http://www.aurora.dti.ne.jp/~mutsumi/edu/2018/kanazawa_criminal_policy.html
2018-04-09公開,2019-03-28最終更新

【終了】 2018年度「刑事政策」(金沢大学法科大学院,1年以上,集中講義,2単位)

  1. シラバス
  2. 授業日程

シラバス (演習案内)

<参照> 金沢大学教務システム/Syllabus

授業の主題

 刑事政策とは、犯罪への事前・事後の対応を通じて、社会を構成する個人や集団の調和を図るために行われる、国や地方公共団体などの公的機関による施策、さらには市民による活動のことをいう。学問としての刑事政策学は、犯罪およびそれらの施策・活動について、関連諸科学を駆使して実態を実証的に把握するとともに批判的に考察し、より合理的かつ効果的なものへと体系化しようとする試みである。そして、そこで得られた知見は、刑法学や刑事訴訟法学においても、法解釈論、法適用論・制度運用論、立法論など、様々な場面を通じて活かされている。
 この授業では、まず、刑事政策の前提となる犯罪の動向を概観しつつ、刑事政策を考察するにあたって注意すべき基本的視座を提示した上で、犯罪原因論とそれを踏まえた犯罪予防論に関して現在までの学問の到達点を確認する。
 続いて、犯罪対策総論として、わが国の刑事司法制度の全体像を示した上で、個々の刑罰の内容および施設内処遇・社会内処遇の実態を確認しつつ、それらをめぐる議論を紹介・検討する。またあわせて、近時大きな展開が見られた犯罪被害者への対応を取り上げる。
 さらに、犯罪対策各論として、とりわけ学問的に注目されている、少年犯罪・少年非行、DV、児童虐待、高齢者虐待、薬物犯罪、暴力団犯罪、交通犯罪、企業犯罪、精神障害者の犯罪、高齢者の犯罪、再犯者・常習犯罪者の犯罪、来日外国人の犯罪、犯罪の国際化とそれらへの対策・対応などを取り上げる。
 最後に、これまで学んだことを前提に、近年の刑事司法改革および現在の刑事司法改革論議を刑事政策の観点から横断的に分析する。
 刑事政策は生きた学問である。授業で取り上げるテーマはこれらに限定されず、直近の立法動向なども反映したものにする予定である。

授業の目標

 履修者には、以下に示した知識の修得と刑事司法全般の問題について考える姿勢・能力を涵養する。
・刑事政策の様々な用語、現代社会における刑事政策上の課題を知る。
・行動科学諸分野からの犯罪原因論研究に触れ、犯罪者および犯罪現象についての科学的・経験的な研究方法の概要を説明できるようになる。
・犯罪統計の読み方を身に付け、刑事司法の運用に関する必要な情報を入手できるようになる。
・各種の犯罪者処遇制度の本質と運用上の課題を理解し、今後の刑事司法制度の在り方を検討できるようになる。
・少年審判手続の知識と少年法の改正を理解する。
・諸外国の社会内処遇や被害者保護制度を知る。

