http://www.aurora.dti.ne.jp/~mutsumi/study/syaken41.html
2003-03-20公刊,2003-04-10Web掲載,2004-02-20最終修正
黒澤睦「ビデオカメラによる監視と犯罪捜査」明治大学社会科学研究所紀要第41巻第2号(明治大学社会科学研究所,2003年3月20日)299-313頁。
Mutsumi KUROSAWA, CCTV and Criminal Investigation, Memoirs of The Institute of Social Sciences, Meiji University, Vol. 41 No. 2, 2003, Institute of Sosial Sciences, Meiji University, pp. 299-313.

  1. 原文は,B5判/縦書/2段組です。
  2. 赤字のものは,出版後に気づいた訂正事項です(<>内の日付は,訂正を行った日の日付です)。お詫びして訂正いたします。また,誤字・脱字等のご連絡をいただいた方に,この場を借りて感謝申し上げます。
  3. 本論文は,立法政策論を含んだ学術論文であり,実務でこのとおりの運用がなされている訳ではありません。実際に事件の当事者になられた方は,弁護士等の法律実務家にご相談なされることをお勧めいたします。
  4. 「校正・出版後の追加事項」が,末尾に追加されています。

【p.299】
《大学院生応募論文》

ビデオカメラによる監視と犯罪捜査

(CCTV and Criminal Investigation)

黒澤 睦

(Mutsumi KUROSAWA)

はじめに

 近時,警視庁が歌舞伎町に50台のビデオカメラを設置したことが大きな話題となった。そして,その ビデオカメラによって撮影された映像をもとに検挙された事例も既に報告されている(1)。また,監視カメ ラ付きの「スーパー防犯灯」(@事件・事故などの「緊急事態」が発生した場合に,Aスーパー防犯灯 の緊急通報ボタンを押すと,B赤色灯が点灯したり,必要に応じブザーを鳴らしたりして,周囲に緊急 事態が発生したことを知らせ,C防犯カメラが作動して,警察署で現場周辺の様子を確認し,Dインタ ーホン(テレビ電話)で警察官と通話ができ,E警察官が現場へ急行するなどして,事件・事故の処理 にあたる,というもの)が全国各地の警察によって導入されてきている(2)。さらに,これまでにも,東京 ・山谷地区(3)や,大阪・釜ヶ崎(あいりん)地区(4)では,警察によってビデオカメラによる監視が行われ, その是非が裁判で争われてきた。
 他方で,警察以外のものによってもビデオカメラによる監視がなされている。たとえば,高速道路や 駅構内,市街地や商店街(東京の新宿中央通りでは新宿中央通り発展会が2001年11月から19台のカメ ラを,大阪の心斎橋筋商店街では商店街振興組合が2002年6月から58台のカメラを稼動させている), 金融機関,学校や企業,コンビニエンスストア,個人住宅などでも非常に多くの監視カメラが用いられ ている(5)
 また,アメリカ合衆国においても,公共空間などにビデオカメラを設置して,警察署などで視認・録 画するという形の監視が古くから行われている。そして,警察以外でもビデオカメラによる監視が行わ れていることは周知のとおりである(6)
 さらに,イングランドおよびウェールズでは,地域単位の警察・自治体・保護観察・保健・ボランテ ィア組織・住民・企業からなる「パートナーシップ」(1998年犯罪・秩序違反法(7)に基づいて編成)を 主体としたClosed Circuit Television(CCTV,閉回路テレビ)計画に対して,内務省などから資金援助 がなされる(8)など,ビデオカメラによる監視が国家的規模で実施されつつある(9)
【p.299/p.300】
 以上のように,ビデオカメラによる監視は,日常的に,あらゆる場所で,しかも日本のみならず他の 国でも,行われるようになってきている。本論文は,こうしたビデオカメラによる監視について,一般 的に取り上げられている目的,機能,弊害などを,近時発表された調査研究の結果などを踏まえて分析 ・検討し〔一〕,犯罪捜査におけるその利用の是非を検討しようとする〔二〕ものである(10)

一 ビデオカメラによる監視についての基礎的考察

 ビデオカメラによる監視については,その目的,機能,弊害などについて,学説や実務上も様々な議 論がなされている。以下では,こうした目的,機能,弊害などについて,一般的に挙げられているもの を,肯定的側面(利点)と否定的側面(欠点)という形で整理・分類し,近時の調査研究の結果などを 踏まえて,具体的に分析・検討していくことにする。
 なお,ここでの肯定的側面か否定的側面かの評価は,以下のような理由から,とくに断りがない限り, 原則として,監視される側の視点を基準として考えることにする。すなわち,@監視する側と監視され る側の肯定的側面・否定的側面が一致する場合だけではなく,監視する側からは肯定的側面とされるも のが監視される側からは否定的側面とされる場合(あるいはその逆の場合)がありうることから,分析 の視点を確定しておく必要があること。また,Aビデオカメラによる監視を用いた犯罪捜査の是非を論 ずる際に監視行為の法的性質論(任意処分か強制処分か)が問題となりうるが,その区別基準について 監視行為によって侵害される利益が重要な判断要素となりうることから,その前提として監視される側 の視点に立って分析することが必要になること,などの理由からである。

1 肯定的側面

 ビデオカメラによる監視の肯定的側面はいくつか挙げられる(11)が,ここでは,説明の便宜のため,事 件・事故などの発生の前と後に分けて分析・検討する。もっとも,事件・事故などの発生前の肯定的側 面は,以下の分析・検討でも触れるように,事件・事故などの発生後の肯定的側面と大きく関連してい ると考えられることから,実際の現象とは逆に,発生後のものから分析・検討することにする。

