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「まもなく月軌道へ到達します」 「うむ、地球防衛軍司令部へ報告せよ」 土方艦隊は第一回輸送作戦を終えようとしていた。 タイタンで物資を積み込み、満載の状態での帰途は平穏無事だった。 今回の作戦では、ガミラス艦との遭遇戦、 タイタンでの地上警戒がスケジュールに影響を及ぼした。 結局、積み込み作業に5日要した上に、 タイタンへ残置しておく予定だった採掘機材を回収してきた。 その分、物資量も当初の予定を減らさざるを得なかった。 とは言え、5隻が無事帰還し、物資をもたらした事は、 人類にとって遊星爆弾が止まった事に次ぐ明るいニュースだった。 土方艦隊から通信を受けた時、司令部内は歓声が沸き立った。 長官である藤堂も興奮気味だった。 この戦争が始まって以来、 連戦連敗で敗戦ムードが色濃く、希望的観測すら口に出来なかった。 それがヤマト発進以降、希望が見出せるようになった。 艦隊は静かに開く発着扉から地下に進入し、宇宙港に到着した。 宇宙港には、藤堂自ら土方を迎えに来ていた。 タラップを降りてくる土方を、今や遅しと両手を差し出して迎え出た。 「土方くん、ご苦労だったね。 よくぞ無事に帰ってきてくれた」 「航程が2日ほど遅れて、申し訳ありません。 他にも若干の予定変更があります。 後ほどご報告に参ります」 「無事に帰ってきてくれた事が、まずは何よりだよ。 報告は私の部屋で聞こう。 まずは休んでくれたまえ」 土方は司令部内に与えられた公室へ移動した。 艦隊司令として与えられたこの部屋は、執務室と応接室、私室で構成されていた。 土方は妻と娘を遊星爆弾で失い、息子2人をこの戦争で失った。 独り身である土方は、宇宙戦士訓練学校の校長から艦隊司令になった時、 この部屋で生活を始めた。 何事にも即時対応可能なこの部屋は、 何かと便利だったのだ。 シャワーを浴び、平服に着替えてソファに身を沈めた。 シャワーは艦隊が出航する前に浴びて以来、約2週間ぶりだった。 しかし、それでも個室でシャワーを使えるのは、やはり軍人としての特権であった。 市民は週に2度、共用浴場で入浴している状況なのだ。 <私は鬼にならねばならん。 市民に怨まれる鬼に・・・> 実情を知る土方は、普段は体を水拭きするのみにしているが、 それは誰にも知られていないことだった。 わずかな時間仮眠を取り、身を正すと、電話を取った。 「はい、長官室です」 長官の秘書の八木芙美代が応対に出る。 透き通るように美しい声だが、 ささやく様ではなく、返って明瞭で聞き取りやすい声だ。 「土方です。 長官にご報告に上がりたいのだが、確認願いたい」 「土方司令の報告は最優先で受ける様に言われております。 何時にいたしましょう?」 「それでは14時に伺います」 「承りました。 長官に伝えます」 14時5分前に、正装に身を包んだ土方が長官室の前に立っていた。 五分前の精神。 土方は常に心がけていた。 長官室は相変わらず開け放たれ、 中についたてが置かれていた。 ついたてに向かい声を掛けると、 八木芙美代が席まで案内してくれた。 長官とともに席に着くと、 第1回輸送作戦の実施報告を始めた。 木星宙域で敵艦と遭遇したこと、 タイタンに敵地上軍の気配があったこと。 それに伴い、 採掘機材を回収してきたこと。 コスモナイトを持ち帰ったこと。 「コスモナイト!? なぜコスモナイトを? リストに載っていなかったし、必要とも思えんが・・・」 「長官、私は今回の戦闘で、新型機だけでは不十分だと悟りました。 ヤマトほどではなくとも、艦に高出力砲が必要です。 その為に波動エンジンが、コスモナイトが必要だったのです」 怪訝な表情の藤堂に、土方は出航前に4駆逐艦長に伝えた事と同じ事を伝えた。 「長官、私はガミラスがこのまま地球を放置しておくとは考えておりません。 本隊と拠点を失ったにも関わらず、小部隊が太陽系にいた事がそれを証明しています。 冥王星基地が再建される前に、戦力を整えておく必要があります。 その為に、新型機のみならず、艦自体にも戦闘力を与え、 同時にドックにある艦の修復を急ぐべきです」 「うむ、土方くんの言う事も判るが、市民の負担軽減の為にも、 地下都市にエネルギー供給をせねば・・・」 「長官!! まだ市民は飢えてもないし、著しい健康被害もありません。 今は民需をすべて軍需に回さねば、人類は滅亡しますぞ」 「し、しかし・・・」 「冥王星基地が再建されるまでが鍵です。 再建されてしまえば・・・ その結末はお判りいただけるかと。 長官、ご決断を!」 詰め寄る土方に圧倒される藤堂。 しかし、最近の戦局の好転をみる藤堂にとって、 土方の説く危険性は現実味を帯びない。 それよりも内部からの危険性、 市民の暴動が激化する危険性を憂いてならないのだ。 