オラトリオ《聖パウロ》作品36
ところが、サウロが旅をしてダマスコに近づいた時、突然、天からの光が彼の周りを照らした。サウロは地に倒れ、「サウル、サウル、なぜ、私を迫害するのか」と呼びかける声を聞いた。「主よ、あなたはどなたですか」と言うと、答えがあった。「私は、あなたが迫害しているイエスである。起きて町に入れ。そうすれば、あなたのなすべきことが知らされる。」
使徒行伝9:3〜6
1836年5月22日、デュッセルドルフのニーダーライン音楽祭で初演された《聖パウロ》は、瞬く間に世界に広がっていった。その年の10月3日にはカール・クリンゲマンの英訳テキストによってリバプールで、明けて1837年5月14日には早や海を越えてボストンで、夏にはロンドン、初秋にはバーミンガムで。ほかにもデンマーク、オランダ、ポーランド、ロシア、スウェーデン、スイスなどの各国で演奏された。19世紀、オラトリオというジャンルは衰退にあったが、これと、後に続く《エリヤ》によって見事に息を吹き返した。
序曲は有名なコラール「目覚めよ、とわれらに呼ばわる物見らの声」をモティーフにし、このコラールは曲中にも挿入されて歌われる。第1部は聖ステパノの殉教とパウロの回心を扱う。ステパノを告発するシーンは、メンデルスゾーンはバッハのスタイルに習っている。ダマスコ途上の、天からの光がサウル(パウロ)の目を射るところでは、イエスの声は女声四部合唱に与えられ、木管楽器がそれを霊妙に包み込む。第2部はパウロの伝道を描く。
ディスコグラフィー
メンデルスゾーンは合唱の扱いに長けていました。指揮者のミシェル・コルボは、「声楽の扱いに関してはベートーヴェンの百倍優れ、合唱に関してならシューベルトに勝っている」みたいなことを語っていましたが、この作品でも、随所に美しく、また劇的な合唱が聞かれます。人に聞かせたらまず、合唱「この者はモーセと神とを汚す言葉を吐いて」がうけます。”wider
Mosen”の箇所の歯切れの良さがいい感じ。>冒頭部MIDIデータ(合唱、ピアノ伴奏:24秒)
弱点は、第1部に比べて第2部がやや弱いという所。「今度はもっといいのを書きます」とフェリクスは語ったが、それは《エリヤ》において果たされることになります。
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指揮者 |
合唱団 |
管弦楽 |
ソリスト |
レーベル |
1. |
クリストフ・シュペリング |
コルス・ムジクス・ケルン |
ノイエ・オルケスター |
ペーター・リカ(聖パウロ)
ソイレ・イソコスキ、メヒトヒルト・ゲオルク、
ライナー・トロースト、ベルンハルト・ヒュースゲン |
Opus111
Opus30−135/136
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◇言うこと無しのベスト・パフォーマンス。時代楽器オケがその長所を存分に発揮、序曲から劇的な演奏を繰り広げる。
コーラスはもう少し人数欲しい感じもするが(<言うことあるやんけ)、クリアで乱れ無し。 |
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2. |
レオン・ボートスタイン |
ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル
管弦楽団&合唱団 |
マーク・ビーズリ(聖パウロ)
スーザン・ロバーツ、ルビー・フィロジェネ、
グレン・シーバート |
アラベスク・レコーディングス
Z6705 |
◇演奏の質としてはそれほどいいとは言えないが、コーラスのテンポ設定が凄まじく速く、スリリング。発音はともかく。
さらに3CD。これは異稿や追加曲などを収録した3枚めのCDがあるため。ファンならこれは押さえておかなければ。 |
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3. |
クルト・マズア |
ライプツィヒ放送合唱団
ゲヴァントハウス児童合唱団 |
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス
管弦楽団
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テオ・アダム(聖パウロ)
グンドゥラ・ヤノヴィッツ、ローゼマリー・ラング、
ハンス・ペーター・ブロホヴィッツ、
ゴトハルト・シュティア、
ヘルマン・クリスティアン・ポルスター |
フィリップス
420 212−2 |
◇メンデルスゾーンゆかりのゲヴァントハウス管による演奏。
聖パウロを歌うアダムを始めとしてソリストたちは万全、コーラスも重厚で乱れなく、いかにもドイツ的、子音の飛び方が気持ちいい。
天から呼ばわるイエスの声に児童合唱をわざわざ起用しているのだが、これがきれい!スタンダードな演奏。
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4. |
ゴトハルト・シュティア |
ハンブルク・
