繋ぎ、 教官と訓練生が一緒に飛行する。 状況に応じ、牽引索をはずして単独飛行を行う。  地上での訓練に比べ墜落の危険が低いが利点だが、慣性を考慮に入れる必要がある。  特に、今回は着艦設備がないために、輸送艦の脇に停止するのが難点かも知れない。

 ブラックタイガーの飛行訓練開始と同時に輸送艦も訓練を開始した。  軌道上にある岩石を輸送艦隊に見立ててのコンテナ搬送訓練。  それぞれの訓練が活かされるのは、もう少し先の話になる。



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初出:2006/04/03




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