2002・5 穂高紀行
北アルプス・奥穂高へは、今年の初登山となりました。
5月1日 天候 くもり
今回の山行は行く直前まで行くのを迷っていた。
いままでの疲れもあったのかもしれない。
5/1の晩に出かけることにしていたのだが、準備はまったくできていなかった。
ようやく重い腰をあげて準備に取り掛かったのが夕方の5時ごろ、出発の6時間ほど前である。
いつもなら30分ほどで詰め終わるはずがなんとなく延ばし延ばしで終わったのは9時ごろであった。
お天気が悪いというのであれば、間違いなくやめてしまっていたはずであったが、良くなると聞いてしまっては、やはり行ってみたくもなる。
11時過ぎに自宅を出て、駅に向かった。
このとき東京はまだ曇り空であった。
日が変って5/2 12:19立川発「急行アルプス」に乗り込んだ。
連休の始まる1日前であるためか途中駅である立川から乗っても席が空いていた。
だが、埋まっている席のほとんどはわたしと同じように山へ行く人たちである。
5月2日 天候 はれ
4:32 松本駅着
上高地への入り口とも言うべき松本駅に着いた。
東の空が白み始めている。
どうやら快晴のようである。
ここから松本電鉄に乗換え上高地へと向かう。
松本を出てしばらくすると東の空が茜色に染まり始めた。
新島々までの車窓に広がるのは水を張り始めた田んぼである。
もう少しすると早苗の広がるうつくしい景色を望むことができるのだろう。
こんなのんびりとした景色を、そして北アルプスの山並みを眺めていても、まだ気持ちは山に向いていないようだ。
そうこうするうちに、終点新島々に着いた。
ここからさらにバスに揺られること1時間ちょっとでようやく上高地へ着くのである。
6:30 上高地着
こうして着いた上高地では、うぐいすとツバメが出迎えてくれた。
きょうはまだ観光客の姿が少ない。
ここで、持ってきたおにぎりで簡単な朝食を済ませ、入山届を出していざ出発。
7:00 上高地バスターミナル発
ここから横尾までの約3時間は平らな道を行くことになる。
梓川沿いの道にでると穂高の稜線と振り返れば焼岳が朝日を受けている。
きょうの行程7〜8時間の予定を考えるとゆっくりと景色をたのしんでいるという訳にもいかない、そうそうに河童橋を後にして林道へと歩を進めた。
肩の荷のせいばかりではないだろうが、なんとなく身体も気も重い。
身体はともかくとしていつ気が晴れるのだろう、と思いつつも目に飛び込んでくる新緑の木々を眺めているうちにようしという気になってくる。
そうして、45分ほどで最初の休憩地「明神」に着く。
7:45 明神 着
ここで一息いれ、次の目的地「徳沢」へ向かう。
7:55 明神 発
明神を出て5分ほどで「徳本峠(とくごうとうげ)」の分岐である。
この峠は釜トンネルが出来る以前上高地へ入るために越してきたところである。
この峠からの穂高の眺めもまた最高である。
河童橋を過ぎてから明神までしばらく離れていた梓川ともここからまた左手に眺めながらの歩きとなる。
ときおり雪解け水が登山道を横切っていたりする。
また、あちこちに残雪がある。
8:40 徳沢 着
明神からここまでも45分ほどである。
小説「氷壁」の舞台ともなった徳沢園がある。
この小屋の前は広いキャンプ場になっている。
この日も10張りほどのテントがある。
ここをベースに蝶が岳へ登ったり上高地の散策をしたりと便利なところである。
蝶が岳からの槍・穂高の眺めもまた素敵である。
(これは昨夏の日記をご覧ください。)
などと思いながら、しばしの休憩。
9:00 徳沢 発
化粧ヤナギの新芽もようやく伸び始めたところだろうか。
淡い緑に木々が染まりはじめている。
足元にもお花はまだであるが、新しい芽を伸ばし始めた草々を見ながら横尾へと向かう。
途中だいぶ脆くなった岩が崩れているところもあったりと平坦ではあっても気をつけなければならないところが結構ある。
だが、小さな流れが道を横切ったりしているのを目にするのはすがすがしい気持ちである。
そして、1時間ほどで横尾に着く。
10:00 横尾着
ここは、槍ヶ岳と穂高岳へとの分岐である。
そのまま直進すれば槍ヶ岳へ、吊り橋を渡れば穂高への道である。
この日わたしが横尾にいる間ほとんどの人が橋を渡って穂高へと向かった。
10:30 横尾発
さあ、いよいよここからが登りになる、とは言ったもののしばらくは樹林帯の中をさほどの登りもなく行くことになる。
20分くらいするといよいよ登りになる。
さあ、ここから4時間の登りが待っている。
途中の本谷橋あたりまでは夏道同様に樹林帯をぬっての歩きが続く。
残雪の具合は毎年違っており、今年は3・4月が暖かであったせいか昨年よりも残雪の残っている位置がだいぶ上のような感じである。
夏であれば急流に架かっている橋を渡るのであるが、いまは深い雪の下に埋もれてしまっている。