授業の概要

1: 刑事政策の基礎(1)犯罪の動向――犯罪と犯罪統計
 昭和35年に創刊された法務総合研究所の犯罪白書には毎年タイトルが付されており、時代の刑事政策における主要課題を反映している。犯罪情勢を統計から読み解くとともに、刑事政策における合理性は何かとともに、対象となる犯罪とは何かについて学ぶ。
2: 刑事政策の基礎(2)犯罪原因論と犯罪予防論、刑罰論の基礎
 犯罪原因論とそれを踏まえた犯罪予防論に関して、現在の学問の到達点を確認し、刑事政策を検討する基礎的な視点を学ぶ。また、刑法理論・刑罰思潮の歴史的発展と学派の争いを概観することを通じ、刑罰目的と刑罰機能についての理論を学ぶ。さらに、我が国の刑罰制度の概要の理解と運用状況の分析を行う。
3: 刑事政策の基礎(3)刑罰と保安処分
 我が国における死刑制度の運用状況を把握するとともに、死刑執行方法をめぐる議論、死刑存廃論、死刑の適用基準についての議論と実証的分析の動向を把握する。また、近代自由刑の誕生と発展を学ぶことを通じ、自由刑の本質を理解するとともに、自由刑をめぐる問題として自由刑単一化論、短期自由刑をめぐる議論の概要を把握する。さらに、保安処分の本質、刑罰と保安処分の関係をめぐる議論を概観するとともに、心神喪失者等医療観察法の概要、同法による治療処遇の概要を把握する。
4: 犯罪対策総論(1)施設内処遇
 刑務所をはじめとする矯正施設について学ぶ。また、統計的に、矯正施設の現状課題について検討するとともに、受刑者の人権と法的地位なども学ぶ。
5: 犯罪対策総論(2)金沢刑務所の参観
 前回に学んだことをふまえ、刑務所参観を行う。なお、受入施設等との日程調整の都合上、第8回頃に実施する可能性が高い。
6: 犯罪対策総論(3)社会内処遇
 犯罪者の社会内処遇に関する内外の動向を検討し、わが国の仮釈放や保護観察などの社会内処遇の現状のほか、新たな立法論などを学ぶ。
7: 犯罪対策総論(4)被害者保護・支援
 犯罪被害者の刑事司法における位置づけの現状を学ぶ。諸外国の被害者保護・支援について検討するとともに、昨今制度化された被害者保護・支援に向けてのわが国の取組みを学ぶ。
8: 犯罪対策各論(1)非行少年の手続と処遇
 日本社会の変容と少年非行の現状を考える。また、昨今の少年法改正について学ぶとともに、少年法の原則である全件送致主義と調査前置主義、保護処分優先主義を学ぶ。少年審判手続の概要を学習する。さらに、少年刑事事件の量刑と死刑について考えたい。
9: 犯罪対策各論(2)少年事件の弁護
 少年事件について付添人の経験が豊富にある実務家講師を迎え、少年事件の弁護実務について学ぶ。
10: 犯罪対策各論(3)高齢者犯罪、精神障害者の犯罪、高齢・障害を理由とした処遇困難者の処遇のあり方
 高齢者犯罪と精神障害者の犯罪の現状を学ぶ。それを踏まえて、高齢・障害を抱える受刑者の処遇と社会復帰をめぐる状況を分析するとともに、今日取り組まれている入口支援および出口支援の運用状況の分析も行い、司法と福祉の有効な連携のあり方を模索する。
11: 犯罪対策各論(4)企業と犯罪、薬物犯罪、暴力団犯罪、交通犯罪
 ホワイトカラー犯罪の特徴や経済犯について学ぶ。さらに、薬物犯罪、暴力団犯罪、交通犯罪などについて学ぶ。
12: 犯罪対策各論(5)共生社会と犯罪
 DV、児童虐待、高齢者虐待、ストーカーをはじめとする日常生活の中の犯罪および防止法について学ぶ。
13: 犯罪対策各論(6)再犯者・常習犯罪者の犯罪、来日外国人の犯罪、犯罪の国際化とそれらへの対策・対応
 現代の刑事政策の最重要課題のひとつになっている再犯者・常習犯罪者の犯罪とその対策・対応を学ぶ。さらに、来日外国人の犯罪、犯罪の国際化とそれらへの対策・対応を学ぶ。
14: 刑事政策の応用問題(1)近年の刑事司法改革の刑事政策的分析
 これまで学んだことを前提に、近年の刑事司法改革を、刑事政策の観点から横断的に分析する。
15: 刑事政策の応用問題(2)現在の刑事司法改革論議の刑事政策的分析
 これまで学んだことを前提に、現在進められている最新の刑事司法改革に関する議論を、刑事政策の観点から横断的に分析する。
※ 授業日程・内容は、受入施設等との日程調整や刑事政策をめぐる動向の変化により、変更することがある。

評価の方法

標準評価方法
 本研究科成績評価基準に基づき評価する。

評価の割合

 学期末試験 100

教科書・参考書補足

前田忠弘他著『刑事政策がわかる』(法律文化社)、守山正・安部哲夫編著『ビギナーズ刑事政策〔第3版〕』(成文堂)、丸山雅夫『少年法講義 第3版』(成文堂)、川出敏裕『少年法』(有斐閣)、『少年法の現在』法学教室2015年12月号。以上のうち一つを事前に読んでおくように。
参考書として、比較的最近発行された各年度の法務省法務総合研究所編『犯罪白書』、国家公安委員会・警察庁『警察白書』

オフィスアワー等(学生からの質問への対応方法等)

 必要に応じて,メール(mutsumi@aurora.dti.ne.jp)により,可能な限り対応する。

キーワード

刑事政策、矯正施設、犯罪、少年法

追加の連絡事項など

授業日程

 2018年12月21日(金)・22日(土)
 2019年1月11日(金)・12日(土)
http://www.aurora.dti.ne.jp/~mutsumi/edu/2018/kanazawa_criminal_policy.html
Copyright (C) 2018-2019, Mutsumi KUROSAWA, All rights reserved. mutsumi@aurora.dti.ne.jp