ビースト テイル


子供の頃誰もが親しんだ西洋の昔話をサカタ風にアレンジ。
懐かしい〜。ので思わずグリム、ペローなど図書館で借りてきてしまいましたよ。
パロディは、やはり元話を知らないとね。


☆お妃と眠り姫

『いばら姫』(グリム)、『眠れる森の美女』(ペロー)が下敷き。

王様のお妃様はオーガーでした。なんでそんなのと結婚したかというと、ひとえに彼女がお金持ちだったからです。彼女の好物はカラスとモグラ。王様はそれを見つつ、彼女と結婚したことを後悔していました。そんなある日、王子が茨に囲まれた古城から百年眠りつづけていた王女様を助け、彼女と結婚して帰ってきました。二人の間には可愛い二人の子が出来ました。
王様と王子様が戦争に出かけたある日、城で遊ぶ子供を見たお妃様は料理番に言いつけました。
「あの子を焼いておくれ」
彼女の好物のカラスとモグラは獲り尽くされてもう領内からほとんどいなくなっていたのです。
さて、困った料理番は・・・

オーガーは、日本語訳では「人食い」と訳されます。グリムの『いばら姫』では人食いのお妃の話は断片的で、ペローのほうが話の後半をさいて詳しく描かれています。原作では、お妃様は人食いの「血をひく」女性で悪い性格に描かれていますが、ここでは、まんまオーガーで、カラスとモグラを愛好し、好みが人とはズレた(ヒトじゃないし)、愛敬のある人物(?)になっていて、子供を食べようとするのも、悪気はなくて、純粋に「おいしそう」という気持ちから出ているようになっています。


☆ランペル・スティルツ・キン

『ルンペルシュティルツヒェン(がたがたの竹馬小僧、の意味)』(グリム)が下敷き。

あるところにとても小っちゃくて弱っちい小人がいました。友達のオーガーが、どこかから人間の王様の赤ん坊をさらってきて自慢するのがうらやましくってたまりません。自分も人間の王様の赤ん坊が欲しい・・・でも彼にはそんな力はありません。彼は独身の若い王様を見つけ、それにくっついて機会をうかがいました。
ある日、田舎家の前を通りかかった王様に、こういう会話が聞こえてきました。
「うちの娘は器量もいいし働き者で・・・・指先の器用なことといったら、わらの中から金をつむぎだせるほどなんだよ!」
これを聞いた小人は、すぐに王様に呪いをかけました。呪いのため欲に取りつかれた王様は、お城にその娘を呼び出すと、椅子に積み上げたわらの山を見せて命令しました。
「このわらを一晩で金につむぎ出せ。さもないとウソをついた罪で首をはねる」
困った娘の前に小人が現れました。
「手伝ってやってもいいが何かくれ」
さて、小人はどうやって望みを果たすのでしょうか、そしてうまくいくのでしょうか・・・?

「ランペル・スティルツ・キン」は、「ルンペルシュティルツヒェン」を英語風に読んだものでしょうか。グリム童話を忠実になぞっています。最後に小人が逃げ出してしまうのは初版に倣っています(第2版以降では、小人がわが身を引き裂いてしまう)。ラストはコミカルに、ほのぼのとアレンジしています。原話の急転直下ぶりもいいですけどね。


☆ジャックと大男

『ジャックと豆のつる』(ジェイコブス)が下敷き。

雲の上のお城に大男が住んでいました。彼は大食らいで、お腹が減っては下に降りてきて牛や馬を獲っていきました。
この日も羊が略奪され、ジャック少年の仕事がなくなってしまいました。このままでは夜食べるものがないので、ジャックは母の言いつけで家の牛を売りに出かけました。その途中、麻袋を探している隠者に出会います。牛が袋を見つけてくれたので、これを気に入った隠者は、牛を譲ってくれといいますが、ジャックが今晩の食事にも困っているときき、お礼に魔法の豆をあげました。
家に帰ったジャックは、母と相談して豆を水で戻してみることにしました。しかし、水に入れたとたん、豆は外に飛び出して土に潜り、たちまち芽を出し、追いかけてきたジャックを引っかけて、ぐんぐん空に向かって伸びていきました・・・

イングランドからのお話。原作は結構スリル満点なのですが、このお話は全くほのぼのしています。ジャックと生きた彫像の緊張感のない対話は最高。
「ご用は何?」「用はないけどただきちゃったんだ・・・」「・・・・それは困ったわ」「なあに?」「そういう時の返事のしかたを知らないの」「うん べつにいいよ」「・・・私ってヘンじゃないかしら・・・・?」「うんうん」
ジョセフ・ジェイコブスが収録した話での題名は『ジャックと豆のつる』ですが、古くにはこの話と同じ『ジャックと大男(ジャイアント)』という題のものもあります。


☆ガラスのくつ

『灰かぶり』(グリム)、『サンドリヨン、あるいは小さなガラスのくつ』(ペロー)、『チェネレントラ』(ロッシーニ)<(これは違うか)などなどが下敷き。ヨーロッパでもっとも流布した昔話の一つ。

あるところに商人がいました。彼が娘をもうけた時、彼らのもとに老婆がやってきて、こう言いました。
「この子には最高の力を持った精霊がついている。この子のそばにいるものは皆そのおすそわけにあずかれるだろう」
商人は大得意になり、これを信じて無理な事業に手を出して失敗、あっというまにすっからかんになってしまいました。それどころか、膨大な借金も抱えてしまったのです。商人は娘を呪い、飲んだくれる毎日。妻はかいがいしく働きましたが、無理がたたって病にかかり、亡くなってしまいました。商人はこれで目が覚め、それからはまじめに働き、借金を返していきました。娘も母にならって一生懸命働きましたので、商人も娘に対する怒りをとき、かわいがるようになりました。そんなある日、商人は再婚することにしました。借金も返してくれるし、娘の苦労も軽減されるだろう、そう思ったのですが・・・・

