ロンドンの美術商・マクグランの出会う事件集。シリアスに、またしんみり、ほのぼのと、美術品をめぐるエピソードが綴られる。
1.水の片鱗
マクグランと知人のクレイトン・カサウェイは、ヨークシャーの古い僧院(アビー)跡を訪れる。クレイトンの生き別れの妹がここに住んでいるというのだ。しかし、彼らが訪れた時、彼女はすでにいなかった。
ロンドンに帰ったマクグランは、上得意のベック氏から、彼の所蔵の絵にクレイトンがモデルとなっているという話を聞く。その絵を見たマクグランは、ある疑念を抱いて再びヨークシャーへと向かうのだが・・・
2.管財人のなやみ
上得意の富豪・ベック氏が結婚を考えているらしい。それを祝福したマクグランは、結婚のお祝いをプレゼントすることになる。しかしベック氏の管財人・アスキンズ弁護士は心配でたまらない。ベック氏のお相手は寄席の踊り子なのだ。
「ベック氏がもてるはずがない。きっと金目当てで、ベック氏に保険をかけて殺す気かも・・・」
マクグランは寄席に行ってみるが、ベック氏の女性の趣味に絶句、プレゼントに悩む。そこへアスキンズが血相変えて飛び込んできた。ベック氏が大口の保険に入って失踪してしまったというのだ。マクグランはベック氏を探しに行くが・・・果たしてベック氏はどこに?
3.鬼水仙
マクグランは、とある絵の前で立ち止まり、見入っている女性に目を留める。購入が分割払いでもいいと知った女性は言った。
「毎週10シリングずつで売っていただけません・・・?」
あまりの要求にいったんは断ったものの、彼女がひどくこの絵に愛着を抱いていると知ったマクグランは、ついに了解してしまう。
彼女の家に二度目の10シリングの集金に行ったマクグランは、彼女がこの絵にただならぬ思いを抱いていることを知る。そして、物語は意外な方向へと向かっていく。
4.南の島へ
南太平洋の民芸品の仮面。この前に立ってさかんにため息をつく青年がいた。気になったミス・モーガンは話を聞いてみる。どうやら、彼の過去にまつわる重要なものらしい。しかし、その仮面を気に入った客が彼の目の前で購入を決めてしまった。落胆する青年。それを見かねたミス・モーガンは・・・
*マクグラン画廊の人々
マクグラン | ロンドンで「マクグラン商会」という美術商を経営する。 | *声を当てるなら、故・富山敬さんがぴったりだろう。 *お人好し。 *32歳。 |
ミス・モーガン | 店員。受付担当。 | *怒って出ていったらしばらく帰ってこない。 *マクグランにおとらずお人好し。 *35歳。(「何かおっしゃりたい事がおありですの?!」) |
スミス | 店員。美術品の搬入などを行う。 | |
メガネくん(仮名) | 店員。眼鏡をかけている。 | *アスキンズ弁護士に85.05ポンドの値をつけた。 |
ファットくん(仮名) | 店員。太っている。 |
*ゲストの皆さん
ベック氏 | 「歩く太平楽」と呼ばれる富豪。興味を覚えたことには惜しみなく金をつぎ込む。 美術好きで、マクグランの上得意さんである。 |
*ケンタッキーのあれに似てる。 *ラファエロが好き。 |
アスキンズ弁護士 | ベック氏の管財人。 突拍子もないことに湯水のごとく金をつぎ込むベック氏に、彼の悩みは尽きない。 |
*心配性。 *モナ・リザをミケランジェロが描いたと思ってるらしい。 |
クレイトン・ カサウェイ |
マクグランの知人。生き別れの妹を探している。 | *美術には造詣が深い。 |
マクスウェル | ヨークシャーにある古びた僧院跡の管理者。 | |
園丁 | マクスウェルの僧院の庭の手入れをしている。 無愛想な男。 |
*ほとんど目ン玉つながり。 |
ケルビン | ヨークシャーの画商。 僧院跡の管理者?<文庫版36ページより |
*マクグランは彼からホガースの版画を買いに来た。 |
画廊のお客さん | 廃虚とか死人の絵に苦言を呈する。 静物画が好きらしい。 |
*ホイットマン卿(@バジル氏)に似てる。 |
タリー・ タリントン |
非常に恰幅のいい大柄な女性。 陽気で、気立てはいい。 動物好き。 ベック氏と結婚する。 |
*ヘビをひとのみ! |
「十シリング」 の婦人 |
ウィンドーに飾られていたウッド・マイエルの絵をじっと見つめていた。 34ポンド10シリングの絵を、毎週10シリングの分割で売ってほしいという奇妙なお願いをしてくる。 |
*結構な家に住んでいるが、生活は裕福ではないようだ。 |
使いの少年 | 怪我をした婦人にかわって、マクグランに最初の10シリングを届ける。 | *「口が固いんで信用がある」らしい。 |
ロジャー・ マクガスン |
マイエルの絵の中の人物のモデルで、婦人のあこがれの人だった。 海難事故で死んだそうなのだが・・・ |
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青年 | いつもニューヘブリディーズの仮面の前に立っている。 | |
ゲルファス | マクグラン画廊のお客さん。 | |
フォートン・カンパニーの重役、サミエル・トラスティンのバースデイ・パーティの最中、社長が事故で重体との急報が届く。駆けつけたトラスティンは、社長の遺言として、会社の全権と、彼が引き取って育てていた孤児の少年の養育とを任されることとなる。いきなり少年を任されたトラスティンは当惑し、少年もそのために孤独を深めていく。そして二人は心を通わせること無く一年を過ごし、前社長の一周忌を迎えたのだが・・・
読後は、題名のように暖かくさわやかな気分になれる、いいお話。
サミエル・トラスティン | フォートン・カンパニーの重役。 堅物で不器用のため、ジョイス少年をもてあましてしまう。 |
*社長が亡くなった時、54歳。 *社長の一周忌の時、ジョイスの名前を間違えた。 *短気。 |
マリヤ | トラスティンの妻。贅沢好き。 | *夫の誕生日パーティの席で、夫に「お祝いにミンクのコート買ってね」とお願いした。なんでや。 |
社長 | フォートン・カンパニー社長。トラスティンの54歳の誕生日の日、事故で急逝。 | *名前は出ないが、やはりフォートン翁でいいのか? |
ホフマン | カンパニーの社員。 | |
若社長 | 前社長の息子。美形で遊び好き。父の葬儀の場でも女の子に声をかけるくらいのプレイ・ボーイで、会社の経営にはとんと関心が無い・・・ と書くとろくでなしのようだが、意外な一面も持つ。やはり親子、といったところか。 |
*かぶりものフェチ。 *父からは「遊び好きのパー」と言われていた。 |
ジョイス | 前社長と一緒に暮らしていた少年。もとは浮浪児で、血のつながりも無いのだが、彼とは気が合っていた。 | *前社長からは「トラスティンは信用できる」と言われていたことで、現実とのギャップに苦しむ。 |