モンテヴェルディ合唱団 |
ハレ国立フィルハーモニー
管弦楽団 |
パウル・メルマン、
シュテファニー・シュティラー、クリスタ・ボンホフ、
クリストフ・ゲンツ、ジークフリート・ロレンツ
トマス・ローゼンタール、カイ・F・ロッゲンカンプ |
アンビトゥス
9mb 97 942 |
◇キャストやジャケットを見た感じではたいしたことなさそうだが、意外とそうでもない。テクスト重視の歌唱が静かな感動を呼ぶ。 |
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5. |
ヘルムート・リリング |
シュトゥットガルト・
ゲヒンゲン・カントライ
プラハ室内合唱団 |
チェコ・フィルハーモニー
管弦楽団 |
アンドレアス・シュミット、
ジュリアン・バンス、インゲボルク・ダンツ、
ミヒャエル・シャーデ |
ヘンスラー
98.926 |
◇なぜチェコ・フィルか?という疑問はさておき、シュミットの聖パウロはなかなか。
合唱もややあっさり目ながらテンポが速く劇的。 |
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6. |
フィリップ・ヘレヴェッヘ |
シャペル・ロワイヤルと
コレギウム・ヴォカーレの
コーラス |
シャンゼリゼ管弦楽団 |
マティアス・ゲルネ、
メラニー・ディーナー、アンネッテ・マルケルト、
ジェイムズ・テイラー |
ハルモニア・ムンディ・
フランス
HMC 901584.85 |
◇ちょっと叙情的に走りすぎた感じ。エリヤは劇的にいってたのに。 |
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7. |
ミシェル・コルボ |
リスボン・グルベンキアン管弦楽団・
合唱団 |
トーマス・ハンプソン、
ラシェル・ヤカール、ブリジット・バルレイス、
マルクス・シェーファー |
エラート
2292−45279−2 |
◇速めのテンポでぐいぐい進んでいきます。やや軽めな印象。 |
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8. |
ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス |
ヴッパータール・クレンデ、
デュッセルドルフ市立
楽友協会合唱団 |
デュッセルドルフ交響楽団 |
ディートリヒ・フィッシャー・ディースカウ、
ヘレン・ドーナス、ハンナ・シュヴァルツ、
ヴェルナー・ホルヴェーク |
EMI
CDM 7 64006 2 |
◇燃えてます。コーラスは、男声ちゃんとしろて感じですが。
ディースカウ先生も飛ばしてます。 |
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9. |
リチャード・ヒコックス |
ウェールズBBCナショナル管弦楽団、
合唱団 |
ピーター・コールマン・ライト、スーザン・グリットン、
ジーン・リグビー、ベリー・バンクス |
シャンドス
CHAN 9882(2) |
◇合唱団のドイツ語の下手さは面白いほどだが、声楽曲におけるヒコックスの料理の腕は確か。
テノールのバンクス、何語しゃべってるかわからんぞ。 |
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10. |
ヨスハルト・ダウス |
ヨーロッパ合唱アカデミー・
バッハ・アンサンブル |
南西ドイツ放送交響楽団
(バーデン・バーデン) |
ペーター・リカ、
ヘレン・クウォン、エリザビエータ・アルダム、
ハンス・ペーター・ブロホヴィッツ |
アルテ・ノヴァ
74321 59212 2 |
◇ライヴ。安くてうまい!買う価値アリ!ていうか買うべき。 |
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11. |
リッカルド・ムーティ |
RAIミラノ合唱団&交響楽団 |
ジークムント・ニムスゲルン、
アグネス・ギーベル、オラリア・ドミンゲス、
テオ・アルトマイヤー、ロベルト・アミス・エル・ハーゲ |
MEMORIES
HR 4267 |
◇海賊盤。1970年12月15日ライヴ。原典主義者ムーティ、カットしまくり。音質悪く演奏の質もアレで、だいたいミラノでこの曲やる意義ってあったのか。 |
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12. |
フリーダー・ベルニウス |
シュトゥットガルト室内合唱団
ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー |
ミヒャエル・フォッレ、
マリア・クリスティーナ・キール、
ヴェルナー・ギューラ |
Carus
83.214 |
◇いかにもベルニウスらしい、きっちりとまとめた演奏。それだけに淡白で盛り上がりに欠ける。 |
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