(一)事件・事故などの発生後
 事件・事故などの発生後については,次のような肯定的側面が挙げられる。
 (1) まず,ビデオカメラによる監視によって,事件・事故後の早急で適切な処置(犯罪鎮圧・事後対 応)をとる手がかりが与えられる(12)
 すなわち,監視カメラによって,事件・事故の発生や発生場所あるいは発生状況などを早期に監視者 が知ることができることにより,現場への急行や(警察が監視主体でない場合には)警察への通報によ って加害者が取り押さえられるとともに,救急車の手配なども行われ,被害の拡大を早期に防ぐことが 容易になりうるのである(13)
【p.300/p.301】
 もっとも,こうした機能の実効性を担保するためには,常にテレビモニタで視認を行っていること, あるいは,事件・事故発生後間もなく周囲の状況を確認することが促されるようなシステムが必要にな る。警察が監視主体に<削除:2003-04-10>なる場合には,監視カメラを導入する理由の1つとして限られた人員という制 約がある(14)ことを考慮するならば,常時の視認は実際上困難であり,後者のシステムの形態が現実的と いうことになる。その点に限れば,前述の「スーパー防犯灯」は評価できるものである。
 (2) また,ビデオカメラによる映像や音声の記録を,民事事件における資料(証拠)や,刑事事件に おける捜査資料・裁判資料(証拠)などに利用することができる(15)
 こうした資料保全機能は,事後対応の一部ともいえるだろう。しかし,犯罪捜査との関係ではとくに 重要な機能と考えられるので,別に論じる必要がある。すなわち,録画データというより客観的な資料 が存在することで,自白などの供述の強要を回避させるものになりうるとも考えられるのである。もっ とも,その〈表面的な〉証明力の高さから,逆に,証拠能力の認定には慎重な態度がとられるべきであ る(16)。なお,捜査段階については,刑事訴訟法に規定されている公判段階の証拠法則がそのまま適用さ れるわけではない。しかし,銀行<(正)「農協」:2003-04-10>の防犯カメラの映像を写真にしたものが資料とされて,それが誤認逮 捕に結びついた事案(愛媛誤認逮捕事件)があったことも考慮すると,捜査段階においても,録画デー タの取り扱いには慎重な態度がとられるべきである。
 (3) そして,警察が監視主体となる場合には,指名手配をされている被疑者などを監視カメラによっ て自動識別し,身柄確保の手がかりを得ることが可能になる。
 現在の技術水準では,映像による自動的な個人識別も可能になりつつあり(17),この技術を応用するこ とが認められるならば,あらかじめ指名手配されている被疑者の写真データなどを監視カメラシステム に登録しておくことで,コンピュータが自動的に識別して,場所を特定し,その情報をもとに身柄確保 をすることも可能になるだろう。

(二)事件・事故などの発生前
 一方,事件・事故などの発生前においては,次のような肯定的側面が挙げられる。
 (1) まず,監視カメラの存在によって犯罪が発覚することをおそれ,犯罪行為に出るのを思い止まる と考えられるから,犯罪予防(被害化防止)の手段になりうる。
 これは,監視に用いるビデオカメラが,「防犯」カメラと呼ばれていることから,一般的に想定され ている機能である。また,犯罪が私たちの生命・身体・財産・自由などを脅かすものであると考えられ ることから,犯罪予防機能は,私たちの生命・財産などの権利や利益を守る機能とも言い換えられる。 そして,この機能は,ビデオカメラによって監視を行うことが,犯罪の機会を減少させるという意味で, いわゆる環境犯罪学(供給サイド犯罪学)の考え方にも合致する(18)
 ところで,この犯罪予防機能は,事件・事故などの発生後における資料保全機能と大きな関連性を持 ち,両者を分離して考えることは困難であるように思われる。すなわち,ビデオカメラによる監視やそ の記録データを利用することによって,検挙率や有罪率が上昇して,犯罪行為に出る際のリスクが高く 【p.301/p.302】 なり,その結果,犯罪行為を思いとどまると考えうるのである(19)
 なお,こうした犯罪予防機能について,英国で実施されたブラウンの調査研究では,次のような調査 結果が出ている。すなわち,短期的には,CCTVが存在することで犯罪行為に対して強い抑止効果がある。 たとえば,ニューカッスルでは,CCTVの導入後,不法侵入は56%,器物損壊は34%,窃盗(車上あらしを 除く)は11%減少し,また犯罪発生場所の転移(displacement)の起こる可能性も低い。しかし,CCTV の効果はある程度の期間が経つと減少する可能性があり,効果を持続させるためには,CCTVを利用する ことで逮捕のリスクが大きくなるように運用されなければならない。また,強盗,ひったくり,暴行な どのような対人犯罪は,CCTVの効果があまりない(20)。さらに,バーミンガムのように街の構造が複雑な 場合には,死角となる場所ではCCTVの効果が薄くなるとともに,犯罪発生場所の転移が起こる可能性も あるという(21)
 上記のような英国での調査研究をみた場合に,ビデオカメラによる監視の肯定的側面と考えられてき た犯罪予防機能が,実はあまり確かなものではないということが分かる。したがって,こうした犯罪予 防機能を理由に監視カメラを導入するためには,日本においても調査研究を行い,ビデオカメラによる 監視の犯罪予防機能が裏付けられる必要性があるように思われる(22)
 (2) また,監視カメラの設置は,犯罪予防や早急な犯罪鎮圧・事後対応への期待を生じさせ,犯罪に 対する不安感(fear of crime)を減少させたり,安心感(safety)を増幅させうる(23)
 こうした犯罪に対する不安感や安心感は,前述の犯罪予防機能とは分けて論じられるべきものである。 なぜなら,不安感や安心感は,犯罪発生率などとは必ずしも連動するものではなく,街の構造,人のつ ながり,地域の防犯活動など,様々な要素が総合的に影響し,最終的には主観的な評価によって決まる ものであるからである(24)。また,犯罪に対する不安感により,人々が自らの行動を規制することがあり うることから,監視される側からみた場合には,犯罪に対する不安感は大きな意義を有しているからで ある。
 この点に関して,英国で実施されたブラウンの調査研究では,CCTVの導入後,CCTVの存在を知ってい る者については,日没後の中心街における安心感が高まった。しかし,夜間にも中心街を定期的に利用 する者や,CCTVの存在を知らない者については,安心感に対する影響があるとはいえないという(25)。し たがって,こうした調査結果からすれば,犯罪に対する不安感を減少させるという観点から,監視カメ ラが設置されている旨を事前に広く告知しておく必要があるといえよう。