僅かでも、地下都市にエネルギーを供給したい藤堂と土方は、 意見が対立し議論を尽くした。 「ガミラスの再来がなければ、または戦局が安定すれば、 地下都市にエネルギー供給も出来ましょう。 それまでは、軍需に回してください。 市民への責任は、いずれ私がこの身を持って果たしましょう」 「土方くん、君はそこまで・・・ 判った。 この一件、君に任せよう。 責任は私も持とう」 「ありがとうございます、長官」 その後の防衛会議で、藤堂は輸送物資を軍需へ充てる事を押し切った。 反対意見がないわけではなかったが、それを押さえ込めたのは、 タイタンから持ち帰ったガミラス戦車のお陰だった。 ガミラス戦車の装甲を基に算定されたガミラス艦の装甲が、 地球艦の主砲を寄せ付けないことを示したからであった。 ヤマトの戦果による遊星爆弾の停止、冥王星基地の破壊を知る市民にとって、 現状に耐えていられる時間は、残り僅かであることには変わりがない事は、 防衛会議に出席したすべての人間に判っていた事ではあるのだが・・・ * * * * * 第2回輸送作戦の準備が始まった。 輸送艦隊への改装工事はなく、 整備のみ行われた。 今回の作戦での目玉は、地上部隊の派遣にある。 近藤勇次隊長率いる、空間騎兵隊一個師団をタイタンへ派遣し、 現地に駐留、採掘拠点の防衛、ならびに採掘作業に充てる。 高射砲10基、戦車30両、対空戦車10両、移動式レーダー4基、 偵察ヘリ2機、歩兵4個小隊の計300名からなる大部隊である。 部隊が駐留して採掘作業を行うことにより、 輸送艦隊のタイタン滞在時間は積込作業分のみとなる。 また、万一、ガミラスの襲撃にあった場合に対応できる装備を確保、 拠点防衛を可能とした。 輸送艦隊への地上部隊搭載が着々と進められる一方で、 ブラックタイガーの生産、波動エンジンの生産が始まった。 波動エンジンは戦時急造タイプとされ、ワープ航法と波動砲の機能が削除された。 また、既存のエンジンとの換装は行わず、外部ユニットとして装着することで、 改装期間の短縮化が図られた設計となった。 波動エンジン被弾時に外部ユニットを切り離し、既存エンジンは補機として、 航行を可能とするものであった。 「隊長、やっと我々にも出番がきましたね」 輸送艦隊への搭載が進む中、興奮気味に空間騎兵隊隊長・ 近藤に話しかける若者がいた。 「おう、斉藤。 きっちり働けよ。 期待してるからな」 「はいっ」 空間騎兵隊の若き精鋭、斉藤始だ。 斉藤は柔道、空手、レスリング、 合わせて19段と言う猛者で、隊の中でも一目置かれる存在だった。 隊の訓練を視察した藤堂も、斉藤の存在に釘付けになるほどだった。 近藤は、斉藤を隊長格へ引き上げるべく、自分の知識を惜しまず授けた。 空間騎兵隊と採掘機材の搭載を完了した土方輸送艦隊は、 第一航行序列でタイタンへと出発した。 宇宙航行法では、 宇宙空間に高度や上下が決められている。 地球の公道平面の北半球側が上、 南半球側が下とされ、公道平面が高度0と定められている。 艦隊は高度0で順調に航海を続けていた。 再びアステロイド・ベルトに到達し、進路索敵、 安全を確認してから、木星空域へ進入する。 木星は太陽の第5惑星で、太陽系で最大の惑星。 太陽からの距離:7億7833万Km (5.2天文単位)。 赤道直径142,984km、両極直径133,708km、 その質量は他の太陽系惑星のすべての質量の2倍に達する。 木星はガスの惑星で、個体の表面を持たず、 深度を増すにつれてガス性の物質の密度が上がっていく。 ガス惑星のl直径は1気圧の深度のものとなっている。 木星は90%が水素、10%がヘリウム、それ以外に微量のメタン、水、 アンモニアと「岩石」でできている。 これは、太陽系が形成された、 原初の太陽星雲の組成と非常によく似ている。 木星は、地球よりはるかに強い、巨大な磁場を持ち、 磁気圏は6億5000万km以上に広がり、土星の軌道をも越えている。 タイタンへ到着した土方輸送艦隊は、駐留拠点の設営を開始した。 仮設型のドーム基地を数個建設し、それをパイプ状の通路で連結する。 四方の高みに移動式レーダーを配置し、基地へデータ連携する。 タイタン駐留基地が完成した。 基地の完成後、空間騎兵隊による採掘作業が開始された。 警戒隊、採掘隊、搬入隊と多くの人員での作業で、 第1回目より迅速に物資積載を完了した。 今後は継続して採掘を行うので、 タイタンでの艦隊の滞留時間は飛躍的に短縮できるだろう。 問題は、荒くれ者ぞろいの空間騎兵隊が、 いつまで採掘作業に従事し続けるかである。 一抹の不安を残しつつ、輸送艦隊は地球への帰路についた。 |
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| 初出:2006/05/12 |