ブブブブブブブブブブブブブ・・・・・・


小型機は何しろ構造がやわなので、かなり派手な音がする。
機は上昇している訳なので、つるんつるんの床に座り込んだ状態の私の身体は、どうしても後ろのジョンの方へと滑っていってしまう。
ジョンは少し大柄で、なかなかクッションが効いていて、座り心地が良いと言えば良いのだが、そんなに体重をかけては、やはり気の毒である。
何より、ジョンは立派な男であり、こちらも立派かどうかは他人の意見が分かれるところではあろうけれども、一応男であるから、やはり密着は避けたいところだ。なるべく足を広げてみたり、両手を突っ張ってみたりするが、地球の重力には逆らえない。
諦めてジョンに身体を預けてしまうことにする。どうせ外に飛び出したら、命を預けてしまうのだから、ここで少々体重を預けても、特に問題あるまい。勝手な理屈をコネながら、窓の外を見る。
今日は本当に天気が良い。多少靄がかかっているようだが、かなり遠くまで見渡せる。
緑の山々に青い海、白い街も見える。
実は私は多少高所恐怖症の気があるようなのだが、小さな窓から見ている所為か、これから始まる体験に多少興奮している所為か、恐怖心は全く感じないし、セスナに乗ると気分が悪くなるという困った体質すら忘れているようである。
何だか、自然に鼻歌なんかも出ていたような気がする。

そうこうしている内に、機体は水平飛行に移ったようだ。そろそろかな?
「OK。行こうか。」
ジョンが後ろから声をかけてくる。
「OK。」
足を投げ出して座っている形のまま、ずるずると前方のドアの方に滑って行く。他人に見られたら、かなり間抜けだ。
操縦席の横まで来て、ジョンがドアを跳ね上げた。

ブオオオオオオ・・・・

エンジン音が大きくなり、風が舞う。
今まで死角になっていた真下の風景が、目に飛び込んでくる。
「・・・・・!」
高い・・・なんという高さだろうか。
今まで小さな窓から見ていた景色とは大違いだ。
何より、私は高所恐怖症の気があるのである。
・・・あかん・・・くらくらして来た。
かなり真剣に後悔した。大体、何を好き好んで空を飛ぶ飛行機から飛び降りないといけないのか?
そんなことしなくても、何も生きていくのに不都合は無かろう・・・
いやいや、ここまで来て止めるとは情けない!貴様それでも日本男児か!
・・・という、すっかり後ろ向きの自分と何故か日本代表みたいな気分になった自分が混在している。
しかし、まあ考えてみるに、ここまで来て「止めます」というのはあまりに情けないし、ジョンに英語でどう言い訳するか考えるのも頭が痛い。
ここは、運を天に任せて飛び降りてしまおう!
おずおずと足を機外に出してみる・・・
お?・・・・・・・・
あ・・・足が・・・風圧で後方にすっ飛ばされそうだ。
「もっと、力を入れて!」

と、ジョンが言っているようである。当たり前だが、地上での練習では、こんな風圧は未経験だ。
必死で足を戻そうとするが、かなりの力が必要だ。足をバタバタさせながら、ひぃひぃ言っていると、ジョンが後ろから足を絡めようとして来る。後ろにいるジョンが足を出してくるわけだから、私の身体は自然に機外に押し出されることになる。地上で教わった通り、腕を交差させて少し上向き加減の姿勢を取る。
ずりずりと身体が外に出て、既に全身が風圧に晒されている。
こ〜んな感じである
視界には翼と青い空が映っている。
・・・ふっと、視界から翼が消え去った・・・




つづく