2 否定的側面

 ビデオカメラによる監視は以上のような肯定的側面を有すると思われるが,他方で,肖像権の侵害, プライヴァシーの侵害,表現の自由あるいは行動の自由の侵害,思想・信条の自由の侵害,より広くは 人間の尊厳の侵害などの大きな問題があるとされる(26)。以下では,学説あるいは実務上とくに問題にさ れている点を取り上げる。

【p.302/p.303】
(一)肖像権に関する問題
 肖像権に関する問題は,ビデオカメラによる監視の是非が大きな問題となる以前にも,捜査手段とし ての写真撮影に関して問題とされてきた。そのリーディングケースである京都府学連デモ事件判決(27)は, 「現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって,しかも証拠保全の必要 性および緊急性があり,かつその撮影が一般的に許容される限度を超えない相当な方法をもって行われ るとき」は警察官が犯罪捜査上写真撮影を行うことが許されるとした。しかし,他方で,肖像権とは明 言しなかったものの,憲法13条の趣旨から,「承諾なしに,みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない 自由」を認めた。
 こうした肖像権に関しては,ビデオカメラによる監視の場合には,やや違った捉え方が成り立ちうる。 すなわち,ビデオカメラによる監視が,テレビモニタによる視認のみにとどまる場合には,肖像権の捉 え方によっては,必ずしも肖像権の侵害とはならない可能性があるともいえるのである(28)。しかし,逆 に,録画を伴う場合には,その録画された連続的な動画は,断片的な静止画である写真以上に肖像権の 侵害の度合いが高いといえるのである(29)

(二)プライヴァシー権に関する問題
 前述の京都府学連デモ事件判決は,一種のプライヴァシー権を認めた判例であるとも評価されている。 プライヴァシー権の内容に関する学説は多岐にわたるが,人の道徳的自律の存在にかかわる情報(プラ イヴァシー固有情報)を意思に反して取得・利用・開示されないという自己情報コントロール権という 考え方(30)が,有力になってきている。この考え方によれば,ビデオカメラによる監視は,まさにプライ ヴァシー権を侵害するおそれがあると考えられる(31)
 ここで注意すべきなのは,プライヴァシー権を問題にする場合には,その監視行為そのものに限らず, その後の通常想定しうる利用方法をも視野に入れなくてはならないという点である(32)。ビデオカメラに よる監視は,目視に比べて,複数箇所の監視,拡大(増幅)した監視,暗所での監視などが可能になり, あらゆる意味で監視範囲が拡大されることから,プライヴァシーを侵害する可能性がより高いものにな る。しかし,それにとどまらず,その最も大きな特徴は,ビデオカメラによって得られた映像などを, 原理的には,ハードディスクなどで半永久的にその性質を劣化させることなく保存・蓄積することがで き,コンピュータを活用することによって他の情報と合わせて検索できるようになるということである。 しかも,警察が監視主体となる場合には,既に蓄積されている個人情報と組み合わせることで,個人の 固有情報の侵害の具体的危険性が高いと考えられる(33)。また,将来的に,肯定的側面でも触れたような 自動識別システムが導入され,その情報がネットワークを通じて共有されるようになった場合には,ひ とたび何らかの嫌疑を抱かれれば,その者の行動のほとんどが警察の監視下に入りうるとも考えられる のである。
 また,プライヴァシーの形態について,プライヴァシーそのものとプライヴァシーの合理的期待,あ るいは,プライヴァシーの主観的期待と客観的期待とを峻別する考え方が有力になっている(34)。問題は, 【p.303/p.304】 この合理的期待あるいは客観的期待という概念そのものにある。すなわち,@こうした概念にはプライ ヴァシーを制約する必要性が読み込まれる可能性がある,Aその概念が机上の論理操作にとどまり,実 際的な裏付けがなされていない,などの問題点があるのである。
 @の点に関して,たとえば,上記の概念を採用して,「現に犯罪を行い,行い終わったものにプライ ヴァシーの客観的期待は認めるわけにはいかないのは当然」である(35)との結論が導かれる場合がある。 しかし,プライヴァシーの権利・利益は認められるけれども,それを上回る利益が存在し,プライヴァ シー制約が相当な範囲内であるがゆえに,当該プライヴァシーの制約が認められると説明した方が,理 論的に妥当なように思われる。なぜなら,かりに,客観的期待がないとする上記の見解によったとして も,現行犯人のプライヴァシーの期待が認められないのは,その容貌などの撮影に関してであって,一 般的にプライヴァシーの期待が認められなくなってしまうというわけではないからである。
 Aの点に関しては,小宮信夫の日本における監視カメラの受容の程度に関する調査研究(標本数2000, 回収数1376)が非常に参考になる。この調査研究では,「次のうち,犯罪防止のための監視カメラを設 置してもよいと思う場所を,すべて選んでください。(複数回答)」との質問に対して,次のような回 答結果が得られている。すなわち,設置をしてもよいする者の比率が高い順に,「地下道」が59.0%, 「駐車・駐輪場」が55.4%,「店内」が42.0%,「公園」が39.9%,「列車の車内」が26.5%,「駅 前広場」が25.6%,「通学路」が24.6%,「商店街」が22.7%,「校庭(学校の運動場)」が13.8%, 「校舎(学校の教室・廊下)」が10.8%となっており,「どこにも設置すべきではない」とするのは2.3% である(36)
 この調査結果のうち,「どこにも設置すべきではない」とする割合が2.3%である点に注目すれば,監 視カメラの設置は,広く一般的に受け容れられるもののようにも思われる。しかし,注目すべきは,監 視カメラを設置してもよいとする者の比率が最も高い地下道でさえ,約4割の者が,監視カメラを設置 してもよいとはしていない点である。つまり,(調査項目自体は具体的な場所ではないが,回答者はそ れぞれ具体的な場所をイメージしながら回答したであろう)個別の場所でみた場合に,〈監視カメラを 設置してもよい〉と大多数の者が回答しているわけではないのである。こうした回答結果からは,一般 的に公の目に晒される場所であり,かつ,ある一定の犯罪発生の予感がするという条件が加わった場所 であってたとしても,〈プライヴァシーの合理的期待がなく,ビデオカメラによって監視されることが 一般的に許容される〉とはいえないことになる。また,同時に,〈ビデオカメラによる監視について, 黙示の同意がある〉と擬制することはできないように思われる(37)

