空港に着くと、そこにはl小型のセスナ機が一機止まっていて、近くに数人の人々が集まっていた。
広がったパラシュートをたたんでいる人もいる。
どうやら日本人は、私一人らしい。
先に来ている人達を見ていると、まず止まっているセスナ機のところで、インストラクターからレクチャーを受けるようだ。
ライセンスを持っていない、私のような素人がやらせてもらえるのは、タンデムスカイダイビングである。 これは、自分ではパラシュートは背負わず、パラシュートを背負ったインストラクターとハーネスや金具でつながれて飛び降りるもので、フリーフォール中バランスをとる部分を除いてはインストラクター任せで、ほとんど危険は無い。 それでも、飛行機から飛び降りる時のタイミングと姿勢は大事なようで、理解が出来るまで、何度もやり直している。
練習が終わると、いよいよ飛び立つ。
今日の天気は快晴。抜けるような青空に向かって上がって行くセスナ機。
しばらくセスナを目で追って行くと、豆粒のように見える機体から、小さな点がポロリとこぼれる。
飛んだ!
下で待っている見物人達から歓声が上がる。 小さな点は少しずつ大きくなり、豆粒ほどになったところでパラシュートが開いた。 見物人達から、また歓声があがる。
パラシュートが開くと、何となく「終わった」という感じが起こっていたが、実はもう一つイベントがあった。
ゆっくりと降下してきていると見えていたパラシュートが、急にぐるぐると回転を始めた。また見物の人々から歓声が上がる。
・・・ありゃ・・・あれ、やるんかいな?
私は乗り物酔いし易い性質である。ジェットコースターなんかも好きではあるが、あんまりぐるぐる回るのはなぁ・・・
などと考えていると、セスナ機が戻って来た。そうして、次はどうやら私の出番のようである。
スタッフの一人からジャンプスーツとヘッドギア、ゴーグルを受け取る。スーツは化学繊維で出来たツナギで、風の冷たさから私を守ってくれそうではある。・・・が、しかし・・・ちょっと派手過ぎやしませんかぁ?
ベースは赤で袖が紫、裾の方はスカイブルーで腿の辺りに黄色が使われている・・・ちょっとぉ、これ、女の子ぽくなぁい?
まあ、そんなことをはっきり主張出来るほどの英語力がないのは分かりきっているので、黙って派手スーツを着込む。
セスナの方に行こうとすると、スタッフが、
「カメラは持ってないのか?
 降りてくる時に、下から撮ってやるぞ。」
と言ってくれたので、カメラを預ける。
セスナの方に行くと、別のスタッフが、
「写真は要らないか?
 フィルム1本10ドルだ。」
と言う。カメラマンが撮ってくれるにしては、えらく安いな、と思ったら、セスナの翼の端に小型カメラが付いていて、そのカメラで飛び出す直前の写真を撮ってくれるというのである。
まあ、10ドル位なら記念に良いかと思い、頼むことにする(この10ドルというのは、あくまでフィルム代と撮影代のみであり、現像はフィルムを貰ってから自分で出す事が、後に判明する)。
私を担当してくれるインストラクターの名前は・・・何て言ったっけ?
ジョンかポールかジョージか・・・特に特徴のない名前だったように記憶しているが・・・ここでは、便宜上ジョンとしておこう。
で、ジョンは自分と私を金具とハーネスでつなげると、セスナに腰をかけ、アホな日本人相手にも分かりやすいよう(?)簡単な英単語を使って、ああだこうだと教えてくれる。
「外に出る時は、腕は交差させて・・・そう・・・で、足を僕と絡ませて、このまま外に・・・落ち始めたら手を広げてバランスを取る。」
ジョンの言う通りに何度かセスナから外に出る形の練習をする。
こんな感じである
「よし、OKだ。それじゃあ、行こうか。」
どうやら、及第点が貰えたようである。
普段テレビなどで見るスカイダイビングは、もう少し大きな機体を使っているように思うが、ここで使うのは小型のセスナである。しかも、スカイダイビングという特殊なアクティビティに使うためか、少し普通のセスナと仕様が違う。どう違うかというと、運転席以外の座席は取っ払ってしまっていて、他の部分は表面がつるつるした板が敷かれていて、ジョンと私は繋がれたまま後ろ向きに機に乗り込み、そのままずるずると機体の後部まで下がって行って、足を伸ばしたまま座った。
ブル・・・ブルルルル・・・・
セスナのエンジンがかかる。
一人のお気楽な日本人を乗せたセスナが、ネルソンの青い空へと離陸した。





つづく