ここから林の中を抜け岩の上を登ることになるのであるが、この時期は雪の上を直登することが出来るのでかえって楽かもしれない。
屏風岩を左に廻り込むように登ると、そこは今までの緑の世界から、白の世界へと変貌をとげる。
いよいよ待ち望む世界へ足を踏み入れたという感じである。
ここからは雪の白と黒い岩肌だけの世界となる。
ただひたすらきょうの目的地・涸沢を目指す。
肩にずっしりと荷物の重みが押し寄せ、汗もかなりかいているのであるが、残雪の上を渡ってくる風がとてもここちよい。
さあ、あとひとがんばり、といっても毎年のように小屋の前で泳いでいるこいのぼりが見え初めてからが長いのである。
あえぎあえぎ最後の登りをおえると涸沢のテント場である。
すでに、20〜30張のテントがある。
わたしもザックを下ろしテント泊の申し込みをしてくる。
テントを張ってようやく一息いれる。
この時期涸沢は色とりどりのテントの花が咲く。
だいぶ汗もかいたし、ここでおいしいビールを飲みながら今日の行程を振り返り、そしてこの雄大な景色の中にいることをゆっくりと噛み締めることにする。
時間はたっぷりすぎるほどある。
それまでの生活がまるでウソのようである。
たまにはこんな贅沢な時間の過ごし方があってもいいのではないだろうか。
山懐に抱かれ山を眺め飽きたら本を読んだりというような時間が。
少し早めだが夕食の準備に、といってもきょうはお昼に食べようと思って持ってきたおにぎりが残っていたので、それとインスタント味噌汁で済ませることに。
まあ、2〜3日山へ入ったらフリーズドライの食料がほとんどなのであるが。
みなさんには、あれだけの運動量でこれだけかときっと思われることと思います。
(まあ、少しやせるにはちょうどいいのですが。)
夕食を済ませ片付けが終わって、いくら山の夜が早いとは言ってもまだ4時間ほどある。
しかし、今日は夜行で来たことだし、そのまま行動の連続でもあったのでここで一寝入り。
7:30頃目覚めるとだいぶ暗くなってきている。
だいぶ冷えてもきている。
それはそうだろう、なんと言っても雪の上に寝ているようなものなのだから。
あるものはすべて着込んでという感じである。
テントの外に顔を出してみたが、星はまだのようだ。
30分ほどしてもう一度覗いてみると、今度は一転して満天の星空である。
頭上には北斗七星が横たわってる。
実際自分の目でこの星空を見上げてみないとどれほどの星が輝いているのかわからないことでしょう。
写真ではほんの一部しか切り取ることができないのですから。
じっと、外でこの星空を見上げてはいられない、足元は雪である。
じわじわと寒さが這い上がってくるのである。
三脚とカメラを出し、3〜4枚撮ることにして、シャッターを切ったらそのままテントの中にもぐりこんで30分ほど本など読んだりしながら時間を過ごすことにした。
ただいま9:20
明日に備えそろそろカメラも仕舞い、筆も置くことにします。
廻りのテントからはいびきも聞こえ出しているのですから。
明日は朝が早い9:30頃に寝袋にもぐり込んだ。
明日もいいお天気に恵まれることを祈って。
5月3日 天候 はれ
目を覚ますとあたりはすでに明るくなっている。
一瞬寝過ごしたかと思ったが、まだ4:50であった。
外に出てみる。
本日もまた快晴である。
いまはまだ人は少ないのであるが、きょうの午後にはおそらくいっぱいになってしまうのだろう。
山あいから日が出るまでもう少し時間がある。
小屋に泊まっているのであれば早出の人たちが3時ごろよりゴソゴソと行動をはじめているのであるが、ここはわたしだけの空間である。
周りのテントの人たちもまだ静かだし。
でも、食事をしていたのではきっと見過ごしてしまうので、後回しにすることにして、カメラと三脚をテント前にセットすることにした。
早い人たちはすでに登りはじめている。
かなりの高所に取り付いている人もいる。
雪山では雪の締まっている早い時間のほうが雪崩の心配もなく、またアイゼンのかかりもよく安全なのであるが、ここ涸沢でのうつくしい日の出を見るためにはもうしばらく待たなければならないのである。
さあ、いよいよショーの始まりである。
屏風岩の上に日が差しはじめオレンジ色に輝きはじめている。
だが、残念ながら今回はモルゲンロートに穂高の峰々を染めて、その神々しさを見ることは出来なかった。
ローズピンクなどに染まるのは微妙な気象条件が重なったときなのだろう。
だが、穂高の峰々の頂きに光があたりはじめ少しずつその光が下へと降りてくるのである。
ひととおりのショーは終わった。
さあ、きょうの行動予定である。
まずは、朝食を済ませることにしよう。
今朝は、おぞうにとあんぱん、変な組み合わせであるが。
行動中に軽く栄養を摂るため甘いミルクティーを沸かしておく。
朝食を済ませたら、奥穂高のピークへとピストンしてくる準備にかかる。
きょうは往復5時間ほどの行程である。
サブザックにあんぱんと紅茶それにカメラを入れて、持っていくものはこれですべて。