(三)表現の自由(行動の自由)に関する問題
 監視カメラが設置された場合には,より広くは表現の自由(行動の自由)が侵害されると考えられる。 すなわち,監視カメラの心理的負担に伴う「萎縮効果」(広義)により,表現行為を思いとどまる可能 性があるのである(38)
 もっとも,こうした萎縮効果は,犯罪行為を思いとどまるという,ビデオカメラによる監視の肯定的 【p.304/p.305】 側面の中心的要素にも大きく関係している点に注意しなくてはならない。こうした犯罪抑止の観点を重 視すると,表現行為が適法に行われている限り,何の差支えもないはずであるから,萎縮効果はそれほ どないという結論(39)にも至りうる。しかし,行為が適法であるか違法であるかは,実際問題として,即 座には決しがたく,適法行為であっても違法行為に近接する行為は,思いとどまる可能性が少なからず ある(狭義の萎縮効果),ということになるだろう。

二 犯罪捜査としてのビデオカメラによる監視

 否定的側面で分析・検討したように,ビデオカメラによる監視は大きな弊害を伴い,憲法上の疑義か ら,警察による犯罪捜査のみならず,公的機関を主体とするものは許されないとも考えられないではな い。しかし,他方で,肯定的側面で分析・検討したように,ビデオカメラによる監視による,迅速な対 応の担保,証拠・資料保全,犯罪防止(被害化防止),犯罪の不安感の減少などから,地域住民などの 権利や利益が守られうるという有用性も認められる。したがって,実施主体が警察を含めた公的機関で なくてはならないかはひとまず別問題として,ビデオカメラによる監視の実際的な必要性は認めざるを えない。
 そして,監視カメラの管理機関については,前述のブラウンの分析で指摘されているように,監視カ メラの犯罪防止効果を持続させるためには,監視カメラが利用されることで逮捕のリスクが大きくなら なければならないことから,逮捕などの捜査活動に携わる警察が何らかの形で関与することが望ましい ことになるだろう。また,小宮の調査研究では,監視カメラの管理機関について,単一回答の質問で過 半数の者が,〈警察が監視カメラを管理すべきである〉と回答しており(40),その理由は明らかではない が,警察が監視カメラの管理機関としては適切であるともいえるだろう。
 以上の点を考慮すると,警察が犯罪捜査においてビデオカメラによる監視を導入する必要性と(事実 的な意味での)一応の許容性は存在していると思われる。しかし,否定的側面を考慮すると,それが無 制限に認められるということはありえない。したがって,@現行法の解釈でどこまで認められるのか, そして,A解釈では不十分な点があるならば,どのような立法的措置を講ずる必要があるのか,を明ら かにしなくてはならない。

1 現行法解釈の限界

 警察が行うビデオカメラによる監視については,刑事訴訟法学上は,法的性質,許容規定と許容基準, 将来の捜査の可否などが主に問題とされる。

(一)法的性質論
 まず,任意処分と強制処分の区別について,従来は,個人の人権に対する物理的・有形的侵害を伴う か否かを基準とする見解もとられていたが,現在では,憲法上保障・尊重される(重要な)権利・利益 【p.305/p.306】 を制約するか否かを基準とする見解が有力になっている(41)。この有力説に立ち,前述の基礎的考察の否 定的側面を考慮するならば,ビデオカメラによる監視は,公共空間におけるものであっても,重要な権 利・利益を制約しており,しかも黙示的合意があるとはいえないことから,強制処分といわざるをえな いように思われる。

(二)許容規定と許容基準
 ビデオカメラによる監視が強制処分であるとすると,刑事訴訟法197条1項但書との関係が問題とな る。同条項の規定するいわゆる強制処分法定主義についての解釈は分かれているが,憲法31条の趣旨を 考慮し,国民の重要な権利・利益を制約する強制処分に対する立法的コントロールの規定と解すべきで ある(42)。その場合,ビデオカメラによる監視は,刑事訴訟法に規定された個別の許容規定に従なけれ ばならない。ビデオカメラによる事後的撮影(「監視」ではない)は,現行刑訴法上の規定では,220条 1項2号の逮捕に伴う検証の性質に近く,@現行犯性,A必要性および緊急性,B相当性という要 件の下に,許容される可能性があるだろう(43)

(三)事前捜査の可否
 しかし,ビデオカメラによる監視については,さらに事前捜査の可否の問題が生じる。
 事前捜査については,刑事訴訟法189条2項や刑事訴訟規則156条1項の文言,行政警察(犯罪予防 ・鎮圧)活動と司法警察(犯罪捜査)活動の分類を前提とした法体系,犯罪発生の蓋然性が将来の犯罪 の捜査の濫用の歯止めにならないことなどを理由に,現行刑事訴訟法の解釈としては認められないと解 するのが素直である(44)。これを前提にして,事前のビデオカメラによる監視が捜査活動であると仮定し た場合には,ビデオカメラによる監視は,事前捜査を認めていない現行法の立場と矛盾し,許容されな いことになる。
 このような結論を避けるために,ビデオカメラによる監視は犯罪予防・鎮圧活動の性質のみを有する ものであると仮定したならば,行政警察活動(警職法5条を参照)として許容される可能性が生じるか もしれない。しかし,「並行して警邏・警備活動を実施し,犯罪の未然防止やその鎮圧を図るべきであ るが,だからといって……ビデオ撮影が司法警察作用としての性質を失うことにはならない」のであり (45),また,犯罪予防・鎮圧機能と強い関連性を有する資料保全機能を軽視することになり,事実を歪曲 するものであるとの批判を免れないだろう。また,「犯行開始までの撮影は捜査の準備で,犯行後のも ののみが捜査であるとすれば,同じ性質の警察活動がいわば偶然の事情により二分されることになり適 切でない」(46)
 このように,ビデオカメラによる監視は,全体として,犯罪防止活動,犯罪鎮圧活動,犯罪捜査活動 の性質を帯びるものであり(47),それを実施の必要性の観点から通常あり得べき事実解釈や法解釈 を枉げてまで許容しようとするのは,適正手続(憲法31条)の趣旨にも反するものである。

