紙飛行機の設計の基礎

 最近の競技会での紙飛行機の主流は垂直に上昇してその後最上点で水平飛行に遷るという、
いわゆる垂直上昇機ですが、これは主翼上面の気流の剥離による空力重心移動などが複雑
にからむので、初心者がこれを設計しようというのは無謀かもしれません。
 ここでは、もっとも初歩的な紙飛行機の設計の基本を解説します。

上下方向の安定  普通の形の飛行機は揚力を発生させる大きな翼(主翼)の他に上下方向(ピッチング)の安 定させるための小さな翼(水平尾翼)を胴体に固定してあります。水平尾翼は風向計の羽のよ うな働きを上下方向についてするものです。  基本的に主翼の前後方向の長さ(翼弦)に対して重心位置が前にあるほど上下方向の安定は 高くなります。もし、重心位置が後ろにあると、それは不安定になって上下方向にクルクル回 転したりします。水平尾翼はこの動きを抑えるためのものです。  基本的に水平尾翼は大きければ大きいほど上下方向の安定は増すのですが、そのかわり滑空 しないで落ちることになります。  そこで最適な大きさの水平尾翼を決めなければなりません。  水平尾翼の大きさに影響する要素は4つです。  1)主翼面積:主翼面積が大きければそれに比例して水平尾翼が大きくなります。  2)翼弦長 :主翼の前後の長さが長いとそれに比例して水平尾翼が大きくなります。  3)胴体長さ:機体重心から水平尾翼が離れるほどてこの原理によって水平尾翼の効果が大         きくなるので、機体重心からの水平尾翼の空力中心までの距離(テールモー         メントアーム)に反比例して水平尾翼の面積が決まります。  4)重心位置:重心が後ろにあるほどピッチング不安定になって水平尾翼が大きくなければ         なりません。
空力平均翼弦  翼弦は、長方形の翼(矩形翼)では、翼のどの部分でも、翼弦の前後位置と長さは同じ ですが、それ以外の翼平面形においては、翼の場所によって、翼弦の前後位置や長さが変 わります。そこで、空力的にその翼の翼弦を全体的に平均した翼弦(空力平均翼弦)を計 算では使用します。空力平均翼弦はなかなか単純には求まらないものですが、テーパー翼 については、作図でそれを求めることができます。 図のように両端(胴体取り付け部と翼端)の長い方の翼弦と短い方の翼弦の対角位置にそれ ぞれ相手の翼弦と同じだけ延長した位置を直線で結びます。その直線が両方の翼弦の中心 を結ぶ直線と交差した位置の翼弦が空力平均翼弦になります。
 主翼長さや翼弦長、テールモーメントアームと水平尾翼面積の関係は単純な比例関係や反比 例関係ですので、これらをまとめた水平尾翼容積(Vh)という無次元数がその機体のピッチン グ方向の空力的特性を代表します。この値は次式で求めます。 Vh=(Sh/Sw)×(Xh/cw) Sh:水平尾翼面積  Sw:主翼面積  Xh:テールモーメントアーム(重心から尾翼の空力中心までの距離)  cw:主翼の空力平均翼弦  機体のピッチング安定性はこの水平尾翼容積と空力平均翼弦に対する重心位置で決まります。 おおざっぱに言って重心位置を空力平均翼弦の50%位置とした場合、水平尾翼容積は0.8〜1 程度が適当です。  ピッチング安定が高すぎる設計にすると、水平滑空するような調整と発進時に高く上げる調 整が両立しなくなります。ピッチング安定を必要最小限のギリギリまで下げたのが垂直上昇機 です。 横傾き方向の安定  横傾き方向(ローリング)の安定を決めるための補助翼は飛行機にはついていません。それ を決めるのは主翼を翼端に行くほど上がるようにする角度(上反角)です。  当然ながら上反角が大きければ大きいほどローリング安定は高くなります。実際の飛行機で 機動性の必要な戦闘機では、むしろ翼端を下げる下反角がついています。  適当な上反角は翼の胴体への取り付け高さによって異なります。  だいたい高翼で10〜15度、中翼で15〜20度、低翼で20〜30度くらいとされているようです。  ところで、主翼に後退角(翼端が胴体取り付け位置より後ろ)がついているとローリング安 定が高くなるので、上反角をこれより低めにすることができます。ただし、後退角によるロー リング安定は機体が逆さまでも安定してしまうので、後退翼機の上反角を小さくし過ぎると背 面飛行から復元しなくなるので注意が必要です。  ローリング安定が大きすぎるような作りにすると、ヨーイング安定が小さくなる傾向があり ます。 左右方向の安定  左右方向(ヨーイング)の安定をするための補助翼が垂直尾翼です。これは、文字通り風見 鶏の安定板そのものです。  垂直尾翼の大きさを決める式もいちおうあることはあるのですが、ほとんど役に立ちません。 というのは、ヨーイング安定には主翼面積や主翼翼幅の他に主翼上反角や胴体側面形状など、 さまざまな要因がからんで来るからです。  一番確実なのは、少し大きめに作っておいて、試験飛行をしながら飛び方を見てハサミで少 しずつ切っていくことです。手で投げて水平滑空をさせてわずかに機体のお尻を振るくらいが ちょうど良いです。  ヨーイング安定が高すぎると調整法の所に説明してあるスパイラルダイブがしやすくなりま す。 参考文献   「紙ヒコーキで知る飛行の原理」小林昭夫著 講談社ブルーバックス
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