足元をアイゼンでかため、手にはピッケルを持って準備完了・出発である。
6:45 涸沢発
上り口の手前では長野県警の遭難救助隊の方々が、これから奥穂や北穂へ向かう人たちに声をかけ、注意を促してくれている。
雪の状況やコース取りなどを教えてくれている。
事故のないよう充分に気をつけて行こう。
ここからの登りの間、夏にはお花畑が、そして秋には紅葉と目に鮮やかな景色を展開してくれるのであるが、いまはすべて雪の下である。
白き峰々が青空に突き刺さるごとくに聳えるのを周囲に見上げながらしっかりとした踏み跡を追って高度を上げていく。
高度を上げるにつれ、涸沢のテント場のテントも次第にその花の大きさを小さくしていく。
そして、奥穂・涸沢岳が姿を大きくしていく。
連休の中日であればこのザイテングラートもず〜っと長い列ができるのであろうが、一日早いお陰で列をなしてはない。
ゆっくりとマイペースで高度を上げることが出来る。
9:00 穂高岳山荘前 着
風はかなり強く冷たい。
小屋の陰にて一息入れる。
夏にはここのテラスも大勢の人で溢れかえっているのであるが、今は10人程が居るだけである。
奥穂のピークへ向かう人が山荘前を後にして鎖場へと向かう。
ここがもっとも混雑するところである。
頂上へ行くにはここを通るしかないので、登る人と下る人がお互いを待たなければならないためであるが、今日は人が少ないので難なく通ることが出来る。
9:15 山荘前 発
わたしもそろそろ頂上を目指すことにしよう。
ピッケルはザックにかけて両手は空けておかないと。
ここからは緊張の連続である。
もし足を踏み外せば谷底まで一直線ということも。
ハシゴを登り、鎖場を過ぎると見上げる程の白い壁がそこにあった。
ザックからピッケルを取りしっかりと右手に握り締めてこの白い壁を登って行く。
アイゼンがしっかりと雪に食い込んでここちよい。
白い壁を登りきって一息つく。
ようやく振り返って見ることが出来る。
平らになった稜線上は吹き付ける風が強いために雪は吹き飛ばされてしまっていてほとんど無い。
もうひとつの白い壁を登りきるともう少しで頂上である。
10:05 奥穂高岳頂上着
360°の展望である。
富士も見えるはずなのだが暖かいために少しもやがかかっているために残念ながら望むことができない。
視線を落とすと上高地の河童橋あたりが良く見える。
南には乗鞍、さらにその先には御嶽山が連なり、東には八ヶ岳・南アルプス、中央アルプスが連なっている。
反転して北に目を向けると槍ヶ岳が、右手奥には後立山連峰、左手奥には立山連峰と北アルプスの主だった峰々が連なっている。
時間の過ぎるのも忘れて見飽きることのない景色を眺めていたがあっという間に40分程がたっていた。
身体が少し冷えてきたのでそろそろ降りることにする。
10:45 頂上発
ほんとうに危険なのはこれからである。
登りと同じあの急斜面を下っていかなければならないのである。
11:20 山荘前着
太陽に大きな暈かかっている。
どうやらこれからお天気は下り坂のようだ。
どうにかもう一日と思っていたが望めそうに無い。
11:40 山荘前発
ここからの下りは楽である。
涸沢まで一気に下ってしまおう。
12:15 涸沢着
これからはのんびりと山を眺めながら時間を送ることに。
14:20現在も続々と登山客が登ってくる。
本日のテント場はピークを迎えてつかの間の華やかなときになる。
5月4日 天候 雨
テントを打ち付ける強い雨の音に目が覚める。
風もかなり強い。
ただいま、4:50。
これではテントの撤収もむずかしいようだ。
予備日もあるしここで停滞することにしようか。
まあ、もう一眠りして風の弱まるのを待ってみることに。
雨も風も弱まってきたようだ。
外を覗くと登山を諦めた人たちがテントを撤収し下山したようだ。
だいぶテントの数減っている。
わたしも下山することに。
雨の中でテントの撤収はちょっとやっかいだがしかたない。
撤収が終わったら上高地のバスターミナルを目指してただひたすら下るだけである。
晴れていれば穂高の峰々を振り返りながら降りていくのであるがすべて雲の中である。
徳沢を過ぎるあたりからちらほらと観光客の姿も目に付くように。
明神へ着くとかなりの人である。
ただ、雨の中では折角の山の姿もすべて雲の中である。
河童橋まで来るともうそこは登山者のエリアではなく観光客のエリアとなってしまっている。
この時季、上高地は化粧ヤナギなどが芽吹き出しうつくしい季節を迎える。
12:20 上高地バスターミナル着
これでわたしの今回の山行は終わりである。
やっぱり登ってきて良かった。
最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。m(_ _)m
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