【p.306/p.307】

2 立法政策論

(一)立法的コントロールの必要性
 以上のような解釈論上の問題は,ビデオカメラによる監視について正面から定めた規定がないことか ら生じている。監視カメラがなし崩し的に導入されてしまっている現状にあっては,個別事例における 裁判による事後的コントロールを期待するだけでなく,明確な許容(制限)規定を創設しなければ,監 視カメラによる権利・利益の一般的侵害の可能性は払拭できない(48)
 監視カメラの設置・運営は,侵害されうる憲法上の権利・利益の重要性から,内部規定(たとえば, 警視庁の設置した歌舞伎町の防犯カメラは,@事件に無関係の映像は1週間で破棄する,A使用状況は 都公安委員会に毎月報告する,などの運用がなされている)にとどまらず,法律により規制されなくて はならない。立法化の作業を行うことにより,監視カメラの存在により権利・利益を制約される国民が, その是非を検討する機会を与えられる必要があるのである(まさにそれが「強制処分法定主義」の積極 的意義である)。
(二)包括的な規制の必要性
 立法化の際に留意すべき点は,警察が実施するビデオカメラによる監視については,刑事訴訟法など に規定される犯罪捜査だけでなく,警察官職務執行法などに規定される犯罪予防・鎮圧活動に対しても, 法律の射程が及ぶようし,警察活動全体としての目的・機能・弊害を考慮した形で規制がなされること である。なぜなら,警察活動は目的によって分類されるものではあるものの,捜査であれ行政警察活動 であれ基本的な枠組みは共通するものである(49)とともに,ビデオカメラによる監視は,前述のように, 捜査活動と犯罪予防・鎮圧活動との複合的性格を有しており,この場合の警察活動を概念的に分割する ことは妥当でないからである。

(三) 具体的な設置・運用・情報管理基準
 法律で規定すべき具体的な設置・運用・情報管理基準については,@目的が正当であること,A客観 的かつ具体的な必要性があること,B設置状況が妥当であること,C設置および使用による効果がある こと,D使用方法が相当であること,という前掲の大阪地裁判決で示された条件を参考にするとともに, E設置主体の項目を加え,それぞれを具体的に規定すべきである。ここではとくに留意すべき点を挙げ る。
 (1) 規制対象になる監視カメラの設置主体には私人を含む
 まず,監視する者が私人であっても,監視される側の憲法上の重要な権利・利益は尊重されるべきで あるから,不特定多数の人間が出入りする公共空間のビデオカメラによる監視については,法律の射程 に入れ,濫用防止の枠組みを作るべきである(50)。また,私的空間のものも含めて,第三者へのプライバ シー<(正)「第三者のプライヴァシー」:2003-04-10>に関係する場合は,捜査機関への記録の任意提出は制限されるべきだろう。
 (2) 警察が監視カメラを設置する場合には裁判所の定期的な令状審査を要する
【p.307/p.308】
 また,事前の犯罪防止活動の一環として得られた資料は,ひとたび事件・事故などが起こった場合に は,犯罪捜査の資料として用いられる蓋然性が高い。したがって,ビデオカメラによる監視・録画を警 察が実施する場合には,捜査活動と同等の規制が及ぼされるべきである。具体的には,監視カメラの導 入の際に裁判所による事前の令状審査を必要とし(「ビデオ監視令状」を立法化する。この場合には, 事前捜査を認めないと解される現行刑事訴訟法の立場を改めることになる),一定期間ごとに,改めて 令状審査を行うものとすべきである。
(3)監視カメラの運用に関する事前告知
 また,ビデオカメラによる監視が行われている旨の告知がなされる必要がある。これには,適正手続 の保障(憲法31条)の観点からの理由はもちろんあるが,基礎的考察の部分で触れたように,犯罪に対 する不安感の軽減の実効性の担保という理由も存在する。なお,この告知には,監視カメラシステムの 全体的告知と,設置された監視カメラの個別的告知(51)の両方を要する。
(4)取得した情報の利用方法・期間の限定
 そして,プライヴァシーないし個人情報の保護の観点からは,目的外利用の禁止を明文で規定すべきで<追加:2003-04-10> ある。また,不当なデータ蓄積を防止するため,利用可能な期間を必要最小限度に限定し,期間経過後 はデータを消去させることが必要になるだろう(52)