詳しい説明は不用の「シンデレラ」のお話。二人の姉がそうヒロインをいじめないところや、精霊が出てくるという点では、ペローの『サンドリヨン(灰だらけの子、の意味)』のほうに近いですね。精霊がスレンダーなおばさんなのがカッコよくって、いいです。
ちなみに、ガラスのくつの「ガラス(verreヴェール)」は、「リスの皮(vairヴェール)」の誤り、という説もありますが、これは物語に合理的解釈を求めたために起きた誤解らしいです。リスの皮じゃ、ちょっとくらいサイズ違っても無理矢理履けそうな感じ。ちなみにグリムでは、靴は金で出来ています。また、精霊は出てこずに、娘が自分で鳥に呼びかけ、着物を運んでもらいます。自給自足、たくましいですね。


☆カエルの王子

『カエルの王子』(グリム、初版)、および『カエルの王様、または鉄のハインリヒ』(グリム)が下敷き。

ある晴れた日の夕方、ひとりの小さな王女さまが井戸のほとりで金のまりを投げて遊んでいました。ところが、転がっていったまりが井戸の中へと落ちてしまいました。困った王女さまはつぶやきます。
「誰か拾ってくれないかしら・・・私のまりを拾ってくれたら、ほしいものは何でもあげるのに」
「ほんとですか?」
声に振り向くと、そこにいたのはカエル。彼は言います。
「まりをとってきたら、あなたの皿でいっしょにごはんを食べさせて、あなたのベッドでいっしょに寝かせてくれますか?」
図々しい願いに王女さまは呆れますが、どうせ城までついてこれるわけない、とそれを約束します。カエルはさっそく水底からまりを取ってきますが、王女さまはまりを手にすると、喜んでそのまま城へと帰ってしまいました。
さて、王女さまは城に帰り着いて王様と夕食を食べはじめました。すると、階段のほうからぺたぺたという音が聞こえてきます。足音は部屋の外までやってくると止まりました。そして、
「お姫さまお姫さま、森で会ったカエルです、開けてください。約束を果たしてもらいにきました」
さて、この後どうなることか・・・

グリム童話からカエル関係の二つの話をミックス。後半のお話は何が出典なんでしょうか・・・


☆ハンスルとグレトル

『ヘンゼルとグレーテル』(グリム)が下敷き。

森の中の一軒家に、父と母と二人の兄妹、都合四人の家族が住んでいました。彼らはとても貧しく、このままでは一家揃って飢え死に、というところまできていました。そこで、両親は二人の子―ハンスルとグレトル―を棄てることに決めました。でもお兄さんのハンスルはそれを聞いていました。
お父さんは二人を連れて森の奥へ出かけると、忘れ物をしたといって帰ってしまいます。二人はしばらく待ちましたが、お父さんは帰ってきません。ハンスルは自分たちに何が起こっているか知っていました。家から目印の石を落としてきていましたが、今帰ってもまた同じ事になるだけ・・・ハンスルはグレトルを連れて森の奥深くへと歩いていきました。
グレトルが歩き疲れて休みを取った時、彼女は甘い匂いに気づきました。グレトルはお兄さんを連れて匂いのするほうへと歩いていきましたが、やがて二人の前にお菓子で出来た家が現れました・・・

これもみんなが知ってるお話。ハンスルくんは、家の事情を考えたり、妹をひたすら思いやったり、ホントにいい子ですね〜。このお話のヒーローです。クライマックスでは、原話ではグレーテルが活躍しますが、ここではハンスルが機転で切り抜けます。


☆猫だんな

『有能な猫、あるいは長靴をはいた猫』(ペロー)が下敷き。

貧しい粉屋のお父さんが死に、一番上の兄さんには古い粉ひき小屋、二番目の兄さんには老いぼれたロバが遺されましたが、末っ子には猫しか残っていませんでした。末っ子は嘆きます。
「兄さんたちは財産を合わせれば立派にやっていけるけど、猫なんて、肉を食べて皮でえりまきを作ったら、あとは飢えて死ぬだけじゃないか・・・」
落胆する末っ子に、猫が話しかけます。
「私のために袋をひとつと長靴を新調してくれませんか。そしたら私がそんなに損な分け前でないってことがわかりますよ」
猫は袋と長靴を手に入れると、早速出かけていって野原でウサギを捕まえ、お城へと出かけていきました。はたして猫は何をするつもりなのでしょうか・・・?

この話はグリム童話の初版にも採用されていましたが、外国の話、特にペローの影響が顕著ということで削除されてしまいました。
ペロー版を忠実になぞっていますが、猫がオーガーをやっつけるところはコミカルにアレンジされています。


参考文献:

『完訳 グリム童話』1,2   小澤俊夫 訳 (ぎょうせい)
白水社の1812、1815年初版訳がなかったので、これを参考に。1819年第2版の完訳。
・・・初版訳は書店で立ち読みしました。

『ペローの昔ばなし』   シャルル・ペロー作   ギュスターヴ・ドレ挿画   今野一雄訳  (白水社)
ドレの挿画がいい。長靴をはいた猫なんて、牙むき出しでスゲー怖い。


戻る