結びにかえて

 最後に,以上の検討で導かれた結論をまとめておく。
 ビデオカメラによる監視には,(1)肯定的側面と(2)否定的側面が存在する。
  (1)肯定的側面
   (i)事後 @迅速な対応の担保機能,A資料保全機能,B自動識別機能
   (ii)事前 @犯罪予防(被害化防止)機能,A犯罪不安感軽減機能
  (2)否定的側面
   (i)肖像権に関する問題
   (ii)プライヴァシー権に関する問題
   (iii)表現の自由(行動の自由)に関する問題
 肯定的側面とされるもののうち,犯罪予防(被害化防止)機能は,英国での調査研究によれば,その 効果の持続性や犯罪場所の転移の問題から,実はあまり確かなものでないとの結果が出ている。また, 犯罪不安感軽減機能も,監視カメラの事前の告知がない場合などには,その効果があるとはいえないと される。このように,肯定的側面と一般には想定されているものでも,実証研究によると,その想定ど おりではなく,それぞれに問題点が発見された。
 また,肯定的側面における,事前の機能は,事後の機能と大きく関連していると思われる。すなわち, 犯罪予防(被害化防止)効果は資料保全効果による検挙率上昇の影響を受けると考えられ,犯罪不安感 【p.308/p.309】 軽減機能は迅速な対応の担保機能と関係していると考えられるからである。
 否定的側面においては,とくにプライヴァシー権に関する問題が重大である。プライヴァシー権の形 態については,「合理的期待」や「客観的期待」という概念を採り入れる見解があるが,こうした概念 には,@プライヴァシーを制約する必要性を取り込んでいる,A実証的な裏付けができていない(実証 研究によればむしろ逆の結果も導ける),という欠点がある。
 ビデオカメラによる監視は,強制処分であり,強制処分法定主義を厳格に解すると,現行法上は許容 されない。ビデオカメラによる監視は,全体として,犯罪防止活動,犯罪鎮圧活動,犯罪捜査活動の性 質を帯びるものであり,それを実施の必要性の観点から通常あり得べき事実解釈や法解釈を枉げてまで 許容しようとするのは,適正手続(憲法31条)の趣旨にも反するものである。
 立法政策論としては,監視カメラによる憲法的権利・利益の一般的侵害を回避するには,立法的コン トロールが必要である。また,ビデオカメラによる監視の複合的性格から,犯罪予防・鎮圧活動と犯罪 捜査活動を概念的に切り離すことは妥当でなく,両者を包括的に規制する立法が必要になる。そして, 具体的には,@規制対象に私人を取り込む,A警察の場合には定期的な令状審査を要求する,B監視カ メラに関する全体的告知と個別的告知を事前に行わせる,C取得した情報の利用方法・期間を限定する, などの規定を法律に盛り込む必要がある。
 本稿での提案は,以上のように厳しいものとなった。しかし,これは,ビデオカメラによる監視の有 用性を十分に認めているからこそ,その否定的側面にも正面から取り組んだ結果である。

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 法学研究科博士後期課程

(1) 小倉利丸「はびこる監視カメラ―奪われる市民の自由とプライバシー」技術と人間31巻4号(2002年) 54頁以下などを参照。
(2) 警察庁編『平成13年版警察白書』(2001年)73頁,警視庁「スーパー防犯灯」 〈http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/spbouhan/spbouhan.htm〉などを参照。なお,Cに関して,「通報前の映 像も一定時間保存されており,必要により検索できます」(警視庁・前掲サイト)との説明がなされ ており,(A)事件・事故が発生しておらず緊急通報ボタンが押されていない状態でもカメラが作動し ていて録画がなされている,(B)映像・音声が事後的に検索可能な記録として残されている,という 点に注意を要する。
(3) 東京高判昭63・4・1判時1278・152を参照。
(4) 大阪地判平6・4・27判時1515・116を参照。
(5) 小倉・前掲注(1)54頁以下,都市防犯研究センター『コミュニティセキュリティカメラシステム に関する調査報告書』(2001年)3頁以下および表2(当該報告書は警視庁による調査研究委託の報 告書であり,警視庁「コミュニティセキュリティシステムに関する調査報告書」〈http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/kamera/kamera.htm〉から入手可能である)を参照。
(6) 警察によるものについては,Sponick v. City of Detroit Police Department, 49 Mich. App. 162, 211 N. W. 2d 674 (1973); State v. Solis, 214 Mont. 310, 693 P. 2d 518 (1984); McCray v. 【p.309/p.310】 State, 84 Md. App. 513, 581 A. 2d 45 (1990)などにおいて,無令状で行われたビデオカメラによ る撮影・録画の是非が争われてきた。なお,これらの判例については,香川喜八朗「監視とプライバ シー」高岡法学2巻1号(1991年)237頁以下,同「写真撮影の適法性とコミュニティ・セキュリティ ・カメラ」森下忠=香川達夫=齊藤誠二編『日本刑事法の理論と展望―佐藤司先生古稀祝賀―(下巻)』 (信山社,2002年)66頁以下,松代剛枝「捜査における人の写真撮影―アメリカ法を中心として―」 『光藤景皎先生古稀祝賀論文集(上巻)』(成文堂,2001年)113頁以下を参照。
(7) Crime and Disorder Act 1998. 当該法律の翻訳・解説については,横山潔「1998年犯罪及び秩序 違反法解説」外国の立法205号(2000年)134頁以下を参照。
(8) なお,このイングランドおよびウェールズでのCCTV計画は,警視庁が歌舞伎町に監視カメラを導 入した際に参考にされた(都市防犯研究センター・前掲注(5)6頁以下および資料2および資料3を 参照)。そのほか,CCTV計画の詳細については,Home Office Crime Reduction Programme Unit, CCTV Initiative: Application Prospectus (18 May 2001)〈http://www.crimereduction.gov.uk/cctvpros.htm〉 および同サイト内の関連資料を参照。
(9) そのほか,フランスにおけるビデオカメラによる監視について,近藤昭三「監視カメラを監視せよ ―監視カメラ規制試論」札幌法学7巻2号(1998年)24頁以下(1992年当時の国鉄駅構内の監視ビ デオシステム),同・30頁以下(1991年当時の街頭防犯カメラ)を参照。
(10) 私は,かつて,ビデオカメラによる監視をとくにプライヴァシーの観点から論じたことがある(黒 澤睦「ビデオ監視とプライバシー(要旨)」罪と罰41巻2号(2003年)76頁,著作権は日本刑事政 策研究会に属する)。本論文は,犯罪捜査の観点から,上記の論考を大幅に加筆・修正したものであ る。
(11) 村井敏邦「ジョージ・オーウェルの世界(1)―刑事警察活動と監視カメラ」法学セミナー433号 (1991年)108頁以下(のちに,同『刑事訴訟法』(日本評論社,1996年)49頁以下に所収。引用は前 者による),近藤・前掲注(9)19頁以下を参照。
(12) 近藤・前掲注(9)19頁などを参照。
(13) ベン・ブラウンによれば,暴行事件においては,監視カメラによる犯罪予防よりも,こうした迅 速対応や,次に述べる証拠収集の意義が大きいという(Ben Brown, CCTV in Town Centres: Three Case Studies - Crime Detection and Prevention Series Paper 68, 1995, p. 63. なお,当該研究報告書 は,英国内務省のサイト内〈http://www.homeoffice.gov.uk/prgpubs/fcdps68.pdf〉から入手可能であ る。
(14) 都市防犯研究センター・前掲注(5)3頁を参照。
(15) 都市防犯研究センター・前掲注(5)7頁は,「従たる目的」であるとする。
(16) 山田道郎「写真・録音テープ・ビデオテープ」松尾浩也=井上正仁編『刑事訴訟法の争点』(有 斐閣,第3版・2002年)189頁などを参照。なお,実務では,防犯ビデオそのものではなく,その映 【p.310/p.311】 像を写真撮影したものが証拠とされる場合も多い。
(17) 松代・前掲注(6)131頁以下および134頁注(65),浜島望「Nシステム―過渡期の怪物を撃て」 技術と人間31巻6号(2002年)103頁などを参照。
(18) 清永賢二「連続爆弾事件を通してみたロンドンの安全な街づくり」季刊社会安全34号(1999年) 20頁以下,小宮信夫「情報社会の病理とその処方箋―犯罪に対するハイテク・ハイタッチ戦略―」LDI Report 127号(2001年)8頁以下,守山正=西村春夫『犯罪学への招待』(日本評論社,第2版・ 2001年)48頁以下などを参照。
(19) なお,村井・前掲注(11)111頁を参照。この観点からは,刑法学において取り上げられるいわゆ る消極的一般予防論は,より広い意味での一般予防(犯罪予防)を考える場合には,その一要素にと どまるものであるといえるだろう。
(20) Brown, supra note 13, pp. 15 ff.
(21) Brown, supra note 13, pp. 33 ff.
(22) もっとも,小宮は,公式の統計の限界や犯罪の増減の要因が無数であることなどを理由に,「監 視カメラがどの程度犯罪の増減に寄与したかを確定することは,現在の科学水準の下では不可能とい える」とする(小宮・前掲注(18)11頁)。なお,警視庁が設置した歌舞伎町の監視カメラについて は,犯罪がどの程度減ったかなど統計的分析がなされることになっている。
(23) 小宮・前掲注(18)11頁を参照。
(24) その意味で,監視カメラの存在は,犯罪に対する不安感や安心感に(影響を与えると仮定するな らば)影響を与える一要因という位置づけになるだろう。なお,辰野文理「地域調査から見たコミュ ニティの犯罪抑止力」被害者学研究6号(1996年)162頁以下などを参照。
(25) Brown, supra note 13, pp. 43 f.
(26) 村井・前掲注(11)111頁以下,近藤・前掲注(9)19頁以下,棟居快行「監視カメラの憲法問題」 神戸法学雑誌43巻2号(1993年)391頁以下(のちに,同『憲法学再論』(信山社,2001年)273頁 以下に所収。引用は前者による)などを参照。
(27) 最大判昭44・12・24刑集23・12・1625。
(28) 棟居・前掲注(26)393頁を参照。なお,釜ヶ崎監視カメラ事件に関する大阪地裁判決・前掲注(4) では,録画の事実は認定されていない。
(29) 村井敏邦「最新判例批評23」判例時報1294号(1989年)226頁,宇藤崇「テレビカメラによる監 視」松尾浩也=井上正仁編『刑事訴訟法判例百選』(有斐閣,第7版・1998年)23頁。
(30) 佐藤幸治『憲法』(青林書院,第3版,1995年)453頁以下など。
(31) See Sharon Williams, CCTV and the Human Rights Act: Public space surveillance in light of the European Convention on Human Rights (19 November 2001) 〈http://www.crimereduction.gov.uk/cctv13.htm〉. なお,プライヴァシー権については,大野正博『現代型捜査とその規制』(成文 【p.311/p.312】 堂,2001年)68頁以下,新保史生『プライバシーの権利の生成と展開』(成文堂,2000年),船越一 幸『情報とプライバシーの権利─サイバースペース時代の人格権─』(北樹出版,2001年)などを参 照。
(32) 香川・前掲注(6)高岡法学244頁以下を参照。もっとも,香川・前掲注(6)佐藤古稀75頁以下 では,検挙率の低下と監視カメラの普及とを理由に,この見解が一部改められている。
(33) 棟居・前掲注(26)398頁以下,小倉・前掲注(1)61頁以下,松代・前掲注(6)132頁以下,車 両ナンバー自動読取装置(Nシステム)に関する東京地判平13・2・6判時1748・144を参照。なお, ドイツ刑事手続における個人情報の取り扱いについては,浅田和茂「刑事手続における個人情報の収 集と利用―ドイツ一九九九年刑事手続法改正法の場合」『光藤景皎先生古稀祝賀論文集(上巻)』 (2001年)49頁以下を参照。
(34) 渥美東洋「判例評釈」判例タイムズ684号(1989年)36頁など。なお,Katz v. United States, 289 U. S. 347, 88 S. Ct. 507 (1967)も参照。
(35) 香川・前掲注(6)佐藤古稀77頁。
(36) 小宮・前掲注(18)11頁以下,とくに12頁の図表2「監視カメラの設置場所」。なお,この調査 研究は,「日本における監視カメラの受容の程度を探り,それをもって,監視カメラを設置した場合 に想定される犯罪被害不安低減の一応の指標」にするために行われたものである(同・11頁)。
(37) なお,小宮は,「この調査結果から,日本における監視カメラの普及の可能性を判断することは 極めて困難ではあるが,回答者から支持された設置場所と管理主体を組み合わせていけば,監視カメ ラ導入の道筋が見えてくるかもしれない」としている(同・前掲注(18)15頁)。
(38) 棟居・前掲注(26)402頁以下を参照。
(39) 香川・前掲注(6)佐藤古稀79頁以下。
(40) 小宮・前掲注(18)13頁以下。
(41) 井上正仁「任意捜査と強制捜査の区別」松尾浩也=井上正仁編『刑事訴訟法の争点』(有斐閣, 第3版・2002年)46頁以下などを参照。<追加:2003-04-10>
(42) 井上・前掲注(41)49頁以下を参照。
(43) 写真撮影について,松代・前掲注(6)133頁以下。なお,光藤景皎『口述刑事訴訟法(上)』(成 文堂,第2版・2000年)168頁も参照。
(44) 白取祐司「司法警察と行政警察」法律時報69巻9号(1997年)42頁,三井誠『刑事手続法(1)』 (有斐閣,新版・1997年)74頁以下,村井・前掲注(29)226頁などを参照。なお,刑事訴訟法222 条の2を受けた犯罪捜査のための通信傍受に関する法律3条の傍受令状については,評価が分かれて いる。
(45) 長沼範良「刑事訴訟法<演習>」法学教室203号(1997年)119頁(もっとも,長沼は,将来犯罪に対する捜査・令状発<(正)「付」:2003-04-10>を認める)。
【p.311/p.312】
(46) 長沼・前掲注(45)119頁。
(47) なお,横路保慶「犯罪発生前からのビデオ録画の可否」大学院研究年報・法学研究科篇27号(中 央大学大学院,1998年)287頁を参照。
(48) なお,近藤・前掲注(9)31頁以下を参照。
(49) 川出敏裕「行政警察活動と捜査」法学教室259号(2002年)73頁以下。
(50) なお,近藤・前掲注(9)31頁以下を参照。
(51) この個別的告知に関するよい例としては,新宿中央通りの監視カメラが挙げられる。同所では, 監視に用いているビデオカメラそのものが非常に大きく,また,監視カメラの設置場所が一目見て分かるように,大きな注意書きが設置箇所ごとになされている。
(52) 近藤・前掲注(9)32頁。

〔2002年9月25日脱稿〕

〔付記〕
 脱稿後に,亀井源太郎「防犯カメラ設置・使用の法律問題─刑事法の視点から」東京都立大学法学会 雑誌43巻2号(2003年)111頁以下に接した。
 また,注(22)の警視庁が歌舞伎町に設置した「街頭防犯カメラシステム」に関して,運用開始(2002 年2月27日)から同年8月末までの間に新宿区歌舞伎町1・2丁目の路上における刑法犯認知件数は293件で, 前年同期に比較して38件(11.5%)減少した,との報告がなされた(警視庁「街頭防犯カメラシステム」 〈http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/gaitoukamera/gaitoukamera.htm〉)が,ブラウンの研究 のように,広範で長期的なデータ収集を行った上での詳細な分析が必要である。
 さらに,注(51)の<追加:2003-04-10>新宿中央通りの監視カメラはやや小さいものに交換され,告知の注意書きも小さいも ののみになってしまった。なお,私の利用する新宿駅構内,新宿駅周辺では,告知がなく目立たない監 視カメラが非常に増加している。交通拠点の監視は,個人の行動が把握されやすく,プライヴァシーと の関係で大きな問題があるということに留意しなけらばならない。
 その他,校正後の修正・追加事項については,「黒澤睦のホームページ」〈http://www.aurora.dti.ne.jp/~mutsumi/〉 をご参照下さい。
(くろさわ むつみ)


■ 校正・出版後の追加事項

▼ 2003-05-14追加 ▼

 日本における現在の監視カメラの利用状況について,下記の資料が特に参考になる。
  1. 監視社会を拒否する会 「主な街頭防犯カメラシステムの概要」(2002-12-20, last modified: 2003-03-03)〈http://www009.upp.so-net.ne.jp/kansi-no/condition/documents/condition_camera_2002_000.htm〉。
  2. 監視社会を拒否する会 「新宿・池袋の監視カメラを徹底調査――増殖する監視カメラ網の恐ろしい実態――」(住基ネット・監視社会反対!3・2集会 「資料集」から )(2003-03-02, last modified: 2003-03-03)〈http://www009.upp.so-net.ne.jp/kansi-no/condition/documents/condition_camera_2003_003_01.htm〉。
 その他,「監視社会を拒否する会」〈http://www009.upp.so-net.ne.jp/kansi-no/index.htm〉のサイトには海外も含めた監視カメラに関する情報が非常に詳細に紹介されている。

▼ 2003-06-09追加分 ▼

 注(2)の「スーパー防犯灯」について,注(2)で引用した文言から,「スーパー防犯灯の防犯カメラは常時作動しており、24時間以内の映像が録画されていますが、必要がなければ自動的に上書きされ、以前の映像は消去されます。また、常時監視はしていません。」との文言へと説明が変更されている(警視庁「スーパー防犯灯&子ども緊急通報装置」〈http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/spbouhan/spbouhan.htm〉を参照。なお,説明変更の日時は不明である。)。
 注(22)および〔付記〕の「街頭防犯カメラシステム」について,警視庁「街頭防犯カメラシステム」に次のような新たな情報が追加されている(〈http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/seian/gaitoukamera/gaitoukamera.htm〉を参照。なお,情報追加の日時は不明である。)。
  1. 平成15年度予算で,(1)豊島区西池袋1丁目地区,(2)渋谷区宇田川町地区,の2地区に整備される予定である。
  2. (1)平成14年2月27日の運用開始から平成15年2月末までの約1年間に合計63件の映像データを提供し,うち29件が犯人の検挙につながった,(2)平成14年3月から平成15年2月までの1年間の新宿区歌舞伎町1・2丁目の路上における刑法犯認知件数は571件で、前年同期に比較して85件(13.0%